歳末ぼったくり演奏会に抗議の意を表し、個人的に年末の第9ボイコット運動を続けて6年。今年、ついにボイコット連続記録が途絶えました。ヤノフスキさんが振る第9にあがなえず。
東京春音楽祭で緊張感あふれる素晴らしいワーグナーのリングシリーズを毎年聴かせてくれたヤノフスキさん。第九を振るとどうなるのか、興味津々で、1週間後には紅白歌合戦が行われるホールへ飛び込みました。
早めに到着してプログラムに目を通している驚きの指揮者インタビュー記事を発見。ヤノフスキさんによると、第9では第4楽章は大事ではなく、第3楽章が最も大事だとのこと。昔から、第三楽章が大好きな私にはこのコメントに否が応でも期待が膨らみます。
ほぼ満員のNHKホールは活気があっていいです。聴衆もいつもの定期演奏会と違って、ドレスアップしていたり、カップル・小さい子供連れ家族の方も多数いらっしゃいました。正直、通常のN響の定演はとっても地味なので、こういう雰囲気に定期演奏会もならないのかなあと、ちょっぴり残念です。
相変わらず、愛想のない表情で登場したヤノフスキさんでしたが、第一楽章が始まると、その引き締まった音楽にググっと引き込まれました。私が聴いた中で、最も新幹線のぞみクラスだったのは、ガーディナーとLSOの第9でしたが、それに比べれば在来線の特急ぐらいです。でも、昔のいわゆる巨匠のストロングスタイルと比べると、テンポは早い方でしょう。でも丁度心地よいぐらいのスピード感。倍管で揃えたN響はしょっぱなからアクセル全開という感じでした。
第二楽章も軽快かつ重厚に音楽は進みます。時折、第9ってこうだっけ?と思わせるようなハッとするようなパーツがあります。くどくはないが、しっかり聴かせるヤノフスキさんの指揮はまさに職人です。
そして、注目の第3楽章は至福の時間でした。人間が作った音楽とはとても思えない、天上の音楽が目の前で展開されています。クラリネットとファゴットの演奏があまりに美しく、自ら昇天してしまいそう。私の葬式には、絶対第3番英雄の第二楽章ではなく、第九の第三楽章をかけてほしいです。先日上野で観た、フェルメールの絵における女性のガウンの首周りのフワフワや絨毯のようなきめ細かさを感じます。
そして、「重要でない」はずの第4楽章は、それでもやっぱり重要でした。トーキョーオペラシンガーズの合唱は力強く芯があります。パット見、男性45名、女性55名の総勢100名の合唱団でしたが、100名もいなくても良かった感じ。オケよりも合唱が強すぎた感はありましたが、それでも透き通った合唱は第九ならではの感動を与えてくれました。独唱陣も全く文句なしです。
「定例」の年末第九なのでしょうが、私にはオーケストラのどのメンバーからも、シーズン終わりの消化試合みたいな雰囲気は全く感じませんでした。むしろ、「皆さん、定演より気合入っていませんか?」と思ったぐらい。これも、ヤノフスキ翁が厳しく仕上げているところもあるのでしょうね。
終演後は大満足の大拍手。私も拍手しながら、横綱の第九だと思いました。ロンドンでも様々な楽団から複数回第九を聞いて来ましたが、欧州勢に決して引けを取らない演奏だった。まさに一年の締めくくりに相応しい。
これで来年以降、毎年第9に行き始めるかどうかは別ですが、今回の第9には降参しました。(チケットは、同じエリアで定演の1.5倍以上高いけど)今日の演奏会はぼったくりとは思わない。私の負けでした。でも、この演奏会が1年の締めくくりで本当に良かったと思わせてくれる演奏会でした。
ベートーヴェン「第9」演奏会
2018年12月24日(月・休) 開場 2:00pm 開演 3:00pm
NHKホール
ベートーヴェン/交響曲 第9番 ニ短調 作品125「合唱つき」
指揮:マレク・ヤノフスキ
ソプラノ:藤谷佳奈枝
メゾ・ソプラノ:加納悦子
テノール:ロバート・ディーン・スミス
バリトン:アルベルト・ドーメン
合唱:東京オペラシンガーズ
Beethoven 9th Symphony Concert
Monday, December 24, 2018 3:00p.m. (doors open at 2:00p.m.)
NHK Hall
Beethoven / Symphony No.9 d minor op.125 “Choral”
Marek Janowski, conductor
Kanae Fujitani, soprano
Etsuko Kanoh, mezzo soprano
Robert Dean Smith, tenor
Albert Dohmen, baritone
Tokyo Opera Singers, chorus