2019年も9月に入り、日本各地でインフルエンザ流行/学級閉鎖のニュースを耳にする季節になりました。
さて、インフルエンザの現況を以下の順番で整理しておきたいと思います。
1.インフルエンザワクチン
2.インフルエンザ治療薬
3.インフルエンザ診療
今回は「インフルエンザワクチン」情報です。
まずは、2018/19シーズンのワクチンの有効性について。
米国CDCの報告(下記論文)では、すべてのウイルス株に対して47%の効果が得られて“優秀なワクチン”との評価です。
「え? 有効率47%で優秀?」
とツッコミたくなりますね。
その前年の2017/18シーズンのワクチン有効率は25%と低かったので、それと比べると約2倍の有効率ですから“優秀”となるようです。
小児科医として喜ばしいことに、成人より子どもの方が有効率が高かったこと。生後6ヶ月〜17歳までに限定すると、47%が61%まで上がるそうです。それでも麻疹・風疹の95%には到底かないません。
まあ、「発症」を基準にすると有効率は低いのですが、軽症化が望めるので接種する価値はあるとされています(私もそう説明しています)。
□ 「インフルエンザワクチンの有効性は昨シーズンを上回る、米調査」より一部抜粋
(2019/02/27:ケアネット)
今シーズン(2018/2019)のインフルエンザワクチンの有効性は、ウイルス感染の拡大によって大きな打撃を受けた昨シーズン(2017/2018)をはるかに上回るという報告を、米疾病対策センター(CDC)が「Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)」2月15日号に掲載した。
この調査は、2018年11月~2019年2月に、インフルエンザワクチン有効性ネットワーク(Influenza Vaccine Effectiveness Network)に登録された計3,254人の成人および小児を対象としたもの。報告書によれば、インフルエンザA型(H3N2)が主として流行した昨シーズンのインフルエンザワクチンの有効性は25%に過ぎなかった。しかし、今回の調査から、今シーズンのワクチンの有効性は、全てのウイルス株に対して47%の効果を発揮していることが分かった。研究を率いたCDCインフルエンザ部門のJoshua Doyle氏らによれば、これは、今シーズンのインフルエンザワクチンを接種すると、重症インフルエンザに罹患する確率が半減することを意味するという。
また、インフルエンザワクチンの効果は、成人よりも子どもの方が高いことも分かった。Doyle氏は「生後6カ月から17歳までの小児では、全体的なワクチンの有効性は61%に上っていた」と報告している。
また、今シーズンは、依然としてA型(H1N1)が最も流行しているが、A型(H3N2)の流行も広がってきている。しかし、今シーズンには、いずれのインフルエンザ株もワクチンに含まれているという。
CDCは、生後6カ月を過ぎたら、全員がインフルエンザワクチンの接種を受けることを推奨している。インフルエンザが猛威をふるい、ワクチン効果が比較的低かったときでも、ワクチンは多くの命を救ってきた。Doyle氏らによれば、昨シーズンには、ワクチン接種により710万人のインフルエンザ罹患と370万件の医療機関への受診、10万9,000件の入院、8,000人の死亡が予防できたと推定されるという。
ワクチン接種の利点の一つは、インフルエンザに罹患してもワクチン接種を受けていれば、より軽症で済むことにある。インフルエンザの重症度が軽ければ、特に高齢者や子どもの肺炎などの合併症を防ぐことができる。さらに、同氏は、ワクチン接種を受けることは、自分自身だけでなく、家族や周囲の人々を守ることにもつながると強調している。
Brammer氏は、これまでのところ、今シーズンはH3N2が優勢だった昨シーズンよりもはるかに流行レベルは低いとしている。なお、昨シーズンには、インフルエンザにより約100万人が病院を受診し、約8万人が死亡したと推計されている。
<原著論文>
・Doyle JD, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2019 ; 68: 135-139.
次は日本の小中学生におけるインフルエンザワクチンの有効性に関する報告です。ただし、データはちょっと古く、2012/13シーズンと2014/15シーズンの比較です。
□ 「日本の小中学生におけるインフル予防接種の有効性」より一部抜粋
(2019/08/28:ケアネット)
インフルエンザワクチンの接種は、インフルエンザの発症予防や発症後の重症化の予防に一定の効果があるとされている。今回、東北大学の國吉 保孝氏らが、地域の小中学生における季節性不活化インフルエンザワクチン接種(IIV)の有効性について2シーズンで評価した結果が報告された。Human Vaccines & Immunotherapeutics誌オンライン版2019年8月19日号に掲載。
本研究は、公立小中学校の生徒における2012/13年および2014/15年シーズンのデータでの横断調査。調査地域における対象学年の全員にアンケートを配布し、得られた7,945人の回答を分析した。予防接種状況とインフルエンザ発症は、両親または保護者による自己申告式アンケートにより判断した。一般化線形混合モデルを用いて、学校および個人の共変量におけるクラスタリングを調整し、予防接種状況とインフルエンザ発症との関連についてオッズ比および95%信頼区間(CI)を計算した。
主な結果は以下のとおり。
・予防接種率は2シーズンで同程度であったが、2015年のインフルエンザ発症率は2013年の調査よりも高かった(25% vs.17%)。
・未接種群に対する、1回もしくは2回の予防接種を受けた群におけるオッズ比は、2013年では0.77(95%CI:0.65~0.92)、2015年では0.88(95%CI:0.75~1.02)であった。
・必要な回数の接種を完了した群におけるオッズ比は、2013年では0.75(95%CI:0.62~0.89)、2015年では0.86(95%CI:0.74~1.00)であった。
これらの結果から、地域社会のリアルワールドにおいて、季節性IIVが日本の小中学生のインフルエンザを予防したことが示された。なお、2シーズン間の臨床効果の差については、「おそらく流行株とワクチン株の抗原性のミスマッチが原因」と著者らは考察している。
<原著論文>
・Kuniyoshi Y, et al. Hum Vaccin Immunother. 2019 Aug 19. [Epub ahead of print]
読んでいて、「はて、有効率はどこで見るのかな?」と疑問が生じます。
オッズ比の読み方を知らないとわかりませんね。
「オッズ比」(薬学用語解説)を参考にすると、
ワクチン有効率は、2013年では25%、2015年では14%ということになります。
低いですね〜。
細かいことは考えずにまことにざっくりとまとめますと、以下のようになります。
<インフルエンザワクチン有効率>
(2012/13シーズン)23%
(2014/15シーズン)12%
(2015/16シーズン) ー
(2017/18シーズン)25%
(2018/19シーズン)47%
次に紹介する論文は、インフルエンザワクチンを毎年接種しなくてもよくなるかも知れない、万能(ユニバーサル)ワクチンへの期待が膨らむ内容です。
現在のワクチンは“HAワクチン”と呼ばれていますが、これはウイルスのHA(赤血球凝集素)をターゲットとしたものです。さらに詳しくいうと、HAは頭部と茎領域からできていますが、頭部領域は年々変化(抗原連続変異)し、ワクチンといたちごっこをしています。開発中のワクチンは抗原連続変異が起こらない茎領域のみで構成されているので、より長期の効果が期待できる、というストーリーです。
□ 「新インフルワクチンで毎年の接種不要に? P1試験開始/NIH」より一部抜粋
(2019/05/15:ケアネット)
インフルエンザワクチンは次シーズンの流行予測に基づき、ワクチン株を選定して毎年製造される。そのため、新たな変異株の出現と拡大によるパンデミックの可能性に、世界中がたえず直面している。米国国立衛生研究所(NIH)は4月3日、インフルエンザウイルスの複数サブタイプに長期的に対応する“万能(universal)”ワクチン候補の、ヒトを対象とした初の臨床試験を開始したことを発表した。
この新たなワクチン候補は、菌株ごとにほとんど変化しない領域に免疫系を集中させることで、さまざまなサブタイプに対する防御反応を行うよう設計された。本試験は、米国国立アレルギー感染症研究所のワクチンリサーチセンター(VRC)が主導している。
複数サブタイプに長期的に有効となりうる理由は?
インフルエンザウイルス表面には、ウイルスがヒト細胞に侵入することを可能にする赤血球凝集素(HA)と呼ばれる糖タンパク質があり、感染防御免疫の標的抗原となっている。新たなプロトタイプワクチンH1ssF_3928では、HAの一部を非ヒトフェリチンからなる微細なナノ粒子の表面に表示する。インフルエンザウイルスにおけるHAの組織を模倣するので、ワクチンプラットフォームとして有用だという。
HAは、頭部領域および茎領域からなる。ヒトの体は両領域に免疫反応を起こすが、反応の多くは頭部領域に向けられている。しかし、頭部領域は抗原連続変異と呼ばれる現象が次々と起こるため、ワクチンは毎年の更新が必要となる。H1ssF_3928は、茎領域のみで構成された。茎領域は頭部領域よりも安定的であるため、季節ごとに更新する必要はなくなるのではないかと期待されている。
VRCの研究者らは、H1N1インフルエンザウイルスの茎領域を使ってこのワクチン候補を作成した。H1はウイルスのHAサブタイプを表し、N1はノイラミニダーゼ(NA、もう1つのインフルエンザウイルス表面糖タンパク質)サブタイプを表す。18のHAサブタイプと、11のNAサブタイプが知られているが、現在は主にH1N1とH3N2が季節的に流行している。しかし、H5N1やH7N9、および他のいくつかの株も、少数ながら致命的な発生を引き起こし、それらがより容易に伝染するようになればパンデミックを引き起こす可能性がある。
H1ssF_3928は、動物実験において異なるサブタイプであるH5N1からも保護効果を示した。これは、このワクチンにより誘導された抗体がH1とH5を含む「グループ1」内の他のインフルエンザサブタイプからも保護可能なことを示す。VRCでは将来的な臨床試験として、H3とH7を含む「グループ2」サブタイプから保護するように設計されたワクチンも評価することを計画している。
<参考>
・NIHニュースリリース
・NCT 03814720(Clinical Trials.gov)
ただ、ワクチンで獲得される免疫は、基本的に自然感染で獲得される免疫を上回ることができません。
健康成人でも、一生のうちインフルエンザには何回も罹ります。ふつう“忘れた頃に罹る”イメージですから3〜5年ごとくらいのペースでしょうか。
ですから、新ワクチンが開発されて長期効果が得られても、それを上回ることはできないと思われます。
より極端に考えると、子どもは毎年のようにインフルエンザに罹りますよね。
ワクチンの免疫は自然感染の免疫を上回ることができないと考えると、“ワクチンが効かない”とワクチンを非難するのはかわいそうな気がしてきました。
というわけで、
「インフルエンザワクチンは罹らないためではなく、軽く済ませるために接種する」
という説明は、今年も変わりません。
さて、インフルエンザの現況を以下の順番で整理しておきたいと思います。
1.インフルエンザワクチン
2.インフルエンザ治療薬
3.インフルエンザ診療
今回は「インフルエンザワクチン」情報です。
まずは、2018/19シーズンのワクチンの有効性について。
米国CDCの報告(下記論文)では、すべてのウイルス株に対して47%の効果が得られて“優秀なワクチン”との評価です。
「え? 有効率47%で優秀?」
とツッコミたくなりますね。
その前年の2017/18シーズンのワクチン有効率は25%と低かったので、それと比べると約2倍の有効率ですから“優秀”となるようです。
小児科医として喜ばしいことに、成人より子どもの方が有効率が高かったこと。生後6ヶ月〜17歳までに限定すると、47%が61%まで上がるそうです。それでも麻疹・風疹の95%には到底かないません。
まあ、「発症」を基準にすると有効率は低いのですが、軽症化が望めるので接種する価値はあるとされています(私もそう説明しています)。
□ 「インフルエンザワクチンの有効性は昨シーズンを上回る、米調査」より一部抜粋
(2019/02/27:ケアネット)
今シーズン(2018/2019)のインフルエンザワクチンの有効性は、ウイルス感染の拡大によって大きな打撃を受けた昨シーズン(2017/2018)をはるかに上回るという報告を、米疾病対策センター(CDC)が「Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)」2月15日号に掲載した。
この調査は、2018年11月~2019年2月に、インフルエンザワクチン有効性ネットワーク(Influenza Vaccine Effectiveness Network)に登録された計3,254人の成人および小児を対象としたもの。報告書によれば、インフルエンザA型(H3N2)が主として流行した昨シーズンのインフルエンザワクチンの有効性は25%に過ぎなかった。しかし、今回の調査から、今シーズンのワクチンの有効性は、全てのウイルス株に対して47%の効果を発揮していることが分かった。研究を率いたCDCインフルエンザ部門のJoshua Doyle氏らによれば、これは、今シーズンのインフルエンザワクチンを接種すると、重症インフルエンザに罹患する確率が半減することを意味するという。
また、インフルエンザワクチンの効果は、成人よりも子どもの方が高いことも分かった。Doyle氏は「生後6カ月から17歳までの小児では、全体的なワクチンの有効性は61%に上っていた」と報告している。
また、今シーズンは、依然としてA型(H1N1)が最も流行しているが、A型(H3N2)の流行も広がってきている。しかし、今シーズンには、いずれのインフルエンザ株もワクチンに含まれているという。
CDCは、生後6カ月を過ぎたら、全員がインフルエンザワクチンの接種を受けることを推奨している。インフルエンザが猛威をふるい、ワクチン効果が比較的低かったときでも、ワクチンは多くの命を救ってきた。Doyle氏らによれば、昨シーズンには、ワクチン接種により710万人のインフルエンザ罹患と370万件の医療機関への受診、10万9,000件の入院、8,000人の死亡が予防できたと推定されるという。
ワクチン接種の利点の一つは、インフルエンザに罹患してもワクチン接種を受けていれば、より軽症で済むことにある。インフルエンザの重症度が軽ければ、特に高齢者や子どもの肺炎などの合併症を防ぐことができる。さらに、同氏は、ワクチン接種を受けることは、自分自身だけでなく、家族や周囲の人々を守ることにもつながると強調している。
Brammer氏は、これまでのところ、今シーズンはH3N2が優勢だった昨シーズンよりもはるかに流行レベルは低いとしている。なお、昨シーズンには、インフルエンザにより約100万人が病院を受診し、約8万人が死亡したと推計されている。
<原著論文>
・Doyle JD, et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2019 ; 68: 135-139.
次は日本の小中学生におけるインフルエンザワクチンの有効性に関する報告です。ただし、データはちょっと古く、2012/13シーズンと2014/15シーズンの比較です。
□ 「日本の小中学生におけるインフル予防接種の有効性」より一部抜粋
(2019/08/28:ケアネット)
インフルエンザワクチンの接種は、インフルエンザの発症予防や発症後の重症化の予防に一定の効果があるとされている。今回、東北大学の國吉 保孝氏らが、地域の小中学生における季節性不活化インフルエンザワクチン接種(IIV)の有効性について2シーズンで評価した結果が報告された。Human Vaccines & Immunotherapeutics誌オンライン版2019年8月19日号に掲載。
本研究は、公立小中学校の生徒における2012/13年および2014/15年シーズンのデータでの横断調査。調査地域における対象学年の全員にアンケートを配布し、得られた7,945人の回答を分析した。予防接種状況とインフルエンザ発症は、両親または保護者による自己申告式アンケートにより判断した。一般化線形混合モデルを用いて、学校および個人の共変量におけるクラスタリングを調整し、予防接種状況とインフルエンザ発症との関連についてオッズ比および95%信頼区間(CI)を計算した。
主な結果は以下のとおり。
・予防接種率は2シーズンで同程度であったが、2015年のインフルエンザ発症率は2013年の調査よりも高かった(25% vs.17%)。
・未接種群に対する、1回もしくは2回の予防接種を受けた群におけるオッズ比は、2013年では0.77(95%CI:0.65~0.92)、2015年では0.88(95%CI:0.75~1.02)であった。
・必要な回数の接種を完了した群におけるオッズ比は、2013年では0.75(95%CI:0.62~0.89)、2015年では0.86(95%CI:0.74~1.00)であった。
これらの結果から、地域社会のリアルワールドにおいて、季節性IIVが日本の小中学生のインフルエンザを予防したことが示された。なお、2シーズン間の臨床効果の差については、「おそらく流行株とワクチン株の抗原性のミスマッチが原因」と著者らは考察している。
<原著論文>
・Kuniyoshi Y, et al. Hum Vaccin Immunother. 2019 Aug 19. [Epub ahead of print]
読んでいて、「はて、有効率はどこで見るのかな?」と疑問が生じます。
オッズ比の読み方を知らないとわかりませんね。
「オッズ比」(薬学用語解説)を参考にすると、
ワクチン有効率は、2013年では25%、2015年では14%ということになります。
低いですね〜。
細かいことは考えずにまことにざっくりとまとめますと、以下のようになります。
<インフルエンザワクチン有効率>
(2012/13シーズン)23%
(2014/15シーズン)12%
(2015/16シーズン) ー
(2017/18シーズン)25%
(2018/19シーズン)47%
次に紹介する論文は、インフルエンザワクチンを毎年接種しなくてもよくなるかも知れない、万能(ユニバーサル)ワクチンへの期待が膨らむ内容です。
現在のワクチンは“HAワクチン”と呼ばれていますが、これはウイルスのHA(赤血球凝集素)をターゲットとしたものです。さらに詳しくいうと、HAは頭部と茎領域からできていますが、頭部領域は年々変化(抗原連続変異)し、ワクチンといたちごっこをしています。開発中のワクチンは抗原連続変異が起こらない茎領域のみで構成されているので、より長期の効果が期待できる、というストーリーです。
□ 「新インフルワクチンで毎年の接種不要に? P1試験開始/NIH」より一部抜粋
(2019/05/15:ケアネット)
インフルエンザワクチンは次シーズンの流行予測に基づき、ワクチン株を選定して毎年製造される。そのため、新たな変異株の出現と拡大によるパンデミックの可能性に、世界中がたえず直面している。米国国立衛生研究所(NIH)は4月3日、インフルエンザウイルスの複数サブタイプに長期的に対応する“万能(universal)”ワクチン候補の、ヒトを対象とした初の臨床試験を開始したことを発表した。
この新たなワクチン候補は、菌株ごとにほとんど変化しない領域に免疫系を集中させることで、さまざまなサブタイプに対する防御反応を行うよう設計された。本試験は、米国国立アレルギー感染症研究所のワクチンリサーチセンター(VRC)が主導している。
複数サブタイプに長期的に有効となりうる理由は?
インフルエンザウイルス表面には、ウイルスがヒト細胞に侵入することを可能にする赤血球凝集素(HA)と呼ばれる糖タンパク質があり、感染防御免疫の標的抗原となっている。新たなプロトタイプワクチンH1ssF_3928では、HAの一部を非ヒトフェリチンからなる微細なナノ粒子の表面に表示する。インフルエンザウイルスにおけるHAの組織を模倣するので、ワクチンプラットフォームとして有用だという。
HAは、頭部領域および茎領域からなる。ヒトの体は両領域に免疫反応を起こすが、反応の多くは頭部領域に向けられている。しかし、頭部領域は抗原連続変異と呼ばれる現象が次々と起こるため、ワクチンは毎年の更新が必要となる。H1ssF_3928は、茎領域のみで構成された。茎領域は頭部領域よりも安定的であるため、季節ごとに更新する必要はなくなるのではないかと期待されている。
VRCの研究者らは、H1N1インフルエンザウイルスの茎領域を使ってこのワクチン候補を作成した。H1はウイルスのHAサブタイプを表し、N1はノイラミニダーゼ(NA、もう1つのインフルエンザウイルス表面糖タンパク質)サブタイプを表す。18のHAサブタイプと、11のNAサブタイプが知られているが、現在は主にH1N1とH3N2が季節的に流行している。しかし、H5N1やH7N9、および他のいくつかの株も、少数ながら致命的な発生を引き起こし、それらがより容易に伝染するようになればパンデミックを引き起こす可能性がある。
H1ssF_3928は、動物実験において異なるサブタイプであるH5N1からも保護効果を示した。これは、このワクチンにより誘導された抗体がH1とH5を含む「グループ1」内の他のインフルエンザサブタイプからも保護可能なことを示す。VRCでは将来的な臨床試験として、H3とH7を含む「グループ2」サブタイプから保護するように設計されたワクチンも評価することを計画している。
<参考>
・NIHニュースリリース
・NCT 03814720(Clinical Trials.gov)
ただ、ワクチンで獲得される免疫は、基本的に自然感染で獲得される免疫を上回ることができません。
健康成人でも、一生のうちインフルエンザには何回も罹ります。ふつう“忘れた頃に罹る”イメージですから3〜5年ごとくらいのペースでしょうか。
ですから、新ワクチンが開発されて長期効果が得られても、それを上回ることはできないと思われます。
より極端に考えると、子どもは毎年のようにインフルエンザに罹りますよね。
ワクチンの免疫は自然感染の免疫を上回ることができないと考えると、“ワクチンが効かない”とワクチンを非難するのはかわいそうな気がしてきました。
というわけで、
「インフルエンザワクチンは罹らないためではなく、軽く済ませるために接種する」
という説明は、今年も変わりません。