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“寛容力”を読んで


今年、プロ野球で日本一になった 西武埼玉ライオンズの渡辺久信監督の本です。シーズン前、ライオンズが優勝するなどとは、誰も予想していなかった。ただ1人、渡辺監督自身を除いて。
この本、東京に出張した際、ヒマだったので読んでみたいと探したのですが 優勝監督の本なのに ありませんでした。そして、帰阪した新大阪駅の在来線ラチ内の書店で購入したのです。地元に近い東京で 売っていないのは不思議でした。逆に、人気が有りすぎて どの店でも完売してしまっていたとも思えませんが。

この本は 何より読んでいて、全て具体的で、よく分かる話ばかり出て来るように思うのです。
この感覚は 川上氏星野氏の本からは、何故か得られなかったような気がします。観念的だったり、周囲のエピソードばかりが多かったりしたような気がするのです。

例えば、目標を示し、それを徹底させる。たとえ一時的に失敗してもその目標に沿った結果なら、決して非難しない。むしろ、そのことを促すように励ます。そのような挿話が この本では 何度か登場しているような気がする。
特に 今年の開幕戦で、打撃陣に精彩が無く黒星スタートになった時、黒江ヘッド・コーチが 選手を集めて
“打撃が大振りになりすぎている!”と叱った時、渡辺監督は、それを制止し、
“コーチ、僕らは秋から、しっかり振り込むことができる打撃陣を目標にやってきましたよね。今日は負けましたが、それで僕らがやってきたことをすべて否定するようなことは言わないでください。” と言ったという。
このことは、非常に重要なことだと思う。米軍の士官学校の食堂には 次のような言葉が掲げられていると聞いたことがある。“ORDER! COUNTER-ORDER! DISORDER!(命令、撤回、そして混乱)”
つまり、士官たるもの 命令を出す時は 良く考えて出せ!良く考えた末に出した命令なら、簡単に撤回するな。もし、それを撤回すれば、その軍団は混乱に陥る。だから、命令は 良く考え、それを徹底せよ、という 人の上に立つ者への最も重要な教えの一つなのだ。このことを、渡辺監督は良く認識していると言える。
思い通りに上手く運ばない現実を目の前にした時、“迷い”の中にあっては、なかなかできないことだ。渡辺監督は 迷わず方針を徹底させた。それが、自分が尊敬するコーチであってもチームが混乱するような言動だと思えば、制止し、既定方針を確認し徹底させた。
“しっかり振り込む”ということは、それほど良く考えて自信を持って出した方針であった、ということでしょう。
この“しっかり振り込む”ということは チームに活気を与え、且つ 見に来る観衆を楽しませる本質であるということを 良く知っていて出した方針であることを別のところでも説明しています。どうやら、それこそ野球を面白く見せる本質なのでしょう。それを“爽快感のある野球”という言葉で表現しています。それは“ホームランがガンガン出る野球”だと言っています。
そういう打撃というか、魅せる野球の本質を 投手出身の渡辺監督は どうやって確信したのでしょう。

そういう本質を見抜くこと。その点に関して、渡辺監督は常に良く考えているという印象です。
つまり、モノゴトそれぞれの基本機能は何なのか、を良く考えて、それを見抜いて、その基本機能を伸ばすように取り計らっているように思うのです。実に 頭が良いというか、非常にスマートな人だと思うのです。

日本シリーズの重要な局面、オカワリ君中村剛也の打席になった時、デーブ大久保コーチが そっと中村に耳打ち。その直後 見事、中村は 豪快なホームラン。そんなシーンを鮮明に覚えています。デーブは一体何をささやいたのか、気になるところです。
この2人のことをこの本では「大デブ・小デブ」と言っています。通り一遍の“メタボはダメ”は間違っている。“減量したらパワーが出ない”、天性のパワーを殺いでしまっては元も子もない。“固定観念は飛躍的成長の敵だ”とも言っています。
そして渡辺監督にとって“スリリングで見ていて楽しい野球”の実現のために“まん丸い顔でにっこり笑っている”陽気なデーブは必要だったというのです。周囲の“プロゴルファーをコーチにした”との評価を押し切って、いの一番にコーチ就任を要請したというのです。
大久保コーチは渡辺監督と同期の盟友。だから お互いを良く知っている。大久保コーチは“メモ魔”で研究熱心。その上、現役時代から 新外国人選手に和式トイレの使い方を教えられるくらい英語はできたというのです。そして解説者時代にアメリカを巡り、メジャーリーグのキャンプを取材しながらコーチング・スキルを学んだという。
デーブ・コーチがそういう人物とは知る由もなく、テレビのオチャラケ番組で見た、または時々野球解説を聞いた程度でした。人の本質を 見抜くことも 勿論 重要なことなのです。
そして、その人の能力を個別に適切な手法で100%引き出す、これが重要で当たり前なのですが、非常に難しいことです。それを やり遂げたからこそ優勝できたのです。そして、監督自身はシーズン前 優勝に密かに確信を持っていたというのです。

本の内容は 実はその副題“怒らないから選手は伸びる”とは少し違うところにフォーカスしている印象でした。

とにかく、恐らくは優勝監督で多忙な人の緊急出版のため、口述筆記で出来上がった本だと思うのですが、編集の不自然さが無く、話されたことが その順のまま筆記され、ほとんど手直しせず出版されたような気がします。
もし、本当にそうならば、渡辺監督は 相当にスマートで 涼やかな頭の持ち主なのだろうと感心したのです。失礼ながらそんな方とは 思わなかったのですが・・・・・。

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