The Rest Room of ISO Management
ISO休戦
講演会“金属ガラスの実用化、商業化の現状と展望”を聴講して
今回はいつもとは趣を変え、私が学生時代に専門としていた金属工学に関する最先端情報の講演会に参加して聴講したので、少々旧聞に属して恐縮ではあるが、ここに報告したい。この講演会は、この7月8日に東北大学金属材料研究所附属研究施設関西センターが主催して、クリエイション・コア東大阪にて開催されたものであった。東北大学の金材研の施設が関西の東大阪に進出しているのには、ある種驚きを覚える。兵庫県立大学工学部(旧姫路工大)と連携して、神戸の鷹取にある兵庫県立工業技術センターに拠点を設けていることは、以前に同センターを見学したことがあって知っていたが、東大阪にまで進出しているとは知らず、その経緯詳細も知らぬが、関係者の熱意に敬服する。
開催時間は、10:00~18:00とほぼ丸1日であったが、私は17:00~18:00の“ポスターセッション&交流会”には参加しなかったので、早目の午後5時で引けた。しかし、軽いしかし心地よい疲労感があった。途中の昼食は、隣接の東大阪市役所11階の職員食堂が一般にも開放されているので、そこを利用して済ませた。最上階の22階に展望ロビーがあるようだが、11階でも眺望は良く、親子丼で確か\450-でコストパフォーマンスで満足した。
ここで、“金属ガラス”について説明したい。一般に金属は結晶化した状態で存在するが、ガラスは結晶ではなく非晶質物質である。結晶というのは、その物質を構成する原子が規則的に整列して出来上がっており、非晶質物質は それが不規則に存在しているものである。ガラスの主成分は、酸化ケイ素Si-Oであるがこれらの原子が不規則的に配列している。これに対して、水晶は主成分が同じ酸化ケイ素Si-Oであっても規則的に配列しているので、結晶体である。
ところが、通常結晶体の金属でも溶融(高温液体)状態から超急速で冷却し、固体にすると原子が不規則に配列した非晶質になることが分かった。(1960年にカリフォルニア工科大学のポール・デュエーらによりAu75%-Si25%の合金で発見。)ここで、金属の非晶質化にはこの超急速冷却というのがポイントであり、合金の成分によっても異なるが、1秒間に100万℃の冷却速度(1000℃からだと千分の1秒)が必要とされる。例えば日本刀の鍛錬の焼き入れのように炭素鋼からマルテンサイトという硬い物質を晶出させるためには、原理的には最低約540℃/秒以上の冷却速度(1000℃からだと約2秒以下)が必要であるから、非晶質化のための超急速冷却が、いかに技術的困難を伴うものか理解できる。物体の内部まで、この冷却速度を確保する必要がある(寸法効果)ため、小さなモノ、薄いモノでなければ金属ガラスの製品化が困難とされている。
この非晶質金属のことを、以前はアモルファス金属と呼称していたが、身近な物質のガラスのように非晶質金属という意味で、“金属ガラス”と呼ぶようになったらしい。
ところで、金属ガラスを作るための超急速冷却実現のための技術的困難や、出来上がった金属ガラスの特性も不明だったため、長い間 広く研究対象とはならなかった。私の学生時代も、ほとんどの研究は当然ながら金属は結晶体であることを前提になされていた。特に、私の卒研は、塑性加工のミクロな解析論(転位論)をベースに、金属結晶内に加工で生じる物質の生成過程の解明であった。(結果は、思惑に反して解析に適した巨大結晶化が上手く行かず、このためデータの精密な解析ができず、きれいな結論は出なかったが、何とか修了とさせてもらえた。)
ところが、この東北大学をはじめとする研究グループの地道な活動から、25年前に実用に供する金属ガラスの成分系と冷却技術の確立がなされ、それにより研究者も増え、“金属ガラス”学が開花して来たのというのが、私の理解である。従って、私は“金属ガラス”の何たるものかの基礎的知識はなく、最近の金属工学の最先端の情報に興味があり、聴講した訳である。
さて、講演会プログラムは以下の通りだった。(講演者の敬称略)
①「金属ガラスとその実用化,商業化の現状と課題」 東北大学 早乙女 康典
②「金属ガラスと機械部品に要求される特性」 (株) 丸ヱム製作所 山中 茂
③「金属ガラス鋳造成形によるねじポンプ用微小ロータへの適用」 ヘイシンテクノベルク(株) 井上 陽一
④「金属ガラス溶射を応用した磁歪式トルクセンサの実用化」(株)サンエテック 蒲田 繁
⑤「家庭用燃料電池アモルファスコーティング集電板」 (株)中山アモルファス 覚道 茂雄
⑥「Au-Cu基金属ガラスの製造プロセスの開発と実用化の模索」(株)牛越製作所 牛越 弘彰
⑦「金属ガラスを用いたマイクロギヤードモータの実用化開発」 並木精密宝石(株) 清水 幸春
⑧「粉末成形法による機械部品の量産化技術開発」 ポーライト(株) 島田 登
⑨「金属ガラス材料の製造,品質管理,材料供給の現状と課題」 東北大学 網谷 健児
⑩「Au,PtおよびPd基金属ガラスの現状と課題」 田中貴金属工業(株) 塩田 重雄
⑪「金属ガラスの棒材作製技術(差圧鋳造装置)」 (株)BMG 真壁 英一
⑫「金属ガラス箔・粉等の紹介」 福田金属箔粉工業(株) 谷川 竜一
⑬「急冷凝固装置と関連技術について」 日新技研(株) 谷路 正広
⑭「自動アーク溶解炉の紹介」 大亜真空(株) 亀山 元弘
以上で、どのような会社が“金属ガラス”に興味を持って事業化し、営業しようとしているか分かる。ベンチャーや江戸時代からの老舗企業等、様々である。
この講演会で私が理解できたことは以下の通り。先に述べたように、金属ガラスは 矢張りバルク材(bulk:体積のあるモノ)では製造が困難。例えば数ミリ厚さの板材などは出来ず、薄い箔帯(厚さ100μ以下)やフレーク状のものや、その程度の大きさのものに限られてしまう。(寸法効果)しかし、その一般的特性が、機械強度と耐食性があることから、マイクロ・マシンの開発に不可欠の材料となる可能性があるということ。超精密加工が可能となれば、顕微鏡で見て分かるような歯車等や細かい部品の製造も夢ではない。しかも、その特性は成分系で大きく変化することはないので、金属ガラスにし易い合金成分を見つけられれば、その合金系*で様々な形状のものを作ることに意を注げばよいことになる。マイクロ・マシンに不可欠となれば、今後の開発には一層拍車がかかるものと思われる。
しかし、金属結晶体で議論される転位論のようなミクロの塑性加工論は未だ開発されていないようだ。そういう点でも、これからの研究対象としては膨大な分野があり、今後様々な発見が見込まれる。
*上記発表中の⑩で取上げられた金属ガラスの合金系は、Au基でAuAgPd系、Pt基でPtPdCuP系とPtCuP系、Pd基でPdCuNiP系が紹介されていて、いずれも貴金属系だが“地金代は高いが、微細部品なら使用量は僅か”であり、貴金属であるから“溶解は大気圧下ででき、高真空装置は必要としない”、“融点が低いので、ダイキャスト(鋳型)の金型材料もいろいろと種類を選べる”としてその利点を指摘している。別途、東北大を中心とする研究グループは、Zr基のZrNiCuAl系の特性を調査しているようだが、これも成分系から見て高価な材料である。
多少の誤解があるかも知れないが、どうやら、概ね以上のようだと理解した。この分野は、未だ教科書のようなものは存在していないので、こうした最先端の内容の講演会は、大いに参考になる。なので機会があれば大いに野次馬参加したい。
開催時間は、10:00~18:00とほぼ丸1日であったが、私は17:00~18:00の“ポスターセッション&交流会”には参加しなかったので、早目の午後5時で引けた。しかし、軽いしかし心地よい疲労感があった。途中の昼食は、隣接の東大阪市役所11階の職員食堂が一般にも開放されているので、そこを利用して済ませた。最上階の22階に展望ロビーがあるようだが、11階でも眺望は良く、親子丼で確か\450-でコストパフォーマンスで満足した。
ここで、“金属ガラス”について説明したい。一般に金属は結晶化した状態で存在するが、ガラスは結晶ではなく非晶質物質である。結晶というのは、その物質を構成する原子が規則的に整列して出来上がっており、非晶質物質は それが不規則に存在しているものである。ガラスの主成分は、酸化ケイ素Si-Oであるがこれらの原子が不規則的に配列している。これに対して、水晶は主成分が同じ酸化ケイ素Si-Oであっても規則的に配列しているので、結晶体である。
ところが、通常結晶体の金属でも溶融(高温液体)状態から超急速で冷却し、固体にすると原子が不規則に配列した非晶質になることが分かった。(1960年にカリフォルニア工科大学のポール・デュエーらによりAu75%-Si25%の合金で発見。)ここで、金属の非晶質化にはこの超急速冷却というのがポイントであり、合金の成分によっても異なるが、1秒間に100万℃の冷却速度(1000℃からだと千分の1秒)が必要とされる。例えば日本刀の鍛錬の焼き入れのように炭素鋼からマルテンサイトという硬い物質を晶出させるためには、原理的には最低約540℃/秒以上の冷却速度(1000℃からだと約2秒以下)が必要であるから、非晶質化のための超急速冷却が、いかに技術的困難を伴うものか理解できる。物体の内部まで、この冷却速度を確保する必要がある(寸法効果)ため、小さなモノ、薄いモノでなければ金属ガラスの製品化が困難とされている。
この非晶質金属のことを、以前はアモルファス金属と呼称していたが、身近な物質のガラスのように非晶質金属という意味で、“金属ガラス”と呼ぶようになったらしい。
ところで、金属ガラスを作るための超急速冷却実現のための技術的困難や、出来上がった金属ガラスの特性も不明だったため、長い間 広く研究対象とはならなかった。私の学生時代も、ほとんどの研究は当然ながら金属は結晶体であることを前提になされていた。特に、私の卒研は、塑性加工のミクロな解析論(転位論)をベースに、金属結晶内に加工で生じる物質の生成過程の解明であった。(結果は、思惑に反して解析に適した巨大結晶化が上手く行かず、このためデータの精密な解析ができず、きれいな結論は出なかったが、何とか修了とさせてもらえた。)
ところが、この東北大学をはじめとする研究グループの地道な活動から、25年前に実用に供する金属ガラスの成分系と冷却技術の確立がなされ、それにより研究者も増え、“金属ガラス”学が開花して来たのというのが、私の理解である。従って、私は“金属ガラス”の何たるものかの基礎的知識はなく、最近の金属工学の最先端の情報に興味があり、聴講した訳である。
さて、講演会プログラムは以下の通りだった。(講演者の敬称略)
①「金属ガラスとその実用化,商業化の現状と課題」 東北大学 早乙女 康典
②「金属ガラスと機械部品に要求される特性」 (株) 丸ヱム製作所 山中 茂
③「金属ガラス鋳造成形によるねじポンプ用微小ロータへの適用」 ヘイシンテクノベルク(株) 井上 陽一
④「金属ガラス溶射を応用した磁歪式トルクセンサの実用化」(株)サンエテック 蒲田 繁
⑤「家庭用燃料電池アモルファスコーティング集電板」 (株)中山アモルファス 覚道 茂雄
⑥「Au-Cu基金属ガラスの製造プロセスの開発と実用化の模索」(株)牛越製作所 牛越 弘彰
⑦「金属ガラスを用いたマイクロギヤードモータの実用化開発」 並木精密宝石(株) 清水 幸春
⑧「粉末成形法による機械部品の量産化技術開発」 ポーライト(株) 島田 登
⑨「金属ガラス材料の製造,品質管理,材料供給の現状と課題」 東北大学 網谷 健児
⑩「Au,PtおよびPd基金属ガラスの現状と課題」 田中貴金属工業(株) 塩田 重雄
⑪「金属ガラスの棒材作製技術(差圧鋳造装置)」 (株)BMG 真壁 英一
⑫「金属ガラス箔・粉等の紹介」 福田金属箔粉工業(株) 谷川 竜一
⑬「急冷凝固装置と関連技術について」 日新技研(株) 谷路 正広
⑭「自動アーク溶解炉の紹介」 大亜真空(株) 亀山 元弘
以上で、どのような会社が“金属ガラス”に興味を持って事業化し、営業しようとしているか分かる。ベンチャーや江戸時代からの老舗企業等、様々である。
この講演会で私が理解できたことは以下の通り。先に述べたように、金属ガラスは 矢張りバルク材(bulk:体積のあるモノ)では製造が困難。例えば数ミリ厚さの板材などは出来ず、薄い箔帯(厚さ100μ以下)やフレーク状のものや、その程度の大きさのものに限られてしまう。(寸法効果)しかし、その一般的特性が、機械強度と耐食性があることから、マイクロ・マシンの開発に不可欠の材料となる可能性があるということ。超精密加工が可能となれば、顕微鏡で見て分かるような歯車等や細かい部品の製造も夢ではない。しかも、その特性は成分系で大きく変化することはないので、金属ガラスにし易い合金成分を見つけられれば、その合金系*で様々な形状のものを作ることに意を注げばよいことになる。マイクロ・マシンに不可欠となれば、今後の開発には一層拍車がかかるものと思われる。
しかし、金属結晶体で議論される転位論のようなミクロの塑性加工論は未だ開発されていないようだ。そういう点でも、これからの研究対象としては膨大な分野があり、今後様々な発見が見込まれる。
*上記発表中の⑩で取上げられた金属ガラスの合金系は、Au基でAuAgPd系、Pt基でPtPdCuP系とPtCuP系、Pd基でPdCuNiP系が紹介されていて、いずれも貴金属系だが“地金代は高いが、微細部品なら使用量は僅か”であり、貴金属であるから“溶解は大気圧下ででき、高真空装置は必要としない”、“融点が低いので、ダイキャスト(鋳型)の金型材料もいろいろと種類を選べる”としてその利点を指摘している。別途、東北大を中心とする研究グループは、Zr基のZrNiCuAl系の特性を調査しているようだが、これも成分系から見て高価な材料である。
多少の誤解があるかも知れないが、どうやら、概ね以上のようだと理解した。この分野は、未だ教科書のようなものは存在していないので、こうした最先端の内容の講演会は、大いに参考になる。なので機会があれば大いに野次馬参加したい。
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