引き続き「新しい免疫入門」(審良静男/黒崎知博著、講談社ブルーバックス、2014年発行)より。
「自然炎症」
・・・微妙なネーミングです。
よいものか、わるいものか、どっちなの?
でもこの言葉、まさに「旬」なのです。
免疫システムは外来の病原体を異物と認識してそれを排除しようとする波状攻撃。
しかし、認識する対象は病原体だけではなく、例外的に自己成分も認識することがあり、これが元になって「自然炎症」という病態を形成するらしいの。
この考え方により、今まで不明だった病気のメカニズムが次々と判明し、さらに治療に結びつく可能性があると考えられ、現在盛んに研究されています。
【備忘録】
・「自然炎症」の登場;
TLRが病原体に共通する特定の成分を認識していることがわかり、自然免疫に対する見方が180度変わったのは21世紀直前のことだった。
しかし、さらにその先があった。
TLRなどのPRRs(パターン認識受容体)が認識する成分は、病原体由来のモノだけではなく、私たちの体の自己成分の一部(内在性リガンド)を認識することがわかってきた。内在性リガンドの登場により、免疫研究の様相は一変したと言っても過言ではない。
そうなると、マクロファージ、好中球などの食細胞は、病原体だけでなく内在性リガンドを認識して活性化し、炎症を起こすことになる。病原体が引き起こす炎症に対して、病原体が関わらないこの炎症を「自然炎症」という。
・アポトーシスとネクローシス;
体の中で細胞が死ぬパターンとして二つの様式がある。
1.アポトーシス:
細胞膜に包まれたまま内容物が分解され、最後は食細胞が丸ごと食べて処理する。
2.ネクローシス:
細胞膜が破れて、内容物が分解されずに飛び散る。外傷や火傷、薬物、放射線などが誘因となる。
アポトーシスで細胞が死んだのであれば、DNAやRNAなどはすぐに分解されてしまうので、食細胞のPRRsが感知することはない。しかし、ネクローシスで細胞が死んだ場合、それも大量に死んだ場合は、分解されない大量のDNA、RNAなどが食細胞のPRRsまでたどり着いてしまう。こうして食細胞は活性化して炎症が起こる。
自然炎症が何のために起こるのか、まだはっきりとわかっていないが、組織の修復に関わっているという考えが有力だ。
今、自然炎症に注目が集まっているのは、自然炎症がさまざまな疾患(痛風、アルツハイマー病、動脈硬化、糖尿病など)の原因になっている可能性が出てきたからだ。
・痛風はマクロファージが起こす自然炎症だった;
原因となる尿酸は細胞の老廃物で、増えすぎると結晶化して関節に付着し、これを食細胞が取り込むと炎症が起こる。
細胞内PRRsのひとつにNLRP3がある。NLR(ノッド様受容体)の仲間で、NLRP3が病原体の感染によるストレスを感知すると、インターロイキン1β(IL1β)という強い炎症を起こす作用のあるサイトカインが放出される。
食細胞の細胞質にはNLRP3があり、食細胞が尿酸結晶を取り込むと、細胞が刺激されてIL1βが放出される。痛風の炎症はこうして放出されるIL1βが起こしていたのである。
食細胞が尿酸結晶を細胞内に取り込むと、尿酸結晶の刺激でミトコンドリアが損傷する
↓
SIRT2という酵素の働きが低下する
↓
細胞内の輸送路である微小管にアセチル基という分子が付く
↓
損傷したミトコンドリアが微小管の上に乗り、細胞の中心部の小胞体まで移動する
↓
小胞体のNLRP3とミトコンドリアが持つ部品ASCが揃い、さらにカスパーゼという部品も加わって複合体(インフラマソーム)が組み上がる
↓
インフラマソームはIL1βをマクロファージ内で成熟させて外に放出する
↓
強い炎症が起こり激痛が走る
痛風の特効薬としてしられるコルヒチンは、微小管を壊すことでミトコンドリアを移動させず、IL1βの放出を阻止することがわかった(しかし細胞内輸送を担う微小管を壊してしまうことによる副作用もある)。
・NLRP3;
痛風で注目されたNLRP3は尿酸だけでなく、結晶のような構造をとる物質を食細胞が取り込んだときに活性化し、炎症を起こすことがわかってきた。
(例)アスベスト(石綿)→ 塵肺、シリカ→ 珪肺
脳に沈着したβアミロイド繊維も炎症を起こしてアルツハイマー病を引き起こすと考えられている。脳ではマクロファージや好中球の代わりにミクログリアという細胞が免疫の働きをしており、βアミロイド繊維を食べたミクログリアからは同じようにIL1βが放出され、炎症が起これば脳神経細胞が失われる。
コレステロールも結晶化するので、血中の食細胞が食べて同じようにIL1βが放出され、こうしておこる炎症が動脈硬化の原因ではないかと考えられている。
一般的に、どのような物質であれ、体内で結晶化したものは食細胞が消化しきれずに死んでしまい、結晶が体内に残ってしまう。それを処理しようと新しい食細胞がまた食べに来て食べきれないという状態が繰り返され、どんどん炎症が起こる。つまり、消化・分解できない結晶は、自然免疫系を過剰に活性化させてしまうのである。
(“Microtubule-driven spatial mitochondria arrangement promotes NLRP3-inflammasome activation”
邦文タイトル:「微小管を介したミトコンドリアの空間配置調節は NLRP3 インフラマソームの活性化を促進する」雑誌:Nature Immunology)
「自然炎症」
・・・微妙なネーミングです。
よいものか、わるいものか、どっちなの?
でもこの言葉、まさに「旬」なのです。
免疫システムは外来の病原体を異物と認識してそれを排除しようとする波状攻撃。
しかし、認識する対象は病原体だけではなく、例外的に自己成分も認識することがあり、これが元になって「自然炎症」という病態を形成するらしいの。
この考え方により、今まで不明だった病気のメカニズムが次々と判明し、さらに治療に結びつく可能性があると考えられ、現在盛んに研究されています。
【備忘録】
・「自然炎症」の登場;
TLRが病原体に共通する特定の成分を認識していることがわかり、自然免疫に対する見方が180度変わったのは21世紀直前のことだった。
しかし、さらにその先があった。
TLRなどのPRRs(パターン認識受容体)が認識する成分は、病原体由来のモノだけではなく、私たちの体の自己成分の一部(内在性リガンド)を認識することがわかってきた。内在性リガンドの登場により、免疫研究の様相は一変したと言っても過言ではない。
そうなると、マクロファージ、好中球などの食細胞は、病原体だけでなく内在性リガンドを認識して活性化し、炎症を起こすことになる。病原体が引き起こす炎症に対して、病原体が関わらないこの炎症を「自然炎症」という。
・アポトーシスとネクローシス;
体の中で細胞が死ぬパターンとして二つの様式がある。
1.アポトーシス:
細胞膜に包まれたまま内容物が分解され、最後は食細胞が丸ごと食べて処理する。
2.ネクローシス:
細胞膜が破れて、内容物が分解されずに飛び散る。外傷や火傷、薬物、放射線などが誘因となる。
アポトーシスで細胞が死んだのであれば、DNAやRNAなどはすぐに分解されてしまうので、食細胞のPRRsが感知することはない。しかし、ネクローシスで細胞が死んだ場合、それも大量に死んだ場合は、分解されない大量のDNA、RNAなどが食細胞のPRRsまでたどり着いてしまう。こうして食細胞は活性化して炎症が起こる。
自然炎症が何のために起こるのか、まだはっきりとわかっていないが、組織の修復に関わっているという考えが有力だ。
今、自然炎症に注目が集まっているのは、自然炎症がさまざまな疾患(痛風、アルツハイマー病、動脈硬化、糖尿病など)の原因になっている可能性が出てきたからだ。
・痛風はマクロファージが起こす自然炎症だった;
原因となる尿酸は細胞の老廃物で、増えすぎると結晶化して関節に付着し、これを食細胞が取り込むと炎症が起こる。
細胞内PRRsのひとつにNLRP3がある。NLR(ノッド様受容体)の仲間で、NLRP3が病原体の感染によるストレスを感知すると、インターロイキン1β(IL1β)という強い炎症を起こす作用のあるサイトカインが放出される。
食細胞の細胞質にはNLRP3があり、食細胞が尿酸結晶を取り込むと、細胞が刺激されてIL1βが放出される。痛風の炎症はこうして放出されるIL1βが起こしていたのである。
食細胞が尿酸結晶を細胞内に取り込むと、尿酸結晶の刺激でミトコンドリアが損傷する
↓
SIRT2という酵素の働きが低下する
↓
細胞内の輸送路である微小管にアセチル基という分子が付く
↓
損傷したミトコンドリアが微小管の上に乗り、細胞の中心部の小胞体まで移動する
↓
小胞体のNLRP3とミトコンドリアが持つ部品ASCが揃い、さらにカスパーゼという部品も加わって複合体(インフラマソーム)が組み上がる
↓
インフラマソームはIL1βをマクロファージ内で成熟させて外に放出する
↓
強い炎症が起こり激痛が走る
痛風の特効薬としてしられるコルヒチンは、微小管を壊すことでミトコンドリアを移動させず、IL1βの放出を阻止することがわかった(しかし細胞内輸送を担う微小管を壊してしまうことによる副作用もある)。
・NLRP3;
痛風で注目されたNLRP3は尿酸だけでなく、結晶のような構造をとる物質を食細胞が取り込んだときに活性化し、炎症を起こすことがわかってきた。
(例)アスベスト(石綿)→ 塵肺、シリカ→ 珪肺
脳に沈着したβアミロイド繊維も炎症を起こしてアルツハイマー病を引き起こすと考えられている。脳ではマクロファージや好中球の代わりにミクログリアという細胞が免疫の働きをしており、βアミロイド繊維を食べたミクログリアからは同じようにIL1βが放出され、炎症が起これば脳神経細胞が失われる。
コレステロールも結晶化するので、血中の食細胞が食べて同じようにIL1βが放出され、こうしておこる炎症が動脈硬化の原因ではないかと考えられている。
一般的に、どのような物質であれ、体内で結晶化したものは食細胞が消化しきれずに死んでしまい、結晶が体内に残ってしまう。それを処理しようと新しい食細胞がまた食べに来て食べきれないという状態が繰り返され、どんどん炎症が起こる。つまり、消化・分解できない結晶は、自然免疫系を過剰に活性化させてしまうのである。
(“Microtubule-driven spatial mitochondria arrangement promotes NLRP3-inflammasome activation”
邦文タイトル:「微小管を介したミトコンドリアの空間配置調節は NLRP3 インフラマソームの活性化を促進する」雑誌:Nature Immunology)