何故この本を図書館で予約したのか、記憶が定かでなくなるぐらい待ってようやく廻って来た。きっと、どっかの新聞で紹介されていたのを見て予約をかけたのだと思う。とっても読み易くて、1時間ちょっともあれば読み通せてしまう本なのだが、私にはいろんな意味で気づきの多い本だった。
本書で筆者は、「従来の「起業」というイメージとは全く別の、「多額の開業資金」も、「特殊な技能」も、「綿密な事業計画」もいらない「しょぼい起業」という新しい考え方と、その方法」(p3)を示してくれる。ターゲットとする読者は、朝定時に起きて、満員電車に乗って通勤して、お客や上司に怒られたりするのが嫌な人/嫌になった人や体を壊してしまった人たちのようだが、逆に私のような「いわゆるサラリーマン」こそ読んでみるのが良いと思う。
昭和時代の高度成長期やバブル期のような「がんばるサラリーマン」の世界でも、ビジネススクールで学んだMBAホルダーが話すような経営戦略の世界とも無縁の、ゆるい起業、働き方、考え方が緩く書かれている。
自らの経験をもとにした「しょぼい起業」のノウハウは興味深い。いつもやっている作業をお金に換える「生活の資本化」、既に今持っているものを使ってお金を稼ぐ「資産の資本化」、「計画ありきよりも、人脈や環境からできることを事業化」、「広告宣伝費は自分の愛想と足で賄う」などなど、既定の枠組みの囚われる自分の思考スコープの狭さに気づかされる。
そして、私のようなおじさん世代が気づくべきは、その底流に流れる昨今の若い世代の考え方だろう。「好きなことでバリバリ稼ぐか、楽なことをボチボチやるかのどちらかしかないのです。いずれにせよ、気持ちが良い(=ノンストレスな)環境でないと人は働かない時代になったのです」「人に働いてもらうときは、それが雇用であれ、協力者であれ、その人がやりたいことをやってもらうのがいちばんです。居心地の良い空間でやりたいことをやらせてくれるなら人はいっぱい来ます」(p95)。こうしたコメントに対する賛否はひとそれぞれだろう。ただ、若い社員と話していて思うのは、こうした気質が理解できないと、おじさんに残された道は同世代同士、居酒屋で愚痴を言いあうぐらいしかない。
正直、この本読んで、しょぼい起業で生きていける人(特に若者)がどれだけいるのかははなはだ疑問(緩く書いてあるがこれを本当に実践できる人がどれだけいるのか?)だし、自分の子供にこの本やこの本の生き方を進めるかと言えば、絶対そうはならない。だが私にとっての本書の価値は、若手社員と呼ばれた時代は先輩世代の「古さ」に毒づいていた私も、完全に毒づかれる世代になっていることに今更のように気づかされたことにつきる。
【目次】
はじめに
第1章 もう、嫌な仕事をするのはやめよう
第2章 「しょぼい起業」をはじめてみよう
第3章 「しょぼい店舗」を開いてみよう
第4章 「協力者」を集めよう
第5章 しょぼい店舗を流行らせよう
第6章 「しょぼい起業」実例集
pha×えらいてんちょう対談 「お金」に執着しない生き方
借金玉×えらいてんちょう対談 草むしりから始めるしょぼい起業
おわりに