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実に面白い>「バッタを倒しにアフリカへ」前野 ウルド 浩太郎

2021年11月17日 | ブックレビュー

 
 先日TBSラジオでこの本の事を知り(「荻上チキ Session」だったか「たまむすび」だったか)、興味を持って読んでみましたが凄く面白かったです。

 作者の前野浩太郎さんは、この本のおかげで今では「バッタ博士」として有名なようですが、私はまったく知りませんでした。表紙の写真では仮装してますので、遊び半分でアフリカに行ったのではないかと思われるでしょうが、実に真面目で熱心な昆虫学者の方です。

 元々子供の頃に「ファーブル昆虫記」を読んで感銘を受け、「昆虫学者になる!」と思いたち、実際博士号を取得してその夢をとりあえずかなえたとはいえるものの、「昆虫学者ではメシが食えない」と悟ってアフリカに渡ったのが31歳の春。

 バッタやイナゴの大群が畑を襲って農作物に甚大な被害を与えるという話は聞いたことがありますが、この人が研究しようと思ったのがそのものズバリの「サバクトビバッタ」という虫。その生態を観察して研究し、効率よく防除する方法を編み出せれば、農作物の被害を防いで食物の生産性は上がり、農薬の使用量も抑えられると考えたわけです。

 その現地アフリカに腰を据えて研究に携わった学者はいないというところに目をつけて単身出かけたのがこの人。しかし、バッタによる被害のない日本では誰もその研究に注目してくれず、無給のポスドクとしては人々の注目を集めて研究費を確保する必要に迫られたため、わざとこういう格好をしてアピールしてきたことから誤解や中傷を受ける事も多いとか。

 この人はアフリカのモーリタニアという国の研究所に常駐してバッタの研究にいそしんだものの、現地の気候が不安定なためバッタの大群には遭遇できない年もあり、研究費は無くなるし、生活環境は過酷だし、かなり苦労もされてます。

 素人からすると、「バッタが来るなら殺虫剤撒けば?」と思うのですが、何しろ相手は恐ろしいほどの大群で100kmも飛んで移動してくるため、どこに出没するかもわからないと。その情報を得るため全国に研究者のネットワークが張り巡らされてはいるものの、農薬の撒けない地区もあったり、決して効率的な作業ではありません。

 しかし、そういう環境でも地元の方々から助手やドライバーを確保し、現地の生活様式にも溶け込んで、フィールドワークをしつつ日々の研究活動の様子を面白く紹介しているという良書です。今はこの本が出版されて4年以上経っており、売り上げはなんと20万部突破したそうで、今だから「売れてよかったね~。」とは思えるものの、発売直後に読んでたら「この人大丈夫か?」とか思った事でしょう。

 この人の素晴らしいのは、そのバッタの生態研究から、夜間に一斉に交尾をするという繁殖行動を突き止め、一気に駆除できる必殺技を編み出したということ。この本ではまだ観察行動の報告なのですが、今年その必殺技の論文を発表し表彰もされ、いよいよ研究が実を結んだようです。

 アフリカでの生活は、お金も無ければ言葉のわからない中で様々な苦労があったと思われますが、そこを楽しく読ませてくれるという本当にタフな人だと思います。本がヒットして十分儲かって来たとは思いますが、この人は応援したいですね。光文社新書で買えますので、関心を持った方は是非お読み下さい。新書なのでお手軽ですし。

 何しろ日本から飛行機でモーリタニアに行くだけで数十万円かかるらしいので、この人には稼いで貰わねばなりません。今年読んだ本の中で一番面白かったです。お薦めです。