ふたたび、前出「新しい免疫入門」(審良静男/黒崎知博著、2014年、講談社ブルーバックス)より抜粋です。
スルーしようとしましたが、ワクチンには「粘膜免疫」の知識が欠かせないことがわかりましたのですから(^^;)。
腸管免疫のポイントは、
・「経口免疫寛容」といって、入ってきた異物をすべで排除するのではなく、異物なのに人畜無害と判断するとスルー(見て見ぬ振り)するという高度な仕分け作業ができること。
・産生される抗体がIgAであり、全身の粘膜にばらまかれて病原体の侵入を防ぐこと
でしょうか。
その特殊性、複雑さを知るたびに、人間の免疫システムの奥深さを実感させられます。
【備忘録】
※ わかりやすいイラストはこちらから拝借:「粘膜バリア〜病原体と戦うシステム」手塚 裕之、東京医科歯科大学 難治疾患研究所 生体防御学分野
・腸管には、体全体の免疫細胞の50%以上が存在する。
・全身免疫と腸管免疫の決定的な違い;
<全身免疫> 異物を有害なものとして排除することが基本
<腸管免疫> 有害な異物は排除するが、無害な異物は見て見ぬふりをする
・・・この「見て見ぬふりをする」という表現がたまりませんねえ(^^;)。
・M細胞とパイエル板;
小腸粘膜にはM細胞が分布する台地状の部位が点在し、その台地の下にパイエル板というリンパ組織が存在、パイエル板には樹状細胞、T細胞、B細胞などの免疫細胞がいる。
M細胞は特殊な受容体を腸管内に出していて、食物と一緒に流れてきた細菌やウイルスをくっつけてポケットに取り込み、ポケットでは樹状細胞が待ち構えていて、取り込まれた細菌やウイルスを受け渡され、免疫応答が始まる。樹状細胞はパイエル板のナイーブヘルパーT細胞に抗原提示を行い、活性化したヘルパーT細胞が誕生、このときパイエル板のナイーブB細胞も独自にB細胞抗原認識受容体にくっついた抗原を食べて少し活性化していて、活性化ヘルパーT細胞との相互作用により完全に活性化し、クラススイッチ、親和性成熟を経て、プラズマ細胞の前駆細胞へと分化する。
・プラズマ細胞の旅と帰還(ホーミング);
プラズマ細胞の前駆細胞は、パイエル板からリンパ管経由で出ていって血流に乗り、再び腸に戻ってきてプラズマ細胞と成、IgAを腸内に向けて放出するようになる。
どうせ腸管に戻ってくるなら、なぜ全身を巡る必要があるのかと思われるかもしれないが、これには意味がある。
パイエル板を出たプラズマ細胞の前駆細胞は、腸管の他に鼻や喉、肺の気管支、生殖器など、体中の粘膜に辿り着いてプラズマ細胞となる。腸管でキャッチした病原体は体中の粘膜から侵入する可能性があるので、まんべんなく配置して水際で阻止すると云うことであり、腸管免疫が粘膜免疫とも呼ばれる所以である。
・IgGではなくIgA;
腸管免疫が全身免疫と異なるのは、最終的な抗体のクラスがIgAであること。活性化B細胞の抗体のクラスが、IgMから、IgGでもIgEでもなく、IgAにクラススイッチすることがパイエル板での免疫応答に特徴的である。その仕組みはまだよくわかっていない。
腸の表面には厚い粘液層があって、その粘液層にIgAが溶け込んでいる。IgAは抗原特異的に細菌やウイルスなどの病原体にくっつき、中和作用により機能を停止させ、病原体ともども体外に排出される。
IgAにはオプソニン化作用がないので、食細胞の食欲をむやみに増すことがない。もしオプソニン化作用があったら、食細胞がどんどん寄ってきてすぐに炎症騒ぎになってしまう。間断なくIgAが放出されている腸管において、無用の炎症を起こさないことは重要である。
・経口免疫寛容;
口から入ってくるたんぱく質に対しては、免疫反応が抑えられる現象。
食物に含まれるたんぱく質は、私たちにとって異物であり抗原性があるが、経口免疫寛容のおかげで生きている(経口免疫寛容のしくみはよくわかっていない)。
経口免疫寛容が成立しているたんぱく質に対しては、口からの摂取でなくても免疫反応が起きない。ウルシ職人が手のかぶれを避けるために、少量のウルシを食べるという話は有名である。
・腸内細菌が免疫に関与;
無菌マウスでは経口免疫寛容が成立しない。
腸管の粘膜固有層には、17型の活性化ヘルパーT細胞が圧倒的に多い。活性化17型ヘルパーT細胞への分化を強く促しているのが特定の腸内細菌であることが突きとめられた(セグメント細菌)。セグメント細菌がなんらかの関わりを持つことで、ナイーブヘルパーT細胞から誘導される抗原特異的な活性化ヘルパーT細胞のタイプが、1型や2型ではなく17型になっている。
活性化17型ヘルパーT細胞は、好中球を集積したり、抗菌ペプチドの分泌を促進したりすることを特徴とする、細胞外細菌向けの活性化ヘルパーT細胞である。
さらに、ナイーブヘルパーT細胞ぁら制御性T細胞への分化に、特定の腸内細菌が関わっていることも突きとめられた(クロストリジア属の第46株)。この細菌は主に大腸に存在し、大腸における制御性T細胞への分化に重要な役割を果たしている。
活性化17型ヘルパーT細胞は腸管免疫のアクセル、制御性T細胞は腸管免疫のブレーキとも言える。アクセル・ブレーキとも、腸内細菌の影響下にあることが明らかになった。
スルーしようとしましたが、ワクチンには「粘膜免疫」の知識が欠かせないことがわかりましたのですから(^^;)。
腸管免疫のポイントは、
・「経口免疫寛容」といって、入ってきた異物をすべで排除するのではなく、異物なのに人畜無害と判断するとスルー(見て見ぬ振り)するという高度な仕分け作業ができること。
・産生される抗体がIgAであり、全身の粘膜にばらまかれて病原体の侵入を防ぐこと
でしょうか。
その特殊性、複雑さを知るたびに、人間の免疫システムの奥深さを実感させられます。
【備忘録】
※ わかりやすいイラストはこちらから拝借:「粘膜バリア〜病原体と戦うシステム」手塚 裕之、東京医科歯科大学 難治疾患研究所 生体防御学分野
・腸管には、体全体の免疫細胞の50%以上が存在する。
・全身免疫と腸管免疫の決定的な違い;
<全身免疫> 異物を有害なものとして排除することが基本
<腸管免疫> 有害な異物は排除するが、無害な異物は見て見ぬふりをする
・・・この「見て見ぬふりをする」という表現がたまりませんねえ(^^;)。
・M細胞とパイエル板;
小腸粘膜にはM細胞が分布する台地状の部位が点在し、その台地の下にパイエル板というリンパ組織が存在、パイエル板には樹状細胞、T細胞、B細胞などの免疫細胞がいる。
M細胞は特殊な受容体を腸管内に出していて、食物と一緒に流れてきた細菌やウイルスをくっつけてポケットに取り込み、ポケットでは樹状細胞が待ち構えていて、取り込まれた細菌やウイルスを受け渡され、免疫応答が始まる。樹状細胞はパイエル板のナイーブヘルパーT細胞に抗原提示を行い、活性化したヘルパーT細胞が誕生、このときパイエル板のナイーブB細胞も独自にB細胞抗原認識受容体にくっついた抗原を食べて少し活性化していて、活性化ヘルパーT細胞との相互作用により完全に活性化し、クラススイッチ、親和性成熟を経て、プラズマ細胞の前駆細胞へと分化する。
・プラズマ細胞の旅と帰還(ホーミング);
プラズマ細胞の前駆細胞は、パイエル板からリンパ管経由で出ていって血流に乗り、再び腸に戻ってきてプラズマ細胞と成、IgAを腸内に向けて放出するようになる。
どうせ腸管に戻ってくるなら、なぜ全身を巡る必要があるのかと思われるかもしれないが、これには意味がある。
パイエル板を出たプラズマ細胞の前駆細胞は、腸管の他に鼻や喉、肺の気管支、生殖器など、体中の粘膜に辿り着いてプラズマ細胞となる。腸管でキャッチした病原体は体中の粘膜から侵入する可能性があるので、まんべんなく配置して水際で阻止すると云うことであり、腸管免疫が粘膜免疫とも呼ばれる所以である。
・IgGではなくIgA;
腸管免疫が全身免疫と異なるのは、最終的な抗体のクラスがIgAであること。活性化B細胞の抗体のクラスが、IgMから、IgGでもIgEでもなく、IgAにクラススイッチすることがパイエル板での免疫応答に特徴的である。その仕組みはまだよくわかっていない。
腸の表面には厚い粘液層があって、その粘液層にIgAが溶け込んでいる。IgAは抗原特異的に細菌やウイルスなどの病原体にくっつき、中和作用により機能を停止させ、病原体ともども体外に排出される。
IgAにはオプソニン化作用がないので、食細胞の食欲をむやみに増すことがない。もしオプソニン化作用があったら、食細胞がどんどん寄ってきてすぐに炎症騒ぎになってしまう。間断なくIgAが放出されている腸管において、無用の炎症を起こさないことは重要である。
・経口免疫寛容;
口から入ってくるたんぱく質に対しては、免疫反応が抑えられる現象。
食物に含まれるたんぱく質は、私たちにとって異物であり抗原性があるが、経口免疫寛容のおかげで生きている(経口免疫寛容のしくみはよくわかっていない)。
経口免疫寛容が成立しているたんぱく質に対しては、口からの摂取でなくても免疫反応が起きない。ウルシ職人が手のかぶれを避けるために、少量のウルシを食べるという話は有名である。
・腸内細菌が免疫に関与;
無菌マウスでは経口免疫寛容が成立しない。
腸管の粘膜固有層には、17型の活性化ヘルパーT細胞が圧倒的に多い。活性化17型ヘルパーT細胞への分化を強く促しているのが特定の腸内細菌であることが突きとめられた(セグメント細菌)。セグメント細菌がなんらかの関わりを持つことで、ナイーブヘルパーT細胞から誘導される抗原特異的な活性化ヘルパーT細胞のタイプが、1型や2型ではなく17型になっている。
活性化17型ヘルパーT細胞は、好中球を集積したり、抗菌ペプチドの分泌を促進したりすることを特徴とする、細胞外細菌向けの活性化ヘルパーT細胞である。
さらに、ナイーブヘルパーT細胞ぁら制御性T細胞への分化に、特定の腸内細菌が関わっていることも突きとめられた(クロストリジア属の第46株)。この細菌は主に大腸に存在し、大腸における制御性T細胞への分化に重要な役割を果たしている。
活性化17型ヘルパーT細胞は腸管免疫のアクセル、制御性T細胞は腸管免疫のブレーキとも言える。アクセル・ブレーキとも、腸内細菌の影響下にあることが明らかになった。