その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

映画「サバイバル・ファミリー」 (監督:矢口史靖、2017年 )

2019-01-31 07:30:00 | 映画


 日本中の大停電で機能を失った東京を抜け出し、故郷の鹿児島を目指す家族のサバイバルを描くロードムービー。好きな俳優である小日向文世さんと深津絵里さんが主演ということで機内で軽い気持ちで選んだのですが、映像は淡々としていてリアリティ溢れるものなのですが、内容は重い映画でした。

 現代人の生活がいかに基本インフラ(水道、電気、ガス、通信など)に支えられていて、それを失った際のサバイバル能力や限界時の人間性について考えさせる内容です。自らの立ち位置、非常時の自分などについて考えるきっかけになる映画であることは間違いないのですが、それなりの覚悟をもって見ることをお勧めします。

 
スタッフ
監督:矢口史靖
原案:矢口史靖
脚本:矢口史靖
脚本協力:矢口純子
製作:石原隆

キャスト
小日向文世:鈴木義之
深津絵里:鈴木光恵
泉澤祐希:鈴木賢司
葵わかな:鈴木結衣
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N響 1月定期Aプロ/ 指揮:トゥガン・ソヒエフ/ ベルリオーズ 交響曲「イタリアのハロルド」 他

2019-01-28 07:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 楽しみにしていたソヒエフさん指揮の定演。Bプロの「シェエラザード」は絶賛ツイートの嵐だったので、行かれた方が羨ましい限りでした。今日の演目は、前半2曲はロシアもの、後半はフランスものですが、いずれも私には初めての楽曲です。

 1曲目の「バーバ・ヤガー」とはロシア民謡に出てくる魔女とのこと。曲自体は3分ほどの短いものですが、音が雄弁でキラキラ輝いていました。

 2曲目のハーブ協奏曲はハーブ独奏のグザヴィエ・ドゥ・メストレさん(イケメンです)の変幻自在の音色に痺れました。音楽自体は初めてでもすんなり入っていける聴きやすい音楽です。繊細で優しいいかにもハーブ的な音から、ハープの音とは思えない様な激しい音までを弾き分ける技に感服です。特に、アンコールのフアリャのスペイン舞曲での力強い音色にはハープのイメージを変えるほどで驚かされました。

 後半のベルリオーズ作曲の交響曲「イタリアのハロルド」も初めて。長編詩の音楽版であるからでしょうか、抒情的で物語が浮かぶような演奏でした。ヴィオラの独唱はN響の首席奏者の佐々木さん。実に、深みのある音で聴き入ってしまいます。佐々木さんのヴィオラと甲乙つけがたくソヒエフさんの棒捌きも印象的でした。繊細かつダイナミックにオーケストラをまとめ、密度濃く、重層的に音を引き出してくれます。私にはN響との共演を聴くのは4回目ですが、毎回全く外れなく高い感動を与えてくれるので、両者の関係が今後とも長いものになることを願っています。一度是非、演奏会形式でも良いのでオペラを演目に取り上げて欲しいですね。

 意外だったのは、ソヒエフさんの登壇にしては観客席が空いていたことかな。私の並びは11席中3人しか座っていませんでした。「ハロルド」終了後のブラボーや拍手は盛大なものでしたか、私の周りはやや熱量低く残念。今回の演奏会レベルなら、少しでも多くの聴衆の皆さんと一緒に、緊張感もって聞き、終演後は皆で熱く拍手したいからね。


(アンコール曲)


(綺麗な青空でした)



第1905回 定期公演 Aプログラム
2019年1月27日(日) 開場 2:00pm 開演 3:00pm
NHKホール

リャードフ/交響詩「バーバ・ヤガー」作品56
グリエール/ハープ協奏曲 変ホ長調 作品74
ベルリオーズ/交響曲「イタリアのハロルド」作品16*

指揮:トゥガン・ソヒエフ
ハープ:グザヴィエ・ドゥ・メストレ
ヴィオラ*:佐々木 亮

No.1905 Subscription (Program A)
Sunday, January 27, 2019 3:00p.m. (doors open at 2:00p.m.)
NHK Hall

Liadov / “Baba-Yaga”, tableau musical d’après un conte populaire russe op.56
Glière / Harp Concerto E-flat major op.74
Berlioz / “Harold en Italie”, sym. with solo vla. op.16*

Tugan Sokhiev, conductor
Xavier de Maistre, harp
Ryo Sasaki, viola*
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論点良いが議論が弱い・・・堤未果『日本が売られる』(幻冬舎、2018)

2019-01-26 08:15:58 | 



 芸風が一向に変わらない堤未果さんの著作。毎回「次はいいや」と思いつつ、新刊が出ると気になって読んでしまう不思議な著作家。今回は新刊早々図書館で予約したのだが、廻って来るのに半年かかった。

 論点は良い。「水道」・「土地」・「タネ」・「森」・「海」などの日本の資産や「労働者」・「学校」・「医療」・「老後」などのサービスなど、身近で生活に直結するインフラや資源が、規制緩和や民営化により、これまでのシステムや仕組みが崩れ、安全・安心が脅かされている現状をレポートする。「タネ」(種子法)の改正が日本の食の安全保障に与える影響などは初めて知った。

 一方で、相変わらず論点に対する切込みが弱い。今回はこれまでの著作よりも多くのネタ(論点)を詰め込んでいるので、更に内容が薄まっている。調査・分析が十分でないが故に、修飾語や根拠のない断定の文章で読者を煽る方に重点が行き、ますます内容の貧弱さが浮かび上がる悪循環に陥っている。

 論点に対する議論としては、サーベイ等の定量データや、自身のフィールドワーク・専門家意見・過去文献等による定性データによる自説のサポートは必要最低条件。加えて、反対意見も付してバランス取って、論考するのがジャーナリスティックな文章と言えども作法だと思うのだが、本書は自分の都合のいいことだけを並べてあるので説得力が弱い。

 例えば、悪質だと思ったのは、p57において国別の「自閉症、広汎性発達障害の発症率」のグラフと「単位面積当たりの農薬使用量」のグラフを並べて、あたかも自閉症の発症と農薬の使用量に因果関係があるように思わせるように誘導していることだ。2つの調査は全く別物であり相関関係すら分からない。少なくとも「因果関係は証明されてないが、こういう2つの別の調査をデータを比較すると相関関係が推定される」ぐらいの言及がされるのが、責任あるジャーナリストとしての仕事だと思う。本書にはグラフに関するコメント・解説は全くなく、正直、著者の良心を疑う。

 それぞれのテーマに内在する現状の問題点や課題についても踏み込むことなく、その対策(規制緩和、民営化など)だけを標的にして攻撃する手法も、読んでいて欲求不満が残る。その対案、解決策も、欧米の市民活動を紹介する程度なので、とても説得力のあるものにはなってない。テーマは良いだけに、本当にもったいない。

 今回は本当に読み通すのが苦痛だったが、何とか通読。「次はない」かな?

※過去のエントリーですが、この記事はとってもアクセス頂いています。
「評価が難しい・・・堤 未果 『沈みゆく大国アメリカ』 (集英社新書)」



〈目次〉
まえがき いつの間にかどんどん売られる日本

第1章 日本人の資産が売られる

1 水が売られる(水道民営化)
2 土が売られる(汚染土の再利用)
3 タネが売られる(種子法廃止)
4 ミツバチの命が売られる(農薬規制緩和)
5 食の選択肢が売られる(遺伝子組み換え食品表示消滅)
6 牛乳が売られる(生乳流通自由化)
7 農地が売られる(農地法改正)
8 森が売られる(森林経営管理法)
9 海が売られる(漁協法改正)
10 築地が売られる(卸売市場解体)

第2章 日本人の未来が売られる

1労働者が売られる(高度プロフェッショナル制度)
2日本人の仕事が売られる(改正国家戦略特区法)
3ブラック企業対策が売られる(労働監督部門民営化)
4ギャンブルが売られる(IR法)
5学校が売られる(公設民営学校解禁)
6医療が売られる(医療タダ乗り)
7老後が売られる(介護の投資商品化)
8個人情報が売られる(マイナンバー包囲網拡大)

第3章 売られたものは取り返せ

1 お笑い芸人の草の根政治革命 〜イタリア
2 92歳の首相が消費税廃止〜マレーシア
3 有機農業大国となり、ハゲタカたちから国を守る 〜ロシア
4 巨大水企業のふるさとで水道公営化を叫ぶ〜フランス
5 考える消費者と協同組合の最強タッグ 〜スイス
6 もう止められない! 子供を農薬から守る母親たち 〜アメリカ

あとがき 売らせない日本
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新居佳英, 松林博文 『組織の未来はエンゲージメントで決まる』(英治出版、 2018)

2019-01-23 07:30:00 | 


 最近、人事関連の業界で「(従業員)エンゲージメント」というタームをしばしば目にし、これからの組織に求められるのはこの部分なんだろうなという印象を持ったので、勉強目的で本書を手に取った。

 本書によると、エンゲージメントとは、「組織と職務との関係性に基づく自主的貢献意欲」のことで、従業員の一人ひとりが企業の掲げる戦略・目標を適切に理解し、自発的に自分の力を発揮する貢献意欲と定義される。従業員満足度(ES)という概念もあるが、従業員満足度は給与、福利厚生。職場環境、人間関係等の「労働条件の良さ」「会社の居心地の良さ」に的があたりがちなのに対して、エンゲージメントは、熱意や活力など、個人の意欲が組織や仕事にどれだけ向いているかの指標であり、より能動的なコンセプトといえる。

 別のWeb記事の情報だが、ギャラップ社調査によると、日本は「熱意あふれる社員」の割合が6%ほどで、調査した139カ国中132位と最下位クラスで、企業内に悪影響を及ぼす「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」の割合は24%、「やる気のない社員」は70%に達し、世界的に見ても「日本の従業員エンゲージメントは低い」と断言せざるを得ない結果だという。

 自分が勤めている会社も、自分の主観的見方だと、従業員満足度は悪くない(=居心地は良い)が、エンゲージメントが高いかと問われると自信をもって答えられない。「終身雇用終焉」、「就業意識の世代変化・格差」、「人材の流動化」といった社会・労働環境の変化に加え、「イノベーション」「グローバル競争(サービス、人材等)」等の企業競争力の観点からも、エンゲージメントの重要性はますます高まるのだろう。

 ベンチャー起業家とビジネススクールの講師の共著による本書は、そのエンゲージメントの「いろは」を知るのには有用だ。1~2時間程度で読める。ただ、正直言うと、このくらいの情報は、インターネットから幾らでも出てくるのが今の世の中。事例分析の深みや具体的アクションの実現のための障害等についての記載が無いと、単なるコンセプト紹介で終わってしまう。この手の話は、会社の歴史・文化・理念・ビジョン・ビジネスモデル・採用・人事等様々なことが相互にかかわってくるので、簡単な話ではないはずなのだが、簡単な紹介本になっているのは「書籍」としては残念だと感じた。



【目次】
はじめに

序章 チームや組織にとって、いちばん大切なもの
やる気のない社員が7割! 日本企業の驚くべき現実
みんなが新しい組織のあり方、新しい働き方を求めている
すべてのカギは「エンゲージメント」
こんな人に読んでほしい

第1章 エンゲージメントとは何か
スターバックスの従業員はなぜいきいきしているのか
エンゲージメントの定義
従業員満足度、モチベーション、ロイヤルティとの違い

第2章 なぜエンゲージメントが重要なのか
世界の成長企業が続々導入
正解のない時代だからこそエンゲージメントが重要
エンゲージメントは企業の業績に直結する
イノベーションにもエンゲージメントが不可欠
組織のかたちとエンゲージメントの関係

第3章 日本はエンゲージメント後進国?
あなたはどう回答する? ギャラップ調査の12の問い
なぜ日本企業ではエンゲージメントが低いのか
心に響くビジョンがない、ビジョンで人を選んでいない
環境・業務・人材と組織形態がマッチしていない
「働き方改革」で見落とされていること
ポテンシャルは高い日本企業…JAL再生の本質

第4章 エンゲージメントを高める9つのキードライバー
エンゲージメントを「見える化」する方法
エンゲージメントを左右する9つのキードライバー
何がエンゲージメントを変化させるのか
エンゲージメントは日々変化する
組織改善は自社で取り組むべき課題

第5章 実践! エンゲージメント経営
「チャージ休暇」「イエーイ」…意志・意図のある制度づくり(Sansan株式会社)
ワンマン経営から「ワクワクできる会社」へ(白鷺ニット工業株式会社)
100年企業、大規模な変革にチャレンジ(株式会社福井)
エンゲージメント向上のため先進企業は何をしているのか

第6章 エンゲージメントで組織はこう育つ――アトラエでの取り組み
エンゲージメント経営で組織はどう変わるのか
性善説に基づく経営―一人ひとりが主体的に働く
売上高も個人の生産性も順調に伸びてきた
働く人たちが自ら声を挙げ、組織改善に取り組もう

第7章 これからの組織とエンゲージメント
エンゲージメント向上こそ、重要かつ喫緊の「経営課題」
組織はオープン化し、マネジメントは「支援」になる
ムダや遊びを許容し、対話で気持ちをすり合わせる
AI時代だからこそ、心の領域がますます重要になる
楽しく働くことが成果を生み、よい関係が幸せな職場をつくる
邪悪になるな――これからのリーダーの条件
組織やチームを変える鍵――メンバー自身で始めよう

おわりに
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国立トレチャコフ美術館所蔵 ロマンティック・ロシア展 @文化村 ザ・ミュージアム

2019-01-20 07:30:00 | 美術展(2012.8~)


 幸運にもチケットを譲り受けたので、文化村ザ・ミュージアムで開催中のロシア展に行ってきました。国立トレチャコフ美術館から、19世紀後半から20世紀にかけてのロシア絵画が展示してあります。

 お恥ずかしがら、ロシアの画家は全く知らず、どの絵も初見(のはず)になります。ただ、今回はそれが私には吉と出ました。先入観が働きがちな有名画家や既知の絵画を見るのとは異なり、虚心に絵に向き合って対話することができ、期待以上に堪能できた美術展となりました。

 ポスターにも取り上げられているイワン・クラムスコイの「忘れえぬ女」も来日は8度目だそうですが、こちらも私には初見。馬車に乗ったロシアの上流階級の女性が、上質のコートに身を包み、車の上から見下ろすような視線が、気品と気位にあふれています。解説によると、幌を外したところに、この女性の革新性が表れているとのこと。

 私としては、「忘れえぬ女」以上に、同画家による「月明かりの夜」の幻想的な絵が印象的でした。静寂な月夜の中で、池端で思いに耽るように座る一人の少女。神話や物語の一場面のような題材と画風はラファエル前派的で、ジョン・ウィリアム・ウォーターハウスを思い起こさせます。絵の前で、しばし足が釘付けになりました。また、その隣にあったニコライ・カサートキン「柵によりかかる少女」の(恋人を待つ)素朴で可憐な表情にもひかれます。


イワン・クラムスコイ 《月明かりの夜》1880年 油彩・キャンヴァス © The State Tretyakov Gallery

 前半はロシアの四季を描いた風景画でした。素朴でむき出しの自然はロシアならではのもの。バーチャルロシア旅行をした気分に浸れます。風景画以外にも、都会や郊外での暮らしぶりが描かれた絵もありロシアを体感。


イワン・シーシキン 《正午、モスクワ郊外》1869年 油彩・キャンヴァス © The State Tretyakov Gallery

 休日でもあり会場内はそれなりに混みあってましたが、鑑賞の支障になるほどではなく、コンパクトな会場は量に圧倒されることなく、マイペースで余裕をもって見られます。1月27日までなので、興味がある方は是非お出かけください。

《構成》
第1章 ロマンティックな風景
1‐1 春
1‐2 夏
1‐3 秋
1‐4 冬
第2章 ロシアの人々
2‐1 ロシアの魂
2‐2 女性たち
第3章 子供の世界
第4章 都市と生活
 4‐1都市の風景
 4‐2日常と祝祭
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ムンク展―共鳴する魂の叫び(Munch: A Retrospective) @東京都美術館

2019-01-16 07:30:00 | 美術展(2012.8~)


 ムンク展に行ってきた。会期終了も迫ってきたので、隙間時間を縫って平日午後に行ったのだが、入場待ちこそなかったものの会場内はすごい人出だった。

 正直、落ち着いて一枚一枚をゆっくり鑑賞というわけにはとてもいかない状況だった。でも、自画像、家族の絵などを見ることで、今まで「叫び」の印象が強すぎたムンクに、かなり近づけた気分になれたのは収穫だ。ムンクの絵をこんなにまとめて観たのは初めてだし、まとめてみることで感じたのは、今までは何にも知らなかったんだなということ。チューリッヒ美術館やハンブルクの美術館でいくつか観た記憶はあるのだが、数を見ることの威力は凄いと思った。

 全体的に暗めで内向的な作風は、見るものを明るい気分にさせてくれるものではない。ゴッホやナビ派を思い起こさせる大胆で、力強いタッチが印象的な絵が多い。生で初めて見た「叫び」は、有名なだけあって、色使い、構図、描写法、それぞれの独特の画風が強烈だ。絵の奥に描かれた二人の紳士は、少年時代に読んだ探偵小説を思い起こさせるような不気味さを持ち、いつか夢で見たことのあるような心象風景が描かれている。
 
 会期は20日まで。混雑覚悟でも、見に行く価値はある回顧展であると思う。


《構成》
第1章 ムンクとは誰か?
第2章 家族─ 死と喪失
第3章 夏の夜 ─ 孤独と憂鬱
第4章 魂の叫び ─ 不安と絶望
第5章 接吻、吸血鬼、マドンナ
第6章 男と女 ─ 愛、嫉妬、別れ
第7章 肖像画
第8章 躍動する風景
第9章 画家の晩年

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期待以上のお年玉・・・N響定期Cプロ ステファヌ・ドゥネーヴ指揮/レスピーギ 交響詩「ローマの松」ほか

2019-01-14 07:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

《冬枯れのNHKホール前》

今年のN響初めの演奏会はステファヌ・ドゥネーヴ指揮による19世紀後半から20世紀前半のフランス・イタリア音楽のプログラム。指揮者、独奏者、作曲家いずれもフランスに縁がある方々が中心となってます。ドゥネーヴさんは数年前にN響と共演されているようですが、私は初めて。今回、期待を大きく上回る素晴らしい内容でした。

4曲どれも良かったのですが、前半のゴーティエ・カプソンさんのチェロ独奏によるサン・サーンスのチェロ協奏曲 第1番と後半のレスピーギの交響詩「ローマの松」が特に印象的でした。サン・サーンスのチェロ協奏曲を聴くのは初めてでしたが、とても耳に馴染みやすい音楽で、違和感なく投入できます。カプソンのチェロの音が透明感あふれる上に揺るぎない強さを持った美音で痺れまくり。N響もカプソンとしっかり息があって、バランスも素晴らしい。20分程度の短めの協奏曲ですが、たっぷり楽しみました。
サプライズはアンコール。指揮のドゥネーヴが舞台後方に出してあったピアノに座り、カプソン・ドゥネーヴ共演によるサン・サーンス「動物の謝肉祭」から「白鳥」。曲の陰影、美しさが格別で、聴衆は固唾をのんで聞き入ります。当然ながら、終演後は割れんばかりの大拍手でした。新年早々のお年玉という感じです。

後半の「ローマの松」は、ドゥネーヴの柔らかいが崩れない音楽作りとN響の個人技とアンサンブル力が絶妙に組み合わった名演でした。面白かったのは第3楽章で、楽譜の指示通り、蓄音機によるナイチンゲールのさえずりが使われたこと。舞台の奥に、年代物の(昔のビクターのロゴマークのような)蓄音器が置かれ、それを操作して鳥のさえずりが再生されました。それが、N響の演奏ともぴったりマッチして、全く違和感なく古代ローマの世界を形成しており、感心、感服。最後は、観客席横のオルガンや撮影用のバルコニー席に金管陣の一部が登場し、ホール全体にサラウンド・ステレオ状態で、スケール感満載の音楽を聞かせてくれました。ドゥネーヴの音楽は色彩感豊かで、眼前に明るいイタリアの陽光が溢れるように浮かぶようです。新春の幕開けに相応しい演目と演奏でした。

期待以上のお年玉をもらった子供のようなウキウキ、にんまりの気分でホールを後にしました。今年も良い感じでスタートです。





第1903回 定期公演 Cプログラム
2019年1月12日(土)3:00pm
NHKホール

ルーセル/バレエ組曲「バッカスとアリアーヌ」第2番
サン・サーンス/チェロ協奏曲 第1番 イ短調 作品33
ベルリオーズ/序曲「ローマの謝肉祭」作品9
レスピーギ/交響詩「ローマの松」

指揮:ステファヌ・ドゥネーヴ
チェロ:ゴーティエ・カプソン


No.1903 Subscription (Program C)
Saturday, January 12, 2019
3:00p.m.
NHK Hall

Roussel / “Bacchus et Ariane”, ballet suite No.2
Saint-Saëns / Cello Concerto No.1 a minor op.33
Berlioz / “Le carnaval romain”, overture op.9
Respighi / “Pini di Roma”, sym. poem

Stéphane Denève, conductor
Gautier Capuçon, cello
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間違いの悲劇!・・・大野和士/都響/ブルックナー交響曲第6番

2019-01-12 07:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 今まで時間間違いの経験はあったけど、ホール違いの間違いは初めて。駆け足で18:50に上野に到着したら、文化会館は閑古鳥。一瞬何が起こったのか分からず、まさか今日に限って時間違ったっけ?と思いチケットを見てみたら、何と会場はサントリーホール。あまりの自分のアホ加減に頭が真っ白になった。踵を返して、サントリーホールに向かうが当然開始には間に合うわけもなく、到着は19:25頃。意外と上野からサントリーホールって時間かかるんですよね。

 悔しかったのは、自分的にはコパチンスカヤさんによるシェーンベルクのバイオリン協奏曲がこの日のメインだったこと。コパチンスカヤさんは、以前、N響定演で聴き、チャーミングで溌溂とした演奏ぶりがとっても印象的だった。その記憶が残る中、今回は前列2列目の被りつき席を偶然ゲット。期待感が大きかっただけに、あまりにもショックすぎる。ホール内のバーのモニタ越しに聴く現代曲のつまらないことといったら・・・。こういう曲はやっぱり現場で見て聴かないとね。

 曲が終わったら、会場の係の人が「アンコール(があれば)お聞きいただけますよ」と言うことでホールに入れてくれた。白いドレスに身を包んで、難曲を弾き終わった安心感と割れんばかりの歓声に対する嬉しさが混じった演奏家の素敵な笑顔が見えた。これだけの拍手なんだから、どんなアンコールをやってくれるのだろうと期待に胸を膨らませたが、最後はバイオリンすら持たずに舞台袖から登場。悔しさが更につのる数分間だった(涙)。

 休憩後のブルックナー交響曲6番は全く初めて聴く曲。何の予習もしてなかったので、音を追いかけるだけで精一杯で、全体の構成や構造は殆ど分からなかったが、第2楽章の美しさには胸を打たれた。ベートーベンの第9のの第三楽章に匹敵するような天上の音楽。うっとりと酔いしれる。そして、躍動感あふれる第三楽章も力強く、クリアで良い。前列2列目なので、管は遠くから聞こえてくるが、手が届きそうなところにいるバイオリン陣の音は直撃する。力強さと美しさが並立した弦パートの演奏に胸が震えた。

 ブルックナーが良かったから多少は持ち直したものの、聞き逃した残念さと、こんな基本事項を間違えるような自分の情けなさ、入り交じった複雑な思いを噛みしめたまま溜池を後にした。


日時:2019年1月10日(木)19:00開演(18:20開場)
場所:サントリーホールホール

指揮/大野和士
ヴァイオリン/パトリツィア・コパチンスカヤ

シェーンベルク:ヴァイオリン協奏曲 op.36
ブルックナー:交響曲第6番 イ長調 WAB106(ノヴァーク版)

Date: Thu. 10. January 2019, 19:00 (18:20)
Venue: Suntory Hallseat

Artists
ONO Kazushi, Conductor
Patricia KOPATCHINSKAJA, Violin

Program
Schönberg: Violin Concerto, op.36
Bruckner: Symphony No.6 in A major, WAB106 (Nowak edition)

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佐藤航陽 『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』 幻冬舎、2017年

2019-01-09 07:30:00 | 


 起業家である筆者が自らの学習、経験を通じたお金や人類の未来に対する知見・考察を平易な言葉で共有した一冊。「お金2.0」の2.0とは、「近代に作られた金融の枠組み自体を無視して、全くゼロベースから再構築するという点で、従来の枠組みの中でITを使った効率化を目指すFintech1.0と区別する考え」のこととしている。

 ビットコイン等の仮想通貨に関する批判的な検討はされていないこと、もう少し深堀してほしいなと思う点も無くはないが、考察の射程は広く、筆者自分自身の言葉で語ろうという姿勢が見えて好感が持てた。

 面白いなと思ったのは、今後、従来の「資本主義」から「可視化された「資本」ではなく、お金などの資本に変換される前の「価値」を中心とした世界に変わっていくことが予想され」その流れを「価値主義」と呼び、新しい社会の見方を示していることだ。筆者によると、ここで言う価値とは、「経済的には人間の欲望を満たす実世界での実用性(使用価値・利用価値)を指す場合や、倫理的・精神的な観点から新・善・美・愛など人間社会の存続にプラスになるような概念を指す場合もある」(PP163‐164)。価値主義は近年の「お金や経済の民主化」と「資本にならない価値で回る経済の実現」が混ざり合わさって生まれてきている現象という。定性的な概念なので、まだ自分の理解度にも自信がないが、テクノロジーが生む自律分散型の経済圏が生まれ、新しいパラダイムに向かっているということは、実感としても分かる。

 お金だけでなく筆者の考察はテクノロジーを身体にまで取り込んだ人類の未来まで及ぶ。私自身は、筆者の楽観的な見方には懐疑的なところも多分にあるが、頭の体操としても、適宜読み返してみたい一冊である。(アマゾンには466件のカスタマーレビューという信じられない様な数のレビューがあり、その殆どがジャンク感想だったのは気になる)


【目次】
第1章 お金の正体(3つのベクトルが未来の方向性を決める
急激に変わるお金と経済のあり方 ほか)
第2章 テクノロジーが変えるお金のカタチ(テクノロジーの変化は点ではなく線で捉える
今起きているのはあらゆる仕組みの「分散化」 ほか)
第3章 価値主義とは何か?(限界を露呈し始めた資本主義
資産経済の肥大化と金余り現象 ほか)
第4章 「お金」から解放される生き方(人生の意義を持つことが「価値」になった世代
若者よ、内面的な「価値」に着目せよ ほか)
第5章 加速する人類の進化(お金にならなかったテクノロジーに膨大なお金が流れ込む
電子国家の誕生:エストニア ほか)
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こりゃあ巨匠と呼ばれるわけだ~: ルーベンス展 @国立西洋美術館

2019-01-05 07:30:00 | 美術展(2012.8~)


ルーベンスというと、ずいぶん前に訪れたルーブル美術館の「ルーベンスの間」(ルーベンスの大作を一堂に集めた展示室)が思い出され、大げさで仰々しい作風に苦手意識があったのですが、ルーベンスを集めた企画展などはそうあるわけではないので、頑張って国立西洋美術館に行ってきました。

ルーベンスや影響を受けた画家の作品など70数点を集めた特別展は、期待以上に質の高いものでした。ルーベンスの作風が変わるわけはないので、私の趣向が変わったのでしょうか、以前感じたような苦手意識は全く感じることは全くなく楽しめました。

宗教画や神話をテーマに扱った大作の迫力が特に素晴らしいですね。人物がそのまま飛び出してきそうな臨場感、描かれた場面だけでなくその前後も含めて物語が脳内に展開されるようなドラマティックさ、ギリシャ・ローマの彫刻を思わせる男女の肉体美など、巨匠感丸出しの大作がいくつも展示してあります。

私的には、「セネカの死 」、「マリアの法悦」、「マルスとレア・シルウィア」、「エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち」(上記、パネルの絵)などに目が奪われました。作品によっては、エロチックこの上ない作品もありますね。先日観たフェルメールより年齢は70歳ちょっと年上になりますが、題材と言い、画風といい、同じバロック美術として括られるのは随分と違和感があります。

作品はルシュタイスタイン公国をはじめ、欧米の美術館から幅広く収集されています。週末の日中でしたが、込み具合も許容範囲で、じっくり鑑賞することができました。自信をもってお勧めできる美術展です。

《構成》
I ルーベンスの世界|Rubens’s Personal World
II 過去の伝統|The Traditions of the Past
III 英雄としての聖人たち ― 宗教画とバロック|Saints as Heroes: Sacred Painting and the Baroque
IV 神話の力 1 ― ヘラクレスと男性ヌード|The Power of Myth 1: Hercules and the Male Nude
V 神話の力 2 ― ヴィーナスと女性ヌード|The Power of Myth 2: Venus and the Female Nude
VI 絵筆の熱狂|A Furious Brush
VII 寓意と寓意的説話|Allegory and Allegorical Narration
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いとうせいこう 『想像ラジオ』 河出書房新社 2013年

2019-01-03 07:30:00 | 


 いとうせいこう氏とみうらじゅん氏の『見仏記』シリーズを読んで、物書きであるいとう氏がどんな小説を書くのかに興味が湧いて、本書を読んでみた。私自身はあまり認識してなかったが、本作は東北大震災を扱った小説としてずいぶん話題になった本であるらしい。
 
 繊細で優しいトーンが全編を通じて流れつつ、震災被害者の追悼のあり方という直球のテーマを投げかける本作品は、ユーモアも持ちながら、まじめであり、かつ哀しい。ラジオというメディアを使って、しかもリスナーの想像の上に成り立つという前提、虚構は、読む者の想像力を掻き立てる。また、当時日本におらず、震災関係者もいなかった私にとっては、本読書が震災被害者の思いを自分なりに受け止める訓練過程でもあった。

 全編を通じて様々な音楽を主人公であるDJが紹介し、流れるのは、村上春樹の小説にも似たところがある。知っている曲もあれば、知らないものもあり、一度じっくりとそれぞれの音楽を味わってみたいものだ。

 読んでよかったと思わせてくれる一冊だった。
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