小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

開業医で行うアトピー性皮膚炎診療〜ステロイド外用薬にサヨナラする方法〜

2024年05月06日 21時31分45秒 | アトピー性皮膚炎
本日(2024.5.6)、「総合診療医が診るアトピー性皮膚炎」というテーマのWEBセミナーを視聴しました。
いつもは皮膚科医や小児科医の講師ばかりですが、
「総合診療医という視点からどんな話が出てくるのだろう」
という素朴な疑問と興味から聞きました。

考えてみると、小児科医は「小児の総合診療医」という性質があります。
病気の種類にかかわらず「子どもならすべてOK」というスタンス。

先日、休日当番医を担当しましたが、
風邪症状以外にも、皮膚とか目とか耳とかの症状を訴えて受診する患者さんの多いこと多いこと。
地域では内科系・小児科系の他に外科系当番医も指定されています。
皮膚科・眼科・耳鼻科は本来“外科系”ですので、
小児科より外科系当番医を受診するのが筋なのですが・・・。

総合診療医によるアトピー性皮膚炎レクチャーの内容は“斬新”でした。
「フムフムそうだよなあ」
と頷くことしばしば、また、
「そういう見方があったか!?」
と感心する箇所もありました。

メモ書きと私のコメントを備忘録として残しておきます。

■ (演者が)皮膚科研修で感じたこと(抜粋)
・一人当たりの診察時間がものすごく短い
・皮膚しか診ない
・生活指導や予防についてあまり聞かされていない

大いに頷きました。
当院に流れ着くアトピー性皮膚炎患者さんは大抵、
「コレ塗って良くなったらやめて」
と外用薬を処方されるだけといいます。
「塗るとよくなるけどやめるとまた悪化する、
 先が見えないのでこちらに来ました」
と訴えます。

総合診療医がアトピー性皮膚炎を診るべき理由(抜粋)
・アトピー性皮膚炎は診断が簡単
・アトピー性皮膚炎は処方も簡単(薬の選択肢が少ない)
・アトピー性皮膚炎の「治療」は「生活指導+薬の説明」

こちらにも大いに頷きました。
かゆい湿疹が半年以上続き、他の皮膚病が除外できればアトピー性皮膚炎です。
ステロイド外用薬を処方すれば一旦は良くなります。

が、それでは解決しないのがアトピー性皮膚炎。
薬の塗り方、どれだけ続けるか、どのようにやめていくかを説明しないと、
良い状態が保てないのです。
この点が皮膚科医には欠けているため、
皮膚科から小児科に患者が流れてくるのでしょう。

アレルギーに関連する社会的問題(抜粋)
・血液検査ですべてわかるという誤解
・誤ったスキンケア指導
・妊婦への誤った食事指導
・ステロイドフォビア(ステロイド忌避)
・アトピービジネス

血液検査はあくまでも参考です。
食物アレルギーは乳児期では検査結果と症状がリンクしますが、
幼児期以降は一致率がどんどん低下します。
しかし毎年検査を繰り返して陰性化するまで食事制限している医師が今でもいるのは残念です。

ステロイドはその効果と副作用を理解してうまく使うととても良い薬です。
医師はもちろんのこと、患者さんにも理解・納得してもらう必要があります。

しかし効果よりも副作用ばかりがメディアでクローズアップされ、
ステロイドフォビア(=ステロイド忌避)を生み、
一部の医師もどれに同調する始末、これも残念なこと。

医師の努力の結晶はガイドラインに反映されます。
少数の副作用をクローズアップして不安を煽るより、
何十万人〜何百万人の治療経験の蓄積であるガイドラインを遵守することがサイエンスです。

そして「よくならない病気」には、
それを食い物にするビジネスがはびこります。
正しい方法はあるのだけど、
なかなか実行できないことを扱うハウツー本は売れる、
という常識が出版界にはあるそうです。
アトピー性皮膚炎しかり、ダイエットしかり・・・。

 アトピー性皮膚炎の治療薬(外用薬だけ抜粋)
〜1999年:ステロイドのみ
1999年:タクロリムス軟膏発売
2020年:コレクチム®軟膏発売(JAK阻害薬)
2022年:モイゼルト®軟膏発売(PDE-4阻害薬)

タクロリムスはよい薬ですが使い方にコツがあり、
それを知らないと使いこなせません。
かゆいところに塗るとピリピリ刺激感が半端ないのです。
十分な説明と理解がなく、これを経験した患者さんは、
「とんでもない薬を処方された!」
と信頼関係が崩れ、その後の治療がうまくいかなくなります。
タクロリムスは「ステロイド外用薬で湿疹を治してから塗る薬」です。
そう、「治すのではなく悪くしないために塗る薬」なのです。

コレクチムもモイゼルトも治す力(抗炎症効果)はステロイドより弱く、
かゆいところに塗ってもなかなか治りません。
ステロイド外用薬を塗ると数日で効果が実感できますが、
この2剤は効果が出始めるまでに1週間、
十分な効果を期待するには1ヶ月を要します。
つまり、これらの薬もステロイドで治したあとに悪化予防として塗る薬なのです。

つまりステロイド以外の塗り薬は、
「ステロイド外用薬で湿疹を治した後に使う薬」
「ステロイドをやめるための薬」
ということ。

レクチャーでは内服薬・注射薬の説明もありましたが省略します。
注射薬の一部は免疫よく最高かが強いため、
使用中は生ワクチンを接種できません。
これは「免疫不全状態」に適用されるルールであり、
他の感染症のリスクも増えるため、
それらを管理できるかどうかが医師に問われ、
クリニックレベルで扱うのは難しいのではないか、
とコメントしていました。

アトピー性皮膚炎のたった一つのシンプルな治療法
 reactive療法  →  proactive療法
 ステロイドのみ   ステロイド
           タクロリムス
           コレクチム
           モイゼルト

注)
・reactive(リアクティブ)療法:湿疹が出たら塗り、治ったら止める方法
・proactive(プロアクティブ)療法:湿疹が出たら塗り、治ってもすぐに止めないで漸減して湿疹が出ないようにする方法

この文言には目からウロコが落ちました。
私は以前からステロイド外用薬によるプロアクティブ療法を導入してきました。
患者さんの8割はこれでコントロールできるようになりますが、
残りの1割はステロイド外用薬減量課程で再燃を繰り返します。
そのような患者さんには近年登場したコレクチムとモイゼルトを導入し、
ステロイド外用薬を止めていけそうな手応えを感じています。
とくに生後3ヶ月から使用可能で、使用量制限のないモイゼルトは小児にも使いやすい薬です。

しかし演者の医師は、最初の寛解導入のみステロイド外用薬を使い、
炎症が完全に治まるまで使い切り、
その後はステロイド外用薬漸減ではなく、
新薬に切り替えることにより、
ステロイド外用薬を永遠にやめてしまおう!
と提唱しているのでした。

私も薄々「もしかしたら可能かもしれない」と考えていたことですが、
実行している医師の話を聞き、
背中を押されたようで自信が湧いてきました。

proactive療法で使用する3種の外用薬

      (抗炎症作用)(免疫抑制作用)
タクロリムス   +    +++++
コレクチム    ++     +
モイゼルト    ー      —

抗炎症作用とは「湿疹をよくする作用」と理解してください。
ちなみにステロイド外用薬はタクロリムスより抗炎症作用が強く、
免疫抑制作用が弱い薬です。

はて、モイゼルトには抗炎症作用(湿疹をよくする作用)がない?
・・・でも私はこの比較表を見ると、ますますモイゼルトを選択したくなります。
免疫抑制作用がないという点に注目!
免疫抑制作用があるということは、
実臨床では「皮膚感染症の副作用リスクがある」ということです。
とびひ、ニキビ、ヘルペス・・・

ステロイド外用薬で湿疹を治し、
その後はモイゼルトに切り替えてゆっくりやめていく方法が、
これからの小児アトピー性皮膚炎治療のスタンダードになりそうな気がしてきました。
実際に一部の患者さん(ステロイド外用薬減量中に再燃を繰り返す)に使い始めていますが、手応えは十分あります。

外用薬は指導がすべて(抜粋)
・説明なしで適切に使えることは絶対にない
・proactive療法の指導は難易度がかなり高い

そうなんです。
指導には知識と時間が必要です。
当院では5年以上前(2017年)にプロアクティブ療法を導入しましたが、
看護師スタッフを教育し、軟膏の塗り方指導を担当してもらいました。
当院にはPAE(小児アレルギーエデュケーター)資格取得者の群馬県第1号も在籍しています。

そして軟膏塗布方法から生活指導まで、一人の患者に30分以上かけてアドバイスしていました。
・・・本気で取り組まないと実行できません。
現在はスタッフ数減少のため、残念ながらそこまで手が回らなくなってしまいました。

講師が最後に行った言葉がすばらしい;
「ステロイド外用薬を処方しますね、
 でもこれが人生最後のステロイドです!」




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