肝がんの原因で多いのは、子宮頸がん同様「ウイルス」です。
肝炎を起こすウイルスはA、B、C、D、E型があり、そのうち肝がんが問題になるのはBとC型です。
ご存じのようにB型肝炎ウイルスに対してはワクチンがあります。
日本ではようやく2016年10月にB型肝炎ワクチンが定期接種になりました。
実はこのワクチン、「元祖抗がんワクチン」なんです。
HPVワクチンのように副反応で話題になることもなく、一度免疫がつくと20年以上維持されることもわかっている優秀なワクチンです。
というわけで、このワクチンの普及に伴いHBVによる肝がんは減少しいずれ消えていくものと思われますが、残るはC型肝炎ですね。
残念ながらC型肝炎初するに対するワクチンはまだ開発されていません。
■ 世界の肝がん罹患数が25年で75%増加〜世界疾病負担研究(GBD)2015サブ解析
(2017年10月12日:メディカル・トリビューン)
米・University of Washington, Institute of Health Metrics and Evaluation(IHME)のChristina Fitzmaurice氏らは、世界疾病負担研究(GBD)2015のデータを用いて1990~2015年における世界195カ国・地域の肝がんによる罹患率、死亡率、障害調整生存年(DALY)の推移を性・原因別に検証した。「肝がんの罹患数は25年で75%増加しており、肝がんによる負担は危険因子への曝露の違いから、男女間、地域間で大きく異なることなどが示された」とJAMA Oncol (2017年10月5日オンライン)で報告した。
2015年には81万人が肝がんで死亡
肝がんによる負担の持続的低減を達成するため、国連開発計画(UNDP)が2016〜30年の国際目標として掲げる持続可能な開発目標(SDGs)および、その実現のために世界保健機関(WHO)が提示する諸施策にのっとり、肝がんの危険因子を特定し排除することが求められている。その主な目標はウイルス性肝炎の2030年までの撲滅、過度な飲酒の低減と禁煙、糖尿病および肥満の管理とされている。
こうした中、Fitzmaurice氏らはGBD 2015のデータを基に1990〜2015年の世界195カ国・地域における原発性肝がんの罹患、死亡、DALYを性、原因別に検討した。
その結果、2015年における世界の肝がんの罹患数は85万4,000例、死亡は81万例、DALYは2,057万8,000だった。肝がんは全世界で6番目に罹患率が高く、がんによる死亡としては肺がん、大腸がん、胃がんに次いで4番目に多いことが示された。
HBV関連は減少とHCV関連は上昇
肝がんに伴う負担(罹患・死亡・DALY)が最も大きい地域は東アジアで、アジア太平洋地域の高所得国が罹患数では2位(死亡数3位、DALY 4位)、罹患数の3位は西欧(死亡数4位、DALY 5位)、4位は東南アジア(死亡数およびDALY 2位)の順であった。年齢調整罹患率は高い順からアジア太平洋地域の高所得国、東アジア、サハラ以南アフリカ西部であった。
1990~2015年の経時的推移を見ると、世界の肝がん罹患数は75%増加。要因別では年齢構造の変化に伴い47%増加、人口の増加に伴い35%増加し、年齢別罹患率の変化に伴い8%減少したと解析された。
年齢別罹患率の変化を原因別〔B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、アルコール、その他(肝吸虫症、肥満、カビ毒の1種であるアフラトキシンなど)の4カテゴリーに分類〕に見ると、HBV関連肝がんとその他の原因による肝がんは大きく減少していたものの、その効果は人口の増加と高齢化により相殺されていた。HCV関連肝がんとアルコール関連肝がんについては同期間中の年齢別罹患率は上昇していた。
肝がんによる負担は男性で大きい
性、原因別に見ると、性差は顕著で、肝がん罹患数は男性が59万1,000例、女性が26万4,000例、肝がんによる死亡は同57万7,000人、23万4,000人、DALYは同1,541万3,000、516万5,000であった。年齢標準化罹患率、年齢標準化死亡率、年齢標準化DALY率も男性は女性より高かった(それぞれ2.5倍、2.8倍、3.1倍)。こうした性差は東アジア地域で最も大きく、原因別ではHBVおよびアルコールによる肝がんで顕著であった。
HCV死亡率の最高は日本で69%
原因別に肝がんによる負担を見ると、罹患数、死亡数、DALYともにHBVが最も多く、次いでアルコールの順であったが、1990〜2015年は、罹患数の増加率が最も高かったのはHCVを原因とする肝がんで、次がアルコールによるものであった。
HBVによる肝がんの年齢標準化罹患率は、有意ではないものの18.9%低下していたのに対し、HCVによる年齢標準化罹患率は15.7%上昇しており統計学的に有意な上昇であった。
次に、肝がんによる死亡を病因別に見ると、全世界では2015年の肝がんによる死亡のうちHBVによるものは33%、アルコールが30%、HCVが21%、他の原因が16%であったが、国・地域による違いが極めて大きいことも明らかになった。地域別の解析では、肝がんの死因に占めるHBVの割合が最も低かったのはラテンアメリカ南部の6%、最も高かったのはサハラ以南アフリカ西部およびラテンアメリカ(アンデス地域)の45%。HCVの割合は最低が東アジアの9%、最高がアジア太平洋高所得地域の55%、アルコールの比率は最低が北アフリカおよび中東の13%で、最高が東欧の53%。その他の原因の比率は最低がアジア太平洋高所得地域の6%、最高がオセアニアの27%であった。
国別の検討では、HBVによる死亡率は最低がメキシコの4%、最高がガンビア共和国の60%、HCVでは最低がセネガルの7%、最高が日本の69%。アルコールでは最低がイランの6%で、最高がベラルーシの63%、その他の原因では最低が韓国の5%で最高がインドネシアの39%であった。
以上の結果から、Fitzmaurice氏らは「肝がんの原因は地域により大きく異なるものの、その大半はワクチン接種や抗ウイルス療法、輸血や注射の安全性確保、過度な飲酒の低減のための介入などにより予防可能であることが示唆された」と主張し、今回の解析を契機とした肝がん予防策に対する投資の促進を呼びかけている。
次は、薬とワクチンを駆使したB型肝炎ウイルスの撲滅計画について。
■ B型肝炎の完全制御
帝京大学内科学講座 教授 田中 篤
(2017年10月11日:メディカル・トリビューン)
【未解決の背景】抗ウイルス治療進歩の陰で残された課題
近年、B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus;HBV)に対する抗ウイルス治療は大きく進歩した。HBVの増殖に不可欠なDNAからRNAへの逆転写を阻害する核酸アナログ製剤の登場により、HBVに起因する慢性肝不全は臨床現場からほぼ姿を消し、B型肝炎患者の予後が大きく改善されたことは明白である。
しかしその一方で、いまだに解決されていない課題が残されているのも事実である。まず、発がんの問題がある。
図に示すように、C型肝炎を成因とする肝細胞がんがこの20年で減少している半面、HBVによる肝細胞がんは減少していない。これには幾つかの要因が考えられるが、DNAウイルスであるHBVを体内から排除することが核酸アナログ製剤では困難であること、B型肝炎に対する治療適応が十分に浸透しておらず、本来治療すべき発がんリスクが高い患者が未治療のまま放置されていることなどが指摘されている。
さらに、HBV既感染者が全人口の20%強を占める日本では、HBV再活性化も重大な問題である。日本肝臓学会の「B型肝炎再活性化予防ガイドライン」はかなり周知されているが、抗がん薬や免疫抑制薬の進歩に伴う再活性化の事例は依然として少数ながらも出現しており、定期的なHBV-DNA量のモニタリングなど再活性化予防に必要な経済的コストも無視できない。
【解決することの意義】肝細胞がんの撲滅とHBV再活性化の防止
核酸アナログ製剤は有効性・安全性がともにほぼ満足すべきレベルにあり、最近の製剤では当初問題となった耐性変異ウイルスの出現も克服されている。核酸アナログ製剤による肝細胞がん抑制効果は、少なくとも肝硬変患者においては明らかにされており、HBVに起因する肝細胞がんを減少させるためには、発がんリスクの高い患者を漏れなく拾い上げ、核酸アナログ製剤を投与する必要がある。
しかし実地医家にとって、日常臨床において遭遇するB型肝炎キャリアのうち、どの患者が高発がんリスクなのかを見極めることは必ずしも容易でなく、ともすると肝機能検査値(AST、ALTなど)が正常というだけで発がんリスクが低いと見なされてしまう。B型肝炎の発がんリスク(=治療の必要性)は肝機能検査だけでは判断できない。AST・ALTが正常の肝硬変は珍しくないのである。超音波検査などの画像検査、ウイルス学的指標(HBV-DNA量、HBs抗原量)を組み合わせて治療適応を判断しなければならない。
HBV再活性化については、いったん発症してしまうと核酸アナログ製剤でも治療は困難であり、ガイドラインを遵守し再活性化を予防することが欠かせない。究極的には日本におけるHBV既感染者を減らすことが最も重要な再活性化防止策である。
【私の解決法】治療ガイドラインとユニバーサルワクチンの普及
以上の観点から、日本におけるB型肝炎の完全制御に向けた解決法は以下のようになる。
まず、B型肝炎患者に対する治療方針を広く周知することが必要である。日本肝臓学会では2013年に「B型肝炎治療ガイドライン」を策定し、改訂を重ねている。これには治療目標や治療適応、薬剤の推奨などが記載されており、このガイドラインを実地医家レベルまで普及させ、治療すべきB型肝炎患者を見逃さないことが、B型肝炎による肝細胞がんを撲滅するための第一歩である。それと並んで、核酸アナログ製剤とは異なる作用機序を有し、細胞内のHBVを完全に排除しうる新規薬剤の開発も急務である。
B型肝炎の完全制御に向けた究極の対策は、特定の個人ではなく集団全体を対象とするB型肝炎ワクチン接種、すなわちユニバーサルワクチンの導入である。2016年には、日本でも0歳児に対するユニバーサルワクチンが定期接種化された。既に1986年に施行された母子感染防止事業とともに、このユニバーサルワクチンによって、日本におけるHBV感染者は徐々に減少していくと思われ、遠くない将来に撲滅することも期待できよう。
肝炎を起こすウイルスはA、B、C、D、E型があり、そのうち肝がんが問題になるのはBとC型です。
ご存じのようにB型肝炎ウイルスに対してはワクチンがあります。
日本ではようやく2016年10月にB型肝炎ワクチンが定期接種になりました。
実はこのワクチン、「元祖抗がんワクチン」なんです。
HPVワクチンのように副反応で話題になることもなく、一度免疫がつくと20年以上維持されることもわかっている優秀なワクチンです。
というわけで、このワクチンの普及に伴いHBVによる肝がんは減少しいずれ消えていくものと思われますが、残るはC型肝炎ですね。
残念ながらC型肝炎初するに対するワクチンはまだ開発されていません。
■ 世界の肝がん罹患数が25年で75%増加〜世界疾病負担研究(GBD)2015サブ解析
(2017年10月12日:メディカル・トリビューン)
米・University of Washington, Institute of Health Metrics and Evaluation(IHME)のChristina Fitzmaurice氏らは、世界疾病負担研究(GBD)2015のデータを用いて1990~2015年における世界195カ国・地域の肝がんによる罹患率、死亡率、障害調整生存年(DALY)の推移を性・原因別に検証した。「肝がんの罹患数は25年で75%増加しており、肝がんによる負担は危険因子への曝露の違いから、男女間、地域間で大きく異なることなどが示された」とJAMA Oncol (2017年10月5日オンライン)で報告した。
2015年には81万人が肝がんで死亡
肝がんによる負担の持続的低減を達成するため、国連開発計画(UNDP)が2016〜30年の国際目標として掲げる持続可能な開発目標(SDGs)および、その実現のために世界保健機関(WHO)が提示する諸施策にのっとり、肝がんの危険因子を特定し排除することが求められている。その主な目標はウイルス性肝炎の2030年までの撲滅、過度な飲酒の低減と禁煙、糖尿病および肥満の管理とされている。
こうした中、Fitzmaurice氏らはGBD 2015のデータを基に1990〜2015年の世界195カ国・地域における原発性肝がんの罹患、死亡、DALYを性、原因別に検討した。
その結果、2015年における世界の肝がんの罹患数は85万4,000例、死亡は81万例、DALYは2,057万8,000だった。肝がんは全世界で6番目に罹患率が高く、がんによる死亡としては肺がん、大腸がん、胃がんに次いで4番目に多いことが示された。
HBV関連は減少とHCV関連は上昇
肝がんに伴う負担(罹患・死亡・DALY)が最も大きい地域は東アジアで、アジア太平洋地域の高所得国が罹患数では2位(死亡数3位、DALY 4位)、罹患数の3位は西欧(死亡数4位、DALY 5位)、4位は東南アジア(死亡数およびDALY 2位)の順であった。年齢調整罹患率は高い順からアジア太平洋地域の高所得国、東アジア、サハラ以南アフリカ西部であった。
1990~2015年の経時的推移を見ると、世界の肝がん罹患数は75%増加。要因別では年齢構造の変化に伴い47%増加、人口の増加に伴い35%増加し、年齢別罹患率の変化に伴い8%減少したと解析された。
年齢別罹患率の変化を原因別〔B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、アルコール、その他(肝吸虫症、肥満、カビ毒の1種であるアフラトキシンなど)の4カテゴリーに分類〕に見ると、HBV関連肝がんとその他の原因による肝がんは大きく減少していたものの、その効果は人口の増加と高齢化により相殺されていた。HCV関連肝がんとアルコール関連肝がんについては同期間中の年齢別罹患率は上昇していた。
肝がんによる負担は男性で大きい
性、原因別に見ると、性差は顕著で、肝がん罹患数は男性が59万1,000例、女性が26万4,000例、肝がんによる死亡は同57万7,000人、23万4,000人、DALYは同1,541万3,000、516万5,000であった。年齢標準化罹患率、年齢標準化死亡率、年齢標準化DALY率も男性は女性より高かった(それぞれ2.5倍、2.8倍、3.1倍)。こうした性差は東アジア地域で最も大きく、原因別ではHBVおよびアルコールによる肝がんで顕著であった。
HCV死亡率の最高は日本で69%
原因別に肝がんによる負担を見ると、罹患数、死亡数、DALYともにHBVが最も多く、次いでアルコールの順であったが、1990〜2015年は、罹患数の増加率が最も高かったのはHCVを原因とする肝がんで、次がアルコールによるものであった。
HBVによる肝がんの年齢標準化罹患率は、有意ではないものの18.9%低下していたのに対し、HCVによる年齢標準化罹患率は15.7%上昇しており統計学的に有意な上昇であった。
次に、肝がんによる死亡を病因別に見ると、全世界では2015年の肝がんによる死亡のうちHBVによるものは33%、アルコールが30%、HCVが21%、他の原因が16%であったが、国・地域による違いが極めて大きいことも明らかになった。地域別の解析では、肝がんの死因に占めるHBVの割合が最も低かったのはラテンアメリカ南部の6%、最も高かったのはサハラ以南アフリカ西部およびラテンアメリカ(アンデス地域)の45%。HCVの割合は最低が東アジアの9%、最高がアジア太平洋高所得地域の55%、アルコールの比率は最低が北アフリカおよび中東の13%で、最高が東欧の53%。その他の原因の比率は最低がアジア太平洋高所得地域の6%、最高がオセアニアの27%であった。
国別の検討では、HBVによる死亡率は最低がメキシコの4%、最高がガンビア共和国の60%、HCVでは最低がセネガルの7%、最高が日本の69%。アルコールでは最低がイランの6%で、最高がベラルーシの63%、その他の原因では最低が韓国の5%で最高がインドネシアの39%であった。
以上の結果から、Fitzmaurice氏らは「肝がんの原因は地域により大きく異なるものの、その大半はワクチン接種や抗ウイルス療法、輸血や注射の安全性確保、過度な飲酒の低減のための介入などにより予防可能であることが示唆された」と主張し、今回の解析を契機とした肝がん予防策に対する投資の促進を呼びかけている。
次は、薬とワクチンを駆使したB型肝炎ウイルスの撲滅計画について。
■ B型肝炎の完全制御
帝京大学内科学講座 教授 田中 篤
(2017年10月11日:メディカル・トリビューン)
【未解決の背景】抗ウイルス治療進歩の陰で残された課題
近年、B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus;HBV)に対する抗ウイルス治療は大きく進歩した。HBVの増殖に不可欠なDNAからRNAへの逆転写を阻害する核酸アナログ製剤の登場により、HBVに起因する慢性肝不全は臨床現場からほぼ姿を消し、B型肝炎患者の予後が大きく改善されたことは明白である。
しかしその一方で、いまだに解決されていない課題が残されているのも事実である。まず、発がんの問題がある。
図に示すように、C型肝炎を成因とする肝細胞がんがこの20年で減少している半面、HBVによる肝細胞がんは減少していない。これには幾つかの要因が考えられるが、DNAウイルスであるHBVを体内から排除することが核酸アナログ製剤では困難であること、B型肝炎に対する治療適応が十分に浸透しておらず、本来治療すべき発がんリスクが高い患者が未治療のまま放置されていることなどが指摘されている。
さらに、HBV既感染者が全人口の20%強を占める日本では、HBV再活性化も重大な問題である。日本肝臓学会の「B型肝炎再活性化予防ガイドライン」はかなり周知されているが、抗がん薬や免疫抑制薬の進歩に伴う再活性化の事例は依然として少数ながらも出現しており、定期的なHBV-DNA量のモニタリングなど再活性化予防に必要な経済的コストも無視できない。
【解決することの意義】肝細胞がんの撲滅とHBV再活性化の防止
核酸アナログ製剤は有効性・安全性がともにほぼ満足すべきレベルにあり、最近の製剤では当初問題となった耐性変異ウイルスの出現も克服されている。核酸アナログ製剤による肝細胞がん抑制効果は、少なくとも肝硬変患者においては明らかにされており、HBVに起因する肝細胞がんを減少させるためには、発がんリスクの高い患者を漏れなく拾い上げ、核酸アナログ製剤を投与する必要がある。
しかし実地医家にとって、日常臨床において遭遇するB型肝炎キャリアのうち、どの患者が高発がんリスクなのかを見極めることは必ずしも容易でなく、ともすると肝機能検査値(AST、ALTなど)が正常というだけで発がんリスクが低いと見なされてしまう。B型肝炎の発がんリスク(=治療の必要性)は肝機能検査だけでは判断できない。AST・ALTが正常の肝硬変は珍しくないのである。超音波検査などの画像検査、ウイルス学的指標(HBV-DNA量、HBs抗原量)を組み合わせて治療適応を判断しなければならない。
HBV再活性化については、いったん発症してしまうと核酸アナログ製剤でも治療は困難であり、ガイドラインを遵守し再活性化を予防することが欠かせない。究極的には日本におけるHBV既感染者を減らすことが最も重要な再活性化防止策である。
【私の解決法】治療ガイドラインとユニバーサルワクチンの普及
以上の観点から、日本におけるB型肝炎の完全制御に向けた解決法は以下のようになる。
まず、B型肝炎患者に対する治療方針を広く周知することが必要である。日本肝臓学会では2013年に「B型肝炎治療ガイドライン」を策定し、改訂を重ねている。これには治療目標や治療適応、薬剤の推奨などが記載されており、このガイドラインを実地医家レベルまで普及させ、治療すべきB型肝炎患者を見逃さないことが、B型肝炎による肝細胞がんを撲滅するための第一歩である。それと並んで、核酸アナログ製剤とは異なる作用機序を有し、細胞内のHBVを完全に排除しうる新規薬剤の開発も急務である。
B型肝炎の完全制御に向けた究極の対策は、特定の個人ではなく集団全体を対象とするB型肝炎ワクチン接種、すなわちユニバーサルワクチンの導入である。2016年には、日本でも0歳児に対するユニバーサルワクチンが定期接種化された。既に1986年に施行された母子感染防止事業とともに、このユニバーサルワクチンによって、日本におけるHBV感染者は徐々に減少していくと思われ、遠くない将来に撲滅することも期待できよう。