最近、人事関連の業界で「(従業員)エンゲージメント」というタームをしばしば目にし、これからの組織に求められるのはこの部分なんだろうなという印象を持ったので、勉強目的で本書を手に取った。
本書によると、エンゲージメントとは、「組織と職務との関係性に基づく自主的貢献意欲」のことで、従業員の一人ひとりが企業の掲げる戦略・目標を適切に理解し、自発的に自分の力を発揮する貢献意欲と定義される。従業員満足度(ES)という概念もあるが、従業員満足度は給与、福利厚生。職場環境、人間関係等の「労働条件の良さ」「会社の居心地の良さ」に的があたりがちなのに対して、エンゲージメントは、熱意や活力など、個人の意欲が組織や仕事にどれだけ向いているかの指標であり、より能動的なコンセプトといえる。
別のWeb記事の情報だが、ギャラップ社調査によると、日本は「熱意あふれる社員」の割合が6%ほどで、調査した139カ国中132位と最下位クラスで、企業内に悪影響を及ぼす「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」の割合は24%、「やる気のない社員」は70%に達し、世界的に見ても「日本の従業員エンゲージメントは低い」と断言せざるを得ない結果だという。
自分が勤めている会社も、自分の主観的見方だと、従業員満足度は悪くない(=居心地は良い)が、エンゲージメントが高いかと問われると自信をもって答えられない。「終身雇用終焉」、「就業意識の世代変化・格差」、「人材の流動化」といった社会・労働環境の変化に加え、「イノベーション」「グローバル競争(サービス、人材等)」等の企業競争力の観点からも、エンゲージメントの重要性はますます高まるのだろう。
ベンチャー起業家とビジネススクールの講師の共著による本書は、そのエンゲージメントの「いろは」を知るのには有用だ。1~2時間程度で読める。ただ、正直言うと、このくらいの情報は、インターネットから幾らでも出てくるのが今の世の中。事例分析の深みや具体的アクションの実現のための障害等についての記載が無いと、単なるコンセプト紹介で終わってしまう。この手の話は、会社の歴史・文化・理念・ビジョン・ビジネスモデル・採用・人事等様々なことが相互にかかわってくるので、簡単な話ではないはずなのだが、簡単な紹介本になっているのは「書籍」としては残念だと感じた。
【目次】
はじめに
序章 チームや組織にとって、いちばん大切なもの
やる気のない社員が7割! 日本企業の驚くべき現実
みんなが新しい組織のあり方、新しい働き方を求めている
すべてのカギは「エンゲージメント」
こんな人に読んでほしい
第1章 エンゲージメントとは何か
スターバックスの従業員はなぜいきいきしているのか
エンゲージメントの定義
従業員満足度、モチベーション、ロイヤルティとの違い
第2章 なぜエンゲージメントが重要なのか
世界の成長企業が続々導入
正解のない時代だからこそエンゲージメントが重要
エンゲージメントは企業の業績に直結する
イノベーションにもエンゲージメントが不可欠
組織のかたちとエンゲージメントの関係
第3章 日本はエンゲージメント後進国?
あなたはどう回答する? ギャラップ調査の12の問い
なぜ日本企業ではエンゲージメントが低いのか
心に響くビジョンがない、ビジョンで人を選んでいない
環境・業務・人材と組織形態がマッチしていない
「働き方改革」で見落とされていること
ポテンシャルは高い日本企業…JAL再生の本質
第4章 エンゲージメントを高める9つのキードライバー
エンゲージメントを「見える化」する方法
エンゲージメントを左右する9つのキードライバー
何がエンゲージメントを変化させるのか
エンゲージメントは日々変化する
組織改善は自社で取り組むべき課題
第5章 実践! エンゲージメント経営
「チャージ休暇」「イエーイ」…意志・意図のある制度づくり(Sansan株式会社)
ワンマン経営から「ワクワクできる会社」へ(白鷺ニット工業株式会社)
100年企業、大規模な変革にチャレンジ(株式会社福井)
エンゲージメント向上のため先進企業は何をしているのか
第6章 エンゲージメントで組織はこう育つ――アトラエでの取り組み
エンゲージメント経営で組織はどう変わるのか
性善説に基づく経営―一人ひとりが主体的に働く
売上高も個人の生産性も順調に伸びてきた
働く人たちが自ら声を挙げ、組織改善に取り組もう
第7章 これからの組織とエンゲージメント
エンゲージメント向上こそ、重要かつ喫緊の「経営課題」
組織はオープン化し、マネジメントは「支援」になる
ムダや遊びを許容し、対話で気持ちをすり合わせる
AI時代だからこそ、心の領域がますます重要になる
楽しく働くことが成果を生み、よい関係が幸せな職場をつくる
邪悪になるな――これからのリーダーの条件
組織やチームを変える鍵――メンバー自身で始めよう
おわりに