The Rest Room of ISO Management
ISO休戦
神戸の講演会“巨大地震・津波にどう備えるか”に参加して
リスク・マネジメントに興味を持っている私としては、やはり防災にも注意を払うべきだと思っていて、身近な防災には強く関心を抱くようにしている。日頃 リスクを意識していながら、それが実践的でなく観念論に堕していては、誰もそれを信じてはくれないと思っているからだ。
また神戸は1995年1月に都市直下型地震に見舞われた経験がある。したがって、都市防災には市民は皆関心が強く、行政も熱心である。そういう背景があって、先月1月末に神戸市・神戸海洋気象台主催の地震・津波対策の講演とパネル・ディスカッションの会が開催されたので行ってみた。しかし、私も含め 恐らくはほとんどの神戸市民は もう直下型震災はないものと信じ込んでいて、ここで言う“巨大地震”とは東海・東南海・南海連動地震であり、“津波”は その地震に伴う津波のことである。主催者、講演側も そう心得ていて、それをテーマとしていた。プログラムは 次の通り。
基調講演者:奥村与志弘 氏 (京都大学大学院地球環境学堂 助教)
講演主題:東日本大震災後の我が国の防災・減災
― 南海トラフ沿いの巨大地震にどう備えるか ―
パネル・ディスカッション
コーディネータ:北村佳照 氏 (神戸海洋気象台長)
パネリスト:奥村与志弘 氏 (京都大学大学院地球環境学堂 助教)
瀬川 巌 氏 (神戸市危機管理室長)
小野山 正 氏 (兵庫県災害対策課長)
能美 龍太郎 氏 (NHK神戸放送局放送副部長)
大石 伸雄 氏 (NPO法人兵庫防災士会理事長)
講演では、次のようなことが語られた。今回の東日本大震災の被災地域(浸水域)が3県で880平方キロ(東京都23区は622平方キロ)と超広域の災害であって、何よりも災害対応の拠点となるべき各都市行政の庁舎そのものや、避難先の学校、病院が壊滅し、活動そのものに支障をきたした。当然、職員や移動・輸送手段のヘリ、公用車が失われた。被災者数も 神戸震災の場合は30万人だったのが47万人に膨れ上がっていて、それが超広域に散在・孤立していた。広域のため燃料不足により移動が困難となった。膨大な救援物資そのものの不足もあったが、それを配付するためには物流のプロが必要だったが、そのような人材も不足した。しかも、町村合併により細かな地域との情報の双方向のやり取りが失われてしまった。こうした困難が、神戸の場合より以上に救援や復興を遅らせてしまっている。
ところが、将来想定される南海トラフによる被災は、従来想定でも600万人とされており、今回の東日本震災被害者47万人の10倍以上であり想像を遥かに超えるものと想定されており、これを どうするかが大きな問題となる。つまり、避難者一人当たりの救援が10分の1以下になり、被災後の回復速度が10分の1以下になることを意味するが、それでは問題が大き過ぎる。したがって、発想の転換が必要であり、別次元の対策が求められることになる、という。
これから具体的にどうするのか。想定は重要だが、その想定に縛られた思考限界を設けてはダメで、想定を超える対応・対策を求めるという発想が必要となる。さらに助かるために何をするのかという発想が必要であり、今回の津波被害者もそういう発想ができた人々がかろうじて生き延びることができたということであり、危機に際して柔軟な思考が重要だということだった。
しかし、ここから、議論の焦点が 避難のあり方についてだけに絞られ、終始してしまっていて残念だった。勿論、地域特性を生かしたアイデアも重要であり、そうした個々の強味を生かした避難のあり方を それぞれの地域で自主・自立的に発想することが、講演者の言う災害対応の“強靭性強化”につながるのは確かなのだろう。それから、災害の規模を把握し津波が及ぶと予測される地域への情報伝達の態勢作りも重要であろうし、そのような方向付けのため活動は報告されていた。
パネル・ディスカッションでは、これまでの神戸市、兵庫県のハザード・マップの作成状況や被災・避難対応の施策状況の報告がされていた。
神戸震災の被災直後の私の経験ではNHKは何の役にも立たず間抜けな報道ばかりで、民放のラジオ放送の方が有益な情報源だった。そのような反省の弁はNHKからは聞かれなかったが、東京に震災が起きた場合に第二拠点としてのバックアップ機能を大阪に移すという体制にしたとは言っていた。当然ながら震災特集もやるとは言っていた。
防災士会からは、その設立の経緯と、 さらに助かる姿勢を各市民が持てるような避難訓練のあり方を報告していた。
しかし、自主・自立した個人の避難の後の対応や態勢についての議論は、ここでは全く聞かれなかった。国全体で超広域被災地の救援体制をどうするのか、救援の汎用的な手段・体制はどうするのか、そのような議論は一切なかった。個人としての自主・自立的対応は3日程度が限界である。まして救護に際して、生存率は最初の24時間で80%、2日目で20%、3日目で0%となるので迅速な救護態勢が必要と言われている。そのような救援隊としての自衛隊の“戦力”は十分なのか。不足するなら海外の救援は期待できるのか。米軍は迅速に協力してくれるのか。米軍が間に合わないのなら、中国やロシアに支援を求めるのか。そういった検討はやっているのかの報告は全くなかった。
ここで議論されなかったことで、重要なことがもう1つある。それは中部電力の発電所が全て海抜0メートルに近い沿岸部の火力発電所であり、南海トラフ沿いの巨大地震による巨大津波に襲われると これらは全滅すると想定される。その場合、オール・ジャパンの電力が決定的に不足することになる。そうなると日本全体の復旧・復興が非常に困難なこととなり、深刻な事態に直面することになるが、その対策は 一体どうするのかの議論だ。
これは、昨年、災害対策研究会の宮本英治氏が第6回「地域防災防犯展」大阪で語っていた問題だったが その後も今回も含めて誰も問題として懸念していないことだ。日本全体の災害リスク管理は一体 どうなっているのだろうか。その時被害を受けなかった原発の再稼動を積極的に容認するのか、やせ我慢して再稼働を見送るのか、今 決めておかねば それこそ日本そのものの再建・復興はあり得ないことになるのではないかと思うのだ。
国家の危機管理、天災による災害にしろ、軍事面での問題にしろ 誰がどうするのか想定すら出来てはいないのではないかと危ぶまれる。
さて、かく言う私も その後自治体の作成したハザード・マップを見たが、予想通り津波に対してだけが当面する被災懸念事項であり、それも南海トラフ沿いの巨大地震によるものである。阪神地域は地震発生後1時間程度は余裕があるので、何を持ち出すか決めておけば、想定している避難先へも、それほど慌てずに逃げられるものとタカをくくっているというのが実態だ。それにしても、避難が無事にできたとしても、その後の救援を どのようにして待つべきなのか、特に電力不足については非常に心配なのである。
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また神戸は1995年1月に都市直下型地震に見舞われた経験がある。したがって、都市防災には市民は皆関心が強く、行政も熱心である。そういう背景があって、先月1月末に神戸市・神戸海洋気象台主催の地震・津波対策の講演とパネル・ディスカッションの会が開催されたので行ってみた。しかし、私も含め 恐らくはほとんどの神戸市民は もう直下型震災はないものと信じ込んでいて、ここで言う“巨大地震”とは東海・東南海・南海連動地震であり、“津波”は その地震に伴う津波のことである。主催者、講演側も そう心得ていて、それをテーマとしていた。プログラムは 次の通り。
基調講演者:奥村与志弘 氏 (京都大学大学院地球環境学堂 助教)
講演主題:東日本大震災後の我が国の防災・減災
― 南海トラフ沿いの巨大地震にどう備えるか ―
パネル・ディスカッション
コーディネータ:北村佳照 氏 (神戸海洋気象台長)
パネリスト:奥村与志弘 氏 (京都大学大学院地球環境学堂 助教)
瀬川 巌 氏 (神戸市危機管理室長)
小野山 正 氏 (兵庫県災害対策課長)
能美 龍太郎 氏 (NHK神戸放送局放送副部長)
大石 伸雄 氏 (NPO法人兵庫防災士会理事長)
講演では、次のようなことが語られた。今回の東日本大震災の被災地域(浸水域)が3県で880平方キロ(東京都23区は622平方キロ)と超広域の災害であって、何よりも災害対応の拠点となるべき各都市行政の庁舎そのものや、避難先の学校、病院が壊滅し、活動そのものに支障をきたした。当然、職員や移動・輸送手段のヘリ、公用車が失われた。被災者数も 神戸震災の場合は30万人だったのが47万人に膨れ上がっていて、それが超広域に散在・孤立していた。広域のため燃料不足により移動が困難となった。膨大な救援物資そのものの不足もあったが、それを配付するためには物流のプロが必要だったが、そのような人材も不足した。しかも、町村合併により細かな地域との情報の双方向のやり取りが失われてしまった。こうした困難が、神戸の場合より以上に救援や復興を遅らせてしまっている。
ところが、将来想定される南海トラフによる被災は、従来想定でも600万人とされており、今回の東日本震災被害者47万人の10倍以上であり想像を遥かに超えるものと想定されており、これを どうするかが大きな問題となる。つまり、避難者一人当たりの救援が10分の1以下になり、被災後の回復速度が10分の1以下になることを意味するが、それでは問題が大き過ぎる。したがって、発想の転換が必要であり、別次元の対策が求められることになる、という。
これから具体的にどうするのか。想定は重要だが、その想定に縛られた思考限界を設けてはダメで、想定を超える対応・対策を求めるという発想が必要となる。さらに助かるために何をするのかという発想が必要であり、今回の津波被害者もそういう発想ができた人々がかろうじて生き延びることができたということであり、危機に際して柔軟な思考が重要だということだった。
しかし、ここから、議論の焦点が 避難のあり方についてだけに絞られ、終始してしまっていて残念だった。勿論、地域特性を生かしたアイデアも重要であり、そうした個々の強味を生かした避難のあり方を それぞれの地域で自主・自立的に発想することが、講演者の言う災害対応の“強靭性強化”につながるのは確かなのだろう。それから、災害の規模を把握し津波が及ぶと予測される地域への情報伝達の態勢作りも重要であろうし、そのような方向付けのため活動は報告されていた。
パネル・ディスカッションでは、これまでの神戸市、兵庫県のハザード・マップの作成状況や被災・避難対応の施策状況の報告がされていた。
神戸震災の被災直後の私の経験ではNHKは何の役にも立たず間抜けな報道ばかりで、民放のラジオ放送の方が有益な情報源だった。そのような反省の弁はNHKからは聞かれなかったが、東京に震災が起きた場合に第二拠点としてのバックアップ機能を大阪に移すという体制にしたとは言っていた。当然ながら震災特集もやるとは言っていた。
防災士会からは、その設立の経緯と、 さらに助かる姿勢を各市民が持てるような避難訓練のあり方を報告していた。
しかし、自主・自立した個人の避難の後の対応や態勢についての議論は、ここでは全く聞かれなかった。国全体で超広域被災地の救援体制をどうするのか、救援の汎用的な手段・体制はどうするのか、そのような議論は一切なかった。個人としての自主・自立的対応は3日程度が限界である。まして救護に際して、生存率は最初の24時間で80%、2日目で20%、3日目で0%となるので迅速な救護態勢が必要と言われている。そのような救援隊としての自衛隊の“戦力”は十分なのか。不足するなら海外の救援は期待できるのか。米軍は迅速に協力してくれるのか。米軍が間に合わないのなら、中国やロシアに支援を求めるのか。そういった検討はやっているのかの報告は全くなかった。
ここで議論されなかったことで、重要なことがもう1つある。それは中部電力の発電所が全て海抜0メートルに近い沿岸部の火力発電所であり、南海トラフ沿いの巨大地震による巨大津波に襲われると これらは全滅すると想定される。その場合、オール・ジャパンの電力が決定的に不足することになる。そうなると日本全体の復旧・復興が非常に困難なこととなり、深刻な事態に直面することになるが、その対策は 一体どうするのかの議論だ。
これは、昨年、災害対策研究会の宮本英治氏が第6回「地域防災防犯展」大阪で語っていた問題だったが その後も今回も含めて誰も問題として懸念していないことだ。日本全体の災害リスク管理は一体 どうなっているのだろうか。その時被害を受けなかった原発の再稼動を積極的に容認するのか、やせ我慢して再稼働を見送るのか、今 決めておかねば それこそ日本そのものの再建・復興はあり得ないことになるのではないかと思うのだ。
国家の危機管理、天災による災害にしろ、軍事面での問題にしろ 誰がどうするのか想定すら出来てはいないのではないかと危ぶまれる。
さて、かく言う私も その後自治体の作成したハザード・マップを見たが、予想通り津波に対してだけが当面する被災懸念事項であり、それも南海トラフ沿いの巨大地震によるものである。阪神地域は地震発生後1時間程度は余裕があるので、何を持ち出すか決めておけば、想定している避難先へも、それほど慌てずに逃げられるものとタカをくくっているというのが実態だ。それにしても、避難が無事にできたとしても、その後の救援を どのようにして待つべきなのか、特に電力不足については非常に心配なのである。
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