その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

N響定期演奏会 Aプロ/ ブロムシュテット/ 「ジュピター」・「悲愴」

2014-09-30 20:31:19 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 まだ頭の中で、「ジュピター」の第4楽章と「悲愴」が頭の中で、入れ替わり立ち代りにクルクル巡ってます。

 2年前にロンドンより帰国して以来、N響には定期的に通ってきました。往年のジャイアンツのようにN響にはやっかみ半分の悪評も多いようですが、なんだかんだ言って、高い演奏レベルと安定度と言う意味で在京オケの中ではトップクラスだと思ってます。ただそんな中でも、鳥肌が立ち、胸がバクバクして呼吸困難に陥るような演奏会にはなかなか出会えません。でも、この日は、間違いなくこの2年間で最高の、胸が押し潰されるような演奏会でした。

 前半の「ジュピター」から前週とは何か違う感じがしていました。端正で見通しの良いモーッアルトは先週の40番と同じなのですが、全体に漂う香りが明らかに違う気がします。無機質で冷たい感じのする灰色のNHKホールが、明るく華やかで優しい空気に包まれます。特に、第4楽章のリフレインの中で高まる盛り上がりは、少人数編成とは思えない力強さと美しさが両立した至福の時間でした。

 そして、後半の「悲愴」は言葉にできない感動でした。「静と動」、「沈黙と雄弁」、「強と弱」、「明と暗」といった様々なコントラストが、演奏の中で現れては消え、そして発展していきます。この日も全て暗譜のブロムシュテットさんは、何かが乗り移ったかのように神がかり的でした。3階席からも背中からオーラを感じるんです。そして、その一挙一動にN響のメンバーが憑かれたように、何かを目指して疾走する。聴衆もステージで起こっていることを何一つ聞き漏らすまい、見逃すまいと、気持ちを一点に集中させます。時折、我に返らせるかのようなティンパーニーの炸裂。先週の5番は節度を保った中での情熱的演奏と感じたのとは違い、今回の6番は、構造は決して崩れず、端正なのだけど、情念のようなものが前面に出て、まるでオペラを観ているかのように、音楽から絵巻が表れていました。

 最後は消え行くフィナーレ。あの沈黙の空間をどう表現して良いのかわかりません。そして、ゆっくりと暖かい拍手が始まり、カーテンコールが繰り返されるのに従って拍手が益々大きくなります。なんと、幸福な時間だったでしょうか。私のN響史に確実に残る演奏会でした。

 ブロムシュテットさん、今年もありがとうございました。また、来年も元気によろしくお願いしますね。来年はブルックナーですかね~。


第1789回 定期公演 Aプログラム
2014年9月27日(土) 開場 5:00pm 開演 6:00pm

NHKホール

モーツァルト/交響曲 第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」
チャイコフスキー/交響曲 第6番 ロ短調 作品74「悲愴」

指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット




No.1789 Subscription (Program A)
Saturaday, September 27, 2014 6:00p.m.

NHK Hall

Mozart / Symphony No.41 C major K.551 “Jupiter”
Tchaikovsky / Symphony No.6 b minor op.74 “Path�・tique”

Herbert Blomstedt, conductor
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行動展 @国立新美術館

2014-09-27 21:16:32 | 美術展(2012.8~)


 Miklosさんからご招待券を頂き、国立新美術館へ行動美術協会が主催する「行動展」という展覧会に足を運びました。行動美術協会というのは初めて知ったのですが、「1945年、敗戦後に設立された公募美術団体で、戦後「旧二科会が、旧体制のまま再建されることに反対して、新しい時代に適合する美術団体をめざして結成された」(Wikiより)そうです。その行動美術協会が毎年秋に開いているのがこの行動展です。

 国立新美術館は丁度、別室で「オルセー美術館展」を実施中でヒトヒトの混雑ぶりでしたが、こちらの行動展は現代美術ということもあってか、ゆっくりマイペースで鑑賞できる、本来あるべきである、静かで落ち着いた美術空間でした。



 展示作品は今年の公募入賞作品や会員達の作品だちですが、現代風のシュール系な絵やデザイン絵が目につきました。普段は、それこそ「オルセー美術館展」のように過去の画家の作品を見ることが多いのですが、今回、久しぶりに「今」の画家さんたちの絵を見て、また違った刺激・エネルギーを感じたのが印象的でした。絵から「時代の空気」「時代のエネルギー」を感じるんですよね。きっと昔の絵も、制作当時はその時代の空気を放っていたのでしょうが、時とともに薄れて行くのでしょう。
 
 今回は、Miklosさんのご友人である広友正嗣氏の絵を中心に鑑賞しました。


広友正嗣《ラテンの海苔》

 ユニークでしょう?前衛雑誌の表紙にもありそうな、ナンセンス・ユーモアたっぷりで、私の好きなノリです。タイトルからして「ラテンの海苔」です。離れて全体像を見ても、近くでディテールを追っても、どちらも楽しく、結構な時間を前で過ごさせてもらいました。こまわりくん、フセイン大統領、アリと猪木、スーパーマン・・・現実と架空の人たちが交じり合っているのも面白く、一つ一つの人物を追っかけてました。あのグループダンスも「チャーリーとチョコレート工場」の大人子供達の踊りを思い出して、笑ってしまいました。シュールでコミカルなところが何とも好みです。

 ちょっと一部を拡大紹介いたしますと・・・


《絵の左下部分》


《左部分中央の無力となったフセインさん》


《フセインさんの上部のキューピーさん。その上にはコマワリ君も》


《右手中央にはアリ対猪木の格闘技世界一決定戦》

 もちろん、展示はこういうユーモアたっぷりの絵ばかりではありません。現代絵画ならではなの様々な形式、メッセージを持った展示群になっています。通して見てみると、歴史のふるいにかけられた「名画」と比べると完成度、技術においては及ばないまでも、「今」に生まれた絵ならではの新鮮で力強いメッセージを感じます。歴史の霞ばかり食べていてもダメだなあとの想いを強くしました。


 ※行動展は9月29日までです。


 2014年9月23日
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「ビジネスマンのための歴史問題」 『週刊 東洋経済』(2014年9月27日号)

2014-09-25 08:12:23 | 


 今週号の『週刊 東洋経済』誌の特集がなかなか興味深い企画なのでお勧めします。「ビジネスマンのための歴史問題」と題して、日本の近現代史における日中韓の関係史をおさらいし、「慰安婦」、「尖閣諸島」といった今の問題にも歴史的な視座を与える内容になっています。
 
 個人的には、日本の近現代史は学生の頃からそれなりに勉強してきたので、新たな発見があったわけではなかったのですが、コンパクトに歴史及びイシューを整理してくれているのが良いと思いました。上から目線で甚だ恐縮ですが、私の周りの人を含めて、日本人でもこの時期の日本史は疎い人が多い(知っているか、全く知らないかの二極化している気がします)ので、是非、今週の東洋経済は目を通してほしいです。

 一方で、今回の記事を読んで、東洋経済誌自身が現在の日本のマスコミを取り巻く空気に遠慮しているのが滲み出ているところは大いに不満でした。自らの大先輩ジャーナリストであった石橋湛山(東洋経済新報社)を自由主義・平和主義を貫いた人と紹介した記事を掲載しつつ、今の安倍政権の歴史認識については、大前研一氏や米国識者の言葉を借りて批判しているものの、自らの言葉としては語られていません。オピニオン誌ではないものの東洋経済誌としての主張をもっと出してもいいんじゃないかと思いました。

 私自身、安倍政権の歴史認識や自民党のセンセイの日本史の一方的美化については、日頃違和感を持っているところもあり、大前研一氏が石原元知事や安倍首相を「筋金入りの右翼」と断じているのには溜飲が下がる思いなところもありました。東洋経済誌さん、遠慮するな。もっと骨のある雑誌になってくれ。
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《おススメ》 彼岸花の群生 @野川公園

2014-09-23 14:22:28 | 日記 (2012.8~)
 彼岸花(Lycoris(リコリス)、曼珠沙華(マンジュシャゲ)とも呼ばれるらしい)って、不思議に毎年きちっとお彼岸の頃に咲いてますね。週末の東京近郊ウォーキングで、三鷹市と調布市の境にある野川公園を通った際に、目の覚めるような彼岸花の群生を見かけました。


《歩いていたら林の奥に真っ赤な絨毯が・・・》


《少しズームで撮ってみました》


《更にズーム》

 陽の光を受けて真紅に輝く花と林の陰となった花が作るコントラストも美しく、しばらく見とれていました。

 いつごろまで咲いているのかはわかりませんが、お近くの方は訪れる価値が十分あると思います。


 2014年9月21日
コメント (2)
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なんてたってブロムシュテット・・・N響C定期/ ブロムシュテット/ チャイコフスキー交響曲第5番ほか

2014-09-21 14:34:47 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 9月になり、いよいよコンサートシーズンの開幕です。私は昨年と同じD席ながらも中央の後ろから右袖側のゾーンに席替えをし、舞台に近づきました。N響は昨年と同じく、9月は全てブロムシュテットさんが振ります。御年87歳とのことですから、この日、満員となったNHKホールの聴衆を含めて、もしかしたら最高齢かもしれません。

 全く年齢を感じさせず、颯爽と現れたブロムシュテットさんを聴衆は暖かい拍手で迎えます。その暖かい拍手の余韻が残る中で始まったモーツァルトの第40番は、端正で瑞々しく、何とも見通しの良い演奏でした。淡々としていると言えば淡々としているので、物足りなく思う方もいるかもしれませんが、曲の美しさを音楽そのものに語らせるという音楽つくりです。

 休憩後のチャイコフスキー交響曲第5番では、そのスタイルが更に強く出ていたと思います。「大仰に感情を吐露するのではなく、節度を保った表現のなかから豊かな情感や緊密な音のドラマを紡ぎ出すという方法論」と飯尾洋一氏がプログラムで紹介していますが、まさにその通りでした。

 そうかと言って、気持ちが入っていないわけではありません。ブロムシュテットさんのコントロールとされつつも、曲・作曲家に対する愛情が目一杯折り込まれた棒に、N響の皆さんも集中力100%で全力でぶつかる見ごたえ、聴きごたえたっぷりの演奏でした。弦・管ともにパワフルな演奏で、ちょっと金管が勇み足というか荒れるようなところもありましたが、むしろN響はこのぐらいしてくれた方が良いと思います。広いNHKホールの隅々にまで響き渡るスケール感でした。

 きっと、こういう抑制された中での熱い演奏というのは、なかなか録音では伝わらないかもしれません。より骨太ではありますが、ハイティンクさんの音楽も似たようなところがありました。これこそが生のコンサートならではの醍醐味でしょう。終演後の割れんばかりの拍手が、同じ思いを示していたと思います。


≪デング熱騒ぎで閉演中の代々木公園の影響か、ずいぶん人影少ないNHKホール前の通り≫



第1788回 定期公演 Cプログラム
2014年9月20日(土) 開場 2:00pm 開演 3:00pm

NHKホール モーツァルト/交響曲 第40番 ト短調 K.550
チャイコフスキー/交響曲 第5番 ホ短調 作品64
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット


No.1788 Subscription (Program C)
Saturday, September 20, 2014 3:00p.m. (doors open at 2:00p.m.)

NHK Hall

Mozart / Symphony No.40 g minor K.550
Tchaikovsky / Symphony No.5 e minor op.64

Herbert Blomstedt, conductor
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ダン・ブラウン (著), 越前 敏弥 (翻訳) 『インフェルノ(上) (下)』 角川書店

2014-09-19 00:37:43 | 
 

 ダン・ブラウンのラングドン教授シリーズ第4弾です。新刊として出版された直後の、昨年12月に図書館で予約したのですが、10ヶ月近くかけてやっと廻ってきました。私にとっては、『ダ・ヴィンチ・コード』に続いての2作目なのですが、『ダ・ヴィンチ・コード』と同様に「これぞエンターテイメント小説!」という興奮の読書体験でした。ストーリー展開の早さ・意外さ・緊迫感は読者の目をページから離させません。

 現在と過去(歴史)を、骨太の社会的テーマで結びつけるのもこのシリーズの面白さです。今回の題材は、地球の人口爆発を軸に保健政策、パンデミックに及びます。ダンテの『神曲』の「地獄篇」を低音通奏として使い、1500年もの時間軸を行き来しつつ、題材について考えさせるというちょっと知的な興奮はなかなか類書では味わえないです。

 更に、空間スケールの大きさも魅力。今回はフィレンチェ、ベネチィア、イスタンブールと欧州の歴史的な街・史跡を登場人物たちが縦横に駆け巡ります。描写も丁寧で、未踏の読者は行きたくなることと間違いないでしょうし、訪問したことのある人は以前の旅に思いを馳せつつ、次回の訪問を計画したくなります。

 秋の夜長を楽しむのにはびったりの作品でした。
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東京二期会オペラ 『イドメネオ』 (モーツァルト) @新国立劇場

2014-09-16 00:47:04 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 これがモーツァルトの「イドメネオ」なのか?まるでヴェルディの「マクベス」や「ドン・カルロ」を観ているように、心臓バクバクで舞台に釘つけになった3時間半でした。「イドメネオ」は2010年にトリノ王立劇場で観た(演出:ダヴィデ・リヴァーモア)のが唯一の実演鑑賞経験ですが、2006年ザルツブルグ音楽祭での公演DVD(演出:ウルゼル・ヘルマン&カール=エルンスト・ヘルマン)を持っています。いずれも現代風演出ですが、初期モーッアルト(24歳の時に作曲)らしいバロック的な典雅さを持ったものでした。が、今回の「イドメネオ」は動的で劇的。過去に見たものとは全く違うものを観ているかの如くでした。

 これは、メルクルさんの指揮によるテンポよくスケール感がある劇的な音楽作りとミキエレットさんの生々しく隠微な演出によるものでしょう。正直、私は観ながら違和感がありました。音楽は、通奏低音にチェンバロでなくピアノを使っていますし、「ピーター・グライムズ」や「さまよえるオランダ人」が似合いそうな海岸の砂浜での暗欝な舞台に加え、途中からイリアが妊娠し、ラストシーンでは出産すると言う抽象的なメッセージ性など感覚的にどうも合わない。なのに、この強烈に舞台に引きつけられたのです。私が旧態依然の「イドメネオ」に捉われてすぎていたのでしょうか。ぶーぶー呟きながらも、視線は舞台に釘つけになる不思議な観劇でした。

 歌手陣の皆さんは総じて良い出来でした。タイトルロールの又吉さんは、ちょっと王としては貫禄不足かな?と思うところもありましたが、終始安定した歌唱で、美しいテノールでした。客席を圧倒したのは、エレットラ役の田崎さん。下着姿での体当たり演技や第3幕のソロの歌唱などは圧巻。間違いなく今回の中では一番オーラを発してました。イダマンテ役の小林さんのメゾ・ソプラノとイリア役の経塚さんは、ややこじんまり感はあるものの可憐なカップルで、美しく透明感あふれる歌声を聴かせてくれました。

 自分の中でも評価が割れる公演でしたが、終演後はヘトヘトになるほど自身の投入感たっぷりの舞台であったことは間違いありません。



イドメネオ


オペラ全3幕
日本語字幕付き原語(イタリア語)上演
台本:ジャンバッティスタ・ヴァレスコ
原案:アントワーヌ・ダンシェ『イドメネ』
作曲:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
会場: 新国立劇場 オペラパレス
公演日:2014年9月15日(月・祝) 13:00

スタッフ
指揮:準・メルクル
演出:ダミアーノ・ミキエレット
装置:パオロ・ファンティン
衣裳:カルラ・テーティ
照明:アレクサンドロ・カルレッティ
演出補:エレオノーラ・グラヴァグノラ

合唱指揮:大島義彰
演出助手:菊池裕美子

舞台監督:村田健輔
公演監督:曽我榮子

キャスト
イドメネオ 又吉秀樹
イダマンテ 小林由佳
イリア 経塚果林
エレットラ 田崎尚美
アルバーチェ 北嶋信也
大祭司 新津耕平
声 倉本晋児
合唱: 二期会合唱団
管弦楽:東京交響楽団

IDOMENEO
Opera in three acts
In Italian language with Japanese supertitles
Libretto by Giambattista Varesco
Music by WOLFGANG AMADEUS MOZART

FRI. 12. 15:00, SAT. 13. 15:00, SUN. 14. 13:00 &
MON. 15. 13:00
September 2014
at New National Theatre, Tokyo - Opera House (Japan)

Admission: 30min. before the performance /
Playing time: about 3hours 30

STAFF
Conductor: Jun M�・RKL
Stage Director: Damiano MICHIELETTO

Set Designer: Paolo FANTIN
Costume Designer: Carla TETI
Lighting Designer: Alessandro CARLETTI
Associate Stage Director: Eleonora GRAVAGNOLA

Chorus Master: �・SHIMA, Yoshiaki
Assistant Stage Director: KIKUCHI, Yumiko

Stage Manager: MURATA, Kensuke
Production Director: SOGA, Eiko

CAST
MON. 15 Sep.

Idomeneo: MATAYOSHI, Hideki
Idamante: KOBAYASHI, Yuka
Ilia: TSUNEZUKA, Karin
Elettra: TASAKI, Naomi
Arbace: KITAJIMA, Shinya
High priest: NIITSU, K�・hei
The voice: KURAMOTO, Shinji
Chorus: Nikikai Chorus Group
Orchestra:Tokyo Symphony Orchestra

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マイケル サンデル (著), 鬼澤 忍 (翻訳) 『これからの「正義」の話をしよう』  (ハヤカワ文庫)

2014-09-13 00:16:04 | 


 在英中に「日本で大評判」という聞いていたテレビ番組「ハーバード白熱教室」の書籍化で、本の方もベストセラーということなので、読んでみた。確かに素晴らしい興奮の一冊だった。

 サンデル教授の講義をその場で聞いているような臨場感で、「正義」という大上段のテーマについて考えることができる。サンデル教授が昨今の時事問題を例に取り、識者の主張や古今の哲学者の考え方などを交え、正義について解き明かすのを追体験する、夢中の読書体験だった。

 本書では、正義に対する3つの考え方が示される。ひとつは「正義は効用や福祉の最大化を意味することー最大多数の最大幸福」を意味するという考え方。第二の考え方は、正義は「選択の自由」を意味する。第三の考え方は、正義には美徳と共通善について論理的に考えること。例えば、ハリケーンに襲われたコミュニティにおいて便乗値上げを禁止する法律は、福祉の面から考えれば是(社会全体の福祉の向上に資さない)であるが、自由の観点からは、市場は個人の自由を尊重するという考えに照らして「非」である。そして更に、第三の観点では、福祉や自由以外に道徳的議論として「非」である。こうした、其々の考えの由来、そして現代の諸問題への援用のされ方、そして我々が考えるべきことが示される。

 平易な言葉で語られてはいるが、内容は深く、一読しただけでは真に意味しているところまでは読み取るのは難しい。しかし、そこまでやらないと、血と肉にはならないだろう。何度も読み返したい一冊だ。

 最後の一文も胸に刺さる。「道徳に関与する政治は、回避する政治よりも希望に満ちた理想であるだけではない。正義にかなう社会の実現をより確実にする基盤でもあるのだ。」(p419) 日頃、パワーゲームとしか見ていない政治について、自分も見方を変えなくてはいけない。
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大宮 立ち喰いそば・うどんの名店 つくば本店

2014-09-10 00:07:16 | 旅行 日本
 先日、とある用事で大宮(埼玉県)を訪れました。社会人1年生から4年生までの4年間、大宮の会社の寮に住んだ私にとって、ここは記念すべき街です。10年以上の久々の訪問だったのですが、大宮に行ったからには必ず顔を出さなくてはいけない店がこちらです。
  ↓↓↓


 大宮駅東口のローターリーから商店街に入ってすぐの立ち食いうどん「つくば本店」。麺はふつうの茹で麺ですが、鰹節の出汁が効いた汁は、ちょっと甘めで、チェーン店ばかりになった立ち食いうどん屋、そば屋にはない、手作りの味がします。味が当時と全然変わってなくて、大感動。きつねうどんの揚げも、その場でグツグツ煮ていい香り。きつねうどんを是非、お試しください。もう一つ、おにぎりも最高です。これも塩味といい、具と良い、手作り感満載。おふくろの味がします。

 10年以上のご無沙汰で店に入ったら、当時のおばちゃん、おじちゃんも居て、これにも感動しました。「いやあ~、新入社員の時に週一回は来てましたよ。味が全然変わってませんね~」と言ったら、「みなさん、そう言ってくれるんですよ」とおじちゃんも嬉しそうでした。

 お店はもう既に40年以上の歴史があるそうです。大宮も、私が住んでいた当時と比べると、再開発がずいぶん進み、南銀(南銀座という大宮の飲み屋街)のお店もずいぶん変わっていたのだけど、ここは昔のままでした。

 大宮に行く機会がありましたら是非、お試しください。

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ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展 @世田谷美術館

2014-09-07 23:08:08 | 美術展(2012.8~)


 閉会期間近のボストン美術館展に行ってきました。テーマはジャポニズム。モネを初めとする欧米の芸術家達が浮世絵など日本の芸術にどのように影響を受けたのかを探る企画です。

 目玉はポスターにもなっている有名なモネの大作《ラ・ジャポネーズ》ですが、これ以外にも見どころ満載の展示でした。

 興味深かったのは、展示の構成。冒頭に西洋人のジャポネズリー(日本趣味)を紹介した後は、女性、シティ・ライフ、自然、風景と作品のテーマごとに、日本の絵画や浮世絵等の芸術とそれを援用した西洋の画家達の作品が展示されています。構図、色使い、デザインなど、中にはこれは本当に日本の影響かしらん?と思うようなところもありますが、当時の西洋における日本趣味が良く分かります。

 ボストン美術館所蔵の浮世絵がふんだんに展示されているのも驚きでした。日本美術だけでも10万点を超える所蔵があるということなので、ホンノ一部なのでしょうけど、細かな描写や色使いなど、図版では良く目にするもののやはり本物ならではの風味を感じます。

 《ラ・ジャポネーズ》は大学生の時に旅行で初めてボストン美術館を訪れた時に強烈な印象を残してくれた絵です。確か、その後も一度来日した記憶がありますが、いずれにせよ少なくとも10年以上は経っての再会。最近、1年かけて修復されたという《ラ・ジャポネーズ》は確かに色合いもクリアで綺麗になった感じ。相変わらず、モデルのカミーユ・モネさんの何かに取りつかれたような表情、今にも飛び出してきそうな侍の迫力、目に焼きつく着物の赤の下地など、近くから見ても遠くから見ても、強烈な吸引力を秘めています。

 閉会期1週間前ということもあってか、館内はそこそこ混みあっていましたが、鑑賞に苦労する程ではありません。残り1週間ですが、まだの方には、強くお勧めします。


《2014年9月7日訪問 雨上がりの世田谷美術館》
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後藤 将史 『グローバルで勝てる組織をつくる7つの鍵―人材活用の新戦略 』 東洋経済新報社

2014-09-06 00:00:13 | 


 仕事の参考になるかと思って、読んでみた。

 日系企業のグローバル化を考えるフレームワークが綺麗にまとまっている。が、それゆえに教科書的で、ワクワクしないし、実践に生かせそうな気があまりしない。下記の目次にある7つのテーマに分けて、グローバル化の進むべき道を示してくれており、いくつかの事例や「日本企業はどうするべきか」ということも書いてくれている。でも、理論的ではあるが、生々しいリアリティが感じられないので、読んでいて力が入らない。どんなビジネスもそうだが、グローバル化はもっと泥臭いはずなのに・・・。

 悪い本ではないと思うのだが、チェックリストとして使うのが一番という印象だった。


目次

序章  目の前にある構造変化と日本企業の現在地
第1章 企業理念――企業理念を血肉にする
第2章 組織要件――組織の3つの機能を設計する
第3章 業務プロセスとインフラ ――グローバルインテグレーションで筋肉質化する
第4章 人材要件――現場の人材・人事制度を「見える化」する
第5章 人材マネジメントのプロセスとインフラ――グローバル人材チームを育成する
第6章 成長方針、M&A――「マーガニック」戦略で自己成長と買収による成長を使い分ける
第7章 変革のリーダーシップ――三極リーダーシップを構築する
終章  いま日本企業がやるべきこと


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栗原 昇 『図解 わかる! 経済のしくみ』 ダイヤモンド社

2014-09-04 21:24:03 | 


 サラリーマン歴も20年を超えてしまった「慣れ」なのか、それともスマフォ、Webの記事斜め読みが癖になってしまったのか、それとも加齢により気が短くなったのか、最近どうもいけない。新聞、雑誌等の記事の読み方が滅茶苦茶「雑」なのである。パーッと斜めに読んで分かった気になっている。昔は一つ一つの記事の意味合いや背景、ロジックを丁寧に読んでいたつもりだけど、近頃はじっくり読むことがやたら面倒くさい。

 これはいかんということで、最近、分かったつもりになっていることでも、もう一度基礎に戻ってみようと意識している。手始めに、経済「学」から始めることにした。チャートと図が両開きの1/3を占める、経済入門の入門の本として、ブックオフで100円で買った。昔は、この手の図解で分かった気にさせる本は「絵本」扱いして、馬鹿にしていたのだが、感覚的に理解できるし、文章が少ないので、無駄な文章はほとんどないという点において、格好よりも実だなと見直した。

 本書は、マクロ経済について、基本的な仕組み、政治との関係性、金融との関係性、世界経済における日本など、非常にわかりやすく書かれている。「えー、そうだったの!」とサプライズとなるような未知の情報は殆ど無かったが、「そういえば、そうだったよな」「こんな指標、最近は完全に飛ばしていたなあ~」などと振り返りにもってこいの本であった。新しい知識を身につけるより、古びて、記憶の底に沈殿している知識の棚卸をしたほうが、一定の年齢を超えてなお賢くなろうとするためによっぽど効率的かもしれない。

 2010年発刊なので、アベノミクスについて触れられていないのは残念だったが、こればかしは致し方ない。書棚には難しい本を取っておくよりも、パッと取り出して、あやふやなところをリファレンスできるこのような本の方が有益だろう。



(もくじ)
1 経済の基本的なしくみ―経済のメカニズムと基本的な知識についてまず理解しておこう(そもそも「経済」とはなんだろう?
経済成長とは何か? ほか)
2 産業と経済の関係は?―産業構造や企業経営と経済の密接な関係を見てみよう(産業構造はどう変化してきたか?
産業の空洞化とは、どういうことか? ほか)
3 政治と経済の関係は?―行政活動が経済に果たす複雑で微妙な役割についても見ておこう(国が経済に果たす役割とは?
地方自治体が経済面で果たす役割は? ほか)
4 金融と経済の関係は?―経済を動かしているカネの流れとしくみについて押さえておこう(そもそも金融のしくみとは?
日銀で果たしている役割とは? ほか)
5 世界経済と日本の課題―激動する国際経済と日本経済が直面する課題について見ておこう(国際通貨制度の歩みを見ておこうWTOの役割は? ほか)

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