The Rest Room of ISO Management
ISO休戦
PM2.5に関する説明会への参加
先週報告した花見の後に受講した“中国におけるPM2.5に関する説明会”の内容概要を紹介したい。
主催は京都商工会議所の京商ECOサロンによる。場所は四条烏丸の京都産業会館。内容は次の通り。
(1)“中国PM2.5の現状と対応”藤田 宏志 氏(環境省水・大気局大気環境課 課長補佐)
(2)“PM2.5による健康影響”島 正之 氏(兵庫医科大学公衆衛生学 主任教授)
まずは、藤田氏の“中国PM2.5の現状と対応”の報告からである。中国・北京のPM2.5は、北京米国大使館の観測結果公表で話題になった。2013年1月の観測結果から日米の環境基準35μg/m3を達成したのは5日間のみであったという。
“晴天による放射冷却現象が起き、大気汚染物質を含む冷たい空気が地上付近にたまりやすくなっていた気象条件下において、①自動車の排ガス、②集中暖房の石炭使用、③工場の排煙等による大量の微粒子物質が滞留し、大気汚染の発生”となるのがメカニズムであるという。ここで2012年1月北京市発表の大気汚染物質は、自動車由来:22%,発電所,ボイラー等の石炭燃焼:17%,粉じん:16%,自動車や家具塗装等の工業噴射揮発:16%,農村の養殖,わらの焼却:5%,他都市(天津,河北省)からの越境汚染:25% であるということだ。
今年2014年の汚染について、北京市自身は“他所からの越境汚染”と言ってはいるが、北京、天津、河北、河南、山東、上海、江蘇、安徽、湖北、湖南省など143万平方キロという広大な地域での面状の汚染であり、工場の生産停止、建設工事の中止、交通事故多発、高速道路・空港の閉鎖等の深刻で大きな影響があり、社会的なダメージが大きかったようだ。また、この大気汚染状況のデータに関しては、米国大使館以外にもネット上には中国側からもあり、日本大使館も開設していて、多数のサイトがあるという。
私の感触では、中国での事象は何事も甚大な規模となるようで、日本の公害は“点と線”的なイメージであるが、中国の汚染は広大な“面”での発生であり、被害者もそこから逃れるには容易なことではないだろうと想像できる。それだけに、人的被害も甚大であると思われるが、大気汚染による一般市民の健康被害の実情が語られることは、非常に少ない。中国人には大気汚染その他の公害耐性が旺盛なのであろうか。
こうした状況に地元北京市は、2013年10月より、大気汚染予報を毎日発出し、ネットはもとよりテレビ、携帯等で公表しており、4段階の警報を設定している、とのこと。例えば、今後3日間厳重汚染が継続すると言う“1級警報”となった場合には、幼稚園から高校までの休校、土木・解体工事の停止、土砂運搬車両等粉じん要因の車両の運行停止、自動車のナンバー偶数・奇数での規制があるようになったとのこと。
これに合わせて、中国国務院も大気汚染防止行動計画の10項目(十条措置)を発表してはいるとあったが、具体的にどのようにするかは説明はなかった。またPM2.5の基準値も、日本では年平均値15μg/m3、日平均35μg/m3であり、米国は年平均値12μg/m3、日平均35μg/m3であるのに対し、中国では年平均値35μg/m3、日平均75μg/m3と高めに設定されている。
これに対し、日本政府は①国民の安全・安心の確保、②環境基準の達成、③アジア地域における清浄な大気の共有、を目標に取組むべく活動しているとのことである。しかしながら、海を渡って来る汚染よりは、国内の発生源の影響の方が大きいといったことや、大陸での影響を予報することが現状では非常に困難であり、シミュレーション・モデルの構築にこれから取り組まねばならない等の状態のため、直ちには有効な対応が執れる状態ではないという。
そこで、当面は中国在留邦人への対応強化から実施していっている由。即ち、情報提供のためのホームページの立ち上げ。大気汚染の状況や対応についての無料の説明・相談会の開催。日中の都市間の協力推進への支援を考えているようだ。
中国側からは、(本当かどうか不明だが)NOX、SOX、自動車への対策は済んだが、VOCやオフ・ロード車への対策は未だなので、協力要請したいとの申し入れがあると、言うことである。
次に、島氏による“PM2.5による健康影響”の報告があった。島氏の専門は、疫学調査つまり“人々の障害・症状やその分布等から汚染との関連を知る”ことであるとの冒頭の説明であった。
歴史的には、ロンドン・スモッグ事件が1952年12月に起きたのが最初ではないかという。石炭暖房による高濃度二酸化硫黄の発生により、最大1日900人が死亡し、2週間で約4千名の死者(その後の影響を含めると8千名)が発生した。特に、気管支炎による死亡の増加、呼吸器の既往症患者や心疾患のある人への影響が大きかったという。
浮遊粒子状物質Suspended Particulate Matter(SPM)は、大気中に比較的長く浮遊し、呼吸器系に吸入される粒径10μm以下の粒子を言うが、PM2.5は微小粒子状物質と言い、粒径2.5μm以下の微小粒子のことである。呼吸器系の深部まで達し、粒子表面に有害成分が吸収・吸着されていること等から健康への悪影響が懸念される。
呼吸器系への直接的影響は、肺胞内での貪食作用の障害や生理活性物質の放出による炎症反応を起こし、血液中への溶解ににより循環器系への悪影響が考えられ、近年は虚血性心疾患に及ぼす影響があると注目されている。国際がん研究機関IARCは、2013年10月にPM2.5に限ってはいないが大気汚染粒子状物質を発がん性のある物質としてのグループ1と認定している。グループ1には、他にアスベスト、ダイオキシン、放射線、タバコ、アルコール飲料、太陽光、ラドン等113種のものがある。
短期(急性)曝露には、ロンドン・スモッグのような大規模な地域集団対象の調査研究と比較的少人数の疾患・症状調査のパネル研究が行われる。
短期的影響としてPM2.5濃度は12.8μg/m3以上で上昇すると、数日以内に死亡者が1%程度増加する傾向にある。これにはPM2.5に含まれる有害成分を考慮しなくても同じようなダメージであるとされる。PM2.5の増加で、慢性閉塞性肺疾患COPDや呼吸器感染症、喘息による受診・入院が増え、喘息患者の症状も悪化するとされ、また循環器には虚血性心疾患やうっ血性心不全等が増加するとの報告がある。また、脳卒中の発症との関連があるとされる。
長期的影響の慢性曝露も、大規模な地域集団対象の調査研究とハーバードの米国6都市研究のような追跡的コホート研究*が行われているが、潜伏期間があるので分析が困難である。
このハーバードの6都市研究は、約8千人を14~16年間追跡したもので、PM2.5及び硫酸塩濃度と死亡率の関連は強く、特に循環器、呼吸器疾患による死亡とは有意の相関が認められ、PM2.5濃度の改善が全死亡の減少と関連している、とされる。
*分析疫学における手法の1つであり、特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、研究対象となる疾病の発生率を比較することで、要因と疾病発生の関連を調べる観察的研究である。
日本の環境省は、PM2.5濃度の基準を日平均35μg/m3以下とし、70超で“不要不急の外出や屋外での長時間の激しい運動をできるだけ減らす”ように、都道府県等から注意喚起をするようにした。大きく超える場合150μg/m3を超える場合には、米国の大気質指数Air Quality Indexでは“すべての人はあらゆる屋外活動を中止するべき”としている。
しかし、呼吸器疾患、循環器疾患を有する人や乳幼児、高齢者は、個人差が大きく日平均35μg/m3の環境基準より低くても健康影響がみられることがある。
セミナーから得られた知見は以上の通りである。
中国での汚染レベルは、マスコミで大きく取り上げられその悪影響が喧伝されているが、60年代の日本と同程度と思うのが適当で、過剰に反応するのも良くないのではないかとの 感触を得た。勿論、それを放置するのは良いことではない。何故ならば、健常者でない人々への健康への悪影響は、明確だからである。中国側の対応にも問題が多々あるかも知れないが、日本側からの技術的、政策的協力は欠かせないものであろう。
主催は京都商工会議所の京商ECOサロンによる。場所は四条烏丸の京都産業会館。内容は次の通り。
(1)“中国PM2.5の現状と対応”藤田 宏志 氏(環境省水・大気局大気環境課 課長補佐)
(2)“PM2.5による健康影響”島 正之 氏(兵庫医科大学公衆衛生学 主任教授)
まずは、藤田氏の“中国PM2.5の現状と対応”の報告からである。中国・北京のPM2.5は、北京米国大使館の観測結果公表で話題になった。2013年1月の観測結果から日米の環境基準35μg/m3を達成したのは5日間のみであったという。
“晴天による放射冷却現象が起き、大気汚染物質を含む冷たい空気が地上付近にたまりやすくなっていた気象条件下において、①自動車の排ガス、②集中暖房の石炭使用、③工場の排煙等による大量の微粒子物質が滞留し、大気汚染の発生”となるのがメカニズムであるという。ここで2012年1月北京市発表の大気汚染物質は、自動車由来:22%,発電所,ボイラー等の石炭燃焼:17%,粉じん:16%,自動車や家具塗装等の工業噴射揮発:16%,農村の養殖,わらの焼却:5%,他都市(天津,河北省)からの越境汚染:25% であるということだ。
今年2014年の汚染について、北京市自身は“他所からの越境汚染”と言ってはいるが、北京、天津、河北、河南、山東、上海、江蘇、安徽、湖北、湖南省など143万平方キロという広大な地域での面状の汚染であり、工場の生産停止、建設工事の中止、交通事故多発、高速道路・空港の閉鎖等の深刻で大きな影響があり、社会的なダメージが大きかったようだ。また、この大気汚染状況のデータに関しては、米国大使館以外にもネット上には中国側からもあり、日本大使館も開設していて、多数のサイトがあるという。
私の感触では、中国での事象は何事も甚大な規模となるようで、日本の公害は“点と線”的なイメージであるが、中国の汚染は広大な“面”での発生であり、被害者もそこから逃れるには容易なことではないだろうと想像できる。それだけに、人的被害も甚大であると思われるが、大気汚染による一般市民の健康被害の実情が語られることは、非常に少ない。中国人には大気汚染その他の公害耐性が旺盛なのであろうか。
こうした状況に地元北京市は、2013年10月より、大気汚染予報を毎日発出し、ネットはもとよりテレビ、携帯等で公表しており、4段階の警報を設定している、とのこと。例えば、今後3日間厳重汚染が継続すると言う“1級警報”となった場合には、幼稚園から高校までの休校、土木・解体工事の停止、土砂運搬車両等粉じん要因の車両の運行停止、自動車のナンバー偶数・奇数での規制があるようになったとのこと。
これに合わせて、中国国務院も大気汚染防止行動計画の10項目(十条措置)を発表してはいるとあったが、具体的にどのようにするかは説明はなかった。またPM2.5の基準値も、日本では年平均値15μg/m3、日平均35μg/m3であり、米国は年平均値12μg/m3、日平均35μg/m3であるのに対し、中国では年平均値35μg/m3、日平均75μg/m3と高めに設定されている。
これに対し、日本政府は①国民の安全・安心の確保、②環境基準の達成、③アジア地域における清浄な大気の共有、を目標に取組むべく活動しているとのことである。しかしながら、海を渡って来る汚染よりは、国内の発生源の影響の方が大きいといったことや、大陸での影響を予報することが現状では非常に困難であり、シミュレーション・モデルの構築にこれから取り組まねばならない等の状態のため、直ちには有効な対応が執れる状態ではないという。
そこで、当面は中国在留邦人への対応強化から実施していっている由。即ち、情報提供のためのホームページの立ち上げ。大気汚染の状況や対応についての無料の説明・相談会の開催。日中の都市間の協力推進への支援を考えているようだ。
中国側からは、(本当かどうか不明だが)NOX、SOX、自動車への対策は済んだが、VOCやオフ・ロード車への対策は未だなので、協力要請したいとの申し入れがあると、言うことである。
次に、島氏による“PM2.5による健康影響”の報告があった。島氏の専門は、疫学調査つまり“人々の障害・症状やその分布等から汚染との関連を知る”ことであるとの冒頭の説明であった。
歴史的には、ロンドン・スモッグ事件が1952年12月に起きたのが最初ではないかという。石炭暖房による高濃度二酸化硫黄の発生により、最大1日900人が死亡し、2週間で約4千名の死者(その後の影響を含めると8千名)が発生した。特に、気管支炎による死亡の増加、呼吸器の既往症患者や心疾患のある人への影響が大きかったという。
浮遊粒子状物質Suspended Particulate Matter(SPM)は、大気中に比較的長く浮遊し、呼吸器系に吸入される粒径10μm以下の粒子を言うが、PM2.5は微小粒子状物質と言い、粒径2.5μm以下の微小粒子のことである。呼吸器系の深部まで達し、粒子表面に有害成分が吸収・吸着されていること等から健康への悪影響が懸念される。
呼吸器系への直接的影響は、肺胞内での貪食作用の障害や生理活性物質の放出による炎症反応を起こし、血液中への溶解ににより循環器系への悪影響が考えられ、近年は虚血性心疾患に及ぼす影響があると注目されている。国際がん研究機関IARCは、2013年10月にPM2.5に限ってはいないが大気汚染粒子状物質を発がん性のある物質としてのグループ1と認定している。グループ1には、他にアスベスト、ダイオキシン、放射線、タバコ、アルコール飲料、太陽光、ラドン等113種のものがある。
短期(急性)曝露には、ロンドン・スモッグのような大規模な地域集団対象の調査研究と比較的少人数の疾患・症状調査のパネル研究が行われる。
短期的影響としてPM2.5濃度は12.8μg/m3以上で上昇すると、数日以内に死亡者が1%程度増加する傾向にある。これにはPM2.5に含まれる有害成分を考慮しなくても同じようなダメージであるとされる。PM2.5の増加で、慢性閉塞性肺疾患COPDや呼吸器感染症、喘息による受診・入院が増え、喘息患者の症状も悪化するとされ、また循環器には虚血性心疾患やうっ血性心不全等が増加するとの報告がある。また、脳卒中の発症との関連があるとされる。
長期的影響の慢性曝露も、大規模な地域集団対象の調査研究とハーバードの米国6都市研究のような追跡的コホート研究*が行われているが、潜伏期間があるので分析が困難である。
このハーバードの6都市研究は、約8千人を14~16年間追跡したもので、PM2.5及び硫酸塩濃度と死亡率の関連は強く、特に循環器、呼吸器疾患による死亡とは有意の相関が認められ、PM2.5濃度の改善が全死亡の減少と関連している、とされる。
*分析疫学における手法の1つであり、特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、研究対象となる疾病の発生率を比較することで、要因と疾病発生の関連を調べる観察的研究である。
日本の環境省は、PM2.5濃度の基準を日平均35μg/m3以下とし、70超で“不要不急の外出や屋外での長時間の激しい運動をできるだけ減らす”ように、都道府県等から注意喚起をするようにした。大きく超える場合150μg/m3を超える場合には、米国の大気質指数Air Quality Indexでは“すべての人はあらゆる屋外活動を中止するべき”としている。
しかし、呼吸器疾患、循環器疾患を有する人や乳幼児、高齢者は、個人差が大きく日平均35μg/m3の環境基準より低くても健康影響がみられることがある。
セミナーから得られた知見は以上の通りである。
中国での汚染レベルは、マスコミで大きく取り上げられその悪影響が喧伝されているが、60年代の日本と同程度と思うのが適当で、過剰に反応するのも良くないのではないかとの 感触を得た。勿論、それを放置するのは良いことではない。何故ならば、健常者でない人々への健康への悪影響は、明確だからである。中国側の対応にも問題が多々あるかも知れないが、日本側からの技術的、政策的協力は欠かせないものであろう。
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