インフルエンザの流行を前に、気になる記事を見つけました。
園児・学童がインフルエンザと診断されると厚生労働省が決めた「隔離期間」を守り、自宅安静で療養する必要があります。そして「隔離期間」が過ぎたら医療機関を再度受診し、「治癒証明書」を書いてもらい、集団生活に戻るというシステムが一般的です。
その「治癒証明書」が必要かどうかを問うた内容です。
混乱の原因は、以下のように複数のガイドラインが存在し、現場は振り回されている感が無きにしも非ず。すべてのガイドラインで「治癒証明書は必要ない」と明記しなければ、収拾がつかないと思われます。
<関連ガイドライン・通達>
・「学校保健安全法施行規則」(文科省)
発症した後5日を経過し、かつ解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまでを出席停止とするが、出席停止を解除するために医師による治癒証明が必要とする規定はない。
・「学校において予防すべき感染症」(文部省)
「症状により学校医又はその他の医師において感染のおそれがないと認めた場合には、登校(園)は可能」
・「保育所における感染症対策ガイドライン」(厚労省)
再登園において「医師が記入した意見書が望ましい感染症」の1つにインフルエンザを挙げている。ただし、「登園するにあたっては一律に届出書を提出する必要はありません。(中略)届出の要否については、個々の保育所で決めるのではなく市区町村の支援の下で地域の医療機関や学校等と十分に検討して、決めることが大切」
・「新型インフルエンザによる外来患者の急速な増加に対する医療体制の確保について」(厚労省)
「再出勤に先立って医療機関を受診させ治癒証明書を取得させる意義はないことについて、周知すること」と通達。
・「新型インフルエンザに関する対応について(第17報)」(文科省)
「学校保健安全法第19条の規定に基づく児童生徒等の出席停止を行った場合などでも再出席に先立って治癒証明書を取得させる意義はない」。これについて文科省の担当官は「そもそも学校保健安全法では治癒証明を求めていないが、慣習的に必要とする施設が多かったので、あえて出した」とコメント。
北関東の地方の小児科開業医である当院の状況は、少子化の影響と近年の流行はそれほど大きくないので、「診療が麻痺」するレベルには至らなくなりました。服薬状況や子どもの健康状態を確認(異常行動の有無など)するためには再度受診して治癒確認する意味はあると考えます。
しかし、記事の中の沖縄のように、地域によっては医療機関の数が限られている現実がありますから、ローカル・ルール、ケース・バイ・ケースではないでしょうか。
なお、新型インフルエンザが発生し大流行した場合は当然、医療機関のみならず社会機能が麻痺しますから別のルールが必要になると思います。「新型インフルエンザで必要ないなら季節性インフルエンザも必要ないだろう」という沖縄県の判断には疑問を持たざるを得ません。
■ インフルエンザ治癒証明に意義なし 〜学校や保育所に「求めることを控えて」と呼び掛ける県も
(2018/1/11 小板橋 律子=日経メディカル)
インフルエンザで出席停止になった後、登校・登園を再開する際に求められる「治癒証明」。しかし、学校保健安全法は治癒証明を必須としておらず、その要否は地域で異なっている。沖縄県は医療機関を疲弊させないためにも「意義なし」とする。
沖縄県は、県下の教育機関や民間事業所に対し、インフルエンザの治癒証明を求めることは「意義がなく、控えるよう」ホームページ上で呼び掛けている。同県保健医療部地域保健課の担当者は「県内では医療機関が不足しており、インフルエンザの治癒証明を求めることは医療機関の疲弊につながると考えた」と、この呼び掛けに至った経緯を語る。
既に県内では、学校を中心に治癒証明不要との認識が定着しているようだ。沖縄県立中部病院(うるま市)感染症内科・地域ケア科の高山義浩氏は、「治癒証明を求められることはほとんどない」と現状を語る。沖縄県では医師が診断した時点で診断書を作成し、その後の経過は保護者が記載する様式が普及している。
◇ 治癒証明の要否に地域差
感染拡大を防ぐ観点から学校や保育所、民間企業などでは治癒証明を求められることが多い。しかし、治癒証明を必須とする法的な規定はなく、その要否は地域ごとに異なる。
学校におけるインフルエンザの出席停止期間を定める学校保健安全法施行規則では、発症した後5日を経過し、かつ解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまでを出席停止とするが、「出席停止を解除するために医師による治癒証明が必要とする規定はない」(文部科学省スポーツ・青少年局学校保健教育課)。文部省がまとめた『学校において予防すべき感染症の解説』に「症状により学校医又はその他の医師において感染のおそれがないと認めた場合には、登校(園)は可能」とあるため、文科省保健教育課は「これを治癒証明を求めるものと解釈する自治体はあるようだ」とも付け加える。
一方、厚生労働省が策定した「保育所における感染症対策ガイドライン」は、再登園において「医師が記入した意見書が望ましい感染症」の1つにインフルエンザを挙げている。ただし、「登園するにあたっては一律に届出書を提出する必要はありません。(中略)届出の要否については、個々の保育所で決めるのではなく市区町村の支援の下で地域の医療機関や学校等と十分に検討して、決めることが大切」とする。
にもかかわらず多くの自治体は、医師が記入した意見書が望ましいとされる感染症を、医師による登園許可証が「必要な」感染症と受け止め、登園を再開する前に治癒証明を求めているようだ。例えば東京都品川区では、区立保育所の園児がインフルエンザと診断された場合は、再登園前に医師による登園許可証の提出を求めている。一方、沖縄県は「保育所でも治癒証明書を求めないようお願いしている」(担当者)。
◇ 09年に国が「意義なし」と通知
沖縄県が学校や民間事業所だけでなく保育所でも「治癒証明は意義なし」とする理由には、新型インフルエンザが猛威を振るった2009年に厚労省と文科省から出された事務連絡もある。同年10月に厚労省は「新型インフルエンザによる外来患者の急速な増加に対する医療体制の確保について」と題する事務連絡で、「再出勤に先立って医療機関を受診させ治癒証明書を取得させる意義はないことについて、周知すること」と通達した。厚労省健康局結核感染症課によるとこれは新型インフルエンザに限ったものだが、「沖縄では県や医師会、専門家などの話し合いの結果、新型インフルエンザで治癒証明に意義がないのであれば、季節性でも同様とのコンセンサスに至った」と高山氏は説明する。
文科省も厚労省と同じ時期に、「新型インフルエンザに関する対応について(第17報)」という事務連絡を出し、「学校保健安全法第19条の規定に基づく児童生徒等の出席停止を行った場合などでも再出席に先立って治癒証明書を取得させる意義はない」としている。これについて文科省の担当官は、「そもそも学校保健安全法では治癒証明を求めていないが、慣習的に必要とする施設が多かったので、あえて出した」と言う。すなわち文科省の通達は、新型か季節性かを問わず、インフルエンザの治癒証明を求めていないことを念押ししたものだ。
とはいえ、地域の医療機関の意向を受け、学校などでの治癒証明を必須とし続ける自治体がある。医療機関が林立する都市部のある自治体担当者は、「地元の学校医会や医師会と協議した結果、季節性インフルエンザでは感染拡大防止の観点から医師による治癒証明が必要と結論付けた。区立学校では登校再開前に再度、診察を受けるよう指導している」と言う。そのような現状に対して、「感染拡大予防というよりも再診料目当てではないか」と批判する声も聞かれる。実際その自治体では、学校医を受診した場合に限り治癒証明の発行手数料を自治体が負担しており、行政が学校医を受診するよう患者を誘導しているようにも見える。
高山氏は、「治癒証明の要否についての判断を行政に委ねるのではなく、地域の医療供給体制などの事情を考慮しながら、関係者が話し合って決めるのが理想的だ。とはいえ、治癒証明のために発生する再診料などが医療費としてて適切か否か、今後は保険者がきちんと評価すべきだろう」と話している。
最後の部分「治癒証明の発行手数料・再診料」の問題。
「その道のプロに相談して判断を仰ぐ、保証してもらう」ことが無料なんて分野があるのでしょうか?
費用が発生しないなら、責任も発生しないし拒否しても問題ないということになりますね。
園児・学童がインフルエンザと診断されると厚生労働省が決めた「隔離期間」を守り、自宅安静で療養する必要があります。そして「隔離期間」が過ぎたら医療機関を再度受診し、「治癒証明書」を書いてもらい、集団生活に戻るというシステムが一般的です。
その「治癒証明書」が必要かどうかを問うた内容です。
混乱の原因は、以下のように複数のガイドラインが存在し、現場は振り回されている感が無きにしも非ず。すべてのガイドラインで「治癒証明書は必要ない」と明記しなければ、収拾がつかないと思われます。
<関連ガイドライン・通達>
・「学校保健安全法施行規則」(文科省)
発症した後5日を経過し、かつ解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまでを出席停止とするが、出席停止を解除するために医師による治癒証明が必要とする規定はない。
・「学校において予防すべき感染症」(文部省)
「症状により学校医又はその他の医師において感染のおそれがないと認めた場合には、登校(園)は可能」
・「保育所における感染症対策ガイドライン」(厚労省)
再登園において「医師が記入した意見書が望ましい感染症」の1つにインフルエンザを挙げている。ただし、「登園するにあたっては一律に届出書を提出する必要はありません。(中略)届出の要否については、個々の保育所で決めるのではなく市区町村の支援の下で地域の医療機関や学校等と十分に検討して、決めることが大切」
・「新型インフルエンザによる外来患者の急速な増加に対する医療体制の確保について」(厚労省)
「再出勤に先立って医療機関を受診させ治癒証明書を取得させる意義はないことについて、周知すること」と通達。
・「新型インフルエンザに関する対応について(第17報)」(文科省)
「学校保健安全法第19条の規定に基づく児童生徒等の出席停止を行った場合などでも再出席に先立って治癒証明書を取得させる意義はない」。これについて文科省の担当官は「そもそも学校保健安全法では治癒証明を求めていないが、慣習的に必要とする施設が多かったので、あえて出した」とコメント。
北関東の地方の小児科開業医である当院の状況は、少子化の影響と近年の流行はそれほど大きくないので、「診療が麻痺」するレベルには至らなくなりました。服薬状況や子どもの健康状態を確認(異常行動の有無など)するためには再度受診して治癒確認する意味はあると考えます。
しかし、記事の中の沖縄のように、地域によっては医療機関の数が限られている現実がありますから、ローカル・ルール、ケース・バイ・ケースではないでしょうか。
なお、新型インフルエンザが発生し大流行した場合は当然、医療機関のみならず社会機能が麻痺しますから別のルールが必要になると思います。「新型インフルエンザで必要ないなら季節性インフルエンザも必要ないだろう」という沖縄県の判断には疑問を持たざるを得ません。
■ インフルエンザ治癒証明に意義なし 〜学校や保育所に「求めることを控えて」と呼び掛ける県も
(2018/1/11 小板橋 律子=日経メディカル)
インフルエンザで出席停止になった後、登校・登園を再開する際に求められる「治癒証明」。しかし、学校保健安全法は治癒証明を必須としておらず、その要否は地域で異なっている。沖縄県は医療機関を疲弊させないためにも「意義なし」とする。
沖縄県は、県下の教育機関や民間事業所に対し、インフルエンザの治癒証明を求めることは「意義がなく、控えるよう」ホームページ上で呼び掛けている。同県保健医療部地域保健課の担当者は「県内では医療機関が不足しており、インフルエンザの治癒証明を求めることは医療機関の疲弊につながると考えた」と、この呼び掛けに至った経緯を語る。
既に県内では、学校を中心に治癒証明不要との認識が定着しているようだ。沖縄県立中部病院(うるま市)感染症内科・地域ケア科の高山義浩氏は、「治癒証明を求められることはほとんどない」と現状を語る。沖縄県では医師が診断した時点で診断書を作成し、その後の経過は保護者が記載する様式が普及している。
◇ 治癒証明の要否に地域差
感染拡大を防ぐ観点から学校や保育所、民間企業などでは治癒証明を求められることが多い。しかし、治癒証明を必須とする法的な規定はなく、その要否は地域ごとに異なる。
学校におけるインフルエンザの出席停止期間を定める学校保健安全法施行規則では、発症した後5日を経過し、かつ解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまでを出席停止とするが、「出席停止を解除するために医師による治癒証明が必要とする規定はない」(文部科学省スポーツ・青少年局学校保健教育課)。文部省がまとめた『学校において予防すべき感染症の解説』に「症状により学校医又はその他の医師において感染のおそれがないと認めた場合には、登校(園)は可能」とあるため、文科省保健教育課は「これを治癒証明を求めるものと解釈する自治体はあるようだ」とも付け加える。
一方、厚生労働省が策定した「保育所における感染症対策ガイドライン」は、再登園において「医師が記入した意見書が望ましい感染症」の1つにインフルエンザを挙げている。ただし、「登園するにあたっては一律に届出書を提出する必要はありません。(中略)届出の要否については、個々の保育所で決めるのではなく市区町村の支援の下で地域の医療機関や学校等と十分に検討して、決めることが大切」とする。
にもかかわらず多くの自治体は、医師が記入した意見書が望ましいとされる感染症を、医師による登園許可証が「必要な」感染症と受け止め、登園を再開する前に治癒証明を求めているようだ。例えば東京都品川区では、区立保育所の園児がインフルエンザと診断された場合は、再登園前に医師による登園許可証の提出を求めている。一方、沖縄県は「保育所でも治癒証明書を求めないようお願いしている」(担当者)。
◇ 09年に国が「意義なし」と通知
沖縄県が学校や民間事業所だけでなく保育所でも「治癒証明は意義なし」とする理由には、新型インフルエンザが猛威を振るった2009年に厚労省と文科省から出された事務連絡もある。同年10月に厚労省は「新型インフルエンザによる外来患者の急速な増加に対する医療体制の確保について」と題する事務連絡で、「再出勤に先立って医療機関を受診させ治癒証明書を取得させる意義はないことについて、周知すること」と通達した。厚労省健康局結核感染症課によるとこれは新型インフルエンザに限ったものだが、「沖縄では県や医師会、専門家などの話し合いの結果、新型インフルエンザで治癒証明に意義がないのであれば、季節性でも同様とのコンセンサスに至った」と高山氏は説明する。
文科省も厚労省と同じ時期に、「新型インフルエンザに関する対応について(第17報)」という事務連絡を出し、「学校保健安全法第19条の規定に基づく児童生徒等の出席停止を行った場合などでも再出席に先立って治癒証明書を取得させる意義はない」としている。これについて文科省の担当官は、「そもそも学校保健安全法では治癒証明を求めていないが、慣習的に必要とする施設が多かったので、あえて出した」と言う。すなわち文科省の通達は、新型か季節性かを問わず、インフルエンザの治癒証明を求めていないことを念押ししたものだ。
とはいえ、地域の医療機関の意向を受け、学校などでの治癒証明を必須とし続ける自治体がある。医療機関が林立する都市部のある自治体担当者は、「地元の学校医会や医師会と協議した結果、季節性インフルエンザでは感染拡大防止の観点から医師による治癒証明が必要と結論付けた。区立学校では登校再開前に再度、診察を受けるよう指導している」と言う。そのような現状に対して、「感染拡大予防というよりも再診料目当てではないか」と批判する声も聞かれる。実際その自治体では、学校医を受診した場合に限り治癒証明の発行手数料を自治体が負担しており、行政が学校医を受診するよう患者を誘導しているようにも見える。
高山氏は、「治癒証明の要否についての判断を行政に委ねるのではなく、地域の医療供給体制などの事情を考慮しながら、関係者が話し合って決めるのが理想的だ。とはいえ、治癒証明のために発生する再診料などが医療費としてて適切か否か、今後は保険者がきちんと評価すべきだろう」と話している。
最後の部分「治癒証明の発行手数料・再診料」の問題。
「その道のプロに相談して判断を仰ぐ、保証してもらう」ことが無料なんて分野があるのでしょうか?
費用が発生しないなら、責任も発生しないし拒否しても問題ないということになりますね。