goo

「震災対策技術展」大阪第2回を視察・聴講

6月の第1週に、大阪梅田のグランフロント大阪で“「震災対策技術展」大阪”が開催された。これは昨年も開催された展示会で今年は2回目。期間中セミナーも開催されていて、その内容を8件紹介する。実際には4会場で開催されていたので、総講演やパネルディスカッションの数は45件であった。今回異様に感じたのは関西大学社会安全学部の河田惠昭教授の講演は、案内が届いた時に申し込もうとしたが 既に満席との表示があり門前払いだったことである。まぁ無料開催なのでいたしかたないのだろうか。

私が希望して登録、聴講したのは次の通りである。
また、セミナーであまり好ましくない印象を持ったのは、レクチャーのレジュメが殆ど配付されず、受講者の殆どは説明に使用されている画像をせっせとカメラに収めていたことだ。普通の講演会では禁止される行為だが、レジュメがなく主催者もそれを咎め立てしないので私もできる限り撮影をした。しかし、第一日目の最後の講演ではカメラの電池が尽きてしまって、為すすべなく慌ててメモを必死で取るハメとなった。

第一日
(1)発想の転換を迫られる災害食―3つの視点からみた問題提起
  奥田 和子(日本災害食学会・甲南女子大学名誉教授)
(2)南海トラフ巨大地震・津波の想定と備え
  清水 陽(神戸市危機管理室計画担当課長)
(3)300m超高層ビル「あべのハルカス」の安全・安心の構造デザイン―かたちのひみつ、ほねぐみのひみつ
  九嶋 壮一郎(㈱竹中工務店大阪本店設計部構造部門課長)
(4)破局噴火:火山列島からの恩恵と試練
  巽 好幸(神戸大学大学院理学研究科教授)
(5)都市の防災と安全
  越山 健治(関西大学社会安全学部准教授)
(6)リスクと災害の経済学
  永松 伸吾(関西大学社会安全学部准教授)
第二日
(7)活断層の「地域評価」、その最新成果を解説
  山際 敦史(文部科学省研究開発局地震・防災研究課地震調査研究企画官)
(8)災害時に京都の活力の維持・向上をめざす京都BCP
  畑中 健司(京都府防災・原子力安全課防災計画担当課長)

さて、以下にこれらの内容概要を紹介したい。
(1)発想の転換を迫られる災害食
ここでは、災害食特にアルファ米に焦点を当てて現状の災害食に対する考え方を改めるように迫っている。先ず、飲料水は1日3リットル/人と言われるが、これは実は飲むためだけの量ではなく、食でも摂取する分を含んでいる。非常食アルファ米を戻して食べる水分も含んでいると考えた方が良い、と言う。ところが、この飲料水には野菜ジュースや缶コーヒー、麦茶、炭酸飲料、様々なフレーバーの紅茶が含まれる。臨時に持ち出してくるものにはこれらも多いはずだ。そこでこれらでアルファ米を戻しても食べられるかどうか確かめたところ、むしろ美味しく食べられるものが多かったというのが、この報告であった。

(2)南海トラフ巨大地震・津波の想定と備え
これは神戸市の備えについての報告である。“市民・事業者の自己決定力の向上、多様な視点からの防災・減殺の取組、大規模広域災害(南海トラフ地震)への対応、多様化する災害への対応強化”に重点を置いた活動を進めつつある。1000年に一度よりも低い発生確率と言われるM9クラスの地震津波には、人命を守るための被害軽減策を優先させる。被害の程度は震度6弱、最高津波水位(朔望平均満潮位基準)3.9m(中央区)、最短到達時間83分(垂水区)で想定。これに対し住居、橋梁の耐震化。緊急輸送道路ネットワークの整備。浄水の貯留施設や大容量送水管とタンク車によるシステム化や100t耐震防火槽の整備。下水処理場の連携化。15万人分の物資備蓄を故郷施設など13か所に保管整備。津波による死者数予測の99%減を目標に堤防の津波越流への強化、迅速避難促進策(防災行政無線の整備、地域防災計画・避難指針の作成、津波到達シミュレーション・ココクルのPR、要援護者支援の仕組整備)の実施。等々の報告があった。
水の備えには神戸市民としては大いに心強くしたが、自助としての防災食には菓子類の買い置きに加えてアルファ米も検討しよう。

(3)300m超高層ビル「あべのハルカス」の安全・安心の構造デザイン
講演内容は超高層ビル「あべのハルカス」の安全・安心のPRばかりで、本来ハザード検討のためのセミナーのはずなので何だかそぐわない印象が強かった。しかし、建設者でもある発表者がここで弱点を披歴することはできない。何故ならば分かっているなら対策を取って当然となるのであって、ここではその対策を説明するのが趣旨だからだ、と了解した。

高層ビルは“超高層の曙”と言われた霞が関ビル(1968)の156mから始まって、横浜ランドマーク・タワー(1993)の296mに至ったのをハルカスの300m高さで少し高くなった。人口減少社会で都心ターミナルの人の流れは、さらに集約化が促進されると予測して、計画したという。(世界の駅の乗降者数で阿倍野は14位)都市活動の立体集約つまり商業施設、美術館、オフィス、ホテル、展望台の配置を低層、中層、高層へと合理的に配置。東京表参道の施設とほぼ同じものを立体的に配置した結果になっているという。構造上は中層でボイドを形成してオフィス環境を考慮しつつ建物強度を向上させている。地震は1分間、長周期地震は10分、台風による暴風は2時間に耐えるように上部に行くほどに細くなる設計とし、特に風は地域特性として西風に対応した形とした。さらに低層、中層、高層の間に強力なアウトリガーを設置して補強。揺れに対しては低層では油圧式ダンパーと回転摩擦ダンパーの組合せによる制振、中層では波形鋼板壁での揺れの吸収、高層は五重塔で使われた心棒ダンパーを吊るしている由。デザイン的には周囲のどの方向から見ても違った形になるように工夫したという。



登録予約セミナーの合間約1時間半で展示会場を巡った。去年出展していた段ボール梱包材メーカはさすがに今年は出ていなかった。去年の出展品は段ボールで作ったトイレ・ブースだった。既述セミナー紹介の災害食の出展は勿論あった。浸水防護柵の展示がいろいろあったのが印象的であった。

(4)破局噴火:火山列島からの恩恵と試練
花崗岩は巨大火山の根っこのマグマ溜りがゆっくり冷え固まった岩石であり、六甲山系は1億年前の巨大火山の化石(御影石)である。冒頭、六甲の水は鉄分を含まないが、灘の酒はこうした自然の恩恵を受けているとの説明。
日本には“地球上の活火山の1割が密集”しており、それは東日本の北米プレートの下に太平洋プレートが潜り込み、西日本のユーラシアプレートにはフィリピン海プレートが潜り込んでいて、それぞれが東日本と西日本の火山帯を形成している。それぞれ海を抱えたプレートのため水分をたっぷり含んでおり、沈み込むとその水が絞り出され、その水が岩石を溶け易くする。これが高温になるとマグマの元になる。火山密度はプレートの沈み込み速度に比例するが、東北日本には世界最速で沈み込んでいる。
火山の寿命は約10万年とされ、“有史”よりはるかに長く、一連の火山活動は約1万年継続する。そこで、1万年より新しい火山を活火山とするが、日本には110ある。そのマグマ溜りにプレートの沈み込みにより新たにマグマが生成注入され、マグマ溜り上部に亀裂が発生する。その亀裂による圧力減少で発泡が生じ、マグマの上昇が始まり割れ目が地表へ到達し火山噴火となる。噴火による減圧と更なる発泡が進み、大噴火へと発展する。M9以上の巨大地震後には、例外なく近隣で火山噴火がある。地震発生前はマグマ溜りは圧縮されているが、地震発生後は圧力が解放され、減圧と振動により発泡促進するものと考えられる。東北地震後は東日本の台地の圧力は解放されたが、西日本は未だ圧力は掛かっている。従い、口永良部島の噴火や西ノ島、桜島、阿蘇、御嶽等西日本火山の動向は従来の活動の一環(呼吸)と見て良い。
ところで火山噴火には山体噴火と巨大カルデラ噴火があり、これが12万年に10回の噴火があり、今後100年で1%の発生確率である。この被害は、例えば阿蘇の巨大噴火を想定すると九州居住者はほぼ全滅し西日本全域には降灰が激しく、交通が寸断され食料等の救援の手段が無くなり、膨大な死者の発生が予測される。これはリスクの規模(頻度×死者)としては南海トラフ地震とほぼ同程度である。
最後に、日本人はこういう自然から恩恵と試練を受けて来た。自然が“荒ぶる理由を理解して、覚悟と畏まりをもって自然と共に行くことが肝心”と述べ“「覚悟」は「諦念」ではありません。…私たちは今何をなすべきか?みんなで考えることが大切です”との言葉で終わった。

講演者・巽好幸教授はその後 テレビ番組で、同上の説明をしていたが、日本には7つの巨大カルデラ(支笏、洞爺、屈斜路、阿蘇、姶良(あいら)、阿多、鬼界←何故か箱根山なし)があり1万年に1回の割合で噴火していると強調。この内鬼界は7300年前に噴火している。今後2700年の間に1回噴火する可能性があると指摘していた。
そこまで巽教授は言及していないが、裏を返せば東日本での火山噴火の可能性は高い。しかも箱根山を巨大カルデラとしては挙げていなかったが、この巨大噴火は首都直撃となり、日本半壊が近いという推測が成り立つのではないか。
また同番組では岡田斗司夫氏が日本よりも北米のイェローストーンの巨大カルデラ爆発が心配で、現在まさに山体膨張はつづいていて噴火すれば世界の平均気温が10度低下し地球環境の激変が起きると発言。

(5)都市の防災と安全
都市防災対策は、一朝一夕ではできない/多くの場合行為者と受益者が異なる/災害が起こってはじめて効果が分かる。→その災害はめったに起きない。従い、都市防災の実施は非常に難しい。
都市はその発展と共に、従来は住まなかった場所にも住居者が増え、それが災害リスクを大きくする。その都市への人口流入が社会的関係性を低下させ、ハザード曝露人口の増大を招き、自宅外での災害危機も増加する。空間の高度利用で都市の“余裕”度が不足する。特に大規模火災のリスクは増加する。
これに対し20世紀半ば以降、工学的(物理的力)に対策した。この工学的対策は想定し得るもので計算可能であり、全ての災害には完全なる対策が必要とされるが、これには限界が見え始めている。そこで今後は“社会の力”を高めていく対応が必要となる。ところが、南海トラフ巨大災害は、東日本大震災より被害モードが多様で、被害の程度は大きい。このため多方面での資源不足特に人的不足が予測され、国全体の社会機能麻痺の可能性も出て来た。
不確定性の多い災害予測より災害復興予測の方が容易に想定でき意味があるのではないか。被害予防の防災力ばかりではなく、受けたダメージへの対応力(適応力)も都市の強靭さには必要ではないか。ところが、今後増加する高齢者は災害に弱いが、都市自身も高齢化して行く。それは、災害に弱い人が増えると同時に復旧・復興になじまない人も増えることを意味する。それが都市の余力、つまり復元力を奪う可能性が高い。
防災のため“だけ”の町づくり/耐震化/情報/機器/食料の普及で防災力が上がる訳ではない。災害後にも“継続”できる力を災害前からつけておくのが重要で、都市にはその“生き延びる力”をつける必要がある。“発展”“持続”のためには、潜在的な“安全性”が備わっていなければならない、というような指摘だった。

何だか良く分からない主張だが、どうやら“都市自治”の本質の重要性を説いていたのであろうか。それならば理解できるような気がするが、そうなら遠回しの表現は避けるべきではなかろうか。

(6)リスクと災害の経済学(被災軽減のための公共政策)
戦後日本の経済力が伸びるに従い自然災害による死者数は低下し、特に1960年代の災害対策基本法制定以降、災害対応の法整備が進んでその効果が顕著となった。ところが、2000年以降国土整備への意欲が低下していて今後の防災に懸念がある。一方、1995年に阪神大震災、2011年に東日本大震災と突然多くの死者を出した。つまり足下では低頻度高被害型災害に変化があり、このタイプの災害への対処が課題となっている。
資金投下には災害へのリスク評価が必要となるが、東日本大震災前はリスクの低い土地と言うことで福島に工場誘致された経緯があった。そこで、こうした“想定を超える災害”への対応には、災害時に減災効果がありかつ平常時にも社会的に有用な施設の整備により対応する “後悔しない施策(No-Regret Policy)”を採択する傾向にある。
“自助”と言っても、社会的弱者には有効ではない欠点がある。また建物特に住居の耐震は進まないのも実態だ。
“共助”の保険の発想があるが、実際には7兆円までの支払い能力しかなく、それ以上の災害になると法的にも支払い義務がなく救済機能は果たせない。しかも巨大災害の発生により債券を発行しても、国家再建に疑問を抱かれ財政危機に発展する可能性がある。被害実態調査と支払に時間がかかり救済の有効性が薄れる問題もある。
こうした国家でも抱えきれない問題には国家間の連携があり、カリブ海諸国の基金やアフリカ諸国のアフリカ平和再建委員会Africa Reconciliation Committeeの例が考えられる。
或いは、資本市場への積極的なリスク転嫁という発想もあり、CAT(カタストロフィーCatastrophe)債券*で証券化によって一般の投資家に負担させることや、パラメトリック保険**というマイクロ・インシュアランスという手法も出て来ている、とのこと。

*一般に、同程度の格付の発行会社が発行する普通社債よりも高い利率が支払われる代わりに、自然災害(台風・洪水・地震など)が発生した場合には、投資家の償還元本が減少する仕組みの債券のこと。
**被害に関わらず一定の条件を満たせば保険支払となるので、迅速な資金入手や取引コスト軽減が期待できる。

(7)活断層の「地域評価」、その最新成果を解説
阪神淡路大震災前は、専門家の間では関西では地震が多いと言うのは共通認識だったが、一般住民には“関西に地震は無い”が常識だった。この経験から研究者・専門家の認識を政策に直結させる組織として地震調査研究本部が設置された。この本部内の地震調査委員会は“関係行政機関・大学等の調査結果等の収集、整理、分析及び総合的評価”を担っている。評価には現状評価(地震活動の現状)、長期評価(長期的な地震発生予測)、強震動評価(大型地震予測)、津波評価(2013年度以降)がある。
活断層とは、地質学的に繰り返し発生する地震の痕跡が地表付近で観察でき、今後も活動すると考えられる断層をいう。断層地震による危険には“ゆれ(地震動)”と地表の“ずれ(地表断層)”の発生がある。2015年現在日本には公式に主要なモノ(概ねM7.0以上の震源)は97個あるとしている。小さいものは約2千を確認している。
活断層評価の例として大阪の上町断層は、長さ:約42㎞、祭神活動時期:約2万8千年以後、約9千年以前、平均活動期間:8千年程度、予測規模:M7.5程度、今後30年の発生確率:2~3%、地震後経過率(1ならば8千年):1.1-2より大(起きるはずのものが未だ起きていない)。これは空き巣に会う確率3.4%に近くひったくり(1.2%)やガンで死亡する(0.8%)より高い。今後、地域ごとに主要活断層の評価を実施して行く予定。第一弾として九州地域は2013年2月、第二弾の関東地域は2015年4月に発表した。
評価の結果を見て、単純に確率が低いので安心とは言えない。(1)地震後発生確率も大きいと危険 (2)各断層の確率が低くても小さなものが多い場所では発生率は高くなる。また、認識の“正常バイアス”に注意するべき。

“活断層”は地震学の概念としては国際的に認知されていないと聞いたような気がするが、文科省を中心に地震予測のために注意深く観察・研究されていることが理解できた。

(8)災害時に京都の活力の維持・向上をめざす京都BCP
“安心・安全の京のまちづくりのために~防災対策見直しに、企業活動の視点充実を求める提言書”が2012年3月8日に京都経済同友会から京都府知事に提出され、中小企業を対象としたBCP策定支援を求めたことがきっかけで、“京都BCP”としてオール京都で考えることとした。
京都では3年連続で災害(府南部豪雨2012年8月死者2名、台風18号2013年9月死者無し重軽傷6名、8月豪雨2014年8月死者2名、軽傷1名)があり災害救助法の適用を受けたのが背景。新たな条例策定をはじめ様々な防災の施策の一つとしてBCPの考え方を適用し、民間活力向上を期待して“京都BCP行動指針”を策定した。名古屋工業大学大学院社会工学専攻の渡辺研司教授が中心となって検討された。
“きょうと危機管理Web”による災害情報(河川洪水予測、道路通行止等規制情報、被害状況)の迅速な提供を整備による府民一体の情報共有を目指している。特にハザード・モードとしては、洪水(浸水)、土砂災害、津波、高潮、内水氾濫、原子力災害等を視野に入れている。

京都らしい発想だが、“京都BCP”のマネジメント・システムの認証登録はどういうスキームで考えているのだろうか、これには言及はなかったが、第三者によるシステム評価がなければ有効に根付かないだろう。これからの検討であろうか。

コメント ( 0 ) | Trackback ( )
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 堺の文化に触... “エネルギーマ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。