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筒井清忠編“昭和史講義―最新研究で見る戦争への道”を読んで

どうやら日本のマーケットは好調のようだ。但し、このところの東京株式市場は2万4千円の節目で一進一退である。だが、誰しもが好調は持続すると見ているようだが、バブルという訳でもないようだ。

平昌オリンピック絡みの話題がテレビ報道のネタになっている。国威発揚とオリンピックは本来無関係のものでなければならないが、一連の動きをどう見れば良いのであろうか。
安倍首相の言動にブレがあるように思えるが、どうだろうか。彼の判断基準は、何処にあるのだろうか。

そう言えば国会では“働き方改革”を訴えているようだが、ある評論家によれば、“非正規社員を無くすというが、それは働く人全てを非正規にするという意味だろう。全てが非正規になれば、正規も非正規もなくなる。”と言っていた。そんなところだろうか。別の評論家によれば、“最近、改革と言わずに「革命」と言うようになった。これは「改革」を言い過ぎているのに少しも進まないので、「革命」と言わざるを得なくなって来たのだ。”とも言っていた。そういえば、かつてある宗教団体が“人間革命”と言っていたが、それと関係があるのだろうか。昔、マルクス主義学者が“「革命」とは支配階級の交代をともなう社会構造の変革である。”というような意味のことを言っていたように思う。それともどう違うのだろうか。安倍氏一流の意味のない言葉の羅列ではないのではないか。単なる言葉遊びはいい加減にして欲しい。

こういう安倍氏を支持する理由に、“景気が良くなって、雇用状況が良くなったから”いうのがある。景気が良くなったのは、円安になったからで、円安になったのは不況が行き過ぎて貿易赤字が囁かれそうになったのがきっかけだった。そこへ、無茶なマイナス金利で円安に振れた。円安になって輸出企業が儲かるようになった。ある程度の自律反転がきっかけになっている。そして、無茶なマイナス金利は日本の市中銀行に犠牲を強いている。
雇用環境が職を求める人に有利になったのは、労働人口の減少によるものであって、何らかの政策によってそうなった訳ではないのは、研究者一般の見方のようだ。安倍氏の何らかの寄与があった訳ではない。にもかかわらず、それを理解していない人々、特に若者が多いのには呆れてしまう。

“強襲揚陸艦ボノム・リシャールが佐世保出港”したらしい。1月半ばには、F35Bを搭載できる“ワスプ”が佐世保入港しているので、申し送りが完了し、強襲揚陸艦としての任務を交代したのだろう。
それに“カール・ヴィンソン”が米西海岸の母港を出て、北太平洋を遊弋している。朝鮮半島近海を目指しているのだろうか。沖縄でのヘリコプター不時着や、小学校上空の通過などが、頻繁のようだ。オリンピック後の態勢作りや演習に多忙を極めているからではないだろうか。日本政府は本気で米軍に苦情を言っているようには、見えないのは何故だろう。
米韓合同軍事演習はパラリンピック終了直後に実施すると決定したようだ。どうやら、米軍は平昌オリンピック後の態勢作りに着々と歩を進めている。

こうした動きに、日米両政府の将来の動向が気懸りである。このように“行く末”を気にするならば、“来し方”を見る必要がある。“来し方”と言えば、私には日本の近代史特に戦間期の歴史のイメージがもう一つ霞んでいる。そこで、筒井清忠編“昭和史講義―最新研究で見る戦争への道”を読んでみた。
内容は以下の15項目について、それぞれ新進の研究者が最新の研究結果を解説するというものだ。
第1講:ワシントン条約体制と幣原外交
第2講:普通選挙法成立と大衆デモクラシーの開始
第3講:北伐から張作霖爆殺事件へ
第4講:ロンドン海軍軍縮条約と宮中・政党・海軍
第5講:満州事変から国際連盟脱退へ
第6講:天皇機関説事件
第7講:二・二六事件と昭和超国家主義運動
第8講:盧溝橋事件―塘沽停戦協定からトラウトマン工作失敗まで
第9講:日中戦争の泥沼化と東亜新秩序声明
第10講:ノモンハン事件・日ソ中立条約
第11講:日独伊三国同盟への道
第12講:近衛新体制と革新官僚
第13講:日米交渉から開戦へ
第14講:「聖断」と「終戦」の政治過程
第15講:日本占領―アメリカの対日政策の国際的背景

解説者によっては、現代の研究者と歴史上の人物の名前を区別せずに記述するので、私のような予備知識に乏しい読み手にとっては少し戸惑い混乱するところが、結構あったように思う。もう少しの工夫が望まれる。

さて、今ここで各講毎に逐次どう思ったかを書く気はない。読み終わって全体に感じたことだが、どうもかつても今も、日本の国家としての立ち位置を明確にして、そこからどういう方向に進んで行くのか、見極めた上での外交政策が日本には全くないのではないか、という思いだ。
明治維新では、世界に取り残された遅れた文明に眠り込んでいたのを、どのように新たな文明を学び、世界に入って行くのかという課題の中で、富国強兵があって、そこにベクトルが合っていたように見える。勿論、そうしてベクトル合わせまでには、西南戦争を経なければならなかったという背景はあったのだろうとは思う。
しかし、日露戦争が終わって明治期を過ぎて以降は、世界の中にある程度の地歩を築けてしまったので、単純な富国強兵論だけでは、日本の国家戦略は曖昧になってしまったのではないか。その曖昧さを意識したのかしなかったのか分からないが、的確な方向性を見極めきれずに、単純な植民地主義や膨張主義を国家戦略としてしまい、誤ったように思う。一部には中国の民族自決の機運を支援する動きもあったとしても、大筋においてはそうした動きを適切に取り上げることもなく、遅れた植民地主義や膨張主義に頼ってしまった。日本の思想家、哲学者にこうした動きに着目する人は少なく、殆ど内向きの思考でしかなかったのではないか。

そして 国家としては遅れた植民地主義や膨張主義に頼ったとは言え、それには国家全体としての具体的な方向性はなく、常に自分の所属する小さな勢力に有利な方向性を掲げて、国内勢力間でせめぎ合い勝った側の政策が外交政策となって行ったように見える。この外交政策には外部の客観情勢分析の結果という要素は乏しく、思惑が外れると慌てて右往左往するという姿が見て取れる。例えば、陸軍を中心にした南進論と北進論の対立は、実は極めて深刻で日本の歴史に大きな影を落としている。ソ連側は極東のこの動きを的確に把握して、スパイ・ゾルゲを派遣して情勢をさぐって成功した。前述の対立は戦時中も継続されたようだが、敗戦濃厚になるとこれが一転して中立国ソ連を当てにする議論に至ってしまうなど、定見なく右往左往の度合いが激しい。
このように太平洋戦争に突入するまで、外部の客観情勢分析が乏しいまま、単純な対米反感のみで興奮状態に陥り、冷静に見通すこともなく交戦へと突っ込んでしまうという無定見ではないか。この本では全く言及していないが、元都知事の猪瀬直樹氏の“昭和16年夏の敗戦”という著書に、当時の対米戦に勝機があるか、時の若きエリート官僚を集めて研究させたとの動きについて書かれたドキュメンタリーがある。そして、その結論は実際に起きたことと殆ど同じだったというものだ。東條は敗戦という論理的推論を知りつつ、顔面蒼白になりながら開戦を決意したという。これによって“当時の感情的な国民の「空気」で、戦争を始めてしまった。”という論評もあるくらいだ。正しくいい加減な「空気」で国が破滅したのだ。

同じようなことは現代の日本にも言えるのではないだろうか。現代日本に明確な国家戦略があるのだろうか。人口減少のこの日本で、IT革命やエネルギー革命と言う技術革新の中で経済を、産業をどういう方向へ導けば良いのか、明確な方向性があるのだろうか。あるとすればそれをどれだけの日本人が理解しているのだろうか。
1世紀前パックス・ブリタニカが衰退したのと同じように今やパックス・アメリカーナが衰退傾向にあるように見える中、中国の膨張にどのように対処するのか、日本の国家戦略は明確ではない。特に、中国の一帯一路政策がペルシャ湾からマラッカ海峡、南シナ海にいたる日本の石油シーレーンを脅かすことはないのだろうか。それに対する対策は、単純に海自を強化して空母を持って軍拡競争に走るのか。これこそ高い目線で総合的エネルギー政策も絡めて熟慮する段階に来ている。米国のシェール・オイルをあてにするするのか、ロシアの天然ガスに頼るのか、新しく安い再生エネルギーを中心に据えるのか、やっぱり原発なのか決断を迫られているのだ。あえて言いたいが憲法改正はその先にある、より小さな課題だ。
こうした議論が一向に見えて来ず、小手先のああ言えばこう言うような国会論戦に終始していて良いのだろうか。

この本で、驚いたのは第一次大戦後の早い時期に既に英国は国力の衰えを自覚しており、当時は中国大陸での民衆の抑えに日本軍の支援を期待していたという事実を初めて知った。一体どの時期から、英国は明確に日本を敵視するようになったのだろうか。日英同盟解消、四ヶ国条約締結からであろうか。
また米国は、第二次大戦後のアジアのパートナーに中国国民党政府を当てにしていたという。ところが内部腐敗が酷く、国共戦で敗北してしまったので、日本をパートナーとして選択せざるを得なかったという事実だ。もし国民党がしっかりしていれば、中国の国際的地位は国連での常任理事国であり、名実ともに圧倒的に日本を凌ぐものとなっていたものと思われると示唆していることは驚きだった。米国は戦後、終始日本を大事と見ていた訳ではないのだ。日本人の思い込みで歴史や国際情勢を語ってはならない教訓がここにはある。

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