その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

W・シェイクスピア作 ジョン・ケアード演出 「ハムレット」 @東京芸術劇場

2017-04-30 07:00:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 昨年のNHK大河ドラマ「真田丸」の家康役を見て、その演技力に感嘆させられた内野聖陽がハムレットを演じるというので行ってみた。ミュージカル「レ・ミゼラブル」オリジナル版の演出を行った有名演出家ジョン・ケアードの舞台ということでも評判になっていた公演である。

 この舞台、役者陣が凄い。内野聖陽以外にも軒並みテレビや映画でも見たことのある有名人ばかりなのである。國村隼、村井國夫、北村有起哉、浅野ゆう子、貫地谷しほりなど、芸能界には疎い私でも知っている人で、私にとっては常に向こう側の人たちだ。

 そして、彼らは伊達に有名なわけではないのだなと感じ入った。各人が放つオーラが凄い。それが舞台でぶつかり合って一つの作品を形作っていく。ぶつかりつつも、舞台全体が地に着いた安定感があったのも印象的だった。

 内野聖陽は悩める青年ハムレットを好演。ハムレット役は、内野が持つちょっとインテリっぽい雰囲気にも合う。國村隼のクローディアスはまさに舞台全体を重心深く抑え込む重しの役割。浅野ゆう子のガートルードも、その貫禄から女王様はぴったりのはまり役だった。

 演出は、舞台セットのようなものは殆どなく柔道場ぐらいの舞台があるだけで、あとは照明でアクセントをつけるぐらいだが、登場人物と役者の個性でひときわなので、余計なものはない方が良い。

 尺八(?)を利用しての音楽が、物語の緩急をつけるのにとても効果的で感心した。和風の音楽に加えて、衣装が日本風の着物とも西洋の洋服ともとれる無国籍なものだったので、シェイクスピア作品のグローバル性がアピールされた。

 あと、本作の特徴は、多くの俳優がマルチキャストであること。内野がハムレットと最終的にデンマーク王となるフォーティンブラスを演じたり、國村隼がクローディアスとその彼に殺されたハムレットの父の亡霊を演じるところなどは、ダブルキャストとしての意味合いが持たされていて、その一捻りに感嘆した。

 私が読んだ新聞のレビューは、「台詞が聞きづらい」「内野はXXX」など結構、辛口だったが、私にはそのレビュー自体が全く意味不明。日本語のシェイクスピア劇をこれだけ楽しめたのは、今回が一番である。


《舞台の模型》
 
2017年4月23日13:00
会場:東京劇術劇場 プレイハウス
作:ウィリアム・シェイクスピア
翻訳 松岡和子
上演台本 ジョン・ケアード、今井麻緒子
演出:ジョン・ケアード

出演
内野聖陽:ハムレット/フォーティンブラス
貫地谷しほり:オフィーリア/オズリック
北村有起哉:ホレイショー
加藤和樹:レアティーズ/役者たち
山口馬木也:ローゼングランツ/バナードー
今 拓哉;キルデンスターン/マーセラス
大重わたる・村岡哲至・内堀律子・深見由真
壤 晴彦:ポローニアス
村井國夫:墓堀,座長
浅野ゆう子:ガートルード
國村 隼:クローディアス/亡霊

【スタッフ】
美術:堀尾幸男
照明:中川隆一
音響:井上正弘
衣裳:宮本宣子
ヘアメイク:宮内宏明
振付:井手茂太
アクションムーブメント:山口馬木也
演出助手:田中麻衣子
舞台監督:今野健一 徳永泰子
音楽:藤原道山
演奏:長谷川道将

◆◇上演時間◇◆
第一幕 95分
休憩 15分
第二幕 90分
上演時間 3時間20分
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N響4月定期Cプロ/ 指揮:ファビオ・ルイージ/ブラームス 交響曲 第4番 ほか

2017-04-23 11:52:53 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 先週に続いてルイージさんのドイツ系プログラム。
 
 ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番のピアノ独奏はイタリアの出身のベアトリーチェ・ラナさん。まだ20代前半で、ラテン系の雰囲気むんむんの女性です。初めて聴く方でしたが、奏でる音楽は感情過多になることのなく、むしろ落ち着いた、自然体のものでした。特に、第2楽章の美しさが秀逸で、テンポを揺らし、ぐーっと聴衆を引きつける演奏は、むしろ老成さを感じるぐらい。それにより、第3楽章は軽快さが引き立ち、この曲をこれ以上なく堪能。アンコールのドビュッシーは超絶技巧で、先週は咳だらけだった聴衆席も、息を飲んで静まり返ってました。

 後半はブラームス交響曲第4番。ルイージさんは相変わらず、体を縦横無尽に使って、パッション一杯にN響と音楽を創ります。動きだけを追うととっても気持ちむき出しに見えますが、発せられる音楽はむしろとっても内省的で、精緻に計算されたものに聴こえました。とは言っても、決して無機質な演奏ではなく、歌うところは大らかに歌わせ、知と情のバランス感が絶妙。職人技ですね。

 当然、終演後は大拍手。先週も然りでしたが、ルイージさんは楽団員さんからも絶大な拍手を受けていて、リスペクトされているのが良くわかります。ホント、毎年、来てほしい方です。



第1859回 定期公演 Cプログラム
2017年4月22日(土) 開場 2:00pm  開演 3:00pm
NHKホール

ベートーヴェン/ピアノ協奏曲 第1番 ハ長調 作品15
ブラームス/交響曲 第4番 ホ短調 作品98

指揮:ファビオ・ルイージ 
ピアノ:ベアトリーチェ・ラナ

No.1859 Subscription (Program C)
Saturday, April 22, 2017  3:00p.m.  (doors open at 2:00p.m.)
NHK Hall  

Beethoven / Piano Concerto No.1 C major op.15
Brahms / Symphony No.4 e minor op.98
 
Fabio Luisi, conductor
Beatrice Rana, piano
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N響4月定期Aプロ/ 指揮:ファビオ・ルイージ/マーラー 交響曲 第1番 ニ長調「巨人」ほか

2017-04-18 08:00:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)
 エントリーした長野マラソンの日程と重なり、この公演は行けないはずでした。それが、急な事情でマラソンは不参加。まさに不幸中の幸い、けがの功名で、ロンドンでも何度か聴いたズナイダー君に加えて、ルイージが指揮するという超豪華メンバーの定期演奏会に出かけられることに。NHKホールもほぼ満員で、熱気むんむん。

 1曲目アイネムのカプリッチョの後に、登場したズナイダー君。相変わらず背が高い!3階席から見ると、指揮台の上に立ったルイージと変わらないぐらいの高さに見えます。ヴァイオリンがおもちゃのよう。曲目は、超有名曲メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ですが、この大柄な体躯からは想像できない様な繊細で優しい音色が発せられます。かと言って、線が細いということではなくて、型がしっかり出来上がった安定感が抜群。N響とのやりとりもしっかりで、至福の30分弱でした。

 休憩後のマーラーの交響曲第1番。これは、一昨年前にパーヴォさん・N響コンビで凄まじい演奏を体験したのがまだ記憶に新しいですが、それを上書きしかねない爆演でした。ルイージの指揮を生で見るのは、2014年1月以来3年ぶりなのですが、あんなに激しく動いたっけ。一見、学者風の方なのですが、指揮ざまは、髪を振り乱し、体を120%使ってオケに向かっていき、遠く後姿を見ている我々までその迫力に押されてドキドキしてしまいます。3階席まで届く強烈なオーラと言うか、推進力。「炎のコバケン」ならぬ「炎のルイージ」ここにありという姿でした(恥ずかしながら、当のコバケンさんの指揮と言うのは実演に接したことがないのですが・・・)。

 N響もルイージに食らいつきます。楽団員の集中力を強く感じる演奏は、マーラーの劇的な音楽と組み合わされ、聴いていて鳥肌立つこと数度。比較的、機能的な色合いが強かったパーヴォさんのマーラー1番よりも、より劇的で色合いが豊かな音楽に感じられました。

 曲が終わるや否や、会場からはブラボーと大拍手で凄い盛り上がり。私の周りも皆さん興奮状態でした。私も、爽快感と幸せ感一杯で大きな拍手をルイージとN響に送りました。


《少しずづ新緑が芽吹くNHKホール前》


《ズナイダー君のアンコール》


第1858回 定期公演 Aプログラム
2017年4月16日(日) 開場 2:00pm  開演 3:00pm
NHKホール

アイネム/カプリッチョ 作品2(1943)
メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
マーラー/交響曲 第1番 ニ長調「巨人」

指揮:ファビオ・ルイージ
ヴァイオリン:ニコライ・ズナイダー

No.1858 Subscription (Program A)
Sunday, April 16, 2017  3:00p.m.  (doors open at 2:00p.m.)
NHK Hall

Einem / Capriccio op.2 (1943)
Mendelssohn / Violin Concerto e minor op.64
Mahler / Symphony No.1 D major “Titan”

Fabio Luisi, conductor
Nikolaj Znaider, violin
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二宮 敦人 『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』 新潮社、2016

2017-04-15 08:00:00 | 



 藝大生の生態を描いたノンフィクション。理屈抜きに面白い。いわゆる芸術的才能を全く持ち合わせていない私にとっては、藝大生なんぞは神様なのだが、その神様たちをのぞき見させてもらっている気分で、一気に読み終えた。

 美校(美術学部)と音高(音楽学部)の対照ぶりが何とも楽しい。作品が時間を超えて残る「美術」と、作品(演奏)はその時限りで人が作品となる「音楽」という、取り組み対象の違いによって、芸術家の卵たちの考え方、行動、生活、服装、師弟関係などに違いが出てくる様などは、微笑ましく読み進めながら、なるほどと納得させられる。

 それにしても、こういう才能を持った人たちというのは羨ましい限りだ。日ごろ、せせこましい窮屈な社会で生活していると、無いものねだりも加わって、やたら輝いて見える。本書には、今の日本を覆う閉塞感のようなものを全く感じない。卒業生の半分くらいが行方不明になってしまうということだから、実社会でのサバイバルは藝大生と言えども厳しいところもあるのだろうが、芸術以外の他方面においても、こんな多様性があって、自由にのびのびと好きなことを追求するのが当たり前の社会になれれば、もっと日本も元気が出る気がする。


≪目次≫
1.不思議の国に密入国
2.才能だけでは入れない
3.好きと嫌い
4.天才たちの頭の中
5.時間は平等に流れない
6.音楽で一番大事なこと
7.大仏、ピアス、自由の女神
8.楽器の一部になる
9.人生が作品になる
10.先端と本質
11.古典は生きている
12.「ダメ人間製造大学」?
13.「藝祭」は爆発だ!
14.美と音の化学反応
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オペラ「オテロ」/ジュゼッペ・ヴェルディ @新国立オペラ

2017-04-11 08:00:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 久しぶりに公演初日に観劇。初日の華やかな雰囲気はいかにもオペラを見に来ましたというリッチな空気を吸えて、それだけで気分が高揚する。

 さて、「オテロ」であるが、ストーリーだけ追うと、「単純で嫉妬深い武将が家来に騙され、妻に浮気の疑いをかけて殺してしまい、真実を知り自殺する」という実も蓋もない話。だが、これがシェイクスピアの手にかかるとドキドキの心理劇になり、ヴェルディの手にかかると更に涙が加わる。いきなり大荒れの嵐で聴衆を飲み込んで、2時間半あまり気を抜くことを許さない音楽は、ヴェルディのオペラの中でも個人的に大好きな作品だ。

 今回のパフォーマンスは、全体通じて特に不満な点はないのだけど、圧倒的な感動にはもう一歩という、ややもどかしさが残った公演だった。一番印象的だったのは、ビットに入った東フィルと合唱団かな。指揮のカリニャーニと東フィルのコンビは、豪快でスケール感一杯だったり、甘く、悲しかったりで、硬軟織り交ぜて聴きどころ一杯に鳴らしてくれた。合唱もいつもながら安定して、美しい。

 歌手陣の方は、題名役のカルロ・ヴェントレは、迫力あるテノールで、この難役を最後までスケールダウンすることなく、聴かせてた。ただ難を言えば、やや単調ではなかったか。力づくという感じは、むしろオテロのキャラに合わせたのかも知れないけど、もうちょっと声に色が欲しいなあ。デスデモ―ナ役のファルノッキア、イアーゴ役のストヤノフも歌は悪くはないのだが、もう一つキャラ立ちが弱く、パンチ不足。皆さん、欧米のメジャーオペラハウスでの実績を積んでおられる方なので、私の見立て違いの可能性大ですが。

 舞台・照明が美しかった。キプロス島が舞台なのに、なぜかヴェネティア風の造りになっていたのは「何故?」だったけど、幻想的な雰囲気はこの場面に違和感なくマッチしていた。

 今年になって3か月ちょっとだが、その間に、「マクベス」の芝居、「リア王」の人形劇、そして「オセロ」のオペラと、シェイクスピアの4大悲劇と言われるものの3つを見た。そして、2週間後に「ハムレット」の芝居を見に行く予定。東京って、実はロンドンに次ぐシェイクスピア都市なのかもしれない。



2016/2017シーズン
オペラ「オテロ」/ジュゼッペ・ヴェルディ
Otello / Giuseppe VERDI
全4幕〈イタリア語上演/字幕付〉
オペラパレス

スタッフ
指 揮:パオロ・カリニャーニ
演 出:マリオ・マルトーネ
美 術:マルゲリータ・パッリ
衣 裳:ウルスラ・パーツァック
照 明:川口雅弘
再演演出:菊池裕美子
舞台監督:大澤 裕

キャスト
オテロ:カルロ・ヴェントレ
デズデーモナ:セレーナ・ファルノッキア
イアーゴ:ウラディーミル・ストヤノフ
ロドヴィーコ:妻屋秀和
カッシオ:与儀 巧
エミーリア:清水華澄
ロデリーゴ:村上敏明
モンターノ:伊藤貴之
伝 令:タン・ジュンボ

合唱指揮:三澤洋史
合 唱:新国立劇場合唱団
児童合唱:世田谷ジュニア合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

2016/2017 Season

Music by Giuseppe VERDI
Opera in 4 Acts
Sung in Italian with Japanese surtitles
OPERA HOUSE

Staff
Conductor Paolo CARIGNANI
Production Mario MARTONE
Set Design Margherita PALLI
Costume Design Ursula PATZAK
Lighting Design KAWAGUCHI Masahiro

Cast
Otello Carlo VENTRE
Desdemona Serena FARNOCCHIA
Iago Vladimir STOYANOV
Lodovico TSUMAYA Hidekazu
Cassio YOGI Takumi
Emilia SHIMIZU Kasumi
Roderigo MURAKAMI Toshiaki
Montano ITO Takayuki
A Herald TANG Jun Bo

Chorus New National Theatre Chorus
Children's Chorus Setagaya Junior Chorus
Orchestra Tokyo Philharmonic Orchestra
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金成 隆一 『ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く』 岩波新書、2017年

2017-04-08 08:00:00 | 



 昨年のアメリカ大統領選挙で当選したトランプ氏を支持した、主にラストベルト(オハイオ、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガンらのさびついた工業地帯)と呼ばれる地域の人々を丁寧に取材した良質の一冊。誰が何故、トランプ氏を支持したのかが、肌感覚で伝わってくる。

 私自身、トランプ大統領誕生の報には、信じられない気持ちで接したのであるが、本書を読んで、いかにアメリカの中間層が分断され、痛んでいるかがよくわかる。また、普段、私が接しているアメリカ情報が、いかにニューヨーク、ワシントン、シリコンバレーに偏っているかにも気づかされる。

 普通の人がまじめに働いて生活できることの、大事さにも再認識させられる。それは日本にとって対岸の火事ではない。幸い、奇跡的に低い失業率を長期にわたって維持できているため表層に現れてこないが(別の経済問題は抱えているものの)、どこでアメリカが辿った道を追いかけることになるかわからない。
 
 迷いなくおすすめできる一冊だ。


【目次】
はじめに
プロローグ――本命はトランプ
第1章 「前代未聞」が起きた労働者の街
第2章 オレも、やっぱりトランプにしたよ
第3章 地方で暮らす若者たち
第4章 没落するミドルクラス
第5章 「時代遅れ」と笑われて
第6章 もう一つの大旋風
第7章 アメリカン・ドリームの終焉
エピローグ―大陸の真ん中の勝利
おわりに
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東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.8 『ニーベルングの指環』 第3日 《神々の黄昏》

2017-04-03 08:00:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 序夜「ラインの黄金」は聴き逃したのですが、3年越しで遂にリング最終回「神々の黄昏」に辿り着きました。毎年、素晴らしい演奏を聴かせてくれるヤノフスキとN響のコンビ。直前の水曜日にシークフリート役のロバート・ディーン・スミスとブリュンヘルデ役のクリスティアーネ・リボールが交代するとの連絡をもらい一抹の不安はあったのの、今年も緊張感と集中力一杯のパフォーマンスで、リングの締めのくくりに相応しい至高の演奏会でした。

 人間国宝の職人さんのようなヤノフスキですが、今年もN響から筋肉質で引き締まった音を引き出してくれました。「神々の黄昏」は初めて聴くので、比較の対象がないのですが、煽りすぎることなく、かといって抑えているわけでもなく、直球のワーグナー・ワールドでした。更に、毎年恒例のライナー・キュッヒルがゲストコンサートマスターとして引っ張り、弦の迫力、厚みがぐっと増します。欧州演奏帰りのN響は、更にスケール感が出たような。管があれっと思わせるところはあったのですが、休憩を除いて4時間を超える長丁場を気合一杯の気持ちの入った演奏で、ちょっとした「?」は全く気になりませんでした。

 歌手陣では、ハーゲン役アイン・アンガーの地獄からの響きのような迫力あるバスが圧倒的。舞台を完全に支配してました。急遽、代役出演となった2人のうち、ブリュンヒルデのレベッカ・ティームは全く代役とは思えない堂々たる歌唱。逆に、ジークフリートのアーノルド・ベズイエンは、まだこの役に慣れていないのか、終始楽譜を見ながらの歌唱。声量において他の歌手陣に見劣りしたため、重唱場面ではちょっと苦しく、聴いているものもかなりハラハラするところがありました。ただ、ソロ歌唱が中心の第三幕は彼の美声がよく通ってました。それ以外の外国人歌手、日本人歌手、そして合唱陣も堂々たるレベルの高い歌唱で、こんな公演は、欧州でもなかなか聴けないレベルと言ってよいでしょう。

 ステージ奥には、恒例のスクリーンに、岩山、城、川の中など場面場面のイメージ映像が投射されます。賛否両論あるようですが、適度に物語の場面を想起させるツールとして、私は嫌いではありません。

 休憩入れて5時間10分ほど。開演前は、果たしてそんなに長時間、私自身耐えられるか不安があったのですが、長さはほとんど感じなかったです。それだけ、演奏に集中できていたのでしょう。こんな音楽を聴ける自分の幸運にひたすら感謝です。やっとリングを通しで全曲聞き終え、達成感一杯でホールを後にしました。






東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.8
『ニーベルングの指環』 第3日 《神々の黄昏》
(演奏会形式/字幕・映像付)

■日時・会場
2017.4.1 [土] 15:00開演(14:00開場)
東京文化会館 大ホール

■出演
指揮:マレク・ヤノフスキ
ジークフリート:アーノルド・ベズイエン
グンター:マルクス・アイヒェ
ハーゲン:アイン・アンガー
アルベリヒ:トマス・コニエチュニー
ブリュンヒルデ:レベッカ・ティーム
グートルーネ:レジーネ・ハングラー
ヴァルトラウテ:エリーザベト・クールマン
第1のノルン:金子美香
第2のノルン: 秋本悠希
第3のノルン:藤谷佳奈枝
ヴォークリンデ:小川里美
ヴェルグンデ:秋本悠希
フロースヒルデ:金子美香

管弦楽:NHK交響楽団(ゲストコンサートマスター:ライナー・キュッヒル)
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:トーマス・ラング、宮松重紀
音楽コーチ:トーマス・ラウスマン
映像:田尾下 哲

■曲目
ワーグナー:舞台祝祭劇 『ニーベルングの指環』 第3日 《神々の黄昏》
(全3幕/ドイツ語上演)[上演時間:約5時間30分(休憩2回含む)]


Tokyo-HARUSAI Wagner Series vol.8
"Der Ring des Nibelungen" Dritter Tag 'Götterdämmerung'
(Concert Style / With projected images and subtitles)

[ Date / Place ]
April 1 [Sat] at 15:00
Tokyo Bunka Kaikan Main Hall

[ Cast ]
Conductor: Marek Janowski
Siegfried: Arnold Bezuyen
Gunther: Markus Eiche
Hagen: Ain Anger
Alberich: Tomasz Konieczny
Brünnhilde: Rebecca Teem
Gutrune: Regine Hangler
Waltraute: Elisabeth Kulman
Erste Norn: Mika Kaneko
Zweite Norn: Yuki Akimoto
Dritte Norn: Kanae Fujitani
Woglinde: Satomi Ogawa
Wellgunde: Yuki Akimoto
Flosshilde: Mika Kaneko
Orchestra: NHK Symphony Orchestra, Tokyo
Chorus: Tokyo Opera Singers
Chorus Master: Thomas Lang, Shigeki Miyamatsu
Musical Preparation: Thomas Lausmann
Video: Tetsu Taoshita

[ Program ]
Wagner (1813-83): "Der Ring des Nibelungen" Dritter Tag 'Götterdämmerung'
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角井 亮一 『アマゾンと物流大戦争』 (NHK出版新書、2016)  

2017-04-01 08:30:00 | 


 ヤマトの宅急便が値上げや時間指定配達のサービス縮小など、昨今、物流業界のニュースでメディアが賑わっている。ネット通販の拡大や共働き夫婦の増など社会・経済環境の変化が、これまでの物流の世界を大きく変えているようだ。物流の世界には全く素人なので、何が起こっているのか知りたく手に取った。

 物流ビジネスに長く身を置いた専門家ならでの平易で分かりやすい解説で、非常に勉強になった一冊であった。物流がソフトウエア、インフラ構築・人の3大要素で成り立っていること、アマゾンのビジネスモデルがいかに破壊的であるかということ、楽天モデルのようなモール型モデルの強みと弱み、物流の世界に肝となるラストワンマイルの重要性と言ったところが、素人にも分かるように具体的に書かれている。深い洞察もさることながら、日本の物流業への愛情を感じ取れるのも気持ちが良い。

 読んでいて感じたのは、日本で物流と言えばヤマト運輸、佐川急便、日本郵便といった物流事業者が頭に浮かぶが、本書で書かれているのは主にアマゾンとそれに対抗する米国ウオールマート、日本の楽天、ヨドバシカメラと言った小売り業のネット通販ビジネスである。ネット通販が物流と切っても切れ離せない関係にあるためであろうが、物流事業そのものはやはり黒子という位置づけになるのだろうか。

 アマゾンの巨大さ、強さについて、まざまざと見せつけられる。デジタル化による規模の経済、徹底した顧客主義が、既存の常識、秩序を覆していく。この行きつく先はどこになるのだろうか。その便利さを享受している一人であるのだが、うすら怖さも感じる。


【目次】
序章 アマゾンが変える世界―経済の地殻変動が始まった
第1章 物流のターニングポイント―ネット通販と宅配便の異変
第2章 巨人アマゾンの正体―ウォルマートvsアマゾンの仁義なき戦い
第3章 物流大戦争の幕開け―アマゾンと競い合うための3つの戦略
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