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この1週間で感じたこと―日本の生産性向上への施策の鍵

先週のニュース報道は隣国政権の話題に集中していた。だが、週末に取り上げられたニュースは今後の日本の社会トレンドを微妙に左右する重要な案件が噴出したように思う。以下にその引用と感想を紹介、羅列する。(そのまま引用している場合は“”内に示す。)

“内閣府が発表した8月の消費動向調査で消費者心理を示す消費者態度指数は前の月に比べ0.7ポイント低下して37.1となり11ヵ月連続で前の月を下回った。10月に控える消費税の増税が消費者心理を冷やしたものと見られる。また、指数の水準自体も前回、消費税率を8%に引き上げた2014年4月以来、5年4ヵ月ぶりの低い水準だ。”

中でも特に、住宅購入が消費税引き上げ予定にもかかわらず最近増加していない。低金利にも拘らず、トレンドが弱い。一人当たり名目賃金が上昇していないのが原因で購買意欲が落ちていると考えられる。それは、労働生産性が向上しておらず、2010年以降米国は8%ユーロ圏は4%上昇しているが日本は1%にも満たない。IT投資が低いのでそれを促す政策が必要だと言われている。
一方日本の労働生産性の低いのは、中小零細企業の比率が他の先進国に比べて多いためではないかとの議論が、朝まで生テレビで紹介されていた。職場への女性進出が低いのもそれが原因であるとのことだった。こうした件に関連して、私が小耳にはさんだ話だが、神戸では零細土建業者の廃業が進んでいるという。しかし、そこに勤めていた社員が路頭に迷い起業しているとのことで、一向に零細企業は量的に減っていないと言う現実があるようだ。それに零細企業の社長がM&Aされることを異様に毛嫌いする傾向もあるのではないか。そして中小零細企業の経営者には企業規模に関する甘えも肥大化している。
また、2014年以降、「自己資本利益率(ROE:Return On Equity)重視の経営」がアベノミクスの成長戦略の一環として政府主導で進められ、求められて来た。これによって、東証1部企業のROE は2009年度が4%未満だったのが16年度以降10%を超える水準になって来た。しかしこのROEの過度の重視やキャッシュ欠乏への恐怖感が賃上げせず自社株買いで対応する結果となり、内部留保が過大となっているという議論が一般化している。これに対し、米議会は今秋から議論のテーマにしようとしているが、日本の国会ではこのような議論が中心テーマになる気配はない。
そういう中で、単純な消費税引き上げが日本経済、否将来社会に資するものとは思えない。兎に角、日本の産業の生産性が低いことに対する政策が進展しなければこの国は持たないし、将来は暗い。これがこの国の抱える多くの問題の原因である可能性はたかいので、この点に絞って政府が施策を展開することが重要だが、それに気付いている人は果たして、どれだけいるのだろうか。

こうした状態の上9月の株式市場は香港騒動等、地政学リスクが高まり、株価は2万円割れもありうるという予測があった。
考えてみれば、日韓の軋轢の間隙をぬって北が潜水艦発射型のミサイル発射実験を行う可能性もあり、これは日本に重大な脅威と映る可能性がある。そうなれば一気に北東アジアの不安定化に落ち込む可能性が出てくるので、地政学リスクの高まりは十分にあり得ることだ。
地政学リスク以外にブレグジットもあり、ジョンソン英首相は合意無き離脱を成し遂げようと画策しているとの報道もある。これも市場リスクとしては非常に大きい。

さらに、個別企業の話題だが次のようなニュースもあった。
“株主13社による大量売り出しで、リクルート株が大幅安となっている。前日の東京株式市場、リクルートホールディングスは前の日より5%値下がりし、1銘柄で日経平均株価をおよそ17円押し下げた。凸版印刷やメガバンクなど、株主13社がリクルート株を手放すと明らかにしたためで、発行済み株式総数のおよそ7%の4,000億円分の株が売り出される予定だ。リクルートホールディングスについては、就職情報サイト「リクナビ」が学生の同意のないまま内定辞退率を予測してデータを販売していた問題が発覚した。今回の売り出しは「リクナビ問題」発覚後、続いていた株価の下落に追い打ちをかけた形だ。マーケットでは、売り出されるリクルート株について投資家が購入に慎重になるとの見方が広がっている。”
これはIT時代の個人情報の扱いを巡る問題だが、新聞記事では良く見かけたがテレビニュースでは取り上げられることは少なかった問題だ。今後の社会へ与える影響が大きいにもかかわらず、一般のテレビ局は何かを忖度しているかのようだ。CMの大口顧客のためだろうか。だが、これを報じたのは株式情報番組だったので、取上げざるを得なかったようだ。このように、日本のマスコミは忖度によって報道を加減しているので、我々は歪曲された情報の中にいるという事実を十分に噛みしめる必要があると改めて感じた次第だ。
また、今や市場ではESG投資(Environment, Social, Governance)として非財務情報であるESG要素を考慮する投資が注目されている。その観点からの株価急落は意味のあることかも知れない。
しかし、一方世間では企業行動に御行儀のよさを求めるSDGsが叫ばれているが、そのリーディング・カンパニーとして、“「笑い」を中心としたエンタテインメントによる社会貢献と、「誰もが、いつでも笑顔や笑い声をもてる社会」の実現を目指す”という会社が名乗りを上げている。あの社長自らパワハラを平気でやるような会社で、つい先ごろ話題だった。日本の企業パフォーマンスが、CSR同様、形骸化が甚だしい印象がある。これで良いのだろうか。

“来日中の国連のグテレス事務総長はブラジル北部アマゾン地域で続く森林火災について「極めて深刻な事態」だとの認識を示した。その上で、鎮火に向けて「実行可能なあらゆる手段を講じる必要がある」と支援を呼びかけた。ブラジル国立宇宙研究所によると、森林火災は昨年に比べおよそ80%増えていて、環境への影響が懸念されている。”
これこそ、SDGsに関わる本命の課題だ。17のターゲットの内、15番目の課題“15.陸の豊かさも守ろう:陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図る” に関わることだ。ブラジルの大統領がこの問題に後ろ向きだということが、大いに懸念される。

さて、今週は集中豪雨で九州の被害が甚大だとのこと。佐賀県大町町の病院の周囲が水没して、患者の救助もままならなかったという。昨年倉敷市真備町で見た光景とよく似ている。良く調べてみると、以前いた会社の九州工場のすぐ近くだった。JRの路線を挟んで南側の川が氾濫したのだった。その町のハザードマップを見てみると、一面に水色が着色されてある。つまりチョットした豪雨で浸水する可能性が高いと言うことだ。そういう場所とは知ってか知らずか、新築して大いに落胆した人もテレビ・ニュースのインタビューに応じていた。
当の自治体もそうしたハザードマップを作成しておきながら、何らかの対策を施していたのだろうか。予算上の限界があったのだろうか。それにしても問題があるとして、日頃からの事前の住民への周知は十分だったのだろうか。この辺が昨年の倉敷の浸水の状況とよく似ている印象だ。要するにハザードマップを作るので精一杯で、それに応じた現実の対策が出来ていない、懲りない人々ではないか。日本中がこのようではあるまいか。
佐賀の沿岸域は海水面より低いのだと言う。ならば、河川、海岸の堤防の強化は勿論、常設のポンプ場を設置しておくべきではないのか。そういう対策はできていたのだろうか。

酷いのは、油を流出させた鉄工所の対応だ。ここでは以前“1990年7月の大雨時にも同工場から油が流出した。この事案を踏まえて、高さ3.5メートル、横5メートルの可動式の重量シャッターを3台設置、油槽がある建物を数十センチかさ上げするなどの対策を取っていた”という。だがしかし、ハザードマップに依れば1~2mの浸水が想定されているが、その対策で十分だと考えたのだろうか。何か甘さがあるのでは?100年に1度の災害対策は既に日本中常時の基準と考えるべき事態に至っていると考えるべきではなかったか。1000年に1度の地震津波も、その千年目が近づけば100%近い確率と考えるべきだったし、気候変動で前提条件が大きく変化しているとも考慮するべきだ。リスク評価が不十分では対策も全く意味がない。
鉄工所側も当時警戒はしていたようだが、動きが機敏ではなかったようだ。“8つの油槽がある建物が浸水。当時は夜勤の従業員7人が勤務、排水ポンプを2台設置していた。ただ、土のう積みなどの作業は水位が上がり始めてから取りかかっており「対応が遅れたのは確か」”だという。浸水対応訓練など、緊急事態対応は十分だったのだろうか。“流出した油は、鉄に強度を持たせるため、冷却する工程で使う熱処理用の油「焼入油(クエンチオイル)」。常務取締役は「油は不燃性だが、付着したら皮膚が変色する可能性がある」と説明。人体への影響については「低いとみている」”という。マスコミ対応は工場長の常務が対応か。これだけの社会的影響・害悪を流したのだから、社長が出て来て当然だと思われるが、いかがだろう。この油に関するSDS(物質の化学特性を記したデータ・シート)は関係者に配布したのだろうか。被害住民は臭いが酷いと言っていたから、揮発性も結構あるものと考えられ、これが病院の周囲に漂ったのなら体力の衰えていた患者には相当ひどいダメージになったのではないか。
少なくともISO14001への適合対応が十分であれば、このようなことにはならなかったのではないか。そうは言っても、その会社がリスクとは考えない限り対策は不十分になってしまうものではある。不十分なリスク対策であれば、今回のように補償問題で大幅な支出は余儀なくされるのは明白だ。責任は専ら鉄工所側にあるのであり、自治体や国が補助し切れる案件ではなかろう。もし、これで倒産となるのならば、どこか大手に吸収されるべきで、当の無責任な経営者は退場願うより外ないだろう。下手すれば刑事責任も問われるのかもしれないし、それくらいの罰は当然だろう。中小零細企業の無能な経営者が妙に頑張っている社会は改善されるべきで、そうして生産性の向上を目指すべきではないか。中小零細企業だからと言って、社会的責任を果たせないという“甘え”は許されない。まして法的責任も適切に果たすべきだろう。これこそ、自己責任ではないか。

今週は以上で、こんなニュース・コメントで何とか御了承をお願いしたい。結果として、日本には中小零細企業の数が多過ぎ、その経営者にはおしなべて社会的責任に甘えがあることが、日本の生産性を阻害しているという結論を得たように思う。

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