ときたま〈春の祭典〉が無性に聴きたくなる。そして、ハルサイは生で聴かなくてはいけないという偏狭な考えを持っている。そしたら、チョン・ミュンフンさんと東フィルがベートーヴェンの〈田園〉とのカップリングのプログラムでの公演があることを知り、衝動的にチケット(それもS席!)を購入。
全くのタイプの異なる2曲だが、2曲とも素晴らしい演奏だった。前半のベートーヴェンの交響曲第6番。第1楽章からとっても瑞々しく、美しい管弦楽のアンサンブルがホールに響き渡る。チョンさんの〈田園〉は、自然体で力みが無い。
第3楽章からは休みなく第5楽章まで演奏されるが、嵐のティンパニーの一撃はハッとさせられた。最終楽章の盛り上がりも決して押し付けがましくないが、胸にジ~ンと来る静かで温かみがある〈田園〉であった。
後半の〈春の祭典〉を聴くのは5年ぶり。冒頭のファゴットが長~く延ばされ、この一大祭典が始まった。チョンさんのハルサイは土臭い、血なまぐさいといった風味とは一線を画す音楽。狂気なのだが、それが綺麗に統制されていて、変な癖を感じずに音楽が自然に体に染み込んでくる。調味料は使わないから、音楽そのものを味わえ、と言われているようである。
東フィルメンバーの集中力が凄く、音とともに気がステージから飛んでくる。ハルサイにしては、音が細いかなと感じるぐらい、針孔に糸を通すような繊細なアンサンブルとの印象だった。これは、チョンさんによるのか、東フィルの特徴なのかは私には分かりかねたが、演奏としてパーフェクトだったのではないだろうか。
終演とともに聴衆からは狂喜の拍手とブラボー。チョンさん大きな拍手に応えて、終わったばかりのハルサイから「大地の踊り」をアンコール演奏。聴く方は再び大興奮。
このコンビやっぱり特別な関係なのだなあと思わせる出来事も。オーケストラ解散後も鳴りやまない拍手に応えて、チョンさんのソロカーテンコールと思ったら、チョンさんは楽屋に退いたオーケストラ一同を引き連れてステージに再登場。チョンさんと楽員さんたちの嬉しそうな笑顔が、このコンビの信頼関係や、演奏の達成感を素直に現わしていて、拍手を送る者としてもこんな嬉しいことはない。
とっても良い時間を貰って、幸せ一杯。一期一会の記憶に残る演奏会だった。
<一旦退場した楽員さんたちを引きつれて再登場のチョンさんと東フィル>
2024年2月27日(火)19:00
東京オペラシティコンサートホール
第160回東京オペラシティ定期シリーズ
指揮:チョン・ミョンフン(名誉音楽監督)
ベートーヴェン/交響曲第6番『田園』
ストラヴィンスキー/バレエ音楽『春の祭典』
February 27, 2024, Tue 19:00
Tokyo Opera City (Concert Hall)
Conductor: Myung-Whun Chung (Honorary Music Director)
Beethoven: Symphony No. 6 "Pastoral"
Stravinsky: Ballet "The Rite of Spring"