The Rest Room of ISO Management
ISO休戦
“ISOを活かす―読後の総括”
このシリーズは、岩波好夫著“ISOを活かす”という本に挙げられた事例に逐次 私なりのコメントを提供してきたもので、これは昨年末で 読了し、一応終了しました。
最後に この本を読み終えたこととして総括的な見解を 述べて完了としたいと思います。
本書で示された事例は全部で75件。扱っている産業分野は電子・電気産業18件、機械産業15件、建設産業(設計等含む)14件、食品産業6件、素材産業3件、その他製造6件、サービス業9件、ソフト制作会社3件、その他(コングロマリット)1件 となっています。
少々、不思議に感じたのが、ISO9001認証取得後 1年目、3年目、5年目という企業ばかりであることです。つまり認証後のいわば初歩的段階でのトラブル事例ばかりのようですが、ISO9001での問題はこういう初期トラブルが大半で、5年以上経験のある企業では、問題は少なくなることを意味しているのかも知れません。
また、自動車部品メーカーの事例であってもISO/TS16949に触れられていないことも奇妙に思われたのです。これは、著者のISO審査やコンサルタント活動の時期が未だISO/TS16949の普及が進展していない段階だったためかも知れません。
ISO9001への適合性だけではなく、さらに踏み込んで組織のプロセスや活動を評価した場合、様々な手法、例えばISO/TS16949でのコア・ツールや“なぜなぜ分析”等の使用状況や活用状況を見ることも重要なことのように思うのです。特に、製造業では設計・開発プロセスにおいて、品質工学(タグチ・メソッド)の適用が、この本の事例の問題点解消に有効だと思われる事例が8件はあったように思います。
しかし、このことは 通常の審査機関によるISO9001への適合性審査である限りは、余計なことなのです。どのような手法や経営ツールを使うべきかは、ISO9001には 規定されていないからです。逆に、ISO/TS16949では コア・ツールを何らかの形で使わなければ 不適合となってしまいます。
ISO9001に何故 “どのような手法や経営ツールを使うべきか”を規定しないのか、それは、ISO9001が様々な業種に適用するべき汎用性を指向しているからです。様々な業種について どのような手法や経営ツールを使うべきかは一概に 規定できるものではありません。不要な手法も含まれてしまう可能性があるからです。また、業種が同じでも企業規模によって、異なるということも当然あります。
逆に、ISO/TS16949は 自動車関連の主に機械・電気・材料関係業種に適用されるため ある程度業種が限られているため、使用するべきコア・ツールを規定することは可能だと見られているようです。
しかし、それでも 例えば材料関係業種では かなり無理をしなければならない余計なツールも見受けられます。それでも 対応する材料メーカーはほとんどが大企業のため何とか専門スタッフを用意して対応しているように見受けます。
ですが そういう無理があるためか、その普及、影響度は 広がりを見ていません。その動きに最も熱心だった 米国のビッグ3が いずれも 今や経営危機の真っ只中にあるというのも 大きな事情かもしれません。
この75件の異なる分野の事例では、私自身が基本的に対応に戸惑うような事例は無く、結構 私なりの意見・コメントができたことは 意外であり、自信にもなりました。
ところで、これら事例で気になったのが、しばしば経営者層の“迷い”のようなものが垣間見えたことです。これらの経営者には、経営に対する主体性や指導力、ISO9001マネジメントへの理解の不十分さを感じさせるのが多く、“品質マネジメントの原則”にもとるトップ・マネジメントも現実には多いように 感じられたのです。75件の事例中、少なくとも15件が該当するように思います。また、ISO9001活動が上手くできていない組織には、実は経営者自身が障害となっている事例がもっと多く潜在しているようにも感じられるのです。
そのような 経営者を頂く 従業員はある意味 不幸なのでしょうね。
しかし、ISO9001の考え方の定着が必要な小企業において、経営者は、その存在は絶大であり、独断的に全ての問題に対処していかねば やって行けないという必然があるため、あまり自らを虚しくして 人の意見を聞くような姿勢には乏しいのが普通です。従って、突然目の前に現れたようなISOコンサルタントの言うことに 謙虚に耳を傾けるようなことは ほとんどありえない、というのも実態であると思われます。
このため、コンサルタントには 対話力を含めてコーチング・スキルの学習と研鑽が 必須の要件だと思われますが、普通のISOコンサルタントはそこまで手が回っていないのが実態ではないかと 思われます。
この辺りにも、本当にISO9001が必要な小企業への普及の問題点が あるように 私は思っているのです。
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