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第8回全国自治体災害対策会議に参加して

先週のポップな話題は、北方領土問題で次のような報道ではなかったか。
“安倍晋三首相は14日、訪問先のシンガポールでロシアのプーチン大統領と会談し、1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させることで合意した。56年宣言は平和条約締結後に歯舞群島、色丹島の2島を引き渡すと明記している。日本政府は従来、国後、択捉の2島も含めた北方四島の一括返還を求めていたが、首相は今後の交渉で2島の先行返還を軸に進める方針に転換した。”
こういうニュースは日本側からの発信なのか。しかし、これは事実上、“北方4島一括返還を断念し、2島返還で決着”を目指したものと解釈できるものだ。平和条約を締結すれば、その時点で両国間にある問題は全て解消と解釈できるからだ。安倍氏はそれを認め、その方向で対露交渉を開始するということなのだろう。だが、安倍氏の背後の応援団はそれで納得するのだろうか。安倍氏にそれを認めさせるような力量があるとは、とても思えない。

先週、たまたま“ひょうご講座”で、ロシア問題の学者・専門家・河原地英武・京都産業大学外国語学部教授の講演を聞いた。その話を交えてひとまず紹介したい。
プーチン側からこの問題をみた場合、客観的にはどうでも良い問題。極東開発には、中国と韓国の力を利用すれば十分である。現に、国後、択捉の経済開発は日本抜きで中国と韓国の企業等の協力で満足できる成果を挙げているからだ。日本の視察団が両島を調査したが、既に主要部分は中韓勢力で占められていて、今から日本の勢力が入る余地は残っていないという。
シベリア開発も温暖化で、ロシアの現有技術で凍土対策も可能だという。資金は中国に頼れば十分と見受けられる。

だから、北方領土問題は専ら安倍氏のレガシーへのこだわりだけの問題だと言える。これから、プーチン氏がオモロがって阿保アベ氏をオチョクッテいると見れる構図、というのが本当なのだろう。プーチン氏は安倍氏との会談の約束時刻には必ず2~3時間遅刻するが、習金平氏との会談には一切遅刻したことがない、という。
毎年ロシアが開催する極東開発のための東方経済フォーラムは、従来は日本が賓客として迎えられていたが、今年は明らかに中国の習近平が主賓の座にあり、安倍氏の席は端に追いやられていた。しかも、その会議の最中に、中露は大規模な合同軍事演習を展開した。仮想敵は日米というより、ズバリ日本だろう。
河原地教授は、ロシア人の友人から“「北方4島一括引渡」しても良いが、それに対する日本からのロシアへの見返りは何か?”と言われて、返答できなかったという。それほど日本の国力は相対的、絶対的に低下し、国際的地位はそれに比例して低下しているのが現実なのだ。
それでもなお、アベ氏はプーチンにシッポを振り続けるのだろうか。まるで阿保犬のようではないか。テレビでよく見かける中村 逸郎・筑波大学教授も、“その可能性は2島返還すら、限りなく0に近い。”と言っている。

聞くところによれば、自民党内の安倍応援団には、入管法改正には強く反対する議員が多いようだ。財界の要望を聞き入れて、これを強行すれば、かなり内輪もめするのではないか。これに加えて、北方領土問題で妙な決着をするようであれば、いよいよ安倍応援団の結束は弱まり、安倍氏の求心力は衰え、退陣にいたる可能性も出てくるのではないか。
来年の参議院選挙に焦った安倍氏の錯誤となるのなら、面白いことになる。


さて、今回は多少以前のイベントだったが、兵庫県公館で開催された“第8回自治体災害対策全国会議”に出席し、“傍聴”したので報告したい。“会議”という体裁だが、実際は活動成果の報告・講演会で、今回の主催者・兵庫県は全国の自治体職員のみならず、一般人にも参加を呼び掛けたものだ。一般人とは言っても、実際には現役で仕事をしているような人々は一部研究者と見受ける人々で少なく、高齢者が大半だった。以下はHPに掲載された概要だ。
【概要】
8回目となる今回は、「巨大災害に対処する」をテーマに、南海トラフ地震をはじめ巨大災害発生が懸念されるなか、被害を最小化し次代を見据えた早期の復旧・復興に資するため、国や自治体の今後あるべき体制や効果的な取り組み方策について取り上げた。
1.日 時:[1日目]11月6日(火)13:30~17:30/[2日目]11月7日(水) 9:30~15:30
2.会 場:兵庫県公館 大会議室(兵庫県神戸市中央区下山手通4-4-1)
3.参加者予定数:約350名
4.参加費:無料
5.主 催:自治体災害対策全国会議実行委員会(委員長:井戸敏三・兵庫県知事)
※過去の大災害被災自治体、各全国組織推薦自治体等で構成
6.共 催:(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構、阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター、読売新聞社

私は都合に従って、1日目11月6日だけに出席した。その“講演”のスケジュールは次の通りだった。
(1)基調講演「国難災害に備える」(13:40 ~ 15:00)
河田 惠昭 氏・関西大学社会安全学部・社会安全研究センター長・特別任命教授/人と防災未来センター長
(2)特別講演「防災・減災における科学技術開発の挑戦 ~戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)における取組み~」(15:15 ~ 16:15)
堀 宗朗 氏・内閣府SIP「レジリエントな防災・減災機能の強化」プログラムディレクター/東京大学地震研究所教授
(3)基調報告「進化する『とくしま-0(ゼロ)作戦』の推進 ~南海トラフ巨大地震、中央構造線・活断層地震での死者0(ゼロ)の実現に向けて~」(16:15 ~ 17:15)
飯泉 嘉門 氏・徳島県知事
(4)中間総括(17:15 ~ 17:30)
室﨑 益輝・兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科長・教授(自治体災害対策全国会議企画部会長)

以下に各講演の概要を紹介したい。
(1)基調講演「国難災害に備える」河田 惠昭 氏
冒頭から河田節全開。早口で政府批判だった。久しぶりだったように思うので面食らい、何を言っているのか理解が追い付かない。濱口梧陵(ハマグチゴリョウ)*賞を作って、災害対策に貢献した世界の人々を表彰したい、と思っている、からいきなり始まった。そして防災省(庁)の設置が必要だ。“防災”を科学的に知っていて経験のある人物は自分しかおらず、大臣適任者は自分しか居ない、と。

*(1820~1885)紀伊国有田郡広村(現・和歌山県有田郡広川町)出身の実業家・社会事業家・政治家。梧陵は雅号。醤油醸造業を営む濱口儀兵衛家(現・ヤマサ醤油)当主で、七代目濱口儀兵衛を名乗った。津波から村人を救った物語“稲むらの火”のモデルとして知られる。

かつて経験したことのない巨大な災害が予測されるにもかかわらず、日本政府、官僚はそれを考えないことにしている。しかも直近の災害に全て初動で上手く行って対応に成功している、と評価している。しかし実態はそうではない。その巨大災害“国難”は過去の対策の延長では対処できない。“連携と調整”をキィ・ワードにしているがそれが上手く行っていないのが実態だ。陸自の人員11万人、出動可能は10万人が限界で全く不足。70機のヘリコプターがあっても事故で10機しか出動させられなかった事例もある。その時警察はサミット警備で待機させられていた。残る消防は全国組織の消防庁が各自治体消防を直接指揮できる体制にはなっていない。
災害関連死が増えている。南海トラフ被災想定は4千万人とされるが、国民の4分の1では負傷者は救助できず、津波で逃げるのを優先させなければならないのが実態だ。最近復旧・復興が長引いている。東日本震災では16兆7千億円の復興予算と言われたが その後数倍に膨れ上がっても復興は完了していない。米国は中央官庁を設置して、災害に5年以内に復興を完了するように計画している。日本のこのような現状では南海トラフが起きれば、国にはもう余裕なく、見捨てざるを得ない事態が起きる可能性がある。そうならないために、“いかなる事態が生じてもバックアップできるリタンダンシー(冗長性)を意識した体制が不可欠”だ。そのための防災省の設置が必要。南海トラフ経済被害は1200兆円とされ、インフラ被害等含めるとこの3倍となる。復興には20年必要。
日本は災害国家にもかかわらず、この国の歴史家は巨大災害の社会的影響を定量評価してこなかった。18世紀リスボン震災後、ポルトガルは覇権を失ったとされる。このように巨大災害被害が国力を左右するにもかかわらず、日清戦争翌年の明治三陸大津波で死者は21,959人、日清戦争の死者13,311人を上回った事実は知られていない。このような国民意識のボトムアップのためにも中央に防災省、複数の地方防災庁の設置が必要。日本の体制は米国に比べて全く遅れている。
日本人には自然災害による理不尽死はあきらめが先行し、過去の大災害では情報途絶があり、ローカルな災害に留まっていた。“抗えない偉大な自然”、“卑小な人間”の構図で、諸行無常や刹那的精神構造となった。“災害に備えようがなく、備えても有効でない”という思い込みが先行している。“鬱陶しいことを考えるだけムダ”。大災害には“想定外”と言って逃げる傾向がある。あきらめからか奇妙な楽観主義が横行し、東京オリンピックにはしゃいでいる。
実際には企業防災BCPも甘い想定が多く、従業員対策がないため被災しても対処できず機能しない。実際の災害に遭遇しても対策本部の会議が報告会に堕している例が多い。都市災害ではJRが勝手に間引き運転し、私鉄に人々が殺到して混乱が拡大する事例が頻発。ハードが壊れさえしなければ良いというのは不可で、脆弱なソフト(対応)に問題がある。
過度の東京一極集中は世界初の多点ネットワーク集中型の巨大フロー災害となり、全国的な被害へと瞬間的に拡大し、政治経済の回復不能となる。このような日本の実情から巨大災害が日本に起きれば、復旧・復興が遅れ日本は国際社会から蚊帳の外になり、中国は太平洋西部の覇権を握り、米国と直接対峙することとなるのを狙っているはずだ。
災害時の対応行動を日常化することが重要。平時から習熟しておかなければ、災害時には十分対応できない。保険の活用ができていないので、予算・見積もりもできない。しかし、大阪北部地震では災害は小さかったが、被害は意外に大きかったので、保険会社が及び腰になっている。保険強化のためには加入者を増やして共済制度の充実が必要となるが、全くできていないのが現実だ。
憲法にも非常事態条項がないので、米軍の支援が来ても、民間地を勝手に使用できる状態ではない。建築基準法も罰則規定がないので、防災が不十分になっている。こうした立法の問題もあるので防災省は必要だ。

現状の日本の防災上の問題点が総合的に語られたように思った。

(2)特別講演「防災・減災における科学技術開発の挑戦 ~戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)における取組み~」堀 宗朗 氏
戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)は総合科学技術イノベーション会議が府省・分野の枠を超えて予算配分し、基礎研究から社会実装までを見据えた取り組みのこと。平成26年度予算より325億円(平成30年度は280億円)計上している。
この内、災害時の情報共有システムの開発状況を説明。

津波のリアルタイム遡上・豪雨・竜巻予測→リアルタイム被害想定→情報集約・統合・加工→行政などへの情報提供
特長①指数関数的に増大する災害情報処理②防災関連の多種多様な災害データを地図情報に推定最適化処理して追加③各政府機関の防災システムに載せられる柔軟性の高いインターフェース

こうして開発した情報共有システムは、既に2016年の熊本地震、2017年の九州北部豪雨、2018年月豪雨、北海道胆振東部地震で実際に使用・活用して貢献した実績がある。発災後10分程度で被害推定可能。或いは、応急通信ネットワークを迅速に構築可能、千人規模の電話型通信が応急に可能となる。災害時に公衆回線に依存せずに、患者搬送時のバイタルデータ伝送や緊急車両位置情報等のやりとりによる災害医療活動を支援できる。自動翻訳システムを含むエリアメール多言語提供(外国人向け情報提供)も可能だという。

(3)基調報告「進化する『とくしま-0(ゼロ)作戦』の推進 ~南海トラフ巨大地震、中央構造線・活断層地震での死者0(ゼロ)の実現に向けて~」飯泉 嘉門 氏
徳島県の防・減災体制の説明であった。県庁組織の充実と広域応援体制の構築のため遠隔地相互支援協定を鳥取県と締結。関西広域連合への参加。東日本震災では兵庫・鳥取県とともに宮城県を支援してきた。
南海トラフ地震と中央構造線・活断層地震の対策として、地域づくりのための区域指定と“土地利用規制緩和”、“特定活断層調査区域”指定とその土地利用の適正化等を条例で規定し、ハザードマップを作成、避難場所・避難路を決め、避難計画策定・訓練の実施を進めている。
県民防災意識の向上のために、過去の災害遺産の整備や若年層対象の地域・学校の消防クラブ設置や防災士増員のための県職員の全員消防学校入校やシルバー大学校・大学院での教育の普及と訓練の実施を推進してきた。
避難所のQOL向上のために電気自動車の電源活用、救助犬・セラピー犬の育成推進。支援・受援体制の強化では、情報面でのJAXA、地理情報利用促進の国土地理院、物資供給・輸送での7&iHD、イオン、ANA、JAL等々との連携を推進してきた。
まちづくりでは、住宅・民間建築物の耐震化助成の促進、津波避難場所の整備、土砂災害警戒区域の基礎調査は前年9月で完了。県庁と離れた地域への防災館の設置・整備実施。
消防防災ヘリの活用でヘリサット運用開始、即応機動部隊創設、災害時情報共有システムでアラート体制の整備。高速道路整備活用の高台移転まちづくりによる事前復興の推進を実施してきた。

以上から結構やれる所では対策は進展しているという印象だった。やれている話ばかりで、やれていない話は河田教授からだけだったのは、少々気懸りだった。

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