これは新しい本でハルキ文庫から今年の8月に発売されたもの。タイトルだけ見るとなんのこっちゃわかりませんが、帯には「幕末海軍から見た佐幕派激闘史として出色のスケールを持つ傑作である。」ということで、主役はほぼ開陽丸。開陽丸が何かわからない人は、さらに「なんのこっちゃ」かもしれません。
人物としては榎本武揚、澤太郎左衛門が中心とはなりますが、物語の始まりが鳥羽伏見で幕府軍が初戦敗退し慶喜がトンズラするところからですので、これらの人物がそもそもどういう生い立ちであったかという詳細はありません。
上田秀人というと、私は奥右筆秘帳シリーズが大好きで最新刊が出るたびにハラハラしながら、時にはモリッとしながら読んでました(?)。その作者による幕末物ということであれば、これは読まねばならんということですぐ買ったと。
感想はというと、さすが上田秀人で特に登場人物の会話部分は映像が浮かんでくるように生き生きしてて面白かったです。勝海舟の描き方も王道といえばそうですが、佐々木譲の「武揚伝」のような悪役にはしておらず、林隆三でも松方弘樹でも武田鉄矢でもオッケーな感じ。(なのか?)
ほぼ主役の開陽丸についても、悪天候で座礁してしまうのは史実通りですが、そこに至るまでの傷み方とちゃんと修理できないもどかしさはこれまで読んだものの中で一番わかりやすかったかも。
そういう風に面白い事は面白いのですが、さすがに全部で327ページなので江戸から出て行って函館まで行く間の戦いの詳細や、函館での戦いも私のような幕末オタクには物足らない部分はあります。土方歳三も出てきますし大鳥圭介もいるし永井尚志もいますし、これがドラマなら「ワシらのセリフ増やせや。」と役者さんが文句言いそうなレベル。
とはいえ、面白かったのは間違いないです。榎本武揚は大河ドラマの主役にもなりそうなものですが、なかなかそういう話はないですね。とはいえ、この人が出てくる小説は佐々木譲の「武揚伝」、司馬遼太郎の「燃えよ剣」、童門冬二の「小説 榎本武揚」など色々ありましたが「抱かれたい幕末維新の人物」のランキング入りする雰囲気はないので、エリートといえる人であって破天荒なところがないのがドラマにはしにくいのでしょうか。そういえば、このこの小説もお色気シーンは一切なかったです。奥右筆秘帳シリーズはその辺が満載でしたけどね。
なんにしてもすぐ読める話なのでこれはお勧めです。ドラマにするんだと榎本武揚は誰がいいでしょうね。