The Rest Room of ISO Management
ISO休戦
“ISOを活かす―42. レンタルした設備も適切に管理することによって、品質を確保する”
今回は アウトソースの一種と言える レンタル設備の管理が テーマです。
【組織の問題点】
昨年ISO9001の認証を取得した建築会社A社では、インフラストラクチャーとして“本社ビル、電気、水道、ガス、机などの事務備品、工事現場事務所および計測機器などがある”と品質マニュアルに規定されています。定期審査においてこれらのインフラストラクチャーが適切に管理されていることが確認されましたが、工事現場で使用されている建設機械は、レンタルであるため管理対象となっていませんでした。
ところが、このA社では、レンタルの建設機械の不良によって品質不良や事故が時々発生しています。こういった問題をISO9001の活用で解消できるでしょうか、という課題です。
【ISO活用による解決策】
著者・岩波氏は ISO9001の6.3項の “製品要求事項への適合を達成するうえで必要とされるインフラストラクチャーを明確にし、維持すること。” と4.1項の “要求事項に対する製品の適合性に影響を与えるプロセスをアウトソースする場合には、アウトソースしたプロセスに関して管理を確実にすること。” を引用しつつ、“レンタルした設備(建設機械)に対しても、適切な管理をすることが必要です。” と指摘しています。
そして“自社所有の建設機械の場合は、法定点検、日常点検、修理などを行いますが、レンタルした設備の場合は、法定点検や修理はレンタル会社が行い、自社のおもな管理業務は日常点検となるでしょう。この場合A社は、レンタル会社が法定点検を適切に行っているかどうかを、書類などで確認することが必要です。” と言っています。
この法定点検や 修理がコストが かかるので、その負担軽減を目的にレンタルする訳です。
最後に “なおこの例の、本社ビルの電気、水道、ガス、事務備品などは、製品の品質に直接影響するものではないため、管理対象のインフラストラクチャーに含めなくてもよいでしょう。” とコメントしています。
【ポイント】
ここでの、著者による総括は 次の通りです。
【磯野及泉のコメント】
このA社に対する ISO9001の解釈と適用のアドバイスは 著者・岩波氏の 指摘通りだと思います。
しかし、上記の “ポイント”で 語られている②項は かなりの語弊があると思われます。この言い方は ISO9001のコンサルタントや審査員が よく言う台詞です。正確に言うと “ISO9001適用対象としての管理対象とはしなくてよい。”というのが 本来であって、ISO9001以外では管理対象となるものが 多いのではないかと思われます。
例えば ここで“管理対象としなくてよい” とされている “本社ビル、電気、水道、ガス、机などの事務備品” はISO14001の管理対象となる可能性が 高いのです。それ以外でも 企業が コンプライアンスや社会的責任CSRを 果たす上で 管理対象とするべきものがあるはずですので よく見極めておく必要があります。
また ISO9001の管理対象と それ以外のもので 管理手法を変えると 逆に 手間が増えたり、余計なムダが生じたりすることがあるので、十分な内容吟味と バランス感覚が必要です。
次に ここでは 私は レンタル設備のあり方について ISO9001から 少々 外れるコメントをさせていただきます。
昔から、大工や職人の名匠は 自分の道具を大事にするようです。つまり 自分の仕事を支える道具を大切に扱い きちんと手入れするのです。この道具が 借り物で手入れもせずに きちんとした仕事ができるでしょうか。このような 私の考え方は少々古いのでしょうか。
いかに コスト負担軽減のためとは言え、自らを特徴付ける成果・製品を作る部分に レンタルの機械を投入するべきでしょうか。この建設会社A社が どのような仕事にレンタルの建設機械を 投入していたかは不明ですが、少なくとも 自らのコア技術を支える部分は “自分の道具”でやるべきではないかと思うのです。
以前の 製造工場には 保全の専門家が 居て 機械・設備を きちんと整備していたものです。最近は コスト負担を軽くするためにこの保全部隊を 別会社にしていることが 多いと思います。そして 設備までもレンタルするようになってきています。単に財務的な形式上のレンタル設備であるのなら 許せるような気がしますが・・・。
私が “自前” の 道具・設備に こだわるのは、“自前”であることで それを扱うオペレータの道具・設備への愛着や こだわりが生まれるものだと思いますし、それがコア技術確立の原点だと思うからです。道具・設備への愛着や こだわりと それを使って良いものを作りたいという意志が 工夫や 改善・改良を生む原動力になると思うのです。これが 他人の道具・設備を 使っていて生まれるとは思わないのです。
財務上危機に陥った 鉄道会社が 電車をリース対象にしたことが 話題になったことがありました。これが 一時的な 財務負担軽減のための限定的措置であれば 良いのですが 長期化、常態化するのは 良くないように思います。
社員が リース対象だから 改善・改良に 手が下せないという意識が 蔓延すると 顧客に提供するサービスや技術・技能の劣化が 始まることが懸念されるからです。
このあたりの 現場のこだわり感覚が 理解できるかどうかも 事業経営者のセンスの問題だと思うのです。
企業パフォーマンスに影響を与える因子の 比較重要性の認識、ひいては会社運営の原則の確立、企業カルチャーの重要性が こういった部分にも 図らずも にじみ出るものなのだと思います。
財務ばかりに目が行っていると こういった問題を見落としてしまいます。
このような 一見 瑣末な問題に見えることに、実は重要な課題を秘めていることが、ISO9001を適用することで、見えてきます。これは ISO9001の非常に大きな効用であると 私は思っています。但し、これには 経営者の自分の事業はこうでなければならないという確固たる主体性が 前提になりますが・・・。
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