goo

“アンガー・マネジメント”?

今、世の中には様々なマネジメントの手法があり、それがシステム化されて来ている。例えば、このブログのテーマの品質マネジメントに始まって、環境マネジメント、労働・安全・衛生マネジメントからリスク・マネジメント、最近は事業継続マネジメントと様々なマネジメントがある。最近はドラッカーが流行り、あの大阪市長も“マネジメント”などと言い募っていて、教育現場にそれを持ち込もうとしていてイメージ・ダウンもはなはだしいのだが・・・・・・ここではアンガー・マネジメントを取上げる。
アンガーつまり“怒り”のマネジメントである。なぁーんだ、しかし、そんなことをマネージしなければならない?いや、“怒り”は、自身の精神、肉体に悪い影響があるとされる。それが場合によっては個別の人間関係から自らの社会的ポジションすら損なうことになりかねない。したがって、あまり野放図に怒っていると、良いことは全くない。漱石の“草枕”の冒頭は その辺の心情を語ってといっても 良いのではないかと思う。

“山路を登りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。
人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣りにちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。”

人との関わりで、世の中には自分の意に沿わない人は沢山居る。マナーの悪い人も多くなった。出掛ければ 必ずムカッとすることに出くわす。90年代以降、不景気になるに従って そういう人がかなり増えてきたように感じる。それが近所の人となると“住みにくい”となってしまう。というような次第で一々怒っていては、身が持たないことになる。
だが、一方では“怒らなくなったらオシマイ”ではないか、とも思う。精神が鈍磨してしまう、つまり死んだ精神になるのではないかという懸念もある。漱石も 決して“怒るな”と言い切っている訳ではなさそうだ。それを許容するから悩ましいのだ。
しかしながら、世に言う聖人は 大抵 そういうことには怒らないし、どんなことにも怒らない。少なくとも表情には出さない。そういうテクニックを心得ているというか、いや基本的に“修養”ができた精神状態であるから怒らないのだろう。
そういう精神修養には、人によるとは思うが凡人には相当な時間を要するのではないか。時間の無い現代人は どうすれば良いか。

そういう現代人に答えるかのような本を見つけた。いや、その副題に“できる人ほどイライラしない”とある。本題は“「怒り」のマネジメント術”とある。思わず前書きが 思い切り長くなったが、今回は この本(著者・安藤俊介氏)の読後紹介である。
本の“はじめ”には“「怒りのマネジメント術」とは、「絶対に怒ってはいけません」という話ではありません。怒ってもいいのです。”と言っている。だが、続けて“ただ、その怒りにふりまわされて損することがないようコントロールしていこう、ということ”であると言っている。私には、マネジメントという言い回しにふさわしい現代的感覚と思える。
そこでは、“「怒り」は、動物にとって、「威嚇」や「警戒」であり、身を守る1つの方法”であり、“防衛本能”であるとしている。“怒り”そのものには肯定的で、これがベースにある。だから、現代の凡人には取り組みやすいと思われた。
“「怒り」には、「悲しみ」と違って他人を巻き込む「攻撃性」”があるので、“問題なのは、「怒り」の感情があることで、仕事や人生に支障が出る”とも言っていて納得性は高い。しかも人間は“「身の危険性」といったレベル以外のもので怒り、人生を損なって”いるが、“それは、人間だけが、自分の考え方・価値観をもとに「意味づけ」をして「怒り」を抱くから”だとしている。そういう「怒り」の本質・特性を踏まえて、“怒りをマネジメント(適切に配分)していく”ための本ということになる。つまり、著者が“アメリカで習得した「アンガーマネジメント」のメソッドに基づいて”いる、ということ。ナァーンだ、またアメリカか、との思いもあるが、“メソッド”となればアメリカなのだなぁとの感想。でも中には これを聞いてISOと同様“ロスチャイルドの陰謀”と発想する御仁も居るのだろうか。まぁISO9001は英国発なんだが、だからこの世は住みにくい、といったところか。

また この本では初めの部分で、「怒り」のマイナスを政治家の2例(松本龍氏と菅直人氏)を 人が付いてこなくなった失敗例として挙げている。そして、“「怒れない人」と「怒らない人」は違う。できる人は「怒る人」でもなく、「怒れない人」でもなく「怒らない人」”だと言う。さらに歴史上の政治家カエサルを「怒らない人」として説明する塩野七生の次の言葉を紹介している。そこでは“怒りとは、怒らなければならないほどの人のところにまで降りていって、その人に向かって爆発させる感情である”とある。
また、たとえ正論であっても、“結局、人間は「怒っている人」に対しては共感できない”が、“「怒らない人」には「怒らない」”し、心理学でいうところの返報性の法則として、“相手の「聞く耳をもっている」という姿勢を示すことで、たいていの相手は態度を軟化”するものだと指摘している。さらに、米国のある企業の理念「社員と顧客に幸せを届ける(Delivering Happiness)」を引き合いに、従業員が“「誰かに喜んでもらおう」としているとき”顧客の側に「怒り」の感情につながるようなことはほとんどありえないと言っている。リーダーシップの要諦がこんなところにあるのだという印象である。

「怒り」は次のように段階をへて生まれてくるという。すなわち“[第一段階]出来事との遭遇 [第二段階]出来事の意味づけ [第三段階]「怒り」の感情の発生”となり、この第二段階で その人固有の価値観によって出来事が検証されるため、人によって「怒り」の種類やレベルが異なり、それは“アレルギーと似ている”となる。したがって、“「怒りをマネジメントする」ということは、「考え方・価値観」が柔軟になるということとイコール”になる。つまり、認知的複雑性が増すということだろうか。

こういう説明の上で、この本では「アンガー・マネジメント」の2つの要点を挙げている。つまり、“①怒らなくてもいいことには怒らない→「怒り」という感情を減らす ②怒るとしても表現方法や場所を選ぶ→「怒り」にまかせた行動をやめる”ことだと言う。
次に、具体的には“「対症療法」と「体質改善」で、怒らない人になれる”としている。
この「対症療法」としては、“言葉で怒りをなだめる”、“思考回路という川の流れをせき止める”、“頭を別の思考でいっぱいにしてしまう”、“目の前の物を観察する(つまり気をそらす)”、“その場から離れる(逃げる[タイム・アウトする]ことで一時冷却)”、“自分にとって『最高に気持いい場面』を思い出す(再現する)”等々の具体策を細かく提示している。
さらに「体質改善」の方法論としては、ドラッカーの言葉を引用し、“まず、自らがどのようなことに怒っているのか”知り、それを記録することだ、としている。具体的には「アンガーログ」という記録の小さなメモに、①日時②場所 ③出来事 ④思ったこと(価値観、コア・ビリーフ) ⑤(自分がとった具体的)言動 ⑥(怒りの相手に)してほしかったこと ⑦(言動の)結果 ⑧怒りの強さ を書く。それもあまり深く考えずに淡々と客観的に書き溜める。
この記録を集めて分析するのだが、まず④の何を思ったかをに注目して、価値観、コア・ビリーフの傾向を把握して見直すことだと言う。次に、怒りやすい「時間」、「場所」、「出来事」を避けるか、条件を緩和する。さらに④から「怒り」のきっかけ(トリガー)が何であったかを見極めて、その時の感情に着目して分析する。つまり、それにより自分が弱点と感じている点を顕在化し、それを見つめなおし、それに対する耐性を高めるべく自分の意識を変えることだと言う。

最後に、“「怒らない人」が習慣にしている会話”の事例を挙げている。
“「べき」という言葉をつかわない(周囲の価値観と異なる場合がある)”、“「あなたは○○だ」とレッテルを貼らない”、“「いつも」「絶対」「必ず」は使わない”、“「全て○○」など大げさに言わない”、“「なんで」は責めるニュアンス→「どうしたら~できる?」に変える”、“「あなたが○○だから」を「○○でないと、私は困る」と主張して良い”、“「何を言うか」より冷静に「どう言うか」で好印象になる”等
それから“「怒らない環境」を整える”とあり、周囲との相互理解を促進するための方法が述べられ、“時には、価値観や考え方の違う人の集まりに身を置く”つまり“いつも違う人に会う、いつもと違うことをする”ことで、自分の多様性を鍛えれば良いとしている。いわば、認知的複雑性の向上のための方法論となる。

さてさて、この本を読んでこれからどうするか。ハウトゥ本は、それを読んで読み捨ててしまうのなら読んだ意味が無い。“対症療法”や“怒らない人の会話”、“怒らない環境整備”は何とかさりげなく、対処できるかもしれない。しかし、「アンガーログ」を徹底してやるのは 相当な決意と同時にかなりのエネルギーを要する。カッとして それを一々メモるのも何だか変だし、面倒だ。そうなると、どこまでやれるのか非常に疑わしい限りだ。

コメント ( 0 ) | Trackback ( )
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ゴールデン・... 沖縄返還40周年 »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。