今年のオペラ初め。主要歌手陣をロシア、ウクライナ出身で固めた充実のキャスト加え、ウリューピン指揮による東響のロマンティックな演奏、品ある演出で、チャイコフスキーの傑作オペラを堪能しました。
個人的に歌手陣で最も印象深かったのは、タチヤーナ役のエカテリーナ・シウリーナ。2009年(15年前!)にロイヤルオペラで〈リゴレット〉のジルダ役で聴いて以来(リゴレットはレオ・ヌッチ)。伸びのあるソプラノは、とっても丁寧で潤いあって美しい。一途な若き日のタチヤーナから大人の女性としての、成長と葛藤の演技も、感情移入を誘うものでした。
男性陣は、レンスキー役のヴィクトル・アンティペンコのテノールが声量大きく、伸びやかで聴きごたえたっぷり。華のあるテナーです。最終幕だけの出番ですが、グレーミン公爵のアレクサンドル・ツィムバリュクの低音もド迫力かつ陰影の深いもので、聴衆を唸らせました。題名役のユーリ・ユルチュクは1,2幕では歌唱、演技ともキャラ立ち無く、目立たたない感じでしたが、最終幕では本領発揮。長身イケメンで、厭世インテリっぽい雰囲気が漂ってますので、はまり役としてドラマのクライマックスを盛り上げました。
合唱はいつも通り素晴らしいし、合唱陣のパーティの場面等ストップモーションなど、演技でも盛り上げます。今回、ロシア語上演なのですが、ロシア語できる日本人って、そうはいないと思うのですが、ロシア語の歌ってどうやって習得するんですかね。音として体で覚えるのかしら?
指揮のヴァレンティン・ウリューピンさんは私にはお初の方ですが、メリハリあって、よくコントロールされた音楽を東響から引き出してました。チャイコフスキーのロマンティックなメロディの歌いっぷりや、合唱を交えた動の場面でのダイナミックな躍動感が素晴らしい。東響の木管らの個々の音色も、耳が引き付けられ、音楽の美しさを満喫しました。
演出も特に奇をてらったところは無く、中心に設置された神殿風の門を活用して場面場面を上手く表現していました。衣装や照明の色彩も美しく、舞台効果を高めます。
というわけで、とっても大満足の公演で、会場の皆さんも同様のようで、終演後は大きな拍手と歓声に包まれました。
余談ですが、今回目を引いたのは、外国人歌手陣がロシアとウクライナ出身の方々で固めていたこと。部外者ながら、公演にあたって彼らの気持ちはどんなものか、ドキドキしてしまいます。戦争状態にある母国同士といえども、プロとしては無関係なのか、それとももっとポジティブな意味合いが出てくるのか、逆に戦争関係者も近い人に居る可能性も十分あるわけで、個人的な心境がどこかでネガティブに働くのか。美しく言えば、芸術がとりなした協働の公演なのですが、綺麗ごとでは済まない複雑な今の世の中を映し出してもいた公演でありました。
(1月24日鑑賞)
ピョートル・チャイコフスキー
エウゲニ・オネーギン
Eugene Onegin / Pyotr Tchaikovsky
全3幕〈ロシア語上演/日本語及び英語字幕付〉
公演期間:2024年1月24日[水]~2月3日[土]
予定上演時間:約3時間5分(第1幕・第2幕1場100分 休憩30分 第2幕2場・第3幕55分)
スタッフ
【指 揮】ヴァレンティン・ウリューピン
【演 出】ドミトリー・ベルトマン
【美 術】イゴール・ネジニー
【衣 裳】タチアーナ・トゥルビエワ
【照 明】デニス・エニュコフ
【振 付】エドワルド・スミルノフ
【舞台監督】髙橋尚史
キャスト
【タチヤーナ】エカテリーナ・シウリーナ
【オネーギン】ユーリ・ユルチュク
【レンスキー】ヴィクトル・アンティペンコ
【オリガ】アンナ・ゴリャチョーワ
【グレーミン公爵】アレクサンドル・ツィムバリュク
【ラーリナ】郷家暁子
【フィリッピエヴナ】橋爪ゆか
【ザレツキー】ヴィタリ・ユシュマノフ
【トリケ】升島唯博
【隊 長】成田眞
【合唱指揮】冨平恭平
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京交響楽団
2023/2024 SEASON
Music by Pyotr Tchaikovsky
Opera in 3 Acts
Sung in Russian with English and Japanese surtitles
OPERA PALACE
24 Jan - 3 Feb, 2024 ( 4 Performances )
CREATIVE TEAM
Conductor: Valentin URYUPIN
Production: Dmitry BERTMAN
Set Design: Igor NEZHNY
Costume Design: Tatiana TULUBIEVA
Lighting Design: Denis ENYUKOV
Choreographer: Edvald SMIRNOV
CAST
Tatyana: Ekaterina SIURINA
Eugene (Yevgeny) Onegin: Yuriy YURCHUK
Vladimir Lensky: Viktor ANTIPENKO
Olga: Anna GORYACHOVA
Prince Gremin: Alexander TSYMBALYUK
Madama Larina: GOKE Akiko
Filipyevna: HASHIZUME Yuka
Zaretsky: Vitaly YUSHMANOV
Monsieur Triquet: MASUJIMA Tadahiro
Chorus: New National Theatre Chorus
Orchestra: Tokyo Symphony Orchestra