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トランプ政策への期待と日本経済への危惧

ドナルド・トランプ氏が大統領に当選してから2週間以上経過した。彼が大統領になれば株価は暴落するとの見通しで、マーケットは戦々恐々だったが、実際に当選して見ると暴落したのは開票日当日だけで、翌日からは上昇が続いている。当選後の声明で暴言がなくなり、神妙な態度でまともな見解を示し始めたことがその要因とされる。そして、挙句にはその経済政策に期待が持てると言うのだ。
さて、その経済政策の主なものと予想されるのは次の通りだと言う。
①10年間で6兆ドルの減税(米大統領任期は8年なのにどうして10年か)
②10年間で1兆ドルのインフラ投資
③(米国企業の)海外に積上げ留保している資産を米国に戻させる減税策
③はドル高要因で2005年頃に前例があり、当時10円程度は円安になったようだ。②は米国ではニュー・ディールの再来のような気がするが、それで米国景気はさらによくなると言えるのだろうか。日本では財政による刺激は嫌と言う程やって来たが、一向に景気の浮上はアベノミクスとやらで きっかけを作ったかと思われたが、今やしぼみつつある。それが積り積もって世界最大の財政赤字の国となった。減税の恩恵に浴する対象も問題であり、本当に期待して良いのかと思えるが、ニュー・ヨーク株価は最高値を更新している。トランプ氏はまだ実際に仕事をしていないが、その市場の期待の大きさが知れる。トランプ氏の口先一つがそんなに信頼できるのか、期待して構わないのだろうか。
とはいうもののお構いなしに上昇する株価に、日本の株価も動いた。中身は外人買いによるものだと言う。どうせ短期の資金移動ではないのだろうか。そもそも今の米国の景気は、トランプ氏でなくても浮揚する素地はあった。既に絶好調という専門家がほとんどだ。トランプ氏はそれをさらに押し上げる役割とみるのが正しい。米国の力が退潮傾向にあるというのは間違った認識だ。石油の中東依存がなくなったので、その世界戦略に多少の変化が出ているだけだ。
日本株が動いたのは、ドル円相場が動いた結果と言えるのかもしれない。ドル円相場は、どんなに動いたとしても120円/ドル台を超えることはないと、私は見ている。堀古氏によれば、ドル円相場は日米の実質金利差で動くと言うが、米FOMCによる12月利上げが予想されているので、金利差が開くとの期待もある。しかし日本と違い物価上昇があるので、実質金利差は期待する程は開かないとする見方もあるようだ。したがい、現在のドル円相場の上昇は、一時的に上昇してもやがて沈静化するものと見るべきではないか。となれば、近い将来の日本の株価の天井は、そう高くないことになる。

日本の株価が内発要因でなく、外発要因で動くことに情けない思いをするが、いかがだろうか。それは、日本の企業家に資本主義精神が旺盛と言えないことに起因するような気がするが、どうだろうか。何か、常に政府の政策に頼り切っている印象があるが、それでは健全な資本主義精神の発現とは言えない。
最近、関電のテレビCMで黒ヨン・ダム建設を取り上げて誇らしげだが、あのようにあくまで自力で投資し開発しようという、旺盛な迫力が今の日本の企業経営者にあるのだろうか。戦後、関西の電力不足必至が予測される中、関西電力の社長・太田垣士郎が急遽社運をかけた大規模プロジェクトを立ち上げ実現させたという。
戦後、一平炉鉄鋼メーカーだった旧川崎製鉄は発足後間もなく、千葉に高炉からの銑鋼一貫製鉄所の建設に取り掛かった。しかし、それは資本の重点投資を目指した当時の日銀総裁を激怒させ、“建てた工場にぺんぺん草を生やして見せる”と言わしめたという。しかし、川鉄の西山弥太郎社長は世銀から資金を引き出し、当時斬新な海岸製鉄所を完成させ、川鉄を大手鉄鋼メーカーの一角に押し上げた。
戦前には日本政府の意向に反して中国の国父・孫文を密かに匿ったのが、当時の川崎造船所(現・川崎重工)の社長・松方幸次郎だったという。当時、中国内で袁世凱と対立した孫文が一時日本に密かに亡命したが、日本政府は袁世凱に配慮して、孫文亡命を認めなかった方針に反して援助したことになる。
気付くとここに取り上げたのは皆関西の経営者達だが、そんな“骨太”の経営者が今居るだろうか。今や皆、政府頼みの大なり小なりの政商家ばかりではないか。そういう観点で、米国の退潮を心配するのは愚かなことで、人口減少の日本の退潮傾向の方が深刻で重篤であるとみるのが正しい。
否、今や日本最大の投資家は日銀ではないかと言われる。このように国家資本主義の色彩が色濃くなる中、政官財一体での軍事コングロマリット化が進むことに大きな懸念はないのだろうか。何だか、気付かぬうちに戦前の開戦直前の様相に近付いているような気もする。・・・発想が少々飛躍しすぎたかも知れない。

閑話休題。安倍首相が植民地総督よろしく、菅官房長官のお膳立てでトランプ氏に世界で最初に御機嫌伺いして、無能な外務省にはできない離れ業を演じたまではそれなりに良かった。会談後“トランプ氏は信頼できる”と断言したその直後、トランプ氏本人が“TPP離脱を大統領就任第一日目に宣言する”ことを宣明した。TPP推進を日本の構造改革の最大の眼目とした安倍氏の政策期待を大きく揺るがし、その面目をあっさり打ち砕いてしまった。安倍氏は折角の会談でTPPについて突っ込んだやり取りをして、確証を得た上でのコメントではなかったのか。御機嫌伺いに一生懸命になり過ぎて、重要な話題をし忘れたのであればマヌケの極みだ。

米国のTPP離脱はTPPの枠組みを基本から崩すもので、TPPそのものの意味が無くなるとされている。しかし、その内実は一部米国資本を利するだけの内容が盛り沢山のようだ。どうやら、TPPが失効しそうなので、その実態をようやくマスコミも明らかにしようとし始めている。ことが終わってからの真相報道では困るのだ。まるで、戦争が終わって負けてから 誰がこの戦争を始めたのかを追及するようなものだからだ。それでは戦争被害者、特に死者は浮かばれない。終戦直後マスコミはそういった反省をしたはずだが、今や全く健忘・痴呆になっている。

私がTPPについて最も懸念する点は、民間企業が政府を訴訟できる仕組が組み込まれていることだ。ある政府の政策が国外の民間企業の活動を阻害するものであればそれを訴えることが出来る、というものだ。これは法整備の不十分な国に対する処置条項のようだが、民主国家の政府であれば、その政策には何らかの形でその国の国民の意思、意向の総意が込められているものだ。そうした政策を、一民間企業が自らのビジネスに不利益になるから否定するというのは、対象の国家の民族性や民主主義を否定する動きと考えて良いのではないか。日本は曲がりなりにも法整備の進んだ民主国家である。米国の一民間企業の勝手を許して良いのだろうか。それは不正義そのものではないか。そういった、基本的な議論が国会でなされているのか聞いたことがないような気がするが、どうだろうか。
そうした胡散臭いTPPにトランプ氏が反対したのは、実は日本にとって僥倖となったのではないか。

しかし、逆にナショナリストの安倍氏が何故これほど国を売る政策に熱心なのか不思議でたまらない。“日本を守る”というのは口先ばかりではないか。また、トランプ氏のさらに熾烈と予想される対日要求に安倍氏はどう応えるつもりなのだろうか。まさか唯々諾々とするのではあるまい。それとも、対露外交も含めて良いカードを引き当てられると無定見にも言うのだろうか。何だかいつの間にか、衆議院解散の声も霧消した。御都合主義政治もいい加減にしてほしいものだ。
そして、そんな安倍氏を国民の大半が支持している現実にも不思議に感じる。そのウソばかりの口先の何を根拠に信じているのだろうか。それは真実を報道しない腰の引けた報道機関の姿勢によるのではないだろうか。
それとも私の鑑識眼が間違っていて、果たして実は私が売国奴なのか。彼等からすれば、そうなのかも知れないが・・・。

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