徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

「今冬のインフルエンザ」覚え書き

2015年12月13日 14時41分30秒 | 小児科診療
 医学系商業誌「日経メディカル」の2015年12月号の特集は「早わかり!今冬のインフルエンザ」でした。
 読んで目に留まった箇所をメモしておきます;
 (医学用語が使われていますので一般の方にはわかりづらい箇所があることをお許しください)

■ 流行予想
・AH3亜型が主役だった昨シーズンとは違い、今シーズンはAH3亜型とAH1pdm09亜型の混合流行に始まり、B型の流行が重なるという展開が予想される。ちなみに今年8月の南半球の流行ではB型が6-7割を占めた。
・2009年の新型インフルエンザ流行の洗礼を受けていない低年齢層を中心に、AH1pdm09亜型が流行する可能性あり。AH1pdm09亜型の変異が徐々に進んでいることも気がかり。
・AH3亜型は昨シーズン、子どもたちの間で大流行した。今シーズンは昨年罹患しなかった成人、特に高齢者で流行するかもしれない。
・それぞれに感受性のある年齢層が存在すると考えられることから、複雑な流行になりそう。
・今シーズンはB型の流行になるだろう。AH3亜型は昨年大流行したばかりであり、またAH1pdm09にはこれまでのところ抗原性の変化が見られないから。


■ ワクチン
・今シーズンはワクチンに含まれる抗原が従来の3種類(A型2種、B型1種)から4種類(A型2種、B型2種)に増え、それに伴いインフルエンザワクチンの価格が昨年の1.5倍に上がり、接種料金も値上げせざるを得なかった。
・B型は山形系統とビクトリア系統が毎年同時に流行してきた。このため、ワクチンに1種類のB型抗原しか盛り込めなかった3価時代には、B型に対する予防効果が不十分だった。
・今シーズンのワクチンの安全性については、接種後の接種部位腫脹の大きさは4価ワクチン接種群が有意に大きかったが、全身反応や局所反応の発現率に有意な差はなかった。


■ 診断
・迅速診断キットでは、検体中のウイルス抗原量が少ない発病から12時間未満に検査を行った場合、偽陰性となる例が増えてしまう。
・迅速診断では鼻汁鼻かみ液を使用すると、鼻腔ぬぐい液より感度がやや落ちる。
・咽頭後壁の「インフルエンザ濾胞」(インフルエンザの発病から6時間程度で咽頭後壁に出現してくるリンパ濾胞で、大きさは直径3-4mm程度、半球状で赤く不透明なイクラのような濾胞が一斉に出てくる)が診断に有用。アデノウイルス感染などでも咽頭後壁にリンパ濾胞は現れるが、急性期でも濾胞同士がくっついていたり、ペタッと平べったい形をしている。インフルエンザ濾胞は独立した、緊満した半球なので、ペンライト(クリプトン球よりLEDの方がわかりやすい)を当てるとそれぞれのつぶが光る。その光の点を探すのがインフルエンザ濾胞を見つけるコツ。


■ 抗インフルエンザ薬
・現在発売されているのはノイラミニダーゼ阻害薬4種(タミフル®/リレンザ®/イナビル®/ラピアクタ®)の作用機序はすべて同じで「感染細胞からのウイルスの放出を防ぐ」こと。
・吸入剤(リレンザ®/イナビル®)には乳糖が付加されており、乳糖には微量の乳蛋白が混入している。よって少量の牛乳でアナフィラキシーの既往のある重症乳アレルギー患者にリレンザ®/イナビル®を使用してはいけない(添付文書では「慎重投与」扱い)。ここ3年間でアナフィラキシー発症が6例(リレンザで1例、イナビルで5例)報告されている。
・タミフル®には依然として「10歳以上の未成年には使用を差し控える」という記載が添付文書にある。一方、吸入製剤を喘息患者に使用すると発作を誘発するリスクがあり、10歳代の喘息患者や乳アレルギー患者に使いやすい薬が存在しないジレンマが存在する。
・注射薬であるラピアクタ®に関して、日本小児科学会から「服薬や吸入が困難な重症例への治療の切り札であるため外来での使用を推奨しない」という見解が出され、現在では入院例に限定して使用されることが多い。
・現在「感染細胞内でのウイルス増殖を防ぐ薬剤」も開発されている;
(例)
 アビガン(RNAポリメラーゼ阻害薬)・・・エボラ出血熱にも用いられて有名になった薬。国が必要と判断した場合のみ製造販売が許可されるという付帯条件付の製造販売承認。
 S-033188(Capエンドヌクレアーゼ阻害薬)・・・2017/8シーズンを目指して開発中


■ 新型インフルエンザ
・新型インフルエンザへの変異が懸念されているトリインフルエンザ2種;
A(H5N1)・・・1997年に鳥から人への感染事例初確認。2015年2月までの感染者数は840人、死亡者数は447人で、死亡率53.2%。主な流行地は東南アジア、エジプト。パンデミック用ワクチンは3種類用意され、発生時は原則として集団接種が予定されている。
A(H7N9)・・・2013年に鳥から人への感染事例初確認。2015年2月までの感染者数は571人、死亡者数212人で、致死率は37.1%。主な流行地は中国。ワクチンはまだない。

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2 コメント

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はじめまして。 (テツ)
2015-12-14 00:12:56
はじめまして、こんばんわ。
先生のブログをいつも拝見しております。
非常にためになる内容でした。

09年のパンデミックが変異してきているのは、心配のような気がします。
たしか、昨シーズン、インドで大流行してたような・・・。
今後とも、拝見させていただきますので、よろしくお願い致します。
ありがとうございました。
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2014年のAH1pdm09のインドでの流行 (管理人)
2015-12-14 07:18:10
コメントありがとうございます。
管理人です。

確かに2014-15シーズン、インドで1700人もの死者を出した流行株がAH1pdm09でした。

流行予測は発言者によってまちまちで、「どれが当たるのかなあ?」という印象です。
シーズンが終わったときに振り返ることも大切かと。
返信する

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