≪夏日のNHKホール前≫
4月に続いてN響定期Aプログラムを聴きに行きました。今回の指揮は、シュターツカペレ・ドレスデンのコンサートマスターから指揮者に転向したというイタリア人のデスピノーサさん。頭は随分寂しくなってますが、まだ30歳台の期待の若手指揮者です。プログラムは、前半がフランクの交響曲と後半がワーグナーのオペラから4曲と言う興味深い構成です。
ただ、一番印象に残ったのは、ワーグナーの「さまよえるオランダ人」と「ワレキューレ」で登場したバリトン歌手ゲルネさん。ふくよかで陰影の深く、声量もたっぷりの歌唱は本場モンを十分に感じさせるもので、背筋を伸ばして聴きました。特に「オランダ人」のモノローグは、オペラの波瀾の始まりを予感させる奥深いもので、モノローグでおしまいなのが残念でなりませんでした。
一方で、この日の演奏は、私との相性の問題なのか、残念ながら胸に刺さるものがありませんでした。別に演奏として何か問題があったというわけではありません。フランクの交響曲で聴かせた池田昭子さんのイングリッシュホルンを初めとして、個々の演奏は素晴らしいですし、アンサンブルもさすがN響しっかりしてます。それでも、何故か私には響かない、体の中に届いてこない演奏でした。何が原因なんだろう・・・
フランクの交響曲は視聴経験も多くないので語る言葉を持ちませんが、「オランダ人」はゲルネさんの歌唱が含蓄あるものだったのに対して、演奏は陰影を欠いた、この波瀾万丈のドラマの始まりとしては弱かった。「トリスタン」も、演奏自体は美しいのですが、あの4時間拘束の陶酔の世界の口火を切る前奏曲としては、身を切られるような緊張感が感じられない。何か、楽譜を演奏する以上のパンチを感じない音楽になっており、最近好調のN響の演奏会としては珍しく、満足度の低いコンサートとなってしまいました。
まあ、これは私の一方的な感じ方なのでしょう。終演後のデスピノーサさんを包む拍手は、暖かくかつ大きなものでした。まあ何回か聴いていいれば、たまにはこういう日もあるのだろうと自分に言い聞かせました。
余談ですが、高齢のベテラン指揮者の出演機会が多いN響ですが、今回のデスピノーサさんのような若手指揮者をこれからも積極的に登場させてもらいたいですね。プログラムに14-15年の定期公演の演奏曲が載っていましたが、あまりにもの保守的な内容に目が点。失礼ながらプログラム全体から、何か新しい世界を切り開くとか、チャレンジするという気持ち、熱意が全くと言って良い程感じられない。この曲、また廻って来たのねと思わせるような曲が目立ちます。日本を代表するオーケストラとしてはあまりにも寂しい。リーダー(と勝手に私は思ってますが)としての心意気が感じられません。ベテラン指揮者の棒に応えるだけでなく、指揮者にしろ、プログラムにしろ、もっとリスクを取ってでもチャレンジしてほしいです。ある意味、停滞する今の日本社会の縮図を見ているようで、強い寂しさを感じてしまうこの日でありました。
第1781回 定期公演 Aプログラム
2014年5月11日(日) 開演 3:00pm
NHKホール
フランク/交響曲 ニ短調
ワーグナー/歌劇「さまよえるオランダ人」から オランダ人のモノローグ「期限は過ぎた」*
ワーグナー/楽劇「トリスタンとイゾルデ」から「前奏曲」
ワーグナー/楽劇「ワルキューレ」から「ウォータンの別れと魔の炎の音楽」*
ワーグナー/楽劇「神々のたそがれ」から「ジークフリートの葬送行進曲」
指揮:ガエタノ・デスピノーサ
バリトン*:マティアス・ゲルネ
No.1781 Subscription (Program A)
Sunday, May 11, 2014 3:00p.m.
NHK Hall
Franck / Symphony d minor
Wagner / “Der fliegende Holländer”, opera - Monolog des Holländers “Die Frist ist um” *
Wagner / “Tristan und Isolde” - Vorspiel
Wagner / “Die Walküre” - Wotans Abschied und Feuerzauber *
Wagner / “Götterdämmerung” - Trauermusik
Gaetano d’Espinosa, conductor
Matthias Goerne, baritone*