その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

アンスネス、青天を衝く!: 尾高忠明/N響 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番〈皇帝〉ほか

2023-10-29 07:23:04 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

ブロム翁不在の10月定期Bは尾高さんがピンチヒッター。

前半のアンスネスさんのピアノ独奏による「皇帝」が圧倒的でした。

ピアノの音が実にクリア。堂々として揺るぎが無い。かと言っていたずらに勇壮に見せかけているわけでもない。一つ一つの音がダイレクトに胸に響いてきました。「青天を衝け」と語っている気がしました。舞台後方のP席からのピアノ協奏曲の鑑賞は苦手意識があるのですが、この日は全くそうした気持ちになかった。

オケも充実してました。第1楽章は思いのほか早めのテンポでキビキビと進むのが心地よかった。P席からはピアノとのバランスも良く、私が勝手に思い描く〈皇帝〉の理想の演奏に立ち会えた気がしました。

アンスネスさんのアンコールはベートーヴェン、ピアノソナタ「悲愴」は第2楽章。柔らかで優しい美音です。メインディッシュ「皇帝」後の、極上のアイスクリームを頂きました。

後半はブラームスの交響曲第3番。初演の指揮者ハンス・リヒターやブロム翁はこの曲は「ブラームスの〈英雄〉」と言っていることがプログラムに記載されていました。私自身は前半の〈皇帝〉の余韻が残る中で、なかなか気分の切り替えができなかったのですが、こちらも充実の演奏でした。

全楽章を通じての弦の響きはもちろんのこと、第2、3楽章の管楽器陣のソロ、合奏が特に美しく感じました。

指揮法も何もわからないで言ってますが、尾高さんの指揮はとってもスマートですね。オーケストラに向かって、優しく包み込むような雰囲気で、リードします。なにか魔法でもかかっているように、そこから生まれてくる音楽は、素で純で柔らかいものに感じられます。

大きな拍手に包まれて演奏会は終了しました。私自身、2つの曲に一杯の元気を頂きました。高関さんに続いて、ブロム翁の穴を見事に努めていただいた尾高さん。とっても感謝です。


 

第1994回 定期公演 Bプログラム
2023年10月26日 (木) 開演 7:00pm

サントリーホール

曲目
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73 「皇帝」
ブラームス/交響曲 第3番 ヘ長調 作品90

指揮 : 尾高忠明
ピアノ : レイフ・オヴェ・アンスネス

Subscription Concerts 2023-2024Program B
No. 1994 Subscription (Program B)
Thursday, October 26, 2023 7:00pm [ Doors Open 6:20pm ]

Suntory Hall

Beethoven / Piano Concerto No. 5 E-flat Major Op. 73, Emperor
Brahms / Symphony No. 3 F Major Op. 90

Conductor: Tadaaki Otaka
Piano: Leif Ove Andsnes

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ポール・モーランド (著), 渡会 圭子 (翻訳)『人口で語る世界史』 (文春文庫、2023)

2023-10-26 07:26:30 | 

近代以降の世界史を人口動向を切り口に分析する一冊です。著者はロンドン大学に所属する人口学者であり、アカデミックな裏付けのもと一般向けに書き下ろしたものとのこと。人口は国の経済力や軍事力の要となる要素であり、世界史を動かす1つのドライバーとなってきました。本書はこの200年の近現代世界史を人口を切り口に読み解きます。

人口増加の原動力は、1)乳児死亡率、2)出生数、3)移民 (pp.27-32)であり、国の人口増には一定の傾向があります。近代化によって、経済力がつき、乳児死亡率の低下して人口が増える。その後、平均寿命が延びる一方で、女性の高学歴化等で出生率の低下が起こる。加えて移民による出入りが人口に影響を与えます。

各国の政策、社会、宗教、文化等の違いによる相違はあれど、このパターンは産業革命期のイギリスに始まり、それからドイツとロシア、そしてアメリカ、日本、中国と、この傾向を追いかけてきました。そして、今後40年間はナイジェリアをはじめとするアフリカの人口増が、世界へ最大のインパクトを与えるだろうと予測します。

これまで読んできた世界史、日本史関連の本の中では、人口は部分的に言及されるものの、人口切り口で近現代世界史を振り返るというのは初めてで興味深く読み進めることができました。

日本についても、20ページを割いて徳川期から現在に至るまでの人口動向が解説されています。

「日本はマルサスの縛りを突破した最初の非ヨーロッパ国であり、いまや世界でもっとも高齢化が進んでいる。・・・日本が特に興味深いのは、そこには出生率が低く、高齢化する社会の姿があるからだ。日本の人口は、歴史上最も速く高齢化が進んでいる。」「仕事と育児が両立しない文化、男女格差も先進国最低位に近いことが出生率の低下に結びついている」と分析します。欧米諸国と違って、移民の受け入れを渋ってきたことも要因の一つです。(pp.285-301) 

目新しい論点ではないとは思いますが、西欧の人口学者が世界的・歴史的視点で見ても、日本についての課題認識は同じようです。「だからどうなんだ?」という答えが書いてあるわけではありません。日本はこのまま縮小再生産で良いではないかという議論もあるかと思います。筆者の予測は、高齢者中心の「平和で活気のない社会」になっていくだろうということです。

ただ、これで良いのだろうかという議論は日本国民としては大切な問いかと思います。人口減のトレンドの中で、日本がどこに何を目指していくのか?は考える価値があるでしょう。個人の力でコントロールできる話ではないだけに、政党や政治家が何を言って、どうしようとしているかも知る必要があります。自民党や国の政策の矛盾も見えてきます。

日本レベル、地球レベルで課題はそれぞれ異なりますが、人口動向は近未来を占う上で大事な視点であることを再認識できます。

※単行本は2019年刊

 

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難しい自分課題で地球課題: 堤未果『ルポ 食が壊れる 私たちは何をたべさせられるのか?」(文藝新書、2022)

2023-10-24 12:05:12 | 

堤未果さんのルポルタージュ。今回のテーマは食。人工肉、遺伝子組み換え動物、アグリビジネス、工業型畜産、デジタル農業などの「現場」が報告される。「デジタルテクノロジーによる一元支配が、いよいよ食と農の分野に参入し、急速に勢力を拡大してきている。・・・<食のグレートリセット>がこうしている間に着々と進行している」(pp7-8)中で、「読者が未来を考え、選び取るためのツールを差し出していく」(p8)ことを目的とした本である。

アンチ・企業、アンチ・テクノロジーにとれる舌鋒は相変わらず主観的すぎて読むのがしんどい。筆者や関係者の事実と推測と意見がごちゃまぜになった書き方に加えて、感情が入っているので、読者としては本当に知りたいことが見えにくい。本書はルポであるので、問題の全体像や構造を明らかにするものではないとはいえ、テーマについての掘り下げた分析が無いのは残念だ。

ただ、大事なテーマであることは同感だ。私自身、食とは生きていくための基本的活動であるにも関わらず、その中身についての理解は乏しい。もう少し真面目に考えて、勉強せねばだなとは感じる。

日本をはじめとした各国の草の根の再生型、循環型農業の取組みの事例紹介は参考になった。ただ、どうしてもその影響力・範囲は限定的だ。地球上の80億の人々の養うやり方になるには相当ハードル高い。

これだけ身近な食が、いかに難しい自分課題であり地球課題であることか。

 

  • 目次

    第1章 「人工肉」は地球を救う?―気候変動時代の新市場
    第2章 フードテックの新潮流―ゲノム編集から食べるワクチンまで
    第3章 土地を奪われる農民たち―食のマネーゲーム2.0
    第4章 気候変動の語られない犯人―“悪魔化”された牛たち
    第5章 デジタル農業計画の裏―忍び寄る植民地支配
    第6章 日本の食の未来を切り拓け―型破りな猛者たち
    第7章 世界はまだまだ養える―次なる食の文明へ
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代打成功! N響10月Cプロ、指揮:高関健、シベリウス交響曲第2番ほか

2023-10-22 07:30:07 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

この秋の楽しみの一つであった10月のN響・ブロム翁祭り。残念ながら、ドクターストップということで来日は不可となった。寂しいし残念だが、これはこれで致し方ない。ブロム翁には健康最優先でお願いしたい。

という中で開催されたCプロだが、代役となった高関さんがビシッと好リリーフを決め、満足感高い演奏会となった。

冒頭のニルセンの〈アラジン組曲〉は初めて聴く曲だが、エキゾティックで多彩なリズムやメロディが楽しい。N響の演奏はこの音楽ならもっと弾けても良いんではと思うほど、端正で管弦打楽器がバランス取れてまとまっていた。ある意味とってもN響らしい感じがした。

メインはシベリウス交響曲第2番。N響定期でもしばしば取り上げられる曲だし、手元の記録には無いのだが、ずーっと以前ブロム翁もN響定期で振られた記憶がある。

今回、高関さんが創ったシベリウスは楷書体のイメージだった。構造がしっかりしていて、実に見通しが良い。一線一画がクリアで迷いが無い。この楽曲の良さが自然に聴きとれた。

マロさんがコンマスを務めたN響も前のめりで応える。弦のアンサンブル、管の個人技、全体のバランス、どれも素晴らしい。熱い演奏なんだけど、力任せでない。金管陣がよく響いたし、オーボエの吉村さんの柔らかな音色もファンとして嬉しい。

もともとはブロム翁目当てではあったかもしれないが、9割近く埋まっているように見えた客席からも大きな暖かい拍手が寄せられた。ブロム翁の代役というのも、普段とは違うプレッシャーがあったと思うが、高関さんもほっとされているのではなかったか。

第1993回 定期公演 Cプログラム
2023年10月21日(土) 開演 2:00pm(休憩なし) [ 開場 1:00pm ]

NHKホール

ニルセン/アラジン組曲 作品34 -「祝祭行進曲」「ヒンドゥーの踊り」「イスファハンの市場」「黒人の踊り」
シベリウス/交響曲 第2番 ニ長調 作品43

指揮:高関 健

No. 1993 Subscription (Program C)
Saturday, October 21, 2023 2:00pm [ Doors Open 1:00pm ]

NHK Hall

Nielsen / Aladdin, suite Op. 34—Oriental Festive March, Hindu Dance, The Market Place in Ispahan, Negro Dance
Sibelius / Symphony No. 2 D Major Op. 43

Conductor: Ken Takaseki

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渋谷らくご〜下北半島の怪物 三遊亭青森五日間day5〜 @ユーロライブ  

2023-10-19 07:30:20 | 落語

私にとっては、3ヶ月連続の渋谷らくご。今月は青森祭り。二つ目の三遊亭青森さんが会期の5日間すべてトリを務めるという、かなりエッジの効いた企画である。これは1回はどこかで見たいと思っていたのだが、スケジュールがなかなか合わず、やっとのことで楽日の公演に駆け付けた。

青森さんのことをサンキュータツオさん(渋谷らくごのキュレーター)がよっぽど買ってるのだろう。毎月、出演がある上に、今回の通しでのトリである。私は9月のしぶや落語で聞いたのが初めてだったが、粗削りでスケールの大きさを感じる若手噺家さんとの印象だった。この日は、5日間シリーズの最終日とあって、会場にも多くのファンが集い、温かい雰囲気にあふれていた。

開口一番は、春風亭一花さん。名前は知っているが、生で聞くのは初めて。とっても歯切れよく、聞きやすい。表情もチャーミングで、表現豊か。

続いたベテラン2人は、ベテランならではの年輪を感じる芸。文蔵さんは9月に続いて連続。自宅に入った泥棒とのやりとりをするお梅の演技の可愛らしいこと。本人のごつい顔とのギャップがたまりません。

八光亭春輔さんは全くの初めて。青森さんに最も噺を教えた人らしいですが、ご本人も渋谷落語初登場とのこと。落ち着いた佇まいから発せられる、独特のリズムに乗った言葉が心地よい。落語の後には寄席踊り、奴さん姐さんもご披露頂いた。

そして、いよいよ青森さん。どこまで本当かわからないが、ご自身の高校時代の恋愛を辿る<マイファーストキッス>。青森さんならではの情熱、パワー、勢いが伝わる演目だった。青森祭りのフィナーレでの、これからに向けた決意表明でもあった。これから青森さんがどう成長していくのかは、とっても楽しみ。

全くの私見だが、落語の後に、おまけで自作の歌を歌うのは賛成できないなあ。落語の「余韻」が覚めるし、正直、歌としての芸としてはまだまだなので・・・。まあ、これもいろんな芸にチャレンジする機会を与えるシブラクのいいところなのかな?

まだまだ落語初心者の私ですが、私にとってシブラクは最も好きな落語の場になってる。来月は9周年記念。応援します。

 

渋谷らくご5日目

10月17日(火)20:00-22:00

「渋谷らくご〜下北半島の怪物 三遊亭青森五日間day5〜」

春風亭一花-粗忽の釘

橘家文蔵-転宅

八光亭春輔-甲府い

~奴さん姐さん~

三遊亭青森-マイファーストキッス

 

来場者数 75名

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ダメ人間図鑑:W.シェイクスピア、松岡和子(訳)『尺には尺を』(ちくま文庫、2016)

2023-10-17 07:33:32 | 

『終わりよければすべてよし』とあわせて10月に舞台を見る予定のシェイクスピア『尺には尺を』の松岡和子訳を駆け足で読んでみた。

先日、『終わりよければすべてよし』の巻末の前沢浩子氏の「解説」で、「尺には尺を」と「終わりよければすべてよし」はともに、シェイクピアの恋愛喜劇の中でも「ロマンティックな喜劇から逸脱」することから、問題劇とも言われるということを初めて知った。

ただそんなことはお構いなく、観劇前に筋ぐらい把握しておきたいという思いで、ページをめくっていった。第4幕終了までは、婚前交渉の罪で死刑を宣告されて獄中のクローディオをその妹イザベラが救い出す救出ドラマぐらいにしか思っていなかった。それが、最終幕で話がぐっと深堀されて、最後は「こういう落ちなのか~」と驚き、戸惑いの読後感となった。確かに「問題劇」と言われるだけのことはあると、シェイクスピアの仕組んだ様々な意図や解けない暗示に両手を上げて降参した。

少数派だとは思うが、個人的には、謹厳実直、職務にスーパー忠実でありながら、若くて純真無垢のイザベラの訴えに、心動かされ、よろめいてしまう公爵代理のアンジェロに大いに共感した。「なにを聖人君子ぶって、ただのエロ親父ではないか!」と憤る人もいるだろうが、「俺がこうならないと言い切れるか?」と自問する男性もそれなりに居るのではないか。まあ、この物語、駄目人間ばっかりなのだが、その中でもアンジェロはとりわけダメなのである。

読んでいて、この作品、モーツァルトがオペラにしたらどんな音楽を各シーン、各人物につけるのだろうかと頭をよぎった。この一筋縄ではいかない、人間っぽいドラマ。モーツァルトのオペラにぴったりと思うのは私だけだろうか。

演劇では、それぞれの登場人物をどう表現されるのか。ますます楽しみとなった。

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読売新聞大阪本社社会部『情報パンデミック-あなたを惑わすものの正体』(中央公論社、2022)

2023-10-14 07:19:39 | 

米国大統領選やコロナ禍でますます顕在化したフェイクニュースや社会の分断。本書は、「デマや陰謀論を流布する人たちはどんな人たちなのか、真意は何か、信じる人はどういう人で、なぜ信じてしまうのか」について、読売新聞の長期連載「虚実のはざま」の内容を再構成し、加筆したものである。コロナ禍を巡って、当事者への直接の取材に基づいたドキュメント。

昨年読んだ秦正樹『陰謀論』(中公新書)はアカデミックなリサーチをベースにした分析だった。本書はコロナ禍への対応について、個人の具体的事例に拠っている分、よりリアリティ高く、迫力もある。

「誰が信じるのか」という観点では、個人投資家、老舗居酒屋の店主、簡易宿泊所を経営する個人事業主らへの取材が紹介される。多くは「普通の人たち」である。大学が行った調査では、コロナで経済的影響を受けた人ほど誤情報を信じる率が高いなどの相関がみられたという。

「なぜ信じてしまうのか」では専門家へのインタビューが行われる。デマや陰謀論を信じ込みやすい要因に、人が持つ認知バイアスの一つ「確証バイアス」が挙げられる。「観たいものを見て、信じたいものを信じる」という脳の癖だ。さらに、不安やイライラなどの負の感情に対して、原因を、非合理でも単純明快な「答えらしきもの」に引き寄せられてしまう「感情の正当化」の習性をもっている。そして、一旦信じてしまうと、自分が不快に感じる逆の意見や情報に対して、遠ざけたり過小評価を行う「認知的不協和」が働き、ますます頑なになっていくことになる(第3章)。カルト宗教にのめりこむケースと類似性があると感じた。

人としての特性だけでなく、ネット特有の環境も影響を与えている。「エコーチェンバー」(閉じた空間で同じ主義主張が反響し、共鳴しながら増幅される状況)や「フィルターバブル」(アルゴリズムにより見たい情報だけを通過させるフィルターによって、それ以外の情報から遮断された結果、泡に包まれたように孤立してしまう)の影響も大きい。

では、「どんな人が広めている(発信者)のか?」本書では、反科学や政府不信を根っこに、自らの主義主張として情報を拡散するインフルエンサーの医師の事例、また、ネットのアテンションエコノミーを巧みに利用し、まとめサイトで稼ぐ運営者などへの取材がレポートされる。東大の先生によると、動機は「金」「注目を集める」「自分の過去の主張の正当化」「イデオロギー」の4つがあるという。必ずしも金目当ての人だけではないのが難しい。

本書の取材や本書の内容について疑義を挟むものではないし、社会の現状の一側面をレポートした本書の意義は大きいと思う。一方で、ちょっと落ち着かなさを感じたところもあった。こうした「フェイク」情報を信じる人は既存マスコミへの不信もあるとは記載があるが、その不信に対する既存メディアの当事者としての見解は示されていなかった。

既存メディアは、事実の裏をしっかり取り、発信者責任を負うという点において、まとめサイトやSNS上の匿名の情報提供とは一線を画している。ただ、コロナに止まらず、最近の統一教会問題やジャニーズ問題など、マスコミが報じてこなかった大きな社会的イシューがあり、そこに普通の市民は、公正を装った既存マスコミの政治的・組織的な意図を感じている。そうしたところも陰謀論、フェイクニュースに誘因される根っこの一つだと思う。当事者としての筆者たちはどう感じているのだろうか。そこも聞きたかったところである。

事実が共有されない社会は議論、対話が成り立たない。「普通の人」である私が見ている「事実」と別の「普通の人」が見ているもう一つの「事実」は全くの背反で共通項を探すのは難しそうだ。民主主義の変わり目に我々は生きていることを実感する。

 

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不思議ちゃんヘレンの物語:W.シェイクスピア 作、松岡和子 訳『終わりよければすべてよし』(ちくま文庫、2021)

2023-10-12 07:33:43 | 

今月、本作の芝居を見に行くので、予習として読んでみた。シェイクスピアの戯曲は20以上読んではいるが、本作品は初めて。

駆け足で読んでいるので細かい分はまたじっくり精読したいが、読んでいてどうも落ち着かない物語であった。その理由は主人公ヘレンの不思議ちゃんぶりに尽きる。

まずもって、何故、あれだけ自分をっているバートラムを追っかけるのか理解不能である。好青年風ではあるが、一貫性に欠ける(王の前で嘘をつきながら、あっさりと覆す)し、人を見る目も無い(ろくでなしでほらふきのパローレスに大きな信頼を寄せる)。こんな男を追い廻すヘレンは、バートラムの家柄目当てとしてとしか考えられない。そうだとすると、このヘレン、周囲の評価はかなり高い女性であるのだが、男を見る目が無いか、よっぽど打算的な女であると思わずにはおれない。 

また、ヘレンに本当に医学の技術があったのかも謎だ。亡父が名医でその遺産の薬を引き継いだと言うものの、多くの医者たちが治療不可として匙を投げた王を、その薬でいともたやすく王を治癒させてしまう不思議さ。魔法でも使ったのかしら。

さらにこの人、相当の策士である。旦那を取り戻すために、フィレンツェの婦人とその娘ダイアナと3人でグルになってバートラムを騙す仕掛けはとっても良く出来ている。王や伯爵夫人への取り入れ方も見事だ。なんかとってもあざとさを感じてしまうのは、偏見だろうか。

ということで、主人公ヘレンには全く共感できなかった。が、逆に芝居では、このヘレンにどういう性格が当てがわれて、作り上げられるのか。とっても楽しみである。それだけでも予習の意味は十分あった。

 

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人類史鷲掴み!:ジャレド・ダイアモンド (著), 倉骨彰 (翻訳) 『銃・病原菌・鉄 1万3000年にわたる人類史の謎(上/下)』 草思社文庫、2012

2023-10-10 07:30:15 | 

読み始めたのは2013年7月。上巻途中で止まったまま、長~いお休み期間を経て、やっと読了。

人類史鷲掴みと言える一冊だ。「世界のさまざまな民族が、それぞれに異なる歴史の経路をたどったのはなぜか。歴史の勝者と敗者を分けた要因は何か?」という命題を探求する。タイトルの『銃・病原菌・鉄』はその違いを生み出した直接的要因だが、本書はこの3点の説明ではなく、なぜを繰り返し、銃・病原菌・鉄を欧州人が手にすることができた根本要因を掘り下げる。

筆者の結論は、「大陸間の差は人々(民族)の差ではなく、環境の差に起因する。環境の中でも栽培化、家畜化可能な動植物の分布、大陸の形態(東西/南北)、大陸間の位置関係、大陸の大きさや総人口の差が現在の差を生み出した」というものである。

進化生物学、生物地理学、文化人類学、言語学などを駆使した論考には圧倒される。議論の射程があまりにも大きいので、この論証がどこまで適切なのかは、正直、私の手に負えるものではなかった。ただ、西洋人が世界を制覇したのは条件に恵まれただけであってたまたまだった、という環境要因論は、安易な人種優劣論、ステレオタイプ的な人種認知に傾くことへの戒めになる。

また、内容もさることながら、問題設定とその論点深堀のアプローチも勉強になる。「直接的な要因」で納得することなく、更にWHYを掘り下げ「究極的な要因」へ至っている。こうした思考姿勢も見習いたい。

一方で、筆者の環境要因説は理解しつつも、文化的特異性や個人的特質が「ワイルドカード」として扱われることには違和感が残った。壮大な人類史の中では、個々の人の努力や創意工夫や天才たちの偉業は大した話ではないということかもしれないが、歴史とはそうした行為の積分値であると思うからだ。「ワイルドカード」で済む問題ではないのではないか。

ピュリッツァー賞、国際コスモス賞、朝日新聞「ゼロ年代の50冊」第一位を受賞した名著とされる書籍だが、私自身が本書の本質をどこまで理解し、その価値をどこまで吸収できたのかは、はなはだ心もとない。

余談だが、気に入ったのはこの表紙。良いなあと思ってたら、「奥付」にジョン・エヴァレット・ミレイとあり、さもありなん。原画を見てみたい。

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新国立オペラ シーズン開幕!: プッチーニ〈修道女アンジェリカ〉、ラヴェル〈子どもと魔法〉

2023-10-08 07:22:54 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

新国立オペラ2023-2024シーズンの開幕です。オープニングは、プッチーニ〈修道女アンジェリカ〉、ラヴェル〈子どもと魔法〉の2本立てです。母子の愛が共通テーマです。

私の好みは圧倒的に後半のラヴェル〈子どもと魔法〉でした。映像と造形豊かな舞台は華やかで見ているだけで楽しいです。そして、優雅で心躍る振付にもワクワク。童心に帰ってファンタジーを満喫しました。

子ども役のブリオさんを始め、お姫様の三宅さん、他歌手陣の歌唱と演技も生き生きと聞き惚れます。沼尻さんと東フィルの演奏も変幻自在で、ラヴェルの色彩な音楽を堪能しました。

〈修道女アンジェリカ〉を観るのは3回目です。歌手・オケ・演出とも一定レベルの公演だったと思うのですが、私にはやや平板に感じられ、のめり込み度の浅い公演となってしましました。音楽は美しいですし、歌手も決して悪くない。舞台も美しいのですが、なぜか投入しきれない。個人的な体調の問題だったのかもしれません。

オープニング公演としてはやや小粒な感じもしましたが、今シーズンもちょくちょく足を運ぶつもりです。

 

修道女アンジェリカ<新制作>
Suor Angelica / Giacomo Puccini
全1幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉

モーリス・ラヴェル
子どもと魔法<新制作>
L'Enfant et les Sortilèges / Maurice Ravel
全2部〈フランス語上演/日本語及び英語字幕付〉

 

令和5年度(第78回)文化庁芸術祭オープニング・オペラ

公演期間:2023年10月1日[日]~10月9日[月・祝]

予定上演時間:約2時間25分(『修道女アンジェリカ』:65分 休憩35分 『子どもと魔法』:45分)

 

スタッフ
【指 揮】沼尻竜典
【演 出】粟國 淳
【美 術】横田あつみ
【衣 裳】増田恵美
【照 明】大島祐夫
【振 付】伊藤範子
【舞台監督】髙橋尚史

指揮:沼尻竜典
演出:粟國 淳

キャスト

『修道女アンジェリカ』
【アンジェリカ】キアーラ・イゾットン
【公爵夫人】齊藤純子
【修道院長】塩崎めぐみ
【修道女長】郷家暁子
【修練女長】小林由佳
【ジェノヴィエッファ】中村真紀
【オスミーナ】伊藤 晴
【ドルチーナ】今野沙知恵
【看護係修道女】鈴木涼子
【托鉢係修道女1】前川依子
【托鉢係修道女2】岩本麻里
【修練女】和田しほり
【労働修道女1】福留なぎさ
【労働修道女2】小酒部晶子

『子どもと魔法』
【子ども】クロエ・ブリオ
【お母さん】齊藤純子
【肘掛椅子/木】田中大揮
【安楽椅子/羊飼いの娘/ふくろう/こうもり】盛田麻央
【柱時計/雄猫】河野鉄平
【中国茶碗/とんぼ】十合翔子
【火/お姫様/夜鳴き鶯】三宅理恵
【羊飼いの少年/牝猫/りす】杉山由紀
【ティーポット】濱松孝行
【小さな老人/雨蛙】青地英幸

【合唱指揮】三澤洋史
【合 唱】新国立劇場合唱団
【児童合唱】世田谷ジュニア合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

 

2023/2024 SEASON
New Production

"Suor Angelica"
Music by Giacomo Puccini
Opera in 1 Act
Sung in Italian with English and Japanese surtitles

"L'Enfant et les Sortilèges"
Music by Maurice Ravel
Opera in 2 Parts
Sung in French with English and Japanese surtitles

The Opening of the Agency for Cultural Affairs, the 78th National Arts Festival

OPERA PALACE
1 Oct - 9 Oct, 2023 ( 4 Performances )

CREATIVE TEAM
Conductor: NUMAJIRI Ryusuke
Production: AGUNI Jun
Set Design: YOKOTA Atsumi
Costume Design: MASUDA Emi
Lighting Design: OSHIMA Masao
Choreographer: ITO Noriko

CAST
"Suor Angelica"
Suor Angelica: Chiara ISOTTON
La zia principessa: SAITO Junko
La badessa: SHIOZAKI Megumi
La suora zelatrice:GOKE Akiko
La maestra delle novizie: KOBAYASHI Yuka
Suor Genovieffa: NAKAMURA Maki
Suor Osmina: ITO Hare
Suor Dolcina: KONNO Sachie
La suora infermiera: SUZUKI Ryoko
Prima cercatrice: MAEKAWA Yoriko
Seconda cercatrice: IWAMOTO Mari
La novizia: WADA Shihori
Prima conversa: FUKUDOME Nagisa
Seconda conversa: OSAKABE Akiko

"L'Enfant et les Sortilèges"
L’Enfant: Chloé BRIOT
Maman: SAITO Junko
Le Fauteuil / Un Arbre: TANAKA Taiki
La Bergère / Une Pastourelle / La Chouette / La Chauve-Souris: MORITA Mao
L’Horloge Comtoise / Le Chat: KONO Teppei
La Tasse Chinoise / La Libellule: SOGO Shoko
Le Feu / La Princesse / Le Rossignol: MIYAKE Rie
Un Pâtre / La Chatte / L’Écureuil: SUGIYAMA Yuki
La Théière (Wedgewood noir): HAMAMATSU Takayuki
Le Petit Vieillard / La Rainette: AOCHI Hideyuki

Chorus: New National Theatre Chorus
Children Chorus: Setagaya Junior Chorus
Orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra

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座右の書(ビジネス書の部): 三枝匡『決定版 戦略プロフェッショナル 戦略独創経営を拓く』KADOKAWA、2022

2023-10-04 07:26:13 | 

著者の三枝匡氏の著作シリーズは、私の社会人生活の中で最も影響を受けたシリーズと言って過言ではない。中でも本書の原著『戦略プロフェッショナル 競争逆転のドラマ』(1991年刊)は私のキャリアに決定的な影響を与えてくれた書籍である。

私事で恐縮だが、社会人生活3年目、地方の現場フロントでのお客様対応に疲弊して、何を目指して働けば良いのか全く見失っていた時があった。そんな時に、ある人の勧めで手に取った。こういう世界があって、仕事のダイナミクスとは徹底的にロジカルに考えて、熱き心をもってチームを巻き込んで行動し、事をなすとことろにある、と教えてくれた。以来、筆者の著作は出る度に購入したし、自分のキャリアの節目の度に読み直した。

本書は、原著をベースにその後の筆者の実践を踏まえ、新版として全面的に書きなおしたものである。プロローグにあるように、筆者の経験に基づいた事業再生のケースに基づいて語られる「生き方論」であり、「戦略論」であり、「歴史観」である。

ベース・ストーリーは同じだが、原著と本書では趣はかなり異なる。本書は筆者自身の「生き方」や「歴史観」が語られるし、戦略論もより整理されている。ただ、私としては、本書はもちろんのこと、原著にも当たってほしいと思う。新版とは違った30年前の筆者の情熱が迸る気魄を感じることができるからだ。

社会人キャリア後半の今の私には、30年前に原著で感じた理想像と現在とのギャップに自ら苦笑いだが、それでも今もなお、本書から得られる学びは大きい。聞かれたことは無いし、自ら語るようなことでも無いと思うが、仕事上の座右の書とはこういう書を言うのだと思う。


(今も書棚で待機中の原著)

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まだまだ暑い! 第67回ベジタブルマラソン in 彩湖 (30k男子、40歳以上)

2023-10-02 07:27:04 | ロードレース参戦 (in 欧州、日本)

10月下旬のフルマラソン出走に向け、練習レースとして埼玉県戸田市で開催されたベジタブルマラソンIN彩湖、30kの部に出走しました。翌日から10月というのに、気温25℃の蒸し暑い日。陽が完全に雲に隠れていたのが唯一の救いです。

加えて今夏の暑さで長距離練習も十分でない上に、2-3日前から体調もいまいちで、30k走り切れるか不安を抱えてのスタート。そして、不安が的中した苦しいレースとなりました。

前半20kまではプラン通り、キロ5分30秒前後のペースで走ります。蒸し暑いので給水所では必ず水を取り、水分補給と体を冷やすようにします。コースは5kの周回コースで、途中3か所ほどアップダウンがあり、良いアクセントになっています。



途中、NHKのBS「ランスマ」の取材で、ハーフの部に参加していた元AKBの大家志津香さんを発見。「ランスマ」時々見ているので、「頑張ってください~」と横から声援。


(前の水色のシャツが大家さん)

練習は正直です。練習でも走れてない20kを過ぎた途端にペースが落ち始めました。それでも25kまでは何とか5分台で走れていたのですが、25kで脚が完全に止まってしまいました。それから3k程は殆ど歩き。ただ、ブトウ糖飴が効き始めたのか、体が動くようになり最後の2キロはしっかり走れました。

タイムは2時間56分台でなんとか3時間以内で走り切れましたが、体の疲労はフルマラソン並みの疲れ方でぐったり。来月の本番に向け、いろいろ課題の多いレースとなりました。

 

(その他 メモ)

・彩湖までの武蔵浦和駅発の路線バスは余裕をもつことが必要。予定した便が満員で乗れず、次便は15分ほど先だったので、会場到着がギリギリになってしまった。
・今回は、事前のカーボローディングが不十分。それがガス欠要因?
・2月の大阪マラソンでも課題だったが、1週間前の体調管理は特に注意要。
・暑さ対策にはネッククーラー(保冷材無し)が有効。給水所貰った紙コップの中に突っ込んで、中の水を染み込ませる。
・Garminnつけたレースは4回目だが、相変わらずGarminの距離とレースの距離表示が合わない。今回は初めて、Garminの距離表示の方が、レースの距離表示ボードよりも遅かった(遠かった)。

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