小児アレルギー科医の視線

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喘息は新型コロナ感染のハイリスク因子か?

2020年09月14日 09時36分07秒 | 予防接種
呼吸器疾患である喘息(=気管支喘息)はインフルエンザ等のウイルス性呼吸器感染症のハイリスク因子とされてきました。

では、新型コロナではどうでしょうか?
私の記憶では、
・流行当初はハイリスク因子に挙げられていた。
・途中でハイリスク因子にならないと報告された。
・その後、両方の報告があり、結局どちらかわからない状態
という流れです。

日本アレルギー学会の勧告は以下の通り:
「喘息治療の差し控えは喘息発作およびその重症化を来す危険性が高いため、通常の治療を継続すること。ただし全身ステロイド薬(経口・静注)についてはウイルス感染の遷延や二次的細菌感染症などの危険因子となりうるため、必要最小限にとどめるべき」
「アスピリン喘息患者では非ステロイド抗炎症薬使用で急性増悪(発作)が誘発されるため、解熱鎮痛薬を使用する際にはアスピリン喘息の既往を必ず確認する」

今までの経緯をまとめた記事を見つけましたので、一部抜粋してまとめてみます。

■ どうする? COVID-19流行時の喘息管理2020年09月10日 Medical Tribune
■ 喘息患者がCOVID-19に罹患したら2020年09月14日 メディカルトリビューン

まず、ハイリスクには「感染しやすい」ことと「重症化しやすい」要素があり、別に扱ってみます。
さらに、喘息治療の第1選択薬である吸入ステロイド薬(ICS)が及ぼす影響についても列挙してみました。

結論から申し上げると、
・喘息が新型コロナ感染症のハイリスク因子かどうか現時点では判断できず
・吸入ステロイドは継続すべし
・経口ステロイドは減量を試みるべし
・しかし罹患の際の全身ステロイド投与は有効
という、なんだか当たり前のことになってしまいました。
3つめと4つめは矛盾しますし・・・。

Q. 喘息患者は新型コロナに感染しやすいか?
(YES)
・喘息患者がRSウイルスに罹患するとACE2が高発現し、SARS-CoV-2に感染しやすくなる可能性あり(Am J Respir Crit Care Med 2020; 202: 753-755)
(No)
・喘息の病態に関与するインターロイキン13の作用でアンジオテンシン変換酵素(ACE)2の発現が抑制されているため、喘息患者は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染しにくい(J Allergy Clin Immunol 2020; 146: 55-57)
・3カ国(中国、米国、メキシコ)8件の観察研究の統合解析から、COVID-19患者の喘息合併率は5.3%と、各地域の喘息有病率(平均8.0%)よりも低いことが示されている(J Allergy Clin Immunol 2020; 146: 55-57)。

Q. 喘息患者が新型コロナに罹ったとき重症化しやすいか?
(YES)
・中国疾病対策センターのサーベイランスで、慢性呼吸器疾患患者群のCOVID-19致死率は全体の致死率よりも高い(China CDC Weekly 2020; 2: 113-122)。
(No)
・COVID-19患者における慢性呼吸器疾患合併率は一般人口の有病率に比べて低い(Lancet Respir Med 2020; 8: 436-438)。
・米・ニューヨーク市の2施設に入院した患者を対象とした後ろ向き症例集積研究では、喘息合併率はCOVID-19非重症例(12.2%)と重症例(13.1%)で差がなかった(N Engl J Med 2020; 382: 2372-2374)。
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)、糖尿病の合併率はCOVID-19非重症例に比べ重症例で高いが、喘息合併率には差が見られないとする検討結果(J Allergy Clin Immunol 2020; 146: 55-57)もある。

Q. 吸入ステロイド(ICS)治療は新型コロナ感染のハイリスクとなるか?
(YES)
・ICSは気道の自然免疫を弱めることでウイルス防御を障害する(PLoS Med 2011; 6: e27898)。
・ICSは上気道ウイルス感染の頻度を上昇させる(Infection 2019; 47: 377-385)。
・ICS吸入後のうがいが、RSウイルスを含むかぜ症候群への感染リスク低下に役立つ(BMJ 2008; 336: 77-80)。
(No)
・ICSを使用している喘息患者では健常者と変わらずウイルス防御は十分である(Cytokine 2020; 125: 154857)。
・ICSシクレソニドがSARS-CoV-2の複製や毒性を抑制することで感染者の重症化を抑制する(Antimicrob Agents Chemother 2020; e00819-20)。
・ICSを連用している喘息患者では2型炎症反応の抑制を介してインターフェロン放出が促進され、ウイルス増殖が抑制される(Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2020; 318: L1244-L1247)。
・ICS休薬により気道炎症が再燃する(Proc Am Throac Soc 2005; 2: 150-156)
・ICS休薬によりコロナウイルス感染時の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)発症のリスク上昇(Eur Respir J 2014; 44: 1666-1681)
(?)
・システマチックレビューでは「ICS使用がCOVID-19の転帰に有害か有益かのエビデンスは現段階で存在しない」と結論(Eur Respir J 2020; 55: 2001009)。

※ 日本では日本感染症学会の主導で、SARS-CoV-2に対する抗ウイルス作用が見いだされているICSシクレソニドの投与観察研究が進められている。国立国際医療研究センター病院を中心にCOVID-19の無症状・軽症患者に対する同薬の有効性と安全性を検討する多施設共同非盲検ランダム化試験も進行中だという。

実際に喘息患者が新型コロナに罹ったら・・・という報告もありました。
新型コロナ流行中は、エアロゾルが発生する処置を控えることが指示されています。
喘息発作の時に行うネブライザー吸入もそれに含まれるので、現在喘息発作で苦しくて病院を受診しても吸入できません。

Q. ステロイド薬の全身投与(注射、内服)は有効か?
・当初、全身ステロイド薬について、流行初期には米国感染症学会(IDSA)や米国胸部学会(ATS)は原則としてCOVID-19に対し使用しないことを推奨していた。
(YES)
・COVID-19患者の死亡率低下や重症化抑制における有用性が相次いで示された(JAMA Intern Med 2020;180: 934-943、Clin Infect Dis 2020; ciaa601)。
・非盲検ランダム化比較試験RECOVERYが行われ(N Engl J Med 2020年7月17日オンライン版)、英国のCOVID-19入院患者6,425例(平均年齢66.1歳)を、通常治療群とデキサメタゾン(1日1回6mg)追加群に割り付けて最長10日間(中央値7日間)治療を行った。ちなみに、対象には慢性肺疾患合併例が21%含まれていた。解析の結果、28日後の全死亡率は通常治療群に比べデキサメタゾン追加群で有意に低かった(25.7% vs. 22.9%、P<0.001)。ただし、呼吸補助の程度別(侵襲的換気療法、酸素投与、呼吸補助なし)の解析から、呼吸補助が不要だった患者については両群で差が認められず、軽症例では同薬の効果が乏しいことが示唆された。

Q. ネブライザー(発作時吸入)の是非は?
A. 推奨されない、控えるべきである
・日本喘息学会:
「COVID-19流行期にはウイルスをエアロゾル化して感染伝播させる可能性のあるネブライザーは使用しないよう注意喚起。喘息発作治療として、加圧式定量噴霧吸入器(+スペーサー)を用いた短時間作用型β2刺激薬の使用を推奨」
・エアルゾル中での新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染性は16時間保持されたとする米・Tulane Universityの実験結果(medRxiv 2020年4月18日オンライン版)。
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