その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

東京シェイクスピア・カンパニー〈喜劇 ロミオとジュリエット〉 /第29回下北沢演劇祭

2019-02-26 07:30:00 | ミュージカル、演劇

 

毎年楽しみにしている下北沢演劇祭なのですが、今年はスケジュールがうまく合わず、1本のみの観劇となりました。家人がチョイスした〈喜劇 ロミオとジュリエット〉というお芝居です。東京シェイクスピア・カンパニーという劇団は名前も実演も全く初めてで、どんな芝居を見せてくれるのか、期待半分、怖さ半分で下北沢「劇」小劇場へ。

会場は名前の通り、通路にパイプ椅子も入れて詰め込んでもキャパは100名も入りそうもない劇場ですが、楽日ということもあってか満員で、熱気一杯でした。俳優さんの息使いまでも聞こえて来る前列2列目に陣取り。そして、上演時間の2時間5分ほど、時間を忘れて、ストーリー展開と俳優さんの熱演に釘づけになりました。間違いなく私好みの芝居。

好みのポイントは、生き延びたロミオとジュリエットのその後というユニークな舞台設定、シェイクスピア的セリフの豊かさ(例えば「ああ、どうしてあなた『が』ロミオなの!」には超笑ったし、「ロミオとジュリエット」以外のシェイクスピア作品(例えば「マクベス」)からの引用と思われるセリフもありました。きっと他にもいろいろあるはず)、また悪魔との契約という「ファウスト」的世界、そして今の世の中「地上のこの世こそが地獄」であると言う社会風刺を織り込んだ現代ネタと言ったところで、それらが絶妙にミックスされていました。

俳優陣も熱演でした。主演のお二人もさることながら、私的にはボス悪魔キャビレット役の井村昂さんの演技が舞台を引き締めかつ、喜劇のバランスをうまく取っていたように見えました。また、しんばなつえさんの侍女悪魔も雰囲気をコミカルにし良い味出してました。山丸莉菜さんが演じるロミオとジュリエットの娘ロザラインは、とってもチャーミングでいかにもの良家の乙女です。

リュートや太鼓を使った生演奏が入ったのには驚きました。ロンドンのグローブ座とかは大体この手の生音楽が入るので、こうした生演奏が入るだけで俄然、当地の雰囲気やシェイクスピア時代の雰囲気が出てきますね。

会場入りしてから知ったのですが、本劇は作家の奥泉光さんの原作ということです。この劇団とはつきあいが長いらしく、他にも、私の大好きな「リア王」「マクベス」を題材に書いた演劇が、既にこの劇団で実演されたとのこと。もっと、早くから知っていればなあと、後悔先に立たず。これからちょっと東京シェイクスピア・カンパニーは要フォローだなということで、さっそくTwitterでフォローさせていただきました。奥泉氏の脚本(?)も一冊に単行本化されているということなので、本も読んでみようと思います。

今年の「演劇祭」は一本しか見れなかったけど、「当たり」だったのでよかった、よかった。観劇後、下北沢の街をぶらぶらしてたら、糸魚川市の物産展をやっていたので、そこで糸魚川の日本酒の酒蔵5社飲み比べし、観劇アフターを楽しんで帰りました。下北はいいね。

 

「喜劇♥ロミオとジュリエット」

【場 所】  下北沢 「劇」小劇場

【出 演】  つかさまり / 大久保洋太郎  / 原元太仁 / 井村昂(少年王者舘) /    しんばなつえ / 三村伸子 / 山丸莉菜(流山児★事務所) / 山本悠貴 / 遊佐明史(SCARECROWS.LEG)

【作】  奥泉 光

【演出】  江戸 馨

【作曲・演奏】  佐藤圭一 

【舞台美術・イラスト】  山下昇平 【照明】  関 喜明 【舞台監督】  中原和彦

【衣装縫製】  嘉本洋子 【記録】  長田史野 【web担当】  吉田史明

【製作】  藤井由樹(Office Spring)・東京シェイクスピア・カンパニー>【製作協力】  菊地廣(K企画)

【製作総指揮】  江戸 馨

<糸魚川地酒五種セット/あんこう汁/小エビのフライ>

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ナショナル・シアター・ライブ NTLive 《マクベス》

2019-02-23 07:30:00 | ミュージカル、演劇

ナショナル・シアター・ライブ(NTLive)で<マクベス>を見た。恥ずかしながら、NTLiveという企画、きっと何かで目にはしていたのだと思うのだが、全く認知していなかった。先日、松岡和子さんの「深読みシェイクスピア」が大変興味深かったので、久しぶりにまたシェイクピア劇が観たいなあと思い、探したところ偶然この企画とぶつかった。

驚いたことに、1週間限りの11回のみの上映ということもあってか、劇場のHPを見ていると予約開始日から早々に席が埋まっていき、連日満員なのである。私は予定をやりくりして、何とか最終日の上映に間に合わせた。満員のミッドタウン日比谷のTohoシネマは老若男女問わず幅広い層のお客さんで熱気に溢れており、通常の映画の倍近くの価格で上映されるイギリスの劇場のフィルムがこんなに人気があるとは、正直びっくりだった。<マクベス>だからなのだろうか???

前置きが長くなったが、公演は実に素晴らしく、流石本場ロンドンのシェイクスピアものだなと思わせるものだった。ノリスの演出は、<マクベス>を現代に読み替えたが、全く違和感なく、人間の野望や悔恨・恐れの念、そして夫婦の愛らが時代を超えて普遍的であることを示していた。改めてシェイクピアの人間洞察の鋭さに感服する。

全体的にかなり照明を落とした暗めの舞台で、舞台中央にアーチ形の橋のような「花道」を使う舞台セットは立体的で空間的奥行きを上手く表していた。首を切り取り戦果とするなどかなり残酷なシーンもあるが、効果的な生音楽も挿入され、緊張感あふれる引き締まった舞台だ。回転舞台の活用も有効で、観る方も集中できる舞台装置だったと思う。

ライブ映像ということで、映像チームによるカメラワークが視覚効果を高めていたところもある。現場で生で見たかったなあ。

役者陣では主役のマクベス夫婦の熱演が光る。ローリー・キニアは、前中盤の逡巡するマクベスと後半の破滅に突き進むマクベスを、継続性を保ちつつ成長(変化)を織り込んで上手く演じた。強気なところを見せながらも、後段、恐れ、怯えて自壊に向かうマクベス夫人のアン-マリー・ダフも素晴らしい迫力だった。また、私的には、毎回「マクベス」で注目第一のキャラである魔女たちが、現代風でパンクっぽくて気に入った。

NTLHPを見るとこれからも面白そうな演目が目白押しである。これはハマる予感。

 

原題:Macbeth上演劇場:英国ナショナル・シアター オリヴィエ劇場)

収録日:2018/5/10 尺:2時間40分(休憩あり)

作:ウィリアム・シェイクスピア

演出:ルーファス・ノリス

出演:ローリー・キニア、アン-マリー・ダフ ほか

〈初・日比谷ミッドタウン訪問、広場のゴジラ像〉

 

Cast:

Nadia Albina

Michael Balogun

Stephen Boxer

Anne-Marie Duff

Trevor Fox

Andrew Frame

Kevin Harvey

Hannah Hutch

Nicholas Karimi

Rory Kinnear

Joshua Lacey

Penny Layden

Anna-Maria Nabirye

Patrick O'Kane

Amaka Okafor

Hauk Pattison

Alana Ramsey

Beatrice Scirocchi

Rakhee Sharma

Parth Thakerar

Sarah Homer

 

Production team

Director: Rufus Norris

Set Designer: Rae Smith

Costume Designer: Moritz Junge

Lighting Designer: James Farncombe

Music: Orlando Gough

Sound Designer: Paul Arditti

Movement Director: Imogen Knight

 

Michael Balogun

Stephen Boxer

Anne-Marie Duff

Trevor Fox

Andrew Frame

Kevin Harvey

Hannah Hutch

Nicholas Karimi

Rory Kinnear

Joshua Lacey

Penny Layden

Anna-Maria Nabirye

Patrick O'Kane

Amaka Okafor

Hauk Pattison

Alana Ramsey

Beatrice Scirocchi

Rakhee Sharma

Parth Thakerar

Sarah Homer

 

Production team

Director: Rufus Norris

Set Designer: Rae Smith

Costume Designer: Moritz Junge

Lighting Designer: James Farncombe

Music: Orlando Gough

Sound Designer: Paul Arditti

Movement Director: Imogen Knight

Fight Director: Jeremy Barlow

Fight Director: Kev McCurdy

Music Director: Marc Tritschler

Company Voice Work: Jeannette Nelson

Associate Set Designer: Aaron Marsden

Staff Director: Liz Stevenson

 

Fight Director: Jeremy Barlow

Fight Director: Kev McCurdy

Music Director: Marc Tritschler

Company Voice Work: Jeannette Nelson

Associate Set Designer: Aaron Marsden

Staff Director: Liz Stevenson

 

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折角なのであえて少数意見も・・・『紫苑物語』/西村 朗 @新国立劇場

2019-02-19 07:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

 日本発のオペラ「紫苑物語」の世界初演・初日に新国立劇場へ足を運ぶ。ボーダレスワールドの今時、「日本発」を連呼するのは多少違和感はあったが、キャスト・配役表を見ると外国人もクリエイティブチームに入っているようで、こういうコラボは良いなあと思った。

 会場到着前は世界初演の初日なので、とっても派手やかで高揚した雰囲気を想像したのだけど、ホワイエの雰囲気は(インスタ用のステージとかはあったものの)意外と普段の公演と大きくは変わらず落ち着いたものだった。席(3階右サイド)についたら、私の列と前列の計8席は全て中年以上の男性客(私もその一人ですが・・・)で、他のフロアを見回しても年配の男性客が多かったので、華やかに感じなかったのは、そんなところもあったかも。いずれにしても、オペラという西洋文化の権化のような芸術を日本から発信するという大野芸術監督のチャレンジは素晴らしいと思うし、今後のためにも今回の公演は是非、成功してほしいと思い、開演を待った。


 そして、公演は関係者の意気込み・気合がひしひしと伝わってくるもので、初演とは思えない高い完成度だった。歌手陣では、終始でずっぱりの宗頼演じる高田智宏の安定した演技と歌唱。怪演とも言えなくもないほどの迫力を示したうつろ姫の清水華澄。うつろ姫とは対照的に可憐ながらも妖気を漂わす千草役の臼木あいの高いソプラノなど、それぞれ高いレベルのものだった。第2幕の四重奏の素晴らしさには自然と体が前のめりになる。

 ピットには大野の手兵ともいえる都響が入ったが、相当の難曲ではと思わせる西村朗の音楽を、アンサンブル素晴らしく、緊張感たっぷりに聞かせてくれた。せっかく大野さんが芸術監督なのだから、都響には新国のピットにもっと入って欲しいなあ。

 芦田ヨシの演出もプロフェッショナルな仕事だ。鏡、映像、黒子などを駆使して、現実とも夢ともつかない物語の独特の世界観を表していた。

 日本語と英語の字幕がついていたのも嬉しい。日本語は音楽に乗りにくいためか、日本語オペラといえども聞き取りにくいことが多い。今回も、日本語ならではの独特の言葉の表現(とろりとろり・・・)などがあって、字幕なしにはきっと理解できなかったところがたくさんあったと思う。

 このように、芸術的に素晴らしい公演だったのだが、観衆の一人として自分の感銘度はどうかと問われると、残念ながら疑問符がついた。要は、レベル高く、凝っているが故に単純に「楽しむ」のが難しい。例えば、テーマとも言える若者の成長物語としては、心理的に感情移入には至れない。音楽は現代音楽としては聴きやすい方かもしれないが、感覚で感じるよりも、この音楽は考えて理解しなくてはいけないと言われているような気がした。原作の世界と違うのはあっても当たり前だと思うが、事前に原作を読んでしまったせいか自分の読書のイメージに囚われ、小説のイメージと舞台の違いが気になってしまう。特に、第一幕で冒頭から延々と婚礼シーンが30分続くのは、じれったく、自身を投入するのに乗り遅れた。

 ただ、公演後のツイッターは絶賛の嵐だったので、私の感覚はかなりマイノリティのようで安心(?)した。一方で、今回の日本発オペラは当然世界を見据えているはず。なので、オペラは総合芸術と言いつつ大衆文化の一面が強い西洋で、この世界観はどこまで外国人に理解されるのかは心配だ。

 単なる個人的な嗜好の問題であることは間違いないと思うのだが、新国立劇場や大野芸術監督のチャレンジをリスペクトし、更に公演自体もレベルの高い完成度を示していただけに、「楽しめなかった」自分には、このオペラの今後の行く末が気になった公演だった。

 


新国立劇場 2018/2019シーズン
 オペラ『紫苑物語』/西村 朗
 [新制作 創作委嘱作品・世界初演][全2幕/日本語上演/字幕付]

作曲:西村 朗
台本:佐々木幹郎
指揮:大野和士
演出:笈田ヨシ

美 術:トム・シェンク
衣 裳:リチャード・ハドソン
照 明:ルッツ・デッペ
振 付:前田清実
監 修:長木誠司
舞台監督:高橋尚史

宗頼:高田智宏
平太(17・24日):大沼 徹
平太(20・23日):松平 敬
うつろ姫:清水華澄
千草:臼木あい
藤内:村上敏明
弓麻呂:河野克典
父:小山陽二郎

合唱指揮:三澤洋史
合 唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京都交響楽団


Opera Asters
New Production / Comissioned Work, World Premiere

Music by NISHIMURA Akira
Opera in 2 Acts
Sung in Japanese with ENGLISH and Japanese surtitles OPERA HOUSE

17 Feb. - 24 Feb., 2019 ( 4 Performances )

CREATIVE TEAM
Original by: ISHIKAWA Jun
Libretto by: SASAKI Mikiro
Music by: NISHIMURA Akira

Conductor: ONO Kazushi
Production: OIDA Yoshi
Set Design: Tom SCHENK
Costume Design: Richard HUDSON
Lighting Design: Lutz DEPPE
Choreographer: MAEDA Kiyomi
Supervisor: CHOKI Seiji

CAST
Muneyori: TAKADA Tomohiro
Heita: ONUMA Toru (2/17, 2/24), MATSUDAIRA Takashi (2/20, 2/23) Princess Utsuro: SHIMIZU Kasumi
Chigusa: USUKI Ai
Tonai: MURAKAMI Toshiaki
Yumimaro: KONO Katsunori
Father: OYAMA Yojiro

Chorus: New National Theatre Chorus
Orchestra: Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra

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N響 2月定期Cプロ/ 指揮:パーヴォ・ヤルヴィ/プロコフィエフ 交響曲 第6番ほか

2019-02-17 07:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

 久しぶりのNHKホールの完売定演。プログラムが凝ってるためか、最近、結構空席が目立つ定演が続いただけに、やっぱり満員で熱気あふれるホールは観衆の一員として嬉しい。そして、N響はその熱気に十分にこたえる熱い演奏だった。

 前半のラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。もともと予定していたブニアティシヴィリ嬢が出れないと聞いた際はショックだったけど、代役がアレクサンダー・ガヴリリュクと聞いて一安心。N響とは何度か共演しているようだが、私は初めてだったのでとっても楽しみにしていた。ガヴリリュクのピアノは、打鍵が強く音が力強い。私の3階席までガンガンに響いてくる。ラフマニノフの甘い調べも、甘すぎず、むしろ端正に感情に流されない演奏で、私の好み。

 N響の演奏も素晴らしかった。重層的な弦のアンサンブルがピアノの音と混じり合って、華やかさを添える。「協奏曲って、いいなあ~」と思わせてくれるコラボだった。終演後は久しく聞いてない、ホールを飛び出さんばかりの大拍手。拍手に応え、ラフマニノフのヴォカリーズをアンコールで演奏してくれた。

 後半のプロコフィエフの交響曲第6番を聴くのは全く初めて。ツイッターで紹介されていた都響の大野さんのYoutube解説ビデオクリップを見ておいたおかげで何とかついて行ったが、消化不良は否めなかった。それでも、相変わらずのパーヴォの見事なオケ捌きとN響の気合一杯で、一糸乱れぬ合奏力・個人力は十分伝わった。おかげでお初ながらも、路頭に迷うことなくプロコらしい音楽を楽しめた。

 オーボエ主席の茂木さんは今月が最後の定演とのことで、私にとっては最終。長い間、お疲れ様でした。途中空白を挟んで足かけ20年近くの私の定演通いの間、多くの感動を与えていただきました。ありがとうございました。引退ではないのでしょうから、またどこかで茂木さんのオーボエを聴けることを楽しみにしています。本ブログをもって、感謝申し上げます。

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石川淳「紫苑物語」を読んでおいた。

2019-02-16 07:30:00 | 

 今週末、日本発の世界初演オペラ<紫苑物語>を見に行くので、原作を読んでみた。作者の石川淳の名前はもちろん知っているが、作品を読むのは初めて。図書館で『新潮現代文学8 荒魂・紫苑物語』を借りて読む。

 一日の往復の通勤列車で読み終える短編小説で、サクサク読み進む。しかし、十分に読み応えのある作品だ。なにより日本語が美しい。表現もさることながら、文体のリズムは詩を読んでいるよう。物語は中国の伝奇小説のような幻想的なもので、読者はいつの間にか、その世界の中に嵌ってしまう。

 この物語がどうオペラ化されるのか?とっても楽しみ。

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最高に面白し! 松岡和子『深読みシェイクスピア』 (新潮文庫、2016)

2019-02-14 07:30:00 | 


シェイクスピアの代表作について、翻訳を手掛けた松岡和子さんへのインタビューを通じて作品や演劇の魅力、深みが語られる。読みながら「へえ~、そうなんだ!」と驚きの連続で、一気に読んだ。インタビューアの小森収さんの突込みや適切かつ刺激的な問いで、単なる対談を超えた知的興奮度満点の読み物で超お勧めの一冊。

特に感心したのは3つ。一つは、役者が作品解釈に与える影響度を知ったこと。松たか子、蒼井優、唐沢寿明らが発する問いや演技が翻訳家が気付かなかった訳し方や言葉の意味合いに新たなインスピレーションを与える。台本を如何にうまく演じるかが役者と思っていた、私の浅い役者理解を思いきりひっくり返してくれた。翻訳家と役者の相互作用の中で、原作を寄り添いつつ、さらに深みを与える翻訳ができあがる。

また、同様のインスピレーションは演出家と翻訳家の関係からも生まれる。ジョン・ケアードの演出において、稽古の中で行われたバックトランスレーションにはここまでするのかと驚きの一言だ。「原文→日本語翻訳→翻訳の英語訳によるレビュー→翻訳の推敲」により、翻訳が持つ意味合いを確認し、一方向の翻訳では気が付かなかった言葉の意味合いがあぶりだされ、再翻訳で磨きをかける。すごい世界だ。

松岡さんの翻訳家としてのこだわりもプロ根性丸出しで感心しっぱなし。一つの言葉の訳出にここまでこだわり、そこから作品の心臓をえぐり出すような作業と思考過程は感服する。「マクベス」におけるマクベスとマクベス夫人の”we”の意味合いなどは、初めて気づかされた。この世界の奥深さを知った。

それにしても、改めてこれらの作業の元ネタとなっているのがシェイクスピアの作品だ。その深み、凄さに改めて圧倒させられる思いだった。最近、ご無沙汰しているシェイクスピアの芝居をまた見に行かなくては。

《目次》

第1章 ポローニアスを鏡として―『ハムレット』
第2章 処女作はいかに書かれたか―『ヘンリー六世』三部作
第3章 シェイクスピアで一番感動的な台詞―『リア王』
第4章 男、女、言葉―『ロミオとジュリエット』『オセロー』
第5章 他愛もない喜劇の裏で―『恋の骨折り損』
第6章 日本語訳を英訳すると…―『夏の夜の夢』
第7章 嫉妬、そして信じる力―『冬物語』
第8章 言葉の劇―『マクベス』

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N響 2月定期Aプロ/ 指揮:パーヴォ・ヤルヴィ/ハンス・ロット 交響曲 第1番ほか

2019-02-11 07:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


「ハンス・ロット、who?」って感じで、音楽はもちろんのこと、名前も聞いたことない音楽家でしたが、丁度、神奈川フィルが前日に同じ曲を取り上げたこともあってか、Twitter上のクラシック愛好家の皆様の間では話題が持ちきりでした。そんなこともあり、期待を膨らませてNHKホール入り。

プログラムを見てびっくり。マーラーと同級生、かつ25歳の若さで亡くなっている。私が知っている若くして亡くなった作曲家はシューベルト(31歳)やモーツアルト(35歳)とかですが、25歳は破格の夭逝です。交響曲第一番はそのロットが20代の時に書かれた音楽です。

そして、聴いてさらにびっくり。音楽自体は若さがきらめく瑞々しい音楽であるのに加えて、第1楽章からどうも雰囲気がマーラーに似ているなあ~という印象。それが第3楽章になると、どう聴いてもこれはマーラーの1番と2番の旋律ではないか!似ているどころでなく、同じ!プログラムには「マーラーに影響を与えた」とあるので、あのマーラーがここまでコピペした(引用した)音楽が目の前で演奏されているのを聴くのは相当の驚きでした。

そうしたところを含めて、個人的に好きな音楽でした。第4楽章などはややくどさを感じるところはありましたが、フィナーレに向けて盛り上げっていくところも勢いがあって素敵。精神病で病んでいた音楽家が作った曲には思えませんでした。

パーヴォさんは相変わらず見事な棒捌き。応えるN響も、ホルン、トランペットを初め、木管やヴァイオリンの芸達者のソロ陣、そして一糸乱れぬアンサンブルが相まって、初めて聴くとは思えないほど、音楽にのめり込んで聴くことができました。

前半はR・シュトラウスのヴァイオリン協奏曲。こちらはなんと、シュトラウスが17歳で作曲した音楽。こちらも聴くのは初めてですが、こちらも清明で、若さが感じられる音楽で非常に聴きやすい。ヴァイオリンソロのアリョーナ・バーエワさんは、カザフスタン出身の美人バイオリニストで、力強い演奏を披露してくれました。煩悩溢れる私はどうも容姿に目移りして、音楽に集中できませんでした。反省。

同世代のドイツ・オーストリアの作曲家の若き時の音楽を揃えた本プログラム。パーヴォさんらしい凝ったものでとっても楽しめました。この日のコンサートマスターはゲストコンマスの白井圭さん。ゲストとは思えない堂々としたコンマスぶりでした。


第1906回 定期公演 Aプログラム
2019年2月10日(日) 開場 2:00pm 開演 3:00pm
NHKホール

R.シュトラウス/ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品8
ハンス・ロット/交響曲 第1番 ホ長調
ス・ロット/交響曲 第1番 ホ長調

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
ヴァイオリン:アリョーナ・バーエワ

No.1906 Subscription (Program A)
Sunday, February 10, 2019 3:00p.m. (doors open at 2:00p.m.)
NHK Hall

R.Strauss / Violin Concerto d minor op.8
Hans Rott / Symphony No.1 E major

Paavo Järvi, conductor
Alena Baeva, violin
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これは旨い! イトウバル @渋谷

2019-02-10 08:56:12 | 日記 (2012.8~)


 家族で渋谷に出る用事があり、その後、立ち寄ったバル。とっても美味しかったのでご紹介します。伊東の魚とワインが売りのお店です。変わった店の名前と思ったら、伊東のイトウでした。手ごろなお値段で、とっても美味しい小皿料理が楽しめました。

 店内を入るとたん魚の匂いがぷーんと漂います。この匂い、ロンドンやバルセロナとかでシーフード・レストランに入ったときに感じる匂い。日本の寿司屋さんとかの匂いとは、同じ魚介でも違うんですが、何の違いなんでしょうね。

 野菜フリット、鮮魚のなめろう、サバコロッケ、サバリガトーニなどなど注文しましたが、どれも美味しい。絶品は、サバのパスタパエリア(写真)。ライスではなくパスタのパエリアで、サバのだしが染みわたっていました。

 ワインも適切な価格帯で魚介に合うものを揃え、コストパフォーマンスもグッド。最初のとりあえずの一杯で飲んだ香るエールが480円なのも嬉しかった。落ち着いた店内も渋谷の喧騒を離れて良かったです。お勧めです。

 お店のホームページはこちら。
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橋爪 大三郎, 大澤 真幸, 宮台 真司 『おどろきの中国』 (講談社現代新書、2012)

2019-02-08 07:30:00 | 



2012年の新刊直後に買ったまま、私のごみ箱部屋に埋もれていたのを年末の大掃除で発掘。新刊時はそれなりに評判になった本だったはずである。

著名な日本の社会科学者3名が、中国、その近現代史、日中関係、将来について語り合う。鼎談なので話し言葉ではあるが、内容はかなりアカデミックで知的興味をそそる。中国人の発想、中国社会の構造、日中関係を見る視座など、勉強になるところも多く、楽しんで読めた。

一方で、学者さんの会話ならではの限界を感じるところも多い。中国は西洋的な社会科学の概念では捉えきれないと前半で話しつつも、その分析はウェバー、フーコーなど西洋の学者の枠組みを借りたものが多いし、インテリの言葉遊び、概念遊び的なところを感じてしまうところもあるのも事実。私のやっかみも多分にあるのだろうが、「どうだ、俺たち、賢いだろう。こんな概念使って、中国を縦横無尽に裸にしてやったぜ。すごいだろ。」みたいな知的マスターベーションの匂いを放っているのが鼻についた。

はたして、その彼らの知識、知力、饒舌は、現実を変えるのにどれだけの力をもっているのだろうか。

目次
第1部 中国とはそもそも何か
第2部 近代中国と毛沢東の謎
第3部 日中の歴史問題をどう考えるか
第4部 中国のいま・日本のこれから
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新国立劇場オペラ/ワーグナー 「タンホイザー」

2019-02-03 07:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 一幕終了時点では「今回はハズレ?」という呟きが脳裏を走ったけど、終わってみれば圧倒的感動とまでは行かないまでも、満足な公演でした。

 一幕は正直冴えなかった(ように感じた)。タイトルロールのケール、演奏ともに単調。冒頭のダンスは良かったけど、舞台や照明がアメリカのストリップ劇場を思い出させるような雰囲気で、全然「タンホイザー」の世界に入っていけず。それが、エリーザベトが登場した2幕から段々の盛り上がりを見せ、3幕はケールも挽回し、ヴォルフラムのトレーケルも存在感あふれ、緊張感ある舞台となりました。

 歌手陣では、個人的ブラボーだったのは、伸びのある清らかなソプラノだったエリーザベトのキンチャ、3幕のソロが涙ものだったヴォルフラムのトレーケル、安定感抜群な領主ヘルマンの妻屋秀和でした。加えて、隠れ一位と思ったのは新国立合唱団。2幕の巡礼団の合唱などはお涙ものでしたし、ソロがもう一歩のところを合唱団が支えていたところもありました。タイトルロールのケールのテノールは決して悪くないのだけど、3幕を覗いては深みや豊かさと言った点で物足りなく感じました。

 今回の演奏は正直、ちょっと好みとは言えなかったかな。節々に美しい弦のアンサンブルやオーボエのソロはあり、また最終幕での盛り上げにも胸動かされましたが、通して振り返ると、タンホイザーならではの重層的で畳み込むような迫力が弱く、抑揚薄い演奏だった印象です。指揮者のもって行き方によるんでしょうね。

 演出は、所々に映像も取り入れた現代ものの香りが漂う舞台です。前述のとおり1幕は大いに不満があったものの、2幕以降は、場のイメージに適合したセンスある美しい演出という印象でした。

 ワーグナーのオペラはどうしても期待が大きくなるだけに、公演側は大変でしょうね。ワグナーオペラの帰り道は音楽が頭から離れず、中毒的な身体反応を示す場合が多いのですが、今回はそこまで至らず。そこが、私的には、何となく物足りなさも残ったと感じた理由でしょうか。


《4階の最深部から》

スタッフ
指揮:アッシャー・フィッシュ
演出:ハンス=ペーター・レーマン
美術・衣裳:オラフ・ツォンベック
照明:立田雄士
振付:メメット・バルカン

キャスト
領主ヘルマン:妻屋秀和
タンホイザー:トルステン・ケール
ヴォルフラム:ローマン・トレーケル
ヴァルター:鈴木 准
ビーテロルフ:萩原 潤
ハインリヒ:与儀 巧
ラインマル:大塚博章
エリーザベト:リエネ・キンチャ
ヴェーヌス:アレクサンドラ・ペーターザマー
牧童:吉原圭子

合唱:新国立劇場合唱団
バレエ:新国立劇場バレエ団
管弦楽:東京交響楽団

CREATIVE TEAM
Conductor: Asher FISCH
Production: Hans-Peter LEHMANN
Set and Costume Design: Olaf ZOMBECK
Lighting Design: TATSUTA Yuji
Choreographer: Mehmet BALKAN
CAST
Hermann: TSUMAYA Hidekazu
Tannhäuser: Torsten KERL
Wolfram von Eschenbach: Roman TREKEL
Walther von der Vogelweide: SUZUKI Jun
Biterolf: HAGIWARA Jun
Heinrich der Schreiber: YOGI Takumi
Reinmar von Zweter: OTSUKA Hiroaki
Elisabeth: Liene KINČA
Venus: Alexandra PETERSAMER
Ein junger Hirt: YOSHIHARA Keiko

Chorus: New National Theatre Chorus
Ballet: The National Ballet of Japan
Orchestra: Tokyo Symphony Orchestra
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