その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

バッハ・コレギウム・ジャパン ヘンデル《水上の音楽》ほか @調布音楽祭

2016-06-29 21:00:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


調布音楽祭のフィナーレを飾るバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)の演奏会に足を運んだ。
プログラムはバッハの管弦楽組曲第3番とヘンデルの「水上の音楽」全曲。BCJならではの選曲だ。

 管弦楽組曲第3番は、3年前にこの音楽祭でBCJが組曲全曲を演奏した時にも聴いている。久しぶりに聴く管弦楽組曲は、自分がイメージしていた以上に活発で華やかな演奏に魅せられた。もともとは舞曲だったというのもうなずける。2階のホール最深部に座っていたのだが、音も十分に届いた。

 恥ずかしながら、ヘンデルの「水上の音楽」を生で聴くのは全くの初めて。英国ジョージ1世のテムズ川での舟遊びの時のために作曲され、演奏されたとされているが、鈴木雅明氏のプレトークによると「真偽のほどは怪しい」らしい。今回は、今世紀に入って発見された新史料をもとに、3つの組曲として演奏されることが多かったこの楽曲を、新しく組み直して通しで演奏された。従来型とは第1組曲(10曲目)までは同じだが、第2組曲、第3組曲に相当する部分では、かなり演奏順は入れ替わっている。

 全編を通じてこの音楽を聴くのが初めての私には、組直し前と後の違いによる曲風の違いはわからなかったが、典雅で華やかなこの音楽を十二分に楽んだ。2台のチェンバロや古楽器のホルンやトランペットなど古楽ならでは響きが何とも心地よい。王族の一員に加わったようなリッチな気分を味わった。バロック!って感じ。

 終演後、本音楽祭のエグゼクティブ・プロデューサーでBCJでチェンバロも弾かれた鈴木優人氏から「来年も6月中旬にやるのでカレンダーあけといて」とのメッセージがあった。その場で手帳にマークしたが、中旬っていったい何時のことか?(10・11日?それとも16・18日?)。一応、2つの週末を抑えておいた。

 確か、昨年も書いたと思うが、、BCJの良さを最大限味わうために、来年は是非、声楽が入る曲もプログラムに加えて欲しい。

 夕暮れの調布の空を眺め、「水上の音楽」のサビ部分を口ずさみながら、帰路につく。来年も期待してます!



バッハ・コレギウム・ジャパン《水上の音楽》

日時
6月26日(日)17:00〜

場所
グリーンホール 大ホール

出演
鈴木雅明(指揮)
バッハ・コレギウム・ジャパン(管弦楽)

曲目
J.S.バッハ:管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV 1068
ヘンデル:《水上の音楽》新発見資料による22楽章単一組曲版


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生誕 260 年 モーツァルト・ガラ・コンサート 〜再現1783年ウィーン・ブルク劇場公演〜 @調布音楽祭

2016-06-26 20:00:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 調布音楽祭の公演モーツァルト・ガラ・コンサートに足を運んだ。

 プログラムが面白い(演目は本ページ末を参照ください)。1783年にモーツァルトがウイーンのブルク劇場で行ったコンサートのプログラムを再現しているという。指揮の鈴木優人氏(「アマデウス・マーツァルトです」と自己紹介し、笑いを取ってた)によると、アマデウス・モーツァルトが父レオパルト・モーツァルトに送った手紙から明らかになったとのこと。交響曲あり、協奏曲(2曲)あり、ピアノ独奏あり、オペラのアリア(4曲)ありのバライティに富んだ、こんなプログラムが普段のコンサートにもあれば良いのにと思わせる魅力的な内容だ(1回のコンサートではとても予算が合わないのだろうが・・・。)。

 その分、時間も長い。休憩2回を含んで、総時間3時間15分。でも、全てモーツァルトの音楽ということもあってか、全く重くないし、もたれることもない。むしろ、目一杯モーツァルトの音楽を楽しませてもらった。

 演奏や歌唱のレベルもとっても高いものだった。アンサンブル・ジェネシスという管弦楽団は初めて聞く名前だったので、興味半分、怖さ半分だったのだけど、管楽器は古楽器を使った本格的なのもので、アンサンブルもお見事。「この人たちってどういう人たちなのか?」と不思議に思いプログラムを良くみたら、メンバーのほとんどがバッハ・コレギウム・ジャパンの奏者だった。さもありなんと納得。

 ピアノにはフォルテピアノが使われて、その音色が実に高貴かつ軽快。小倉貴久子さんのピアノ協奏曲にはうっとり聞き惚れた。会場が収容500名ほどの中ホールだったので、ピアノの音も良く響く。鈴木さん、小倉さん、森下唯さんのピアノ独奏も満喫。「即興による小さなフーガ」を演奏した鈴木氏によると、「ここだけは楽譜がないのだけど、父あての手紙の中にあった「皇帝がいたので小さなフーガを即興で弾いた」という文章を手掛かりに、「再現」してみるというもの。鈴木氏を通じて当時のモーツァルトを想像するだけでも、ウキウキした気分になる。

 独唱陣も私には馴染みのない方だった。が、どの方もしっかりした綺麗なソプラノで、かつ三者三様の違いもあって興味深かった。松井亜希さんは気品と透明感あふれる歌唱で、臼木あいさんはよりドラマティックで力強い。高橋維さんは、丁度その間といったところだろうか。普段は、オケもオペラも最安席で舞台から遠く離れて眺めているのだが、今回は全席同一価格ということで、かなり早くからホール中央の特等席をゲットしていた。そのおかげで、美人揃いの歌手さんが、自分のために歌ってくれているようで、何とも気分が良い。

 舞台の後ろには、クリムトが描いたブルク劇場の客席の絵を大きく映し出し、会場の雰囲気を盛り上げる。こうした演出も気が利いている。

 企画と演奏・歌唱がしっかりかみ合い、充実した、音楽祭ならではの演奏会。最後には、再びハフナーの第4楽章が演奏され、アンコールまで再現。聴衆は皆大喜びだった。帰り際に、私の後方に座っていたかなりお年を召したお婆様が連れの方に「こんなのが聞けたから、もういつ死んでもええわ」とお仰っているのが聞こえてきた。私も当然、満足感一杯で会場を後にした。


《開演前》


生誕 260 年 モーツァルト・ガラ・コンサート
〜再現1783年ウィーン・ブルク劇場公演〜

日時
6月25日(土)14:00~
(13:30開場・180分公演・休憩2回)

場所
くすのきホール

曲目(W. A. モーツァルト)
 交響曲第35番 ニ長調「ハフナー」KV 385
 オペラ《イドメネオ》より「今やあなたが私の父」KV 366 ※1
 ピアノ協奏曲第13番 ハ長調 KV 415 ※2
 《哀れなわたしよ、ここはどこ…あぁ、わたしではない》KV 369 ※1
 セレナード ニ長調 KV 320「ポストホルン」
 ピアノ協奏曲第5番ニ長調 KV 175 ※3
 オペラ《ルーチョ・シッラ》KV 135 から「私はゆく、私は急ぐ」※4
 即興による小さなフーガ ※5
 ロンドニ長調 K 382 ※6
 パイジェッロのオペラ《哲学者気取り》の「めでたし、主よ」による6つの変奏曲 ヘ長調 KV 398 ※2
 グルックのオペラ《思いがけない巡り会い》のアリエッタ「人々はうやうやしく」による10の変奏曲 ト長調 KV 455
 《我が憧れの希望よ…あぁ、汝は知らずいかなる苦しみの》KV 416 ※7

出演
鈴木優人(指揮)
アンサンブル・ジェネシス(管弦楽)
松井亜希※1、臼木あい※4、鈴木維※7(ソプラノ)
小倉貴久子※2、鈴木優人※5、森下唯※6(フォルテピアノ)
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映画 「帰ってきたヒトラー」 (監督:デビッド・ベンド、2015年)

2016-06-25 18:00:00 | 映画


「帰ってきたヒトラー」(原題はEr ist wieder da 「彼が帰ってきた」)。本物のヒトラーがタイムスリップして、現代ドイツに現れ、ヒトラーのモノマネ芸人として人気を博すシニカル・コメディ。

イギリスの国民投票でEU離脱派が勝利し、米国大統領選挙ではトランプ旋風が起こり、日本でも「昔の「美しい日本」を取り戻そう」を持論とするリーダーの勢いが衰えない。こんな環境下で、この映画を見ると、全く笑うに笑えないし、むしろ背筋が寒くなった。

ところどころにドキュメンタリータッチに一般市民へのインタビューシーンがある。正面から人種差別的な外国人排斥や排他的に過去のドイツを賞賛する声が発せられる。EU離脱を唱える英国人と同様に、少なからずのドイツ人の本音だろう。理念、理想を追うことよりも、目の前の切実な行き詰まり感が大きくなった世界の現実が示される。

「大衆が私を選んだのだ」「私は大衆の心の中にある」とヒトラーに言わせるラストシーンは、前半の大衆の声と呼応して、ドラマと現実が交錯し、否が応でも「今」を問う。歴史の針が、着実に逆向きに進んでいる今、我々は第二のヒトラーを選んでいくのであろうか?

今、まさに観るべき映画だ。
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福田 ますみ 『でっちあげ―福岡「殺人教師」事件の真相』 (新潮文庫、2009年)

2016-06-22 21:00:00 | 


 学校関係者必読の優れたルポルタージュである。

 福岡県の小学校教師が、モンスターペアレンツの執拗な攻撃と、優柔不断な学校管理者(校長、副校長)の対応、そして便乗マスコミによって、「殺人教師」呼ばわりをされて、社会的バッシングの上に停職6か月という処分を受ける。だが、裁判の過程で、その当該の親の証言は、ほとんどがでっちあげであったことが明らかにされる。筆者は、その事件を丁寧に追い、親、教師、管理者、マスコミ、弁護士が、どう動いたかをレポートし、個々の問題や暴走する社会の構造を明らかにしていく。

 結果論かもしれないが、あらゆる登場人物に問題がある。やくざの言いがかりのような主張を公然と展開する親(この人は完全に「病気」としか言いようがない)、言うべきことを主張できず、言ってもないことやってもないことを認める優柔不断な当該教師、親の言うなりにとにかく丸く収めようとする学校管理者、話題性のみでろくな確認取材すらしないで記事化するマスコミなど。ありえないようなことが現実に起きているのが何より怖い。

 中でも私が一番問題ありと思ったのは、被害者とでもいうべき教師本人とその管理者たちである。

 諸悪の根源はモンスターペアレンツだが、この親のような人たち(世の中的には「クレーマー」と呼ばれる)は、世の中一定数必ず存在するので、存在がなくなることはないだろう。騒ぎになりそうな話題に飛びつき炎上を煽るというマスコミの行動原理も変わることがないだろう。だから、教師やその管理者は、そうしたリスクに備え、現実にリスクが生じた際にはコントロールしなくてはいけない。この本を読んでいると、学校関係者のあまりの無防備さにイラついてくる。

 今の教師や学校管理者には、これまで求められなかったであろう危機管理という「スキル」を身に着ける必要がある。これは、いわゆる教育に適する資質とは正反対のものかもしれない。だが、学校はもう「教育」の場としての理想郷ではない。教師とは別に組織管理者を置く方法もあるだろう。この手の「病気」の親対応で、教師が時間を費やすのはあまりにももったいない。だが、そうした方策が講じられないなら、先生たちが武装するしかない。

 この本を読んで、先生たちは自分ならどう行動するかを考えてほしい。
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橘 玲 『言ってはいけない  酷すぎる真実』 (新潮新書、2016)

2016-06-20 00:01:00 | 


 タイトルが面白そうだったので図書館で借りて読んでみた。人間における遺伝、環境、教育の影響を論じた本。

 刺激的なタイトルや目次見出しほど内容は刺激的でない。筆者独自の調査・研究・論証というよりは、既存の研究結果を筆者の章立てに合わせて、まとめたもの。最近このジャンルの文献からは遠ざかってるが、心理学、教育学、社会学ではしばしば扱われるテーマである。

 目を引いたのは、p214-p215「こころと遺伝・環境の関係」という図表。学業成績などの認知能力、性格、才能、社会的態度などにおける「遺伝」、「共有環境」(家庭での食生活など)、「非共有環境」(友だち環境)の影響度を数値化している。例えば、学業成績は、遺伝が55%、共有環境が17%、非共有環境が29%と、遺伝の影響度が大きい。音楽の才能に至っては、遺伝が92%で非共有環境が8%で、遺伝の影響が殆どだ(ヤルヴィ一家をみればさもありなん)。一方で、自尊感情は遺伝の影響は31%で、非共有環境が69%と、環境要因が大きい。もちろん仮説の域を脱しないだろうし、方法論についてもいろいろ議論を呼びそうだが、なかなか興味深い。個人的には、思いのほか遺伝の影響が大きいのだなと感じたが、子ども個人のがんばり・努力はどう捉えればいいのかなどは、疑問のまま残った。

 「共有環境」の影響はあまり高くないので、親による英才教育はあまり意味がなさそうだが、筆者は「親が無力だ」というのは間違いだという。「親が与える環境(友だち関係)が子どもの人生に決定的な影響を及ぼすのだから」(p241)。この辺りは、私の肌感覚にも合致する。

 打ち出し方、叙述の仕方に癖があるので、内容以前に筆者のスタンスが嫌いな人もいるだろう。ただ、淡々と叙述を追えば、参考になる点は少なくない。



【目次】
1 努力は遺伝に勝てないのか
遺伝にまつわる語られざるタブー
「頭がよくなる」とはどういうことか―知能のタブー
知識社会で勝ち抜く人、最貧困層に堕ちる人
進化がもたらす、残酷なレイプは防げるか
反社会的人間はどのように生まれるか

2 あまりに残酷な「美貌格差」
「見た目」で人生は決まる―容貌のタブー
あまりに残酷な「美貌格差」
男女平等が妨げる「女性の幸福」について
結婚相手選びとセックスにおける残酷な現実
女性はなぜエクスタシーで叫ぶのか?

3 子育てや教育は子どもの成長に関係ない
わたしはどのように「わたし」になるのか
親子の語られざる真実
「遺伝子と環境」が引き起こす残酷な真実
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N響 6月定期Cプロ/ 指揮:ウラディーミル・アシュケナージ/ブラームス交響曲第3番ほか

2016-06-18 22:00:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)
 私としては今シーズン最後のN響定期演奏会。締めくくりに相応しい満足度の高い演奏会でした。

 前半はリヒャルト・シュトラウスの作品が2つ。スタートはシュトラウスが23歳頃の時に作曲した「ドン・フアン」。豪快で爽快。管弦楽の魅力をふんだんに放出させる音楽です。アシュケナージさんとN響は、出だしからフル回転。ホール一杯に爆音が響きました。

 続いては、本日、出色の演奏だったオーボエ協奏曲。こちらは1945年作曲で、シュトラウス晩年の作品です。ソリストのフランソワ・ルルーさんを聴くのは初めてでしたが、柔らかく、優美な音色に完全にノックアウトされました。異次元の美しさで、何か懐かしいものに吸い込まれるような感覚に襲われます。ルルーさんは体を大きく動かしながらの演奏で、ヴァイオリンやヴィオラだけでなく、聴衆とも会話し、それを楽しんでいるような様子。「ドン・フアン」で爆音を鳴らしていたN響はまるで別の楽団のように室内楽風の雅なアンサンブルでオーボエを支えます。聴衆のみなさんが集中して聴いているのも伝わってきます。幸せな気分って、こういうことなのですよね。

 サブライズはアンコール。私自身は、前夜のツイッターの投稿で期待するところがあったのですが、アシュケナージさんのピアノ演奏との共演。グルック「オルフェオとエウリディーチェ」から「精霊の踊り」からを演奏してくれました。超お値打ちの一曲でした。

 後半はブラームスの交響曲第3番。3年前のブロムシュテッドさんとN響の演奏以来です。アシュケナージさんは奇をてらうことなく、ストロングスタイルを貫きます。N響も管、弦、それぞれ持ち味を十分に発揮し、かつ気迫あふれる熱演でNHKホールの広さを全く感じさせませんでした。

 パーヴァオさんを首席指揮者に迎えて1年目の今シーズン。充実度を増して、間違いなく大成功のシーズンと言えるでしょう。次期シーズンも大いに期待です!




第1839回 定期公演 Cプログラム
2016年6月18日(土) 開場 2:00pm 開演 3:00pm
NHKホール

R.シュトラウス/交響詩「ドン・フアン」作品20
R.シュトラウス/オーボエ協奏曲 ニ長調
ブラームス/交響曲 第3番 ヘ長調 作品90

指揮:ウラディーミル・アシュケナージ
オーボエ:フランソワ・ルルー


No.1839 Subscription (Program C)
Saturday, June 18, 2016 3:00p.m. (doors open at 2:00p.m.)
NHK Hall

R.Strauss / “Don Juan”, sym. poem op.20
R.Strauss / Oboe Concerto D major
Brahms / Symphony No.3 F major op.90

Vladimir Ashkenazy, conductor
François Leleux, oboe


《30度を超える夏日となりました》
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映画 「バクマン。」 (監督 大根仁、2014)

2016-06-16 20:00:00 | 映画


 少年ジャンプへの掲載を目指す漫画家の卵の高校生二人組の青春物語。私は読んだことがないが、連載漫画の映画化とのこと。

 漫画読者の中には、原作と映画のギャップにいろいろ違和感を感じる人も多いようだが、原作未読の私は純粋に楽しめた。ストーリー展開がスピーディで飽きさせないし、主人公の2人の男優(佐藤健、神木隆之介)は、高校生にしては老けてるが、好感持てる熱演。ジャンプの編集者や他の漫画家の卵たちも、個性豊かな人間臭い連中ばかりだ。

 私自身、小中高生のころは漫画週刊誌にはずいぶん世話になったので、ノスタルジーを掻き立てられる。ただ一方で、この年齢になってこの映画を見ると、漫画界ってすごいブラック職場だなあとちょっと寒くなる。成功する漫画家はほんの一握りで、読者と出版社がその他大勢の漫画家たちの血と汗を吸い取るビジネスモデルだからだ。こうしたモデルって、長持ち(企業言葉でいうとサステナブル)するのだろうかと余計な心配をしてしまう。

 エンターテイメントとしては十分に満足行く映画で、気分展開したい時に最適。



スタッフ
監督 大根仁
原作 大場つぐみ、小畑健
脚本 大根仁
製作 市川南

キャスト
佐藤健 
真城最高
神木隆之介 
高木秋人
小松菜奈 
亜豆美保
桐谷健太 
福田真太
新井浩文 
平丸一也
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N響 6月定期Aプロ/ 指揮:ウラディーミル・アシュケナージ/メンデルスゾーン 交響曲第3番

2016-06-14 21:00:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 シーズンの最終月を締めるのはアシュケナージさん。小柄で、せっかちに動く彼の所作を眺めていると、どうも子供の時に見た人形劇を思い出して、失礼ながら微笑んでしまう。

 この日のプログラムは前半2曲が全く初めて聴く曲で、後半のメンデルスゾーンも10年以上は聴いていない曲。

 冒頭のバラキレフ「イスラメイ」(本来、カフカス地方に住むカバルド人やアディゲ人が踊るテンポの速い民俗舞曲(プログラムの解説より))は、中央アジアの風の匂いを感じるような音楽。小気味よいリズムと変化のあるテンポが爽快で、演奏会のファンファーレに相応しい。

 続いては、チャイコフスキーの協奏的幻想曲。名前は幻想曲だが、実質はピアノ協奏曲。私は、曲もピアノ独奏のルステム・ハイルディノフさんも初めて。ハイルディノフさんのピアノは、とっても軽快で端正。癖のない自然な演奏スタイルが好感度大。曲はチャイコフスキーらしい親しみやすい音楽で、初めてでも馴染みやすい。アンコールはブルメンフェリストの「左手のための練習曲」。本当に片手で弾いているの?と思うほどの豊かな表現だった。

 休憩後はメンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」。むき出しの自然、ごつごつした岩山、打ちつける風雨という私のスコットランドのイメージとは、必ずしも一致しない曲風だけどが、しっかり構築された良い音楽。N響の弦と管の美しいアンサンブルが曲とマッチしていた。アシュケナージさんの指揮姿は、決して格好の良いものではないが、N響から一杯に音を引き出している印象がある。終演後は、8割ほどの入りだったホールから大きな拍手を貰っていた。

 満足度は高かったのだけど、ホールを出ると代々木公園のベトナム祭りが続行中。余韻に浸りたい時に、無秩序な爆音の洪水に身をさらすのは、本当につらい。イベントには全く罪は無いのだけど、NHKホールはホールそのものに加え、この周囲の雑踏、雑音が鬼門だ。何とかならんのだろうか?渋谷行きのバスにお金払って乗るしかないか?


第1838回 定期公演 Aプログラム
2016年6月12日(日) 開場 2:00pm 開演 3:00pm
NHKホール

バラキレフ(リャプノーフ編)/東洋風の幻想曲「イスラメイ」
チャイコフスキー/協奏的幻想曲 ト長調 作品56*
メンデルスゾーン/交響曲 第3番 イ短調 作品56「スコットランド」

指揮:ウラディーミル・アシュケナージ
ピアノ*:ルステム・ハイルディノフ


No.1838 Subscription (Program A)
Sunday, June 12, 2016 3:00p.m. (doors open at 2:00p.m.)
NHK Hall Access Seating chart

Balakirev / Liapunov / “Islamey”, oriental fantasia
Tchaikovsky / “Fantaisie de concert” G major op.56*
Mendelssohn / Symphony No.3 a minor op.56 “Schottische”

Vladimir Ashkenazy, conductor
Rustem Hayroudinoff, piano*


《ベトナム祭りですごい人で》


《アンコール曲です》
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都響 第809回 定期演奏会Aシリーズ 指揮 大野和士、スクリャービン 「法悦の詩」他

2016-06-11 20:47:26 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 都響会員の友人からチケットを譲り受け、都響の定期演奏会へ潜入。

 この日のプログラムは、何とも魅力的。ブリテン2曲、ドビュッシー、スクリャービンといずれも19世紀後半から20世紀の音楽を音楽監督大野和士さんが指揮しました。

 最も印象的だったのはイアン・ボストリッジさんが独唱したブリテンの「イリュミナシオン」。 ボストリッジさんを聴くのは初めてでしたが、強烈な印象が残りました。長身で細身の体格、面長の顔立ちは、エル・グレコの絵に登場しても全く違和感ない外見。その歌声は、芯が通っていて、陰影があり、実に深みがあるテノールでした。声量の大きさでは無く、歌の表現力で聴かせるタイプ。弦楽器のみで構成する都響のアンサンブルとの調和も良く、胸に沁みわたるパフォーマンスでした。是非また聴いてみたいテナーです。

 「イリュミナシオン」以外も、演奏機会はさほど多くはないであろう曲でしたから、それぞれ楽しみました。「法悦の詩」のクライマックスの爆発的な大音響なんかは、生演奏ならではのダイナミックさです。ただ、正直言うと、私が聴き慣れていないためかもしれませんが、「イリュミナシオン」の以外は曲は胸に迫る感動は味わえませんでした。全般的に、演奏が淡白((「4つの海の間奏曲」)だったり、立体感がもう一つ(「法悦の詩」)と感じられました。演奏中は楽しんでいても、ホールを後にすると綺麗に流れ去ってしまう。そんな感覚です。ボストリッジが強烈すぎたのかな。

 ユニークなプログラムですが、東京文化会館はほぼ満員の盛況ぶりでした。都響の定期会員さんはとってもお行儀が良い感じ。気持ちの良い演奏会でした。



第809回 定期演奏会Aシリーズ
日時:2016年6月8日 19:00開演(18:20開場)
場所:東京文化会館ホール

指揮/大野和士
テノール/イアン・ボストリッジ *

曲目

ブリテン:歌劇『ピーター・グライムズ』より「4つの海の間奏曲」op.33a
ブリテン:イリュミナシオン op.18 *
ドビュッシー:《夜想曲》より「雲」「祭」
スクリャービン:法悦の詩 op.54 (交響曲第4番)


Subscription Concert No.809 A Series

Date: 8. June 2016, 19:00 (18:20)
Hall: Tokyo Bunka Kaikanseat

ONO Kazushi, Conductor
Ian BOSTRIDGE, Tenor *

Britten: Four Sea Interludes, op.33a from "Peter Grimes"
Britten: Les Illuminations, op.18 *
Debussy: Nuages and Fêtes from "Nocturnes"
Scriabin: The Poem of Ecstasy, op.54 (Symphony No.4)
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カラヴァッジョ展 @国立西洋美術館

2016-06-07 21:00:00 | 美術展(2012.8~)


 レンブラントなどの明暗法を用いたオランダ絵画が大好きなのですが、その元祖とも言えるカラヴァッジョの作品を中心に集めた特別展に足を運びました。

 フェルメールほど少なくは無いですが、カラヴァッジョの作品は確認されているものは全世界で60点強ぐらいしかないとのこと。そのうちの11点を集めたという、力の入った展覧会です。

 カラバッチョとその画風を取り入れた「カラヴァジェスキ」の絵を加え、50数点が「風俗画」「静物」「肖像」「光」「斬首」と言ったテーマごとに展示されています。明暗法好きの私には「光」の展示がため息ものでした。「エマオの晩餐」、「エマオの晩餐」、「煙草を吸う男」など、黒地の背景が醸し出す静謐さ、その背景から浮き出るように明るく照らされた人物たち。絵の魔力に吸い寄せられそうになります。


《カラヴァッジョ「エマオの晩餐」、1606 年、油彩/カンヴァス、ミラノ、ブレラ絵画館》


《ヘリット・ファン・ホントホルスト「キリストの降誕」、1620 年頃、油彩/カンヴァス、ウフィッツィ美術館》


《ジョルジュ・ド・ラ・トゥール「煙草を吸う男」1646 年、油彩/カンヴァス、東京富士美術館》

 今回、世界初公開という《法悦のマグダラのマリア》には、その妖気的な表情に目を奪われます。私には法悦(神の教えで極上の悦びに浸っている)というよりも、より性的なエクスタシーに近いものに感じられました。目を凝らさないと見えてこない、黒の背景に埋め込まれた十字架も妖気さを加えています。


《カラヴァッジョ「法悦のマグダラのマリア」油彩・カンヴァス、個人蔵》

 日曜日の訪問で会場は混み合ってはいましたが、人の頭越しにしか鑑賞できないような環境ではありませんでしたので、良い方だったと思います。12日までの開催ですが、未見で興味のある方は無理を押してでも、お出かけしたほうがよいかと思います。

 2016年6月5日訪問
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近江路を行く(3/3) ―比叡山延暦寺―

2016-06-05 21:00:00 | 旅行 日本
 2日目は、前日とは打って変わった晴天の中、世界遺産の一つ比叡山延暦寺を初めて訪れました。坂本ケーブル駅から日本最長(2025m)を誇るケーブルカーの車窓から、雄大な琵琶湖と若々しい新緑の風景を眺めることができました。


《長さも、眺めも、日本一の坂本ケーブル》


《終点 ケーブル延暦寺駅からの眺望》

 延暦寺は比叡山に散在する150余りの堂塔の総称なのですが、東を「東塔(とうどう)」、西を「西塔(さいとう)」、北を「横川(よかわ)」と呼び、一通り廻ろうとすると丸一日かかるそうです。時間的制限から、私は、延暦寺発祥の地である東塔エリアのみを廻りました。


《入口です》

 延暦寺の総本堂にあたる根本中堂の中に入ると、日本仏教の聖地の本堂に相応しい無言のパワーをひしひしと感じます。暗い本堂内に足を踏み入れ、辺りを見回すと、奈良時代からここで僧たちが読経を上げていたというのが、不思議なく受け入られ、過去と現在が交わる場に感動すら覚えます。


《左手が根本中堂》


《連休中ということもあり多くの訪問客で賑わっていました》

 根本中堂の後は、文殊楼、大講堂、阿弥陀堂、法華総持院東塔などを一通り巡ります。木々の新緑が目に沁みります。そして、比叡山国宝殿へ。パンフレットによると「国宝殿」という名称は、伝教大師最澄が著わした『山家学生式』の中の「一隅を照らす。これ則ち国宝なり。」という言葉から名づけられたそうです。比叡山が所有する仏像・仏画・書跡が展示されており、重要文化財の千手観音立像や多聞天立像など、目を奪われる作品が数多く並んでいます。


《文殊楼》





 帰りの電車の時間を気にしつつ、4時間ほど滞在しました。東塔だけというのは少し欲求不満が残りますね。また次回、天台宗の修行道場がある横川地区など、是非たっぷり時間を取って、巡っていきたいです。


2016年5月4日
コメント (2)
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近江路を行く(2/3) ―近江八幡―

2016-06-04 08:00:00 | 旅行 日本
 彦根城の次に向かったのは、彦根駅から列車で20分ほど下った(京都方面)近江八幡。近江商人の発祥の地とも言われ、有名な和菓子屋「たねや」の本店がある街です。



 近江八幡駅からは、ちょっと楽させてもらいタクシーで観光エリアへ(歩いても30分弱です)。お話好きの運転手さんで、「たねや」創業家のうわさ話や今や和菓子を凌ぐ人気を誇る「たねや」バームクーヘンの由来で盛り上がりました。

 市立資料館前で降りて、近世の町並みが残る新町通りを経由し、八幡堀を散策。落ち着いた風情は、気持ちを和ませてくれます。


《明治10年に八幡東学校として建築された白雲館》


《八幡堀》

 日牟禮八幡宮の境内に入ると、そこは「たねや」ワールド。右手には和菓子屋、左手には洋菓子屋と、いずれも人で溢れています。都心の有名デパートの地下に行けばたいていは入っているのですが、やはり本家本元ならではということで、お買い物と隣接の御茶所で一服。

 せっかくなので、通りを挟んだ向かいにある洋菓子用のお店であるクラブハリエ日牟禮館にも顔を出しましたが、バームクーヘンを求めて建物から人があふれるほど。あっさりあきらめました。


《たねや 日牟禮乃舍》




《日牟禮茶屋》


《中はこんな感じです》


《名物つぶら餅。中にほかほかのあんこが入ってます》

 つぶら餅をおいしく頂いた後は、せっかくなので日牟禮八幡宮でお参り。歴史を感じさせる境内と社です。能の舞台がありましたが、一度こういうところで実演を見てみたいものです。



 計2時間弱の駆け足の訪問でしたが、十分に楽しむことができました。


 2016年5月3日
コメント (2)
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近江路を行く(1/3) ―彦根城―

2016-06-01 21:35:27 | 旅行 日本
 ゴールデンウィーク後半に1泊2日で滋賀県を訪れました。奈良・京都にも魅かれたのですが、どこも外国人の観光客を含め相当数の人出という噂を聞いていたこともあり、未踏の地である滋賀県を選択。

 まずの訪問地は、彦根城。国宝指定されている五城のうちの一つです(ちなみに他の四城は松本城、犬山城、姫路城、松江城)。徳川の直参井伊家の居城として、1604年に築城が開始されてます。

 JR彦根駅に降りたときは、想像以上に閑散とした駅前に驚きを隠せませんでしたが、流石に城の周辺は観光客で賑わってました。久しぶりのお城見学ということで、私も興奮気味。濠を渡り、石段を上って、一つ一つ櫓を通過し、本丸に近づくワクワク感がたまりません。石垣や櫓内の柱や壁などホンモノ感がたっぷりで、石垣を積み上げる当時の職人さんや櫓に入った武士の姿などが偲ばれます。

 せっかくなので、天守に上って琵琶湖を望み、殿様気分を味わいたかったですが、GWということもあってか、なんと入場には90分待ち。それも整理券でも配ってもらえるなら、城内の他の見どころをみて戻ってくるという時間の使い方もできるのですが、ただ90分を並んで待つというのはあまりにも弾丸観光客にはひどい仕打ち。泣く泣くあきらめました。


《天秤櫓》


《美しい天守》

 そんな悔しさをなぐませてくれたのが、ご当地キャラのはしり、ひこにゃん。丁度、日に3度の登場時刻に出くわしました。観光客からはすごい歓声。


《ひこにゃんのお通り》

 天守周辺からも琵琶湖を望めます。この日は残念ながら厚い雲が立ち込め、見晴らしはいまひとつ。天気が良ければ、さぞ気分の良いことでしょう。

 城を降りて玄宮園という大名庭園を散策。庭から眺める城がこれまた美しい。


《琵琶湖》


《玄宮園からお城を望む》


 この日は、もう一つ行きたいところがあったので、城見学は2時間半程度に抑えましたが、翌朝、ジョギングもかねて城を再訪。あいにく開園前の時間帯のため、敷地内には入れませんでしたが、前日とは打って変わった美しい青空のもとの彦根城を見ることができました。


《佐和口多聞櫓 (さわぐちたもんやぐら)》


《朝日に照らされる天守》


《埋木舎 (うもれぎのや):若き井伊直弼が過ごした学びやです。時間が早すぎて中には入れませんでした》

 彦根城、一見の価値ありです。
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