小児アレルギー科医の視線

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アナフィラキシーその1:基礎編

2025年02月24日 08時48分08秒 | アナフィラキシー
医師にとってアナフィラキシーは出会いたくない疾患の一つです。
稀だけれど、短時間に命に関わるケースがあるから。

だから救急外来以外の医師でも、
日頃からシミュレーションを繰り返して再確認する必要があります。
火災訓練や防災訓練と同じですね。

さて、アナフィラキシーを取りあげたシリーズの医療記事が目に留まりましたので、
復習がてら読んでみました。
備忘録としてメモを残しておきます。

<ポイント>
・典型例では診断は難しくないものの、中には皮膚症状を伴わない非典型的なケースもある。
・ショックを見たらアナフィラキシーの可能性を考えるべし。
・アナフィラキシーによって呼吸停止、心停止に陥る場合、掛かる時間は
 ✓ 薬剤で5分
 ✓ ハチ毒で15分
 ✓ 食物で30分
・アナフィラキシー診療のポイントは、急性の『皮膚症状』『呼吸器症状』『循環器症状』『消化器症状』のいずれかを認めたら、アナフィラキシーを想起し、他の症状がないかをパッと確認すること。
・皮膚症状の頻度は高いものの全例で認められるわけではないため、皮膚症状を伴わないからといってアナフィラキシーを除外してはいけない、消化器症状からもアナフィラキシーを疑う視点を忘れない。
・アナフィラキシーは他のショックとは異なり、アドレナリンの早期投与が極めて重要。

ショックというと「血圧低下・意識消失」というイメージがありますが、
アナフィラキシー・ショックではアレルギー症状を伴うところが異なります。
逆にアレルギーというとじんましんなどの皮膚症状がイメージされますが、
重症アレルギー反応でも腹部症状が前面に出ることもあり、
必ず皮膚症状があるとは限らないところが悩ましい。
アレルギーには原因がありますから、それを突き止める作業も必要となりますね。


▢ その1〜ショック、急性発症の消化器症状で考えるべき病態は?
坂本壮(国保旭中央病院 救急救命科医長)
2024/04/22:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
 アナフィラキシーは医療機関だけでなく、学校やワクチン接種会場などでも遭遇するコモンな反応です。典型例では診断は難しくないものの、中には皮膚症状を伴わないケースもあります。しかし、見逃して対応が遅れれば命に関わりかねません。また、アドレナリンの投与経路や投与部位、投与量などが不適切なために望ましい効果が得られないケースもあります。・・・

Case
 44歳男性。建築現場で現場監督を行っていた。昼すぎ、仮設トイレで排便中に気分が悪くなり、同僚に助けを求め、救急要請となった。
 救急隊到着時、本人は腹痛、嘔気を訴えていた。バイタルサインなどは以下の通り。
バイタルサイン:意識清明、血圧78/34mmHg、脈拍数110回/分、呼吸数22回/分、SpO2 96%(室内気)、体温36.1℃
既往歴:特記事項なし
服薬歴:定期服薬なし
アレルギー歴:特記事項なし

・・・ショックの原因として最も頻度が高いのは、敗血症に代表される血液分布異常性ショックです。次いで、出血などに伴う循環血液量減少性ショック、心原性ショック、閉塞性ショックと続きます。血圧が低いなどのショック徴候が認められる患者の初期対応としては、基本的には上述の通りで問題ありません。しかし1つ、意識しておくべき事項があります。それが、今回のテーマである「アナフィラキシー」の可能性を早期に考えるということです。

▶ Gem of Advice
ショックを診たら、アナフィラキシーの可能性を1度は考えよう。

▶ アナフィラキシーの実態
 「ワクチン接種後にかゆみを伴う皮疹と呼吸困難を認める」「蜂に刺された後から痛みに加え、皮疹、気が遠くなる感じが出現」……このような症例であれば、誰もがアナフィラキシーを想起しますよね。しかし、アナフィラキシーで必ずしも皮膚症状が見られるわけではありません。また、アナフィラキシーに対する唯一の治療薬はアドレナリンですが、投与経路や投与部位、投与量などが不適切であるがゆえに望ましい効果が得られていないケースもあります。
 アナフィラキシーによって呼吸停止、心停止に陥る場合、掛かる時間は薬剤で5分、ハチ毒で15分、食物で30分とされています1)。早期にアナフィラキシーを認識し、適切な初期対応を行わなければ致死的となる可能性があります。・・・

▶ アナフィラキシーの症状と診断基準
・・・

表1 アナフィラキシーの症状(文献2を基に筆者和訳)


表2 アナフィラキシーの診断基準(文献3を基に筆者作表)

 アナフィラキシー診療のポイントは、
「急性の『1)皮膚症状』『2)呼吸器症状』『3)循環器症状』『4)消化器症状』
のいずれかを認めたら、アナフィラキシーを想起し、他の症状がないかをパッと確認する
ことだと感じています。
 表1の通り、皮膚症状の頻度は高いものの、全例で認められるわけではないため、皮膚症状を伴わないからといってアナフィラキシーを除外してはいけません。また、消化器症状からもアナフィラキシーを疑う視点を忘れないようにしましょう。

Gem of Advice
急性発症の消化器症状を診たら、アナフィラキシーの可能性を1度は考えよう。
(※急性発症の消化器症状では中毒も考える)

Caseの経過
 排便後にショック徴候を認めたとなると、血管病変や消化管穿孔などを考えるかもしれません。もちろんその可能性もあるでしょうが、前述の通り、急性経過の消化器症状ではアナフィラキシーの可能性を早期に1度は検討します。

 病歴を確認すると、仕事で腰を痛めたため、近くのコンビニエンスストアでロキソプロフェン(商品名ロキソニン他)を購入し、コンビニ弁当を食べた後に内服したそうです。その後、腹部の違和感、嘔気を自覚し、トイレに行ったという経過でした。

 アナフィラキシーを疑い、腹部を観察してみると、わずかではあるものの皮疹を確認。急性発症の消化器症状、皮疹に加え、血圧も低下していることからアナフィラキシーと判断し、アドレナリンを大腿外側部に筋注したところ、症状は速やかに回復しました。

 ショックの初期対応としては、細胞外液投与など、他にも考慮すべき処置は多々ありますが、アナフィラキシーは他のショックとは異なり、アドレナリンの早期投与が極めて重要です。ショックを診たら、「アナフィラキシーを鑑別に挙げる」ことはぜひ意識しておいてください。

まとめ
 アナフィラキシーは致死的な反応ですが、初期対応がきちんとなされれば、予後は決して悪くありません。アドレナリン投与の遅れは転帰不良と直接的に関連するため、まずは「アナフィラキシーかもしれない?!」と早期に疑い、“アナフィラキシーらしさ”を評価することが重要です。意識して観察すると、淡い紅斑や服の下の皮疹に気付いたり、強制呼気で喘鳴を聴取したりすることもあるでしょう。疑わなければ探しにいきませんからね。

<参考文献>
1)Pumphrey RS. Clin Exp Allergy. 2000;30:1144-50.
2)Joint Task Force on Practice Parameters,et al. J Allergy Clin Immunol. 2005;115:S483-523.
3)日本アレルギー学会「アナフィラキシーガイドライン2022」


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