佐藤春夫の「退屈読本」所収の「好き友」を思い出す。
あらすじは・・・
「友達を5、6人あげよ」
十二歳の私(佐藤春夫)は先生から質問される。
雨の日の体操の時間、
いつもなら一番好きな歴史上の人物は誰だとか楽しい時間のはずなのに、
その日はこの質問によって試験の日のように緊張した空気に包まれる。
友達がひとりもいない私は困る。ふだんそのことを不幸に思っていたわけではない私だが、
答えることができないことを淋しく思う。
先生に向かってきっぱりと友達はひとりもいないと書くこともできず、
考えた末、自分の座席周辺4、5人の名を書く。
自由時間になると重大な事件のように、俺はお前のことを書いたと口々に言い合っていたが、
私に向かってそんなことを言いかけた者はひとりもいない。
いつものように黙っている私に後ろの席の少年が話しかける。
「あんた、誰書いたんな?」
「おれはあんたの名を書いたんじゃ」
その答えとともに、彼のはしゃいでいた顔は一刹那にがらりと変わる。
しばらく無言の後、「こらへとおくれよ。なう、わあきやあんたをわすれたあつた。
わあきやあ、ぎやうさんつれがあるさか」
二十年経った今でも彼の言葉をそっくり田舎訛りのまま思い出す。
私は彼の正直な一言に無限の友情を見出す。
ひょっとすると、これが私のうけた第一の友情ではないかとさえ思われるくらいに・・・
というものである。
無限の友情を思う私もいれば、残酷さや子供らしさを思う方、様々であろう。
私はさみしさを味わい、一読で忘れられない物語となる。
私のつたない要約では伝わらないであろうから、ぜひ原文をご拝読いただけたらと思う。
「退屈読本」(冨山房百科文庫)私がこの書籍と出会ったのは、人からの紹介である。
私もここに「好き友」を紹介する。
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