第53話 透明人間

2005年04月19日 23時57分40秒 | Weblog

「結婚してからずっと主人が私の名前を呼んでくれないので…」
午後からの授業の用意をしながら、耳できくテレビは主婦の悩み相談の。
「…離婚を考えています」
え?我が耳を疑い、目を見張る。
50代の女性が名前を呼んでくれないというだけで離婚?これから先どうやって生きていくの??
その決意に驚きしかなかった私は、当時、大学生。
今なら、わかる。女性のかなしみが離婚を決心するまでに至ることを…。 

我が課に、昔懐かしい訪問者がやってくる。
先輩ひとりひとりあだ名で呼びかけ、肩をたたいて励ましていくが、私の番でスキップ。
あれ?テレビだったらこんな時…
「紹介するわ。あの方は○○さん。この娘、今度うちに入社してきた子」と紹介があって、
「私、とーまと申します。宜しくお願いします」となるはずでは…と思う間に、訪問者は去った。
9年経った今も、話を交わしたことはない。あの頃はあの頃のまま、固まったまま。

課ではあだ名で呼ばれたことはない。呼ばれている人もいる。
他部署の私の同期は先輩からあだ名で呼ばれている。やはり、羨ましい。
そんなこと? そう、そんなことが…。
あだ名でなくてもいい。就職して私は「名前が呼ばれない」ということを知る。
「嫌いな人とは口をきかない」と公言する方の話は、私のひとつ上の先輩までを交えて終わる。
また、また、また、また、雑談は私にまで至らない。
法則に従うなら、嫌いということなのだろうか…。
名前でなくてもいい。せめてみなさんと呼びかけてもらえれば、
その対象の中に私も入っていると思えるのに…。

呼ばれなくとも、情報は自分の耳で取り入れていかなければならない。
主語にこだわっている場合ではない。職場では「謹聴」しておかなければないない。  つづく。

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第52話 喉につかえた骨

2005年04月18日 23時52分41秒 | Weblog

 この世に神様なんているのでしょうか?

初めて自分の中のつぶやきを文字にして、驚きます。
なんて…マイナス思考なんだろうと。だろうけれど、
ずっとその答えを探してきたような気がします。今年で働き始めて10年目になります。

好き嫌い、嫉妬、道徳的な香り、先入観、掌握、執着、反射、笑い声、評価、時の力の中で、
私自身の弱さを思い知りました。
愛し愛されたい、ということ。
人間関係、ということ。
真実は一つではない、ということ。
計れない、ということ。
心と体、ということ。
誰もが何かを抱えて生きている、ということ。
自分の弱さを見つめて、人の弱さを知りました。

私でない誰かが私とまったく同じ立場、同じ気持ちになることはできないのだ
と思うこともあれば、
だから私という人間はたった一人の人間なのだといえるのではないか?
と思えることもあります。
あなたでない私がまったく同じ立場、同じ気持ちになることはできないと思うけれど、
もしかしたら私が経験した分だけ、あなたと共感できるかもしれないと思いがひろがります。

わだかまりはきっとマイナスの形。
ちゃんと笑えるように、見苦しくてもいい、吐きだしてみようと思います。   つづく。

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第51話 太陽に負けた北風

2005年04月15日 23時46分06秒 | 創る(フィクション・ノンフィクション)

太陽に 負けた北風は あれくるいました。ひゅ~ ひゅ~
街中の人たちが 北風に会うと かけあしで逃げていきます。
街中の 窓がぴしゃり 扉がばたん
北風は とくいになって 大笑い。ぴゅ~ ぴゅ~

そこへ 雲とおしゃべりを終えた 太陽が やってきました。
すると、街中の人たちが いっせいに窓をあけ 太陽にむかって 微笑みかけます。
北風と いっしょに 笑ってくれる人は ひとりもいません。
最初は おもしろがっていた北風も だんだん さびしくなってきました。
北風は 太陽にほほえみかける 街の人たちをみて 逃げだしました。

北風は 街のはずれの 丘の上まで やってきました。
丘の上には おおきな木が 一本 立っていました。
やあ 北風くん こんにちは
北風は 返事をしませんでした。
そればかりか ようし こいつの葉っぱという葉っぱを 全部 吹き飛ばしてやるぞ
北風は いきおいをつけて 木にぶつかっていきます。

ざわざわざわ~
どうしたんだい? きたかぜくん
木が 北風を 見つめます。
きみには ぼくが みえるのかい?
もちろん みえるよ。木が ほほえみかけます。
それにね きみにであうと ぼくは うたをうたうことができるんだ。
遊びにきてくれて ありがとう。
さわさわさわ~
北風は うれしく なりました。
照れながら 木に こんにちは といいました。
北風と木は いっしょに 笑いあいました。 
ふたりは その日から なかよしの友達に なりました。

木は いつも 北風の話を いつも真剣に きいてくれます。
ある日 遠くに沈む夕陽を 木とふたりでみていると 北風は 涙があふれてきました。
びゅ~ びゅ~
北風くん どうしたんだい?
太陽さんは あかるくて つよくて あたたかくて みんなに すかれている。
きみだってそうさ。ぼくなんか いなくても 毎日 小鳥くんやリスくんたちが 遊びにくる。
それなのに ぼくは ぼくは びゅ~びゅ~
きたかぜくん きみは ぼくにはない すばらしい ちからが あるんだ。
ぼくは きみのように どこでもすきなところへ とんでいけない。
ぼくは きみのように せかいじゅうのみんなに あいにいけない。
北風くん ぼくは きみのことが大好きなんだよ。
北風は 涙をふいて 笑いました。
木くん きみは ぼくにはない すばらしい ちからが あるんだ。
ぼくは きみのように 世界中みんなの 目印にはなれない。
ぼくは きみのように どっしりと みんなを支えることができない。
木くん ぼくも きみのことが大好きなんだよ。
北風くん ありがとう。
木くん ありがとう。
この夜 ふたりは 前よりも もっと なかよしに なりました。

そんな ある日のこと 太陽さんは ごきげんななめ
というのも 約束した時間に 雲さんが まったくあらわれず カンカンに おこっていたのです。 
街中のみんなが 下をむいて 歩いています。

よし ぼくたちの出番だ。
北風が やさしく こどもたちに ささやきます。
ふ~ ふ~ こっち こっち。
こどもたちは あ~きもちいい~と おおよろこび。
こどもたちが 北風を おいかけてきます。
北風は こどもたちを 木に あつめました。
すると 木は 手を 空にむかって おおきく ひろげます。
わ~ ここに おおきな ひかげが あるぞ 
こどもたちの笑顔をみた 木と北風も おおよろこび。
ふたりは こどもたちのために うたをうたいました。

こどもたちが かえったあと 北風が木に ささやきました。
こんど 太陽さんもいっしょに さんにんで あそばないか?
そいつはいいかんがえだね。
さわさわさわ~
ふたりは こえを あげて わらいあいました。

※勝手に「北風と太陽」のつづきを考えてみた。はぢめてのえほん、
 ふと、書きたくなって書いたものの、木くんの名前が木くんて…
 今夜はここまでにして、 もっと絵本(絵はないけど)らしくならないか、今後挑戦してみます。

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第50話 社会人大博覧会

2005年04月14日 23時58分09秒 | Weblog

大学4年の春、就職活動、氷河期、自己PRがうまく出来ず苦労した。

手書きのハガキで資料請求するも、資料が届かず、
電話で会社説明会の日程をきくも、まだ決定していないとの返事。
私は就職活動の為の学校に通っていた。
同じ教室には関関同立(関西の有名私大)に通う人たちもいた。
会話の中で、どうやら資料が届いていないのは…私だけ?だと知る。
その頃、同じ大学に通う友人が事務のバイトをしていた。
「私、電話応対してるんだけど国公立と有名私大だけ説明会の日程を伝えるように言われてるよ」
嘘か誠かわからないけれど、まことしやかに私の中で裏と表があった瞬間。
加えて、大学院進学を考えている京大生にはうんざりするほどのDMが勝手に届いているときく。
学歴社会を恨む気持ちはなかった。4年前、私は頑張らなかったのだから…
当然の結果ともいえる。ただこの現実が4年前に既に決定していたことが、かなしかった。

自己PR、履歴書を書くため用に過ごしてきたわけではないので焦る困る。
例にあるようにボランティアやクラブ活動での大会進出、人とは違う何か…とは何か…。
昔から賞といえば、皆勤賞。なぜか私は大学でも授業をサボることができなかった。
当然、出席。アルバイトも4年、継続。書くには地味だった。
遊べない自分を魅力がないと思い、真面目などはやらない、真面目だと言われることが嫌だった。
真摯を避け、探し回った長所だけをきりとった私の紹介文は抽象語ばかり。うそっぽくぼやける。
やり直し、自分の足跡を丁寧に何度も辿り、ようやく完成。
事実(具体的な言葉)だから少しは輪郭がはっきりしてきたような気がする。
正直で、気恥ずかしくもない。目をひかなくてもいい…誠実に、私でいくことに決めた。

氷河期、説明会でもとくとくと社会の厳しさばかりをぶつけられ、
「人を雇うくらいなら機械を買う方が安い」と言う。
抵抗力があれば、言い方はあんなだけどそれでもはいあがってくる私を待っているのかなと思える。
だが弱まっている時にきく言葉は突き刺さる。就職活動中に自信喪失、活動は停滞、
外交的になれず求人欄の傾向を見、対策と称して内向的に簿記を勉強し始めることにした。
その後の履歴書資格欄の最後にひとつ、簿記3級と足した。
原付みたいな資格じゃ無理かな…と諦めかけていたクリスマス、内定通知が届いた。
4月入社式、配属先は経理課だった。就職は縁なり。

今思えばもっと就職活動を楽しめばよかった…(と今だから思えるのか…)
思い残したことがあるとすれば、もっと、もっと、「社会見学」しておけばよかったなと思う。
学生という特権で、はたらくおじさんをライブで見ることができ、業界の説明までしていただける。
企業から選んでもらうことに気負いすぎていたが、私からも先輩方を見ることができたのだから。
中でも記憶に残るのは、NHKの説明会。アナウンサーの山根基世さんの講演!素敵!!
講演後「どなたか質問のある方はいらっしゃいませんか?」と司会の方が見渡す。
「次で最後の質問にしたいと思います」
勇気を出して手をあげた。学校名と名前を名乗り、初めて持つマイクと声を震わせながら、
「山根さんに質問なんですが、インタビューの時、相手の方の話をききだすための秘訣を教えて下さい」と問うた。
質問も自己PRになるらしいが、私は就職とまったく関係のない質問をし、その答えに満足して帰った。
「相手の懐に飛び込むためには、こちらが品よく脱ぐということです」
10年経った今も、忘れられない。企業は人なり。

講演会あらし?の思い出を懐かしむ。

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第1話 履歴書

2005年04月13日 23時55分52秒 | Weblog

就職活動以来、久しぶりに履歴書を書きました。演劇ワークショップの申込みに必要だったのです。

 最初は氏名、見られることに自意識過剰、字がぎくしゃくしています。ため息。
書き始めにしていきなりの最高潮な緊張に、がっかりした分だけ肩の力がやや抜けます。
が、まだ諦めきれず、一文字一文字、息をとめながらの楷書体。…ため息。
学歴、もうすぐには入学・卒業年が思い出せないので、早見表にて確認要。
力を込めて、出身校名を略さずしたためながら、もしもこの時女子校に行かなかったら?
…案外拡がらない想像も半端なままに、入社して職歴まで完了。以上。

 続いての項目は「スポーツ・クラブ活動・文化活動など」
記入例:ボート部(高校・大学)高校総合体育大会5位入賞…すごい!
私の場合、遥か昔のクラブ活動を書くのもな~
劇団カプチーノって…文化活動に入るかな?いいよね?そうしよう。

「趣味:特技」記入例:趣味;アウトドア、特技;書道三段…文武両道か~やるな~
私の趣味;演劇観劇、特技は…これといって…あ、あった!お茶くみ?
入社以来お茶をくむときは毎回「おいしくなりますように…」と
いつも欠かさず願をかけ、心を込めて入れて参りました。
これしか…特別な技能もないので、胸をはって答えられることにしました。
 
「得意な科目」…これまたぬきんでてよかった科目というものもなく、社会人の国語も変だし、
家庭科なんてうそもついてはいけないし…科目をパスして、
 次は「自覚している性格」自覚してるって…ちょっと面白いような。
記入例:失うことのないやる気と笑顔…略…ちょっと私には恥ずかしすぎて書けない…。
自覚している性格の地味さと自覚しすぎている性格のマイナスを却下し、
演劇のワークショップ用だから…と年中夢中と書いておきました。
果たしてこれはプラスなのか、後は読み手に委ねます。
 
志望動機は素直に熱が入り、その下の本人希望記入欄では、受講したいです。宜しくお願いします。と口語体、
後半やや冷静さを欠いた嘆願書のような履歴書を書き終え、脱力。

 大人になってから書く履歴書って、案外、面白いかも!

 みなさんなら、どんな風に自己紹介されますか?

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第2話 証明写真

2005年04月12日 23時55分11秒 | Weblog

 久しぶりに証明写真BOX?(すみません正式なお名前がわかりません)に入った。
おそるおそるカーテンを開け、私が中に入るやいなや、カーテンが後ろでシャっと閉まる。
早っ、しかも隙間なく閉じる、へぇ~、私は内側からもう一度開け、閉まる様子を確認、
これはなんと強力な…磁石?お~昔のと比べてずいぶん進化しているな~写真もデジタルか…

 画面の指示に従って操作する。履歴書・証明書用サイズを選択、椅子の高さをあわせ、
寒いけれど上着を脱ぎ、いよいよ撮影開始、欲が出る。
テレビで写る時、ス~ッと息をはくといいっていってたな~「撮影します。3,2,1」カシャ。
「撮影します」え、もう一回?はい、ス~。カシャ。
「選んで下さい」 デカっ (見やすいようにかなり大顔面)…ん~どちらかというとこっちかな?
こちらを選んで上着をきていると、「ほんとうによろしいですか?」の最終確認の横に、
「もう一度やりなおす」 が!
へ?もう一回やり直せるの-!いいの?いいの?すごい!
最新技術の進歩に感激し、立ち上がりかけていた腰を再びおろす。
やり直しは、サイズの選択なし、椅子の高さもそのまま、撮影開始、3,2,1、あっさりカシャ。
でてきた大顔面の横には「プリントアウトします」のみ。げ!
これなら前のがよかった-!うそっ、もう前のに戻るボタンはないの?……ない。
狭く四角い空間の中で、もう一度やりなおせる夢にかけた自分の選択を後悔、人生に放心、瞬く間に、
できあがった模様。デジタル写真、まさに驚きの仕上がり!
慌てて臨んだ2度目の撮影、ここまでなら写らないだろうと思って上着を完全に脱がず、
肩を出して写ったつもりが、中途半端に脱いだ上着までくっきり鮮明に…これ、700円也。

もう一度やり直す気にはならず、なぜか縦長長方形サイズを選んだ私の履歴書用写真は短め正方形に…。
これ、6枚セット。今手元に、遠山の金さんばりの写真5枚、
及び、今回添付できなかった(上着つき上腕)部分が残っている。
あぁ…横着者の履歴が…しかと証明されている。…すごい。

※この話は過去に劇団カプチーノHPに掲載されていたものです。

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第3話 ゆく歳くる歳

2005年04月11日 22時52分33秒 | Weblog

1月23日、今年の誕生日は、日曜日!
22日もちょうど土曜休暇にあたっています。
ずいぶん前から何か劇的な事が起きたらいいな~と期待し、待ちわびていましたが、
2週間前になっても一向にその気配なし…仕方がありません。
覚悟を決め、ここは自分の誕生日を自分でプロデュースしなければなりません。
企画その1:以前から行きたいと思っていたあの場所で…心を見つめ直す一人旅。
ず~っと何かを待ち続け、何事もなくここまできた前例がありますから、
備えあれば憂いなし、この企画なら一人で過ごす誕生日でも納得できる!級。
密かにあたためていました。が、なんと冬期は雪の為、閉鎖中。
へ?衝・撃的でした。
この時点からの練り直し、それでもなんとか
企画その2:以前から気になっていたあの場所で降り積もりゆく雪をみて浄化する旅。
こちらにかけてみたものの、予約が既にいっぱいとのこと。しぼみました。
半狂乱に新たな企画を探すも、あきらめかけた誕生日目前、
母が「日曜、康広が帰ってきてくれるって」と。
康広は、就職の為、今年家を出た私の弟です。土日休めない仕事場での初めての日曜休暇…
あの子どうやって日曜の休みをとったのかしら…自然と笑みがこぼれます。

久しぶりに弟が帰ってきて、母はいつもより若くなって、父もいつもより笑っています。
みんな弟と話すことに気持ちが焦って勇み足、距離があった分、照れて…
照れくささをかきけすかのように大きな声で笑い話…久しぶりのいつもの日曜日となりました。
ひとつ屋根の下、おふくろの味に、娘の味を混ぜて、家族四人揃ってご飯を食べました。

企画その3度目の正直、私のお誕生日は私の母の日。
「お父さん、お母さん、私を生んでくれてありがとう」
いまだ両親にあてた手紙を読むチャンスをつかめない娘、その日の食卓でさりげなく伝えておきました。

ゆく歳にくる歳を思いつつ、23時、誕生時、また一つ大人になりました?

※この話は過去に劇団カプチーノHPに掲載されていたものです。

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第5話  モスラ~夜、モスラ~♪

2005年04月10日 20時29分48秒 | Weblog

これは、私が一人暮らしをしていた時のこと。
残業を終え、家に帰り、ほっと一息つこうとした瞬間、息を飲み込んだ。
! 蛾。
大至急、弟に電話。

「今、家にな、蛾がおんねん来て!…いや、でけへん、私には無理。
面倒臭いってすぐそこやん…なあ、どうやってだすん?…違うねんて、普通の蛾じゃないねん!!
めちゃくちゃでっかいねんて!!!ちょっと待って、ちょっ」
……だめだ、触れない。窓をあけて、ここから出て行ってもらおう…
「もしもし、全然、蛾が動いてくれへんねんけど、どしたらいい?…ちょ」
誘導しやな…電気、つけたり消したり、窓の方、手のなる方へ…
と、突然、蛾が 私目がけて飛んできた。お、おなかがっ! めちゃでかい~「キャー」
…はっ、やっと出て行ってくれた。ほっと一息ついてすぐ、再び心臓が飛び出しそうになる。

今度はドアをドンドン叩く音。
「もしもし、なんか私の家のドア、ドンドン叩く人がおるねん すぐ来て!
まだ叩いてる~ちょっと真剣怖い。どうしよう…」(注:のぞき窓がないドアだった)
誰?こんな時間に…怖い。携帯がなる。弟だ!「出てこいって。警察や…」

ドアをあけると、警官が二人立っていた。
「いるんなら、ドアを叩いてるのにどうしてすぐ出てこないんだ」いきなり怒鳴られた。
「すみません。どなたとも名乗らないし、こんな時間にドアを叩く音だけで、私、一人で怖くて…」
「あのね、普通でてくるでしょう?…云々」 すみませんと頭を下げる。
(本当に実家のすぐそばだったので) 心配で駆けつけた父も母も弟も謝っている。かたじけなし。
「女性の悲鳴が聞こえたとの通報を受けてね、あなたですか?」 悲鳴…
!! 「はい…え?どうして…あの~家に入った蛾を外に出そうと試みた時に、
蛾が 私目がけて飛んできて…それで一度だけ悲鳴を…
大きな悲鳴? 蛾を出そうとして、あけた窓のそばであげてしまいましたから…」
「蛾? あのね、こっちは忙しいんだから…かんぬん」
警官の一人が怒って、先に帰ってしまう。
私自身が蛾が出た助けてほしいと通報したのなら怒られても当然な気もするが…
残った警官が「誰が通報したかは保護の為いえないんですよ。
それでは、仕事ですから…「名前は?」「年齢は?」 面目なし。
私、被害者じゃないの? 迷惑をかけたとして加害者なの? 蛾で調書…なさけなし。
一家で警官に謝罪し、一件落着となった。

が、私は腑に落ちなかった。警察はご近所への影響を考慮し「警察だ」と名乗らないそうだ。
そこまでは理解できる。ただそこまで怒ることなのだろうか…
果たして、女性が夜遅く、激しくドアを叩かれて「は~い」といって気軽に出て行けるのか…。
男性の力強さで叩くドアの音に感じた身の恐怖と怒る警官、
女性と男性の違いを感じずにはいられなかった。
「蛾ですか…よかった何事もなくて…」
そんな一言に私は救われたであろうに…。

※この話は過去に劇団カプチーノHPに掲載されたものです。

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第6話 ちぃちゃん

2005年04月09日 22時44分00秒 | Weblog

朝、ちぃちゃんと同じバスに乗る。
バスを待つ間、ちぃちゃんはちっともじっとしていない。すぐどこかにいってしまう。
ちぃちゃんの代わりに、おばちゃん(ちぃちゃんのママ)が並んでいる。
おばちゃんはおばちゃんと話している(私ではない)
ちなみに私もおばちゃんだが、残念ながらその輪の中に入る資格をまだ持ちあわせていない。
私は耳があまりいい方ではないのに加え、立ち聞きしてはいけないとどこかで思っているのか
大阪のおばちゃん達の会話はいつもうまくききとれない。
なのに、突如くっきり、「うちは あの子残して 死なれへんからな~」
ちぃちゃんのおばちゃんの声が心にはっと飛び込んできて、そのまま沈んでいく。

バスが来ると同時に、ちぃちゃんが走って戻ってきた。
ちぃちゃんは私よりたぶん年上。
ショートカットに化粧っけのない顔をして、顔の近くでずっと左手を振っている。
休むことなく、ずっと。最初はバスから手を振っているのかと思っていたが、
その先には誰もいなかった…。
喜んで真っ先にバスに乗るちぃちゃんの背中に向かって、おばちゃんが、
いや、ちぃちゃんのお母さんが見送る。
「ちゃんと、いつもの場所で降りるねんで!いってらっしゃい!!」 毎朝。

いつも一番先頭の席に座るちぃちゃんと私は同じ場所で降りる。
ちぃちゃんと一緒の時は、私が降車ボタンを押すことはない。
ちぃちゃんは降りなければいけないひとつ手前のバス停に停まると、
発車する前にはもうボタンを押してくれている。
そしてバス停につくと、一番に降りてどこかへ走り行く。
きっとおばさんは何度も何度もちぃちゃんと一緒にこの道を通ったに違いない。
そしてきっとおばさんは今でもちぃちゃんが帰ってくるまで、
どこか小さく落ち着かずに過ごしているのだろう。
窓の外に、誰かちぃちゃんの手に応える人がいてくれたらいいなと思う。

 言葉はどこからはき出されたかで重さが違ってくる。
あの日、つぶやいてしまったかなしみを最後また自分で笑い飛ばしたおばちゃんの言葉が
今も私の中で沈んだまま残っている。

※この話は過去に劇団カプチーノHPに掲載されていたものです。
※本日より勇気を出してすべてのお話にコメント受付を開始しております?

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第4話 正義の見方

2005年04月08日 23時46分07秒 | Weblog

病院の待合室、待ち時間の長さに耐えかね、
棚に残るぼろぼろになった主婦向け雑誌を手にとる。
アイデア収納名人、貯まる節約テク、らくらく家事の裏ワザ…術。主婦のすごさを感嘆するも、
いまだ名前呼ばれず。何気なくさらに読み進んだ巻末投稿ページは、子どものつぶやき特集。
「スーパーはごはんのおうち」可愛いな~
昔のおばあちゃんの写真を見て「おばあちゃん、顔とりかえたの?」ほ~
一緒にお風呂に入って「おばあちゃんのおっぱい、くさっちゃったの~」おもしろ~
「お父さんはまだ髪の毛、はえてこないんだね」そうきましたか…やるな~
声をたてず下向きに笑っていると(怖い)、次の投稿、
私が落ち込んでいるとき、風呂場で「一体、何の為に生きてるんだろう…」
ってつぶやいたら、息子が「地球の為に生きているんだよ!」って。
おっと、ふいに油断していたので涙が…急いで上向き、私も気持ちはママといっしょ。
そっか…私って地球の為に生きているんだね…。
そう思うと、勇気が出てきた。思い出しては、今も元気を出している。
震えた。子どもって、すごい。スケール、でっかい。
子どものつぶやきにみごとやられたその後、朝日新聞に掲載中の「あのね」は私のお気に入り。
毎週金曜、私は子どもたちからキラキラを貰っている。

※この文章は過去に劇団カプチーノ掲示板に掲載されていたものです。

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