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水野和夫、山口二郎 共著“資本主義と民主主義の終焉―平成の政治と経済を読み解く”―平成の総括

先週のニュース報道も隣国政権の話題に集中していた。法相候補者の記者会見や聴聞会が話題で、その内容は子供だましのような詐欺事件で彩られている。他国のことながら、これは大変な問題のように感じる。だが振り返って、我が国の事を考える時、もっと情けない状況であることにゾッとするのは、私だけだろうか。そろそろ内閣改造とのことだが、閣僚就任時に聴聞会が開かれることが、この国でかつてあっただろうか。閣僚就任後にスキャンダルが表面化して、辞任というのが殆どというか、全てではなかったか。良く聞けば、米国とは異なり聴聞会で異論があっても、合法レベルであれば大統領権限で、大臣就任はあり得るとのことのようだ。閣僚就任後に不祥事辞任というのは、いかにも合理性を欠いていて、この時代に似合わず、無駄の多い仕儀ではあるまいか。
韓国のこの議会慣習は米国に倣ったものと思われるが、この国には戦後民主主義導入時には、何故かそこまで考慮されなかった。多分漫才の台詞ではないが、“そんな奴はおらんやろう”というオメデタイ発想によるものだったのだろう。ところが、制度作りはそういう楽観的考えでは失敗するのだ。人類の悪魔、ヒトラー政権が誕生したのはそんな楽観的な制度からだったのだ。制度や法規制は善悪説で設計しなければならない。
まぁ兎に角、閣僚に対する就任前の指名承認公開聴聞会が議会で開催されないこの国の民主度が、韓国に比べてもっと低いままであるのは事実だ。それにも拘らず、隣国の法相候補者の振る舞いを“おかしい”とテレビのワイドショウは嘲笑するが、この国の制度の在り方の“おかしさ”を指摘する声が全くないのは、どうしたことだろう。

米国では議会の指名承認公聴会での厳しい追及のある質疑応答を経た後、議会にて出席議員の過半数以上の賛成多数をもって就任が承認される、という。恐らく、そこには政治家の個人情報などは遠慮会釈なく暴露され、人権は無視されて当然という伝統的考え方が徹底しているものと思われるほどのようだ。民主主義国家では権力者には人権などなく、それだからこそ権力を付託する資格があると考えるのだ。ところが、この国には政治家にも人権はあると誤解する向きが多い。恐らく現首相もそのお考えに凝り固まっているのではあるまいか。そういう観点から、モリカケ問題も曖昧で終わり、長期政権となっている。
多分それもこの国の堕落を早めているような気がする。例えば、モリカケ事件に絡んで財務省の記録改竄は統計不正へ繋がる重大な事件だった。実際に“毎月勤労統計”や“企業行動に関するアンケート調査”でそのデータが不当に扱われ、結果として歪んだ情報となっている可能性があるという事件があった。だから、このブログでGDP情報が正しいのか、とこのブログで書いたが、そういう疑問を抱いても当然なのだ。
実際に、こうした政府のアンケート調査に真面目に対応していた中小企業担当者の怒りの声を、審査の時に聞いたものだ。

それにしても夏は高校野球で大騒ぎだが、世界レベルで見れば決して一流ではないらしい。U-18日本チームは何と今まで優勝して世界一になった事が無いとのこと。そして今年も予選落ちとなった、という。高校野球の全国大会は日本の大人の勝手な自己満足で終わっていたのだ。そんな風に世界のローカルで満足しなければ生きていけない日本人の姿に憐れさを見るような気がする。
何も、世界一でなければ意味がないという気はないし、高校球児の懸命さにリスペクトはするし尊重するべきとは思うが、周りの大人がそうではないもをロマンにしてすがっている姿が情けなく思うのだ・・・。
やはり、“前線の兵は優秀だが、司令官がダメ”の日本特有の問題が、ここでも露呈しているのではないか。

こんなことを続けていれば、いずれこの国は70年前のような廃墟になるのではあるまいか。そういう危機感の無さにも改めて危機を感じ取ってしまう、私が異常なのだろうか。


さて、今回は水野和夫、山口二郎 両氏の対談により構成された本“資本主義と民主主義の終焉―平成の政治と経済を読み解く”を読んだので紹介したい。紹介できるほど十分に読み込んだかというと、そうではなく理解も不十分なので、そのレベルでの紹介であることに御留意頂きたい。しかし、対談と書いたが実際には両氏の話す長さが結構長い。これはE-mailによる対話ではないかと思われる。

この本は実は野口悠紀雄氏の“平成はなぜ失敗したのか (「失われた30年」の分析)”を探していて、店頭で見つけたものだった。書かれた目的がほぼ同じならば、まずは2人の考え方を知ってみるべきか、との思い、というより295ページの単行本より、先ずは264ページの新書本の方が手っ取り早い、と思ったのが正しい。

冒頭で山口氏が次のように言っている。
“2009年に始まった民主党政権はわずか3年余りで瓦解し、その後に時代錯誤的な憲法改正と虚妄のナショナリズムを追及する安倍晋三政権が登場した。およそ一国を統治するだけの知性を持ち合わせているとは思えないこの政治家が、日本の憲政史上最長の政権を樹立しようとしている。現状は、フランス革命のギロチンによる恐怖政治やナポレオン支配の崩壊のあとに出てきたシャルル10世による復古王政に喩えられる。だとすれば、この復古王政は、民主主義を求める市民の力によって打倒されなければならない。”
こう書いているのを見て、思わずこの本を買ったのだ。安倍政権がシャルル10世の復古王政と言うのは面白い、さすがに学者の面白い見立てだ。

今、実は読了後1週間以上経っているが、印象に残っている台詞は、冒頭の過激な文言くらいで、他はむしろ水野氏の発言に興味が魅かれる部分が多かったように思う。これは政治学的、歴史学的素養に欠ける点がある、私の側の問題なのかも知れないが、・・・。さりとて、私に経済学的素養があるとも言い難いのだが・・・。
とにかく、こういった本を読みたいと言う思いに駆られるのは、日本の衰退が目に余るし、その割には産業改革が進展していないように見受け、あまつさえ5G革命の波に乗っている日本企業が見当たらないことに呆れ、失望してしまっていることの原因が知りたいためである。日本の経済学者はこの点に沈黙して語ろうとしていない。それに対し、水野氏は千年単位で資本主義の盛衰を語れる唯一の学者とお見受けして、政治学者の山口氏もそれを認めていることがこの本のPR部分だったのだ。一時代の終わりと次の時代の始まりに読むにふさわしいと考えたこともある。

水野氏は原油価格が日本経済の死命を制していると何度も指摘している。“原油価格が1バレル90ドル台で推移していた2011年から2015年の5年間貿易収支は赤字”であったとのこと。もっとも資本収支で黒字のため、経常収支をカバーするので、大きな問題にはならず円安にはならなかった。それが何時まで続くかが問題だ。従がい将来の賢いエネルギー戦略が重要となる。
又、日本経済が対ドル為替相場に左右され過ぎている原因は、この原油の輸入にもあるが、この点でのドイツ経済と比較して次のようにも評している。ドイツ車にはブランド力があり、かつてマルク高になればその分の値上げは通ったが、日本車にその力はあると言えるか。その上、輸出が米国全面依存ではないので、為替に左右される度合いが小さい。ところが日本は逆で対外交易条件が悪く、薄利多売で臨むことになる。粗利益が減少すれば、販売量を増やして収益の減少を防がざるを得ない構造なのだ、と言っている。“ボリュームで稼ぐとなると、労働者の労働時間が長くなる。”つまり、労働生産性が低くなる結果となると言うのだ。日本車のブランド力は上がって来ているようだが、恐らく“交易条件”は改善されずにある側面は残っているのではないだろうか。
前回、実は日本の労働生産性が低いことに言及できたのは実はこの本の水野氏の影響によるものだ。だが、同氏は上品にも中小企業零細企業の比率が高いことによるとまでは言及してはおらずROE(自己資本利益率:Return On Equity)経営に言及している。
“日本企業も欧米企業並みになったわけですが、けっして良い傾向だとは思いません。なぜならROEは、利益を増やすか自己資本を減らせば高まります。そこで何が起きるかというと、安易な人件費圧縮やリストラです。ROE経営は、働く者の生活を苦しめるだけなのです。”と喝破している。

日本企業が今、過大な内部留保に走っているのはリーマンショック後のトヨタ自動車の財務危機が原因だと、水野氏は指摘する。トヨタ自動車は財務の超優良企業として名にし負う“トヨタ銀行”と言われていた。その会社がリーマンショック後、米国の関連会社の債務焦げ付きと米国での売り上げが瞬間消滅して、本体まで倒産の危機に瀕したというのだ。その事態に恐れをなして、日本の会社はせっせと内部留保に励んでいるという。その当時トヨタ苦境の噂はあったように思うが、面白半分で語られているデマに近いものと思っていた。日本のマスコミも信じられない部分があるので、見過ごしてしまう事実だったのだ。当時は今ほどまでは、株に興味を持っていた訳ではなかったこともある。

山口氏は政治的には民主党政権の問題に言及している。曰く、鳩山首相の人使いの下手さ、公約の大風呂敷を広げて、国民の期待水準をコントロールできなかったこと、日米安保は“戦後の日本にとって「国体」”であるにもかかわらず、それに気付かず、その壁にぶつかって崩壊した、と評価している。

“2008年のリーマンショックの前までは、貿易黒字の稼ぎ頭は自動車産業と電機産業で、三番目に一般機械産業が続く”構造だった。“この機械産業の輸出で、原油と食糧品の輸入を全部賄い、お釣りが出て貿易黒字”だった。ところが、電機産業がこけてしまい、自動車の比重が高くなっている。そこで、もし自動車産業がこけると財政破綻に至るというのだ。ホリエモンは、今や日本の自動車産業は今や滅びゆくマンモスだと評していた。その根拠は、特に自動車で顕著なウーバーに代表されるシェアリング・エコノミーが急速に21世紀経済の主流になるからだ、という。つまり社会に共有されている自動車は街に溢れ、私有する必要はなくなり、その分売れなくなる。ならば、日本経済もそれに替わる主要産業が育成できなければ破綻に至ると言うことになる。ウーバー等の配車サービス業の隆盛を見れば、時間的余裕は余りないのではないか。一方、米国自動車メーカーも今や活気は確かに感じられない。

本“民主主義の死に方”では、“独裁の兆候として「審判を抱き込む」、「対戦相手を欠場させる」、「ルールを変える」”の3つが挙げられているが、山口氏は安部政権はこの3つ全てを実行していると指摘している。内閣法制局長官を恣意的に代えて「審判を抱き込」み、報道機関へは人事に介入して「対戦相手を欠場」させ、モリカケ問題では「ルールを変え」てうやむやにしたと指摘。ごもっとも。

最終章“これからの10年”で山口氏は、強固な自民支持は今後も続くと予想し、これへの対応は語っていない。また若年層の政治的無関心を嘆いて終わった印象だ。確かに絶望的ではあるが、何らかの打開策を提案して欲しかった。
一方、水野氏は財政赤字対策に企業と個人富裕層への資産課税を提案。また日本の生産人口は一般の高齢化に合わせて定年を引き上げ、教育期間を長期化して20代後半で最終学歴とするべし、と言っている。定年の引き上げはともかくとして、私は社会に出てから後の高等教育の再実施の方が有効だと考えている。
“ゼロ金利で資本主義は終焉しても、それは希少だった資本が過剰になったことの証であり、財・サービス・資本が満ち足りている日本やドイツは全体として困ることではない。”と楽観している。だが私には財政破綻が何をきっかけに起きるのか、日本の産業力の低下の臨界点がどこにあるのか、大いに懸念している。
一方、新自由主義が経済学で“倫理”を扱わなくなったことを問題にし、これからは経済成長の時代ではなくなり、分配の問題になるのでアダム・スミスに原点回帰して“政治経済学”として“倫理”を扱い、資本主義は終わっても、民主主義は終わらせるべきではないと、指摘して終わっている。

この本の読後感想の断片を一旦書いてみて、次のような感想も持った。それは伝統的な産業発達論というか、経済史論からすると、通常は英国の産業革命以降の資本蓄積の態様が次のような過程をたどるのが正常な歴史展開であると、語られていたはずである。つまり、近代産業の始まりは紡績や織物の軽工業が先ず機械化して、その後それで蓄積した資本は重化学工業化に向かい、その後、電機産業の一部が情報産業に進展して今日に至るというパターンがあって、これに沿わない発展はどこかに無理があり、“不健全な発展”とされていたのではないか。
現にドイツや日本の発展はこの道筋をたどって来ている。否、戦前の日本は重化学工業化の時間が乏しいまま、国家的総力戦に敗れ、戦後立ち遅れた重化学工業化を積極的に推進し、その後、足早に自動車、電機の現代化を果たし、ようやく先進国となれた。
それに対し、今や世界第2のGDPを誇る中国経済の発展は、重化学工業の近代化が未成熟のまま、情報産業化へ突入してしまっているのではないだろうか。これが正常な産業発展とは言えないはずだが、そこに無理はないのだろうか。又、社会主義経済がどのような頸木となるのだろうか。現代の経済史学者はこれをどう見ているのだろうか。少なくとも、水野氏はこの本でこの点への言及はしてはいない。

この点に関連した政治的矛盾が今、香港での騒動として現出しているのは事実だろう。それを経済史面でどのように解釈されるものだろうか。21世紀問題の特殊事例と考えるのか否か。
一方で中国本土は独裁政権がAIを駆使して、世界最先端の史上まれに見る強力な反民主の体制を築きつつあるのは事実だ。世界はこのAIの悪魔の帝国を見過ごして放置しておいてよいものだろうか。しかし、ヒトラー打倒の時代とは異なり、武力で倒すことは出来ないのが問題なのだ。それこそ“中国人民”自らの自覚により“民主的に”解消されるべき問題だが、それが最早不可能な段階に至ってしまっているのではないだろうか。力と力、究極は核の使用だ。時が経てばそれだけ、人民の歴史的犠牲は増えるのも事実だろう。さりとて放置すれば、いずれ強力な独裁体制が世界を席巻することとなる。それで良いのか。
そう考えると躊躇している場合ではないのは分かるのだが、具体的に何をどうすればよいのだろうか。


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