その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

映画 「戦場のピアニスト」 (監督 ロマン・ポランスキー、2002)

2015-12-30 09:00:00 | 映画


 『灰とダイヤモンド』のDVDが近所のTSUTAYAには見当たらなかったので、第2次大戦期のポーランドを舞台にした映画は他にないだろうかと探したところを、本DVDを見つけた。ドイツに占領されたワルシャワにおける、ユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの体験をもとにした物語である。原題は"The Pianist"。

 とっても重い。目を背けたくなるシーンも少なくない。こうも簡単にユダヤ人たちがナチスに虐殺されていたのかと思うと、胸が重くなる。「第二次大戦でポーランドは六百万以上の犠牲者を出した。ほぼ五人に一人が犠牲になったことになり、人口比ではソ連を上回る被害である。とくにユダヤ系住民はその九十%が殺された」(「灰とダイヤモンド」訳者川上洸氏の解説 同書上巻19ページ)らしいが、当時のポーランドのユダヤ人の悲惨さを十二分に知ることができる。

 悲惨な物語であるが、映像は美しく撮影されている。廃墟と化したワルシャワの風景など、劇場で観ると更に迫力も増したであろう。ショパンのピアノ曲が多数流れるが、物悲しさを引き立てる。

 個人的には、本映画で、欧州の旅行中に何度か出くわしたユダヤ人ゲットー地区の具体的イメージも掴めた。

 映画としても完成度の高い作品であり、現代世界史を知っておくという意味でも一度は見るべき映画である。



キャスト

エイドリアン・ブロディ: ウワディスワフ・シュピルマン
トーマス・クレッチマン:ヴィルム・ホーゼンフェルト大尉
エミリア・フォックス:ドロタ
ミハウ・ジェブロフスキー:ユーレク
エド・ストッパード:ヘンリク
モーリン・リップマン:母
フランク・フィンレイ:父
ジェシカ・ケイト・マイヤー:ハリーナ
ジュリア・レイナー:レギーナ
ワーニャ・ミュエス:ナチス親衛隊将校
トーマス・ラヴィンスキー:保安警察
ヨアヒム・パウル・アスベック:保安警察
ポペック:ルービンシュタイン
ルース・プラット:ヤニナ
ロナン・ヴィバート:ヤニナの夫
ヴァレンタイン・ペルカ:ドロタの夫

スタッフ
ロマン・ポランスキー:監督
ティモシー・バーリル:製作総指揮
ルー・ライウィン:製作総指揮
ヘニング・モルフェンター:原作
ウワディスワフ・シュピルマン:原作
ロナルド・ハーウッド:脚本
ロマン・ポランスキー:脚本
ヴォイチェフ・キラール:音楽
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ミュージカル CHICAGO @ヒカリエ 東急シアターオーブ

2015-12-28 23:44:04 | ミュージカル、演劇



 ブロードウェイからミュージカル「Chicago」が引っ越し公演をするというので出かけました。今回の日本公演では、主人公のドロシー役が、昨年のNHK朝の連ドラ「まっさん」で売ったシャーロット・ケイト・フォックス。彼女の日本凱旋公演とも言えるでしょう。ミュージカルそのものはロンドンで一度見たことがありますが、本場ニューヨークでは19年にわたっての史上2番目のロングランを続けているとか。

 会場は初めて訪れる、渋谷駅の旧東急文化会館跡地にできたヒカリエ内の東急シアターオーブ。3層の大型でモダンなシアターです。客層は、作品柄、子供はいませんが、幅広く大人層を集めていて満員。熱気ムンムンです。

 公演の方は、ウエストエンドで観たのとそのままでした。シャーロット・ケイト・フォックスは、とってもチャーミングなアメリカンな女性を生き生きと演じてました。他の女性ダンサーたちが、「プレイボーイ誌」(アメリカでは廃刊になったらしいですが)のグラビアに出てもおかしくなさそうな、ぶりぶりでお色気たっぷりの方ばかりなので、正直、背格好では見劣りしていたのは否めませんが、お愛嬌と演技で十二分に補ってます。

 ヴェルマ役のアムラ=フェイ・ライトは貫録十分。敏腕弁護士フリンを演じるトム・ヒューイットもクールさがなんとも恰好良い。その他の男女の出演者も流石、本場もんという感じ。このミュージカルは、犯罪、セレブ、セックス、金、弁護士、ジャズといった、ある意味ステレオタイプ的なアメリカンカルチャーのシンボルを総動員した「いかにもアメリカ」を地で行ってます。面白おかしく、かつテンポよく盛り上げてくれ、あっという間に時間が過ぎていきます。

 バンドもステージ上のひな壇に上がっての演奏になりますが、見たところ日本人風の演奏者が結構いらっしゃいました。(まあ、アメリカの場合、見た目では何人かわからないので、何とも言えませんが)。ジャズのナンバーもコンサート風に楽しめます。

 見終わって、「ああ、面白かったね~」と思わず口にでる、そんな大人のコメディミュージカルでした。



2015年12月23日 18:00開演

《キャスト》
シャーロット・ケイト・フォックス [ロキシー・ハート]
アムラ=フェイ・ライト [ヴェルマ・ケリー]
トム・ヒューイット [ビリー・フリン]
トッド・ブオノパーネ [エイモス・ハート]
ロズ・ライアン [看守ママ・モートン]
D.ラテル [メアリー・サンシャイン]
トーマス・ビーヴァン
[廷吏/書記官/エイモス・ハート代役]
クリストフ・キャバレロ
[スウィング/ダンス・キャプテン]
オロール・ジョリー [ハニャック]
ネイサン・キーン [スウィング]
アンソニー・ラガーディア [アーロン]
ジェニファー・マシー [スウィング]


《渋谷スクランブル交差点を上から見下ろせます》

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有馬哲夫 『原発・正力・CIA―機密文書で読む昭和裏面史 』 (新潮新書 2008)

2015-12-26 09:00:00 | 


 これは面白かった。米国で公開されたCIA文書などをもとに、日本の戦後史の隠れている部分に光をあてた一冊。主人公は読売新聞の社主であり、日本テレビも保有していた日本のメディア王、正力松太郎。彼の個人的野望と、米国国益のために日本を誘導しようとする米国CIAとの虚々実々の駆け引きが明らかにされる。そして、日本の原子力発電の導入はそうした駆け引きの産物としての一面があるということ。

 正力松太郎がCIAに日本の情報を流していたり、自己の野望のためにCIAを利用していたことは本書で明らかにされているが、それをもって「正力けしからん」といきり立つのも、あまりにもナイーブであろう。当時の国際政治経済の環境下では、CIAであろうが何だろうと、利用し、利用される中で、実を取るしたたかさがなければ、生き抜いていくことはできなかったはずだ。もちろん、個人的な「欲」のために動いているとしか思えない彼を賞賛するつもりはないが、今の世の中で、CIA相手にここまでやりあえる人物がどこまでいるのかと思う。一方的にやられ、良いように操作され、それどころかご機嫌をとっているのが現実ではないか。

 歴史の勉強にもなる上に、現代の国際情報戦の実態の一面も知ることができる。スパイ小説よりも面白い。
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新国立バレエ 「くるみ割り人形」 @新国立劇場オペラパレス

2015-12-24 23:37:40 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

《この日はスマフォを忘れ、新国立劇場HPより拝借》

 ぼったくり第九コンサートは回避して、ここ数年の年末はバレエにしてます。中でも「くるみ割り人形」はこの季節に最適ですね。新国立劇場内は、クリスマスマーケット風のお店が出ていたり、クリスマス・コスチュームを着たスタッフがいらしたりして季節感満載です。お母さんに連れられたドレスアップした女の子や男の子も雰囲気を盛り上げます。ホールは満席でした。

 この日は、金平糖の精が米沢 唯さん、クララが奥田花純さん、雪の女王は小野絢子さんとオールスターキャスト。しかも王子は英国ロイヤルバレエのワディム・ムンタギロフさん。迫力満点で力強いダンスを満喫しました。私がこのバレエの中でとりわけ好きなのは2幕で、アラビア人や中国人などなど様々な音楽や踊りが楽しめるのが最高。東フィルの演奏も良かった。

 終演後は暖かい気持ちが一杯に広がります。バレエって不思議な力がありますね。しかも、これで第九コンサートの半額以下。私は絶対、こちらの方をお勧めします。


スタッフstaff

芸術監督:大原 永子
Artistic Director : Ohara Noriko

音楽:ピョートル・イリイテ・チャイコフスキー
Music:Pyotr Ilyich Tchaikovsky
原案・台本:マリウス・プティパ
Libretto:Marius Petipa
振付:レフ・イワーノフ
Choreography:Lev Ivanov
演出・改訂振付:牧 阿佐美
Production:Maki Asami
装置・衣裳:オラフ・ツォンベック
Designs:Olaf Zombeck
照明:立田 雄士
Lighting:Tatsuta Yuji
指揮:アレクセイ・バクラン
Conductor:Alexei Baklan
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
Orchestra:Tokyo Philharmonic Orchestra
合唱:東京少年少女合唱隊
Chorus:The Little Singers of Tokyo

【12月20日(日)14:00】
金平糖の精:米沢 唯
Sugar Plum Fairy YONEZAWA Yui

王子:ワディム・ムンタギロフ
Prince Vadim MUNTAGIROV (The Royal Ballet)

クララ:奥田花純

ドロッセルマイヤー:マイレン・トレウバエフ

雪の女王:小野絢子

スペイン:益田裕子、池田武志

アラビア:堀口純、輪島拓也

中国:五月女 遥、八木 進

トレパック:小口邦明、宇賀大将、小野寺 雄

葦の精:寺田亜沙子、広瀬 碧、飯野萌子
コメント (5)
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古田英明 『ヘッドハンターだけが知っている プロ経営者の仕事術』 新潮社 2015

2015-12-23 08:45:45 | 


 ヘッドハンターである筆者のキャリア論、リーダーシップ論(必ずしもタイトルにある「仕事術」ではない)。キャリア論についての筆者の著作は、タイトルは忘れてしまったが、10年以上前に一度読んだことがある。30歳までの転職はお勧めしないということが書いてあって、「ヘッドハンターなのに面白いことを言う人」だなあと思ったのと、具体的なことは忘れてしまったが首肯できる指摘が多かった記憶がある。昨今の日本企業や日本経済の状況を鑑みて、20歳代から50歳代までのビジネスマン向けに書かれた本書も、いろいろ参考になることが多い。

 本書を読んで、「ヘッドハンターから見てもやっぱりそうなのか」と一番強く思ったのは、日本企業における人材育成力の劣化についての指摘。「日本の名だたる大企業が社内でリーダーを育成する能力を失ってきている」「中間管理職の延長線上で経営を担ってしまっている」「若手ビジネスマンと面談をして気づくのは、一、二回転職を経験している人材の方が、ずっと同じ会社に勤めている人より格段に優秀。・・・以前はむしろ逆」など、年齢層、ランクを問わず見られる傾向のようだ。思い当たるところが多々あるので、耳が痛い。

 既に職業人生活の後半に突入している自分自身のキャリアを考える上でも参考になる。「三十代までのビジネスリーダーは、まず自分ありきで、人の上に立ち人を動かすことばかり考えています。これに対して四十歳以降のビジネスリーダーに求めれるのは、自らを犠牲にして、人を喜ばせるために働くということです。」という逆三角形の底の方で全体を支えるビジネスリーダーを目指すべきと説いている。なかなかこんな境地にはたどりつけそうにないが、心得として肝に銘じたいと思う。


《目次》
はじめに 「プロ経営者の時代」到来
序 章 「人材敗戦」──危機の本質と日本復活への道
・プロ経営者、三つの条件
・「自分探しではなく、自分試しをしなさい」
・プロ経営者になりたければ、アジアを目指せ

第1章 プロ経営者はこうしてスカウトされる
・人材を見極めるのに5年
・お金よりも自らの成長を求めよ
・プロ経営者は駅伝のランナー

第2章 日本「生き残り戦略」の主戦場となるASEAN
・「残念な国」となった日本
・日本の管理職を上回る現地エリートの給料
・アジアのエリートがあなたの上司になる時代
・圧倒的な人材不足がグローバル化のネックに
・ASEANで企画生産した商品を世界で売る時代
・中堅企業はプロユースの高級品生産に徹するべきだ

第3章 プロ経営者から学ぶリーダーの条件
・社外取締役オファーの数で分かる経営者の実力 ・プロが認めるプロとは
・「経営の達人」が語る日本的リーダー像

第4章 二十代、三十代でしておくべきこと
・若手ビジネスエリートの共通点はMBAと転職経験
・なぜ転職経験者の方が優秀なのか
・上を目指さなければ給料は一生上がらなくなる
・中央官庁から逃げ出すキャリア官僚達
・40歳までに身につけておくべきこと

第5章 四十代から五十代──決断のとき
・40歳以上は転職の覚悟を持つべき
・40歳で求められる「コペルニクス的転回」
・ビジネスマンの「心」「技」「体」とは?
・50歳で求められる「鬼手仏心」の境地
・ヘッドハンティングは過去ではなく将来を買うこと
・「人生は逃げ切れない」と肝に銘じよ
・大切なのはポストではなく成長をあきらめないこと
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プラド美術館展—スペイン宮廷美への情熱 @三菱一号館美術館

2015-12-20 21:25:57 | 美術展(2012.8~)


 三菱一号館美術館で開催中のプラド美術館展に行ってきました。『ラス・メニーナス』(女官たち)など名だたる大作揃いのプラド美術館から小さな作品を選んで展示するという本企画に、少々、不安を覚えるところはありました。確かに、言葉悪く言えば、玉石混合のところもあるかとは感じましたが、ヒエロニムス・ボスの作品など珍品もあり、楽しめました。


ヒエロニムス・ボス《愚者の石の除去》 油彩、板 1500-10年頃 48.5×34.5cm

 私的には本展時の中ではかなり大きな作品であるバルトロメ・エステバン・ムリーリョの《ロザリオの聖母》が、一番のお気に入り。安定した構図に置かれた聖母とイエスの神々しい姿には、胸打たれ立ちすくんでしまいます。ポスターにあるアントン・ラファエル・メングス作の《マリア・ルイサ・デ・パルマ》の姿も、ポスターの印象よりもずっと眼光鋭く高貴な威厳を感じるものでした。


バルトロメ・エステバン・ムリーリョ 《ロザリオの聖母》1650-1655年頃 166×125cm

 この季節、丸の内界隈は夕方からライトアップされて神秘的でさえあります。落ち着いた雰囲気の美術館で贅沢なひと時を過ごし、界隈の賑やかながらも大人の雰囲気の中を散策するのも、上野とはちょっと違った美術館体験で、お勧めです。


《美術館3階通路からの眺め》
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N響 12月定期Bプロ/ 指揮:シャルル・デュトワ/サン・サーンス 交響曲 第3番 ほか

2015-12-19 07:53:47 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 バルトークの「中国の不思議な役人」聴きたさに、頑張って発売日に争奪戦に参戦して何とかゲットしたこの日のチケットです。お目当てのバルトークだけでなく、東欧の民族性あふれるコダーイの舞曲、フランスを代表する作曲家によるサン・サーンスの交響曲第3番と、3曲を通じての隠れテーマがあるのかどうかはわかりませんが、個性の異なった音楽を組み合わされた面白いプログラミングにも魅かれました。

 どれも素晴らしい演奏でしたが、中でも私的に一番はやっぱりバルトークの「役人」。変化に富み、緊張感あふれる音楽は生演奏ならではの醍醐味を味わえます。デュトアさんの変幻自在の指揮に、N響が食らいついていくといった様子で、緊張感は音楽だけでなく舞台からも伝わってきました。演奏中の厳しい団員さんの表情と演奏後のホッとしたような一瞬緩んだ団員さんの表情の対照も興味深かった。

 サン・サーンスの交響曲第3番もあのダイナミックレンジを体感できるのは生演奏ならではでしょう。第1楽章第2部の美しさや、第2楽章第2部の壮大で力強い旋律やパイプオルガンの宗教的な響きを堪能しました。この曲なんぞは、まさにデュトアさんの一丁目一番地と言った感じですね。一曲目のコダーイの舞曲はクラリネットを初め管楽器の音の美しさが印象的。

 今回はRAエリアでコントラバスパートの奥。デュトアさんの指揮ぶり、表情、コンサートマスターのマロさんの表情もはっきりと見ることができ、いつものNHKホール3階席からとは全く異なる近さと角度。生音がダイレクトに体にぶつかってくるのと、サントリーホールの豊かな響き、楽員さんの緊張感までが手に取るようにわかるような距離感が組み合わさって、音楽を感じるインパクトが強烈。同じN響でも会場、ポジションによってこうも違うのかと、いつものA,Cプロの席のコスト・パフォーマンスには十分満足しながらも、かなりショックでした。

 この日が、私にとっては今年の演奏会納め。最後12月をデュトアさん3連発で締めるという実に充実した1年でありました。



第1825回 定期公演 Bプログラム
2015年12月17日
サントリーホール

指揮:シャルル・デュトワ

コダーイ/ガランタ舞曲
バルトーク/組曲「中国の不思議な役人」
サン・サーンス/交響曲 第3番 ハ短調 作品78


No.1825 Subscription (Program B)

Suntory Hall

Kodály / Dances from Galanta
Bartók / “The miraculous mandarin”, suite
Saint-Saëns / Symphony No.3 c minor op.78

Charles Dutoit, conductor
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ちきりん 『マーケット感覚を身につけよう』 ダイヤモンド

2015-12-17 00:01:53 | 


 ちきりん(このペンネームの由来は何なのだろうか?)さんの著作は「未来の働き方を考えよう」を以前に読んだ。目の付け所が面白いなあという印象を持ったが、そのうまさは本作でも十分に発揮されている。

 これから世の中に求められる能力として、マーケット感覚が鍵となるという。自分を含めた「きまり」や「しがらみ」、「空気」に縛られた人には、肚落ちする指摘が多いと思う。そのマーケット感覚を身に着けるには、(1)プライシング能力を身につける、(2)インセンティブシステムを理解する、(3)市場に評価される方法を学ぶ、(4)失敗と成功の関係を理解する、(5)市場性の高い環境に身をおくの5つの方法が大切だという。

 私としては、(2)に関連して、「何らかの問題に直面したとき、「人間のインセンティブシステムに働きかけて、この問題を解決できないか?」と考えてみることです」という指摘は興味深かった。例えば、社員の遅刻が大いという問題に対して、「遅刻の多い社員は減給にしましょう」(規制脳)というよりも、「朝7時間までに出社すれば、ヘルシー朝ご飯無料でーす!」(市場脳)とかである。間違いなく、私は規制脳に囚われているな。

 筆者はこうも言います。「『どうせできない』『きっとできない』『何かきっと、できない理由があるに違いない!』と考え、やってみる前から欲望を抑える癖がついてしまうと、自分のことも、そして世の中の動きもわからなくなってしまいます」(p180)。偶然だと思うが、W杯で日本代表チームを率いたエディ・ジョーンズヘッドコーチも「日本人はcannnot doに囚われて過ぎている」ということを言っていた。「日本ラグビーが国際舞台で勝てるわけがない。だって、外人のような体格がないから・・・、プロリーグがないから・・・、日本人は農耕民族だから・・・」。題材、文脈は全く違いますが、何か通ずるものを感じる。

 具体的に、これを読んで直ぐに私の何かが変わることはない気がするが、自分のものの見方、考え方の癖を意識する機会にはなった。


≪目次≫
序 章 もうひとつの能力
第1章 市場と価値とマーケット感覚
第2章 市場化する社会
第3章 マーケット感覚で変わる世の中の見え方
第4章 すべては「価値」から始まる
第5章 マーケット感覚を鍛える5つの方法
終 章 変わらなければ替えられる
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新貝 康司 『JTのM&A 日本企業が世界企業に飛躍する教科書』 日経BP社 2015

2015-12-15 08:30:00 | 


 久しぶりに一生懸命読んだビジネス書。テーマが他人事でない上に、筆者の経験に基づく記述一つ一つに頷かされることが多く高い説得力を持ってた。コンサルタントや学者さんが書くビジネス書にはないリアリティに溢れている。

 10年来のJT社のグローバルM&Aノウハウを具体的事例をもとにかつ一般化も行いながら書かれているので、非常に分かりやすい。もちろん、現実にはここには書けない悩みやハードルも多いと想像するが、書籍に残せるノウハウとしては十分だろう。読んでいて筆者の改革マインドと行動力には感心するばかり。

 世の日系企業は多くのM&Aの成功、失敗事例を積み重ねている。類書がもっと出ても良いと思う。この手の仕事に関連している人には強くお勧めしたい。

(目次)
第1部 世界で戦う―M&A戦記
 (JTの海外たばこ事業
 適切なガバナンスを前提とした任せる経営
 JTインターナショナルの経営
 なぜM&Aを選択したのか
 進化するM&A
 ギャラハー買収)

第2部 新CFO論
 (門外漢がCFOになるまで
 CFOのミッションとは何か
 CFOはチェンジリーダーである)
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N響 12月定期Cプロ/ 指揮:シャルル・デュトワ/マーラー交響曲第3番

2015-12-13 09:00:36 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)
 マーラーの3番は随分、久しぶりです。今年はマーラーをN響/パーヴァオさんで1番、2番を聴き、デュトアさんの3番で締めるという何とも恵まれた1年でした。

 今回もデュトアさんとN響コンビは素晴らしい演奏を聞かせてくださいました。この曲の特徴でもある金管セクションが良かったなあ。特に、トランペットの首席菊本さんはトランペットとポストホルンの2役をこなす活躍ぶり。第3楽章の舞台裏から響くポストホルンの音色は心地よく夢をみているかのよう。弦はチェロやコントラバスの低弦陣も、重すぎることなくしっかりとしたアンサンブルが好印象でした。

 歌手陣も素晴らしい。アルトのビルギット・レンメルトさんはもう横綱って感じの堂々たる歌唱で、東京音大やNHK東京児童合唱団の合唱も美しく、うっとりです。

 ただ、これはデュトアさんの解釈要因なのかN響の演奏要因なのか、ど素人の私にはわかりませんが、全体的に綺麗にまとまりすぎていて、優等生すぎないかなあ。 もっとはじけちゃなさいよ。そんな気はしました。素晴らしい演奏であることは間違いないのですが、マーラーの悦び、畏れ、そんな感情がもっと前面に出てもいいんじゃないかなあ。

 あと、今回の大きな収穫の一つはマーラーの3番ってこんなに素晴らしい曲なんだと、改めて気づかせてくれたことでした。長いけど、変化があって全く飽きることないし、死に向かって暗くなるわけでもない。最終楽章の美しさはこの世のものとは思えない。私は年末の第9には行かないのですが、第9でなくとも、年末を締めるにふさわしい曲だと思います。デュトアさんとN響に感謝。



《NHKホール前はすっかり冬景色》


第1824回 定期公演 Cプログラム

2015年12月12日(土) 3:00pm
NHKホール

指揮:シャルル・デュトワ

アルト:ビルギット・レンメルト
女声合唱:東京音楽大学
児童合唱:NHK東京児童合唱団

マーラー/交響曲 第3番 ニ短調



No.1824 Subscription (Program C)
Saturday, December 12, 2015 3:00p.m.

NHK Hall

Charles Dutoit, conductor

Birgit Remmert, alto
Tokyo College of Music, female chorus
NHK Tokyo Children Chorus, children chorus

Mahler / Symphony No.3 d minor
コメント (4)
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角田房子 『閔妃暗殺―朝鮮王朝末期の国母―』 (新潮社 1988)

2015-12-11 22:00:00 | 

《ちなみに本写真は文庫本。私が読んだのは図書館にあった単行本。違いはないと思いますが、念のため》

 数十年前、某予備校に通っていた頃、日本史の名物先生であったS師が「近現代日本史」の授業でこう述べられていたのを、今でも鮮明に覚えている。

 「明治以降、日本は海外でいろんな恥ずかしいことをやってきましたけど、その最たるものがこれですね。なんてたって、日本のごろつき連中が徒党組んで、外国の国王邸に乱入し、王妃を殺しちゃったんですよ。日本で皇居に押し入り、皇后陛下に危害を加えるなんてことが起こったら大変なことですよね~。そりゃあ、怒りますよ、朝鮮の人たちも。」先生の話し方が漫談のようなトーンであったこともあり、柔らかい空気の中での一コマであったのだが、確かにひどいことをするもんだとこの事件は脳裏に焼き付いた。

 本書は、その1895年に朝鮮で起こった閔妃暗殺事件を描いたノン・フィクションである。筆者は歴史家ではないが、様々な史料をあたり、筆者の仮説を含めて、事件が起こる時代的背景から、事件、そして事件後までの経緯を朝鮮の政治史を軸に丁寧に描いている。『「日本への身びいきから、自国に都合のよい一人よがりの歴史を書いてはならない」と、強く自分を戒めた』(単行本p364)とあるが、1988年発刊の本書からは、昨今の勇ましく歴史を解釈する政治家たちの発言に反して、誠実に史実を追いかける筆者の人格と歴史に謙虚なその姿勢が伝わってくる。

 私自身、明治以降の日本の近代化の歩みや日朝関係は、日本史の視点から本を読んだりしてきたが、本書のように朝鮮の立場からこの時期の朝鮮や日本を見たことはなかったので、非常に新鮮だった。日本と中国に挟まれ、中国の属邦として歴史を重ねてきた朝鮮が迎えた近代は、地政学的にも、歴史的にも、国の舵取りが極めて難しかったことが良くわかる。また、内なる近代化の基礎を終えつつあった日本が、朝鮮を足掛かりに海外進出を企てた国際戦略や対中国、対ロシアを考えた時の日本にとっての朝鮮の位置づけ、そしてそうした時代の空気も良く伝わる。閔妃についてはいろんな悪政もあったようなので、本書は閔妃についての評価というよりも日朝関係史のサイドテキストとして読むのがよいと思う。

 本作の著述を始めるまで、福沢諭吉の「脱亜論」など、国権派としての福沢の側面を知らなかったという筆者のコメントは、「脱亜論を知らなかった人が書いた本なんて果たして大丈夫なのだろうか?」とかなり不安を覚えさせたが、却って変な先入観・思い込み無く、この時代を虚心に見つめた成果として、受け止めることができる。こんな歴史が隣国との間にあったということは、日本人として知っておく必要がある。少なくとも私は、『『閔妃暗殺』をお読み下さる一人でも多くが、どうぞ隣国への”遺憾の念”を持ち、それを基とした友好関係、相互理解を深めてくださるようにと、私は切に願っている。』(p364)という筆者の思いを受け止めた。


《目次》
プロローグ―池上本門寺の墓地にて
李氏朝鮮王朝通信使
大院君、政権を握る
閔妃登場
悲しき王妃の座
閔氏一族の結束
王世子誕生
朝鮮の鎖国を破った日本
反閔妃、反日のクーデタ
大院君拉致事件
開化派青年たちの見た日本
閔妃暗躍
王妃をとりまく外国人たち
刺客と世紀末のパリ
外務大臣陸奥宗光の記録
朝鮮王朝の分裂外交
閔妃の自負心
日本公使の交替
下関の李鴻章
公使井上馨の失権
王妃暗殺計画
決行前夜
暁の惨劇
広島裁判の謎
陸奥宗光への疑惑
エピローグ―日韓併合への道

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加藤哲郎 『ゾルゲ事件 覆された神話』 平凡社新書

2015-12-09 21:00:00 | 


 ご存知の方も多いと思うが、ゾルゲ事件とは「リヒャルト・ゾルゲを頂点とするソ連のスパイ組織が日本国内で諜報活動および謀略活動を行っていたとして、1941年9月から1942年4月にかけてその構成員が逮捕された事件。」(Wikiより引用)この事件では、近衛内閣のブレーンとして活躍した元朝日新聞記者の尾崎秀実もメンバーとして逮捕され、死刑となっている。本書はそのゾルゲ事件を、これまでの松本清張氏らによって作られた通説を覆しながら、学術的に事件の背景を解き明かした一冊。

 筆者は、ゾルゲ事件が二重の意味での情報戦であったと位置付ける。一つは、第2次世界大戦時における国際的諜報戦の文脈でのソ連赤軍の諜報活動。もう一つが、ゾルゲ事件が、戦後の冷戦構造での情報・宣伝戦でもあったことである。

 私自身、事件については、以前テレビの歴史番組で見た程度なので詳しくはないのだが、本書が特にあらたにした歴史的事実は以下の3点のようだ。
・ゾルゲ事件が発覚したのは、通説にあるように、伊藤律が尾崎秀実(おざきほつみ)を特高に売ったのではない。
・通説の伊藤律発端説は、戦後、川合貞吉がGHQのエージェントとして、チャールズ・ウィロビーの謀略機関(G2および民間情報局(CIS))と組んだストーリーである。
・尾崎秀実をゾルゲに紹介したのは、アメリカ共産党員で当時上海にあった太平洋労働組合書記局(PPTUS)に派遣されていた鬼頭銀一である。

 こうした事実をさまざまな一次史料、二次資料を駆使して、明らかにしていくのは、自称「歴史探偵」を地で行っている。下手なミステリー小説を読むよりずっとおもしろい。そして、ロシア、ドイツ、中国、日本、アメリカと世界的スケールで展開される諜報活動のダイナミックさになにより驚かされる。


 ゾルゲ事件そのものよりも事件の周辺を明らかにした1冊であるが、事件についてよりり知りたくなった。惜しむらくは、本文中で出典は明示されているだが、参考文献を巻末にまとめておいてもらえれば、後学したい人のためにより便利だったと思う。新書ながら、読み応えのある一冊で大満足。


目次

はじめに―ゾルゲ事件とは何か
序章 膨張する情報戦、移動する舞台と配役
第1章 ゾルゲ事件はいかに語られてきたか
第2章 ゾルゲ事件イメージのルネッサンス
第3章 松本清張「革命を売る男・伊藤律」説の崩壊
第4章 川合貞吉はGHQウィロビーのスパイだった―「清里の父」ポール・ラッシュの諜報活動
第5章 検挙はなぜ北林トモ、宮城與徳からだったのか―米国共産党日本人部の二つの顔
第6章 ゾルゲ事件の二重の「始まり」―キーパースン鬼頭銀一
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N響 12月定期Aプロ/ 指揮:シャルル・デュトワ/R.シュトラウス/楽劇「サロメ」(演奏会形式)

2015-12-07 23:45:26 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 デュトアさんとN響による演奏会方式のオペラ作品上演は、昨年の「ペレアスとメリザンド」の素晴らしいパフォーマンスが記憶に新しいところですが、今年は「サロメ」。大好きな作品であり楽しみにしていましたが、期待通りの名演でした。

 私として一番印象的だったのはオケ。舞台装置がない分、オペラよりもぐっと音楽に集中できます。N響の演奏はことさらにおどろおどろしさを引き立てるわけではないものの、「サロメ」の猟奇性、妖気性、甘美さを十二分に表現したものでした。弦の緊張感あふれるアンサンブルやソロが秀逸で、第4場のサロメの「サロメの喘(あえ)ぎ声か、心臓の鼓動か」とプログラム解説に書かれたコントラバスのソロは身震いするほど怖かった。木管はオーボエやフルートの響きが美しく、金管陣も爆演。オペラではどうしても「踊り」や「生首」に気を取られがちなので、音楽にフォーカスできたのは良かったです。

 歌手陣では、サロメ役のバークミンが際立ってました。ドイツ出身のソプラノで、私は初めてでしたが、歌声、表現が奥深く、存在感たっぷり。おかっぱ風のヘアスタイルや白のドレスもサロメの妖気さを際立たせていて、演技は殆ど無くても、見ていて十分怖い。オペラグラスを忘れたため、3階席からは表情までは観て取れなかったのが悔やまれます。

 ヨカハーンの歌声も良く響いて、美しかった。そのほかの来日歌手や日本人歌手陣、コーラスの皆様もしっかり仕事されてました。昨年の秋、ゲルギー指揮、マリインスキー劇場管弦楽団の演奏会方式の公演を聴いていますが、演奏、歌唱ともに今回に軍配が上がります。

 オペラは過去4種類ほどの演出で見てますが、ブリュッセルのモネ劇場で見た「サロメ」(演出:ガイ・ヨーステン(Guy Joosten))や私が持っているドイツ・ベルリン・オペラのDVD(演出:ニコラス・レーンホフ(Nilolaus Lehnhoff))は、演出があまり好みではありません。この作品、逆にそりの合わない演出で見るよりは、コンサート方式の方がより楽しめますね。


《原宿の銀杏の紅葉は終盤》



第1823回 定期公演 Aプログラム
2015年12月6日(日) 開演 3:00pm

NHKホール

R.シュトラウス/楽劇「サロメ」(演奏会形式)

指揮:シャルル・デュトワ
ヘロデ:キム・ベグリー
ヘロディアス:ジェーン・ヘンシェル
サロメ:グン・ブリット・バークミン
ヨカナーン:エギルス・シリンス
ナラボート:望月哲也
ヘロディアスの小姓/どれい:中島郁子
5人のユダヤ人 1:大野光彦
5人のユダヤ人 2:村上公太
5人のユダヤ人 3:与儀 巧
5人のユダヤ人 4:加茂下 稔
5人のユダヤ人 5:畠山 茂
2人のナザレ人 1:駒田敏章
2人のナザレ人 2:秋谷直之
2人の兵士 1:井上雅人
2人の兵士 2:斉木健詞
カッパドキア人:岡 昭宏

No.1823 Subscription (Program A)
Sunday, December 6, 2015 3:00p.m.
NHK Hall

R.Strauss / “Salome”, drama op.54 (concert style)
Charles Dutoit, conductor
Kim Begley, Herodes
Jane Henschel, Herodias
Gun-Brit Barkmin, Salome
Egils Silins, Jochanaan
Tetsuya Mochizuki, Narraboth
Ikuko Nakajima, Ein Page der Herodias / Ein Sklave
Mitsuhiko Ono, 5 Juden-1
Kota Murakami, 5 Juden-2
Takumi Yogi, 5 Juden-3
Minoru Kamoshita, 5 Juden-4
Shigeru Hatakeyama, 5 Juden-5
Toshiaki Komada, 2 Nazarener-1
Naoyuki Akitani, 2 Nazarener-2
Masato Inoue, 2 Soldaten-1
Kenji Saiki, 2 Soldaten-2
Akihiro Oka, Ein Cappadocier

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東京の紅葉 ~日比谷公園が見頃です~

2015-12-06 07:14:09 | 旅行 日本
 昨日、日比谷・銀座界隈に買い物に出かけました。途中、立ち寄った日比谷公園内の紅葉が真っ盛り。青空に映える色々が眩しいぐらいでした。下の携帯写真よりもずっと綺麗です。今日もお天気は良さそうなので、お時間のある方はお出かけください。





 2015年12月5日 13:00頃
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イルジー・ビエロフラーヴェク 指揮/ チェコ・フィルハーモニー管弦楽団/ わが祖国(スメタナ)全曲

2015-12-04 22:11:20 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


(随分遅れましたが、1月前のコンサートの感想をば)

 チェコフィルを生で聴くのは今回が3回目。毎回、素朴で重心の低いアンサンブルに魅了されます。しかも、今回はスメタナの『わが祖国』。直球ど真ん中のプログラムに、ワクワク気分でNHKホールへ足を運びました。

 『わが祖国』を全曲通して聴くのは初めてでしたが、きっとこんな演奏はなかなか聴けるものではないと確信させられる1時間15分あまりでした。ビエロフラーヴェクさんは、いつもながら丁寧に、装飾なく音楽をそのまのを聴かせるような指揮ぶりです。そして、倍管で揃えた大編成のオケが目一杯に応えます。N響のような機能的で精緻なアンサンブルとは異なりますが、「そんなものは我々の目指すところではない」と言わんばかり。まるで、楽員の一人一人のDNAにこの曲が埋め込まれているような演奏です。

 有名な第2曲ヴルタヴァ(モルダウ)を過ぎたあたりから、どんどんオケが熱を帯びてくるのが、3階席からも良く見てとれました。ステージ前方にメンバーを寄せての配置で、大きな生音がNHKホール一杯に響き、器の大きさを感じない程。聴きながら、ボヘミアの風景が脳裏に浮かび、匂いが漂ってきます。

 終演後は熱狂的な拍手。ロンドン響びいきの私としては、やや悔しいものの、先月のロンドン響の時よりも拍手の大きさはチェコフィルが大きかった。アンコールは、「ドヴォルザークのスラブ作品72 第一」。大団円での終演となりました。


11月4日  NHKホール

出演:
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
イルジー・ビエロフラーヴェク 指揮

曲目:
スメタナ/「わが祖国」

Czech Philharmonic
Jiří Bělohlávek, Conductor

SMETANA / Má Vlast
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