小児科医になって35年、
今まで7月にインフルエンザが流行した記憶はありません。
もっとも、熱帯地方では一年中パラパラと流行が繰り返され、
それに近い沖縄では夏にも発生することは知っていましたが。
インフルエンザは新型コロナ禍以降、
この3年間流行が抑えられてきました。
これはユニバーサルマスクを含めた強力な感染対策の成果です。
しかし今年は皆さんご存じのようにA型インフルエンザが日本全国で流行し、
学級閉鎖も発生しています。
ときに新型コロナの学級閉鎖と混在することもあります。
始まったタイミングは5/8以降、
そう、新型コロナの感染症法上の取り扱いが、
2類相当から5類相当へ格下げされてからです。
その辺の事情を分析した記事が目に留まりましたので、
紹介させていただきます;
<ポイント>
・2022/2023シーズンは3年ぶりにインフルエンザが流行したが、その立ち上がりは緩やかでピークは高くなく、だらだらと持続する今までにないパターンをとった。
(理由①)インフルエンザウイルスの国内への持ち込み:
コロナ禍の2シーズンでインフルエンザの流行が見られなかったのは、海外との人の往来が途絶えたため、ウイルスの流入がなかったことが大きな原因。
(理由②)マスク着用の減少と人流の増加:
流行の立ち上がりが緩やかで、ピークが低く抑えられた点は、COVID-19が2類相当であることから行われた外出自粛要請や就業制限などの隔離対策、ユニバーサル・マスキングや身体的距離の確保といった感染対策の効果であった可能性がある。
(理由③)インフルエンザに対する免疫の低下:
2020/21年および2021/22年シーズンにインフルエンザの流行が見られなかったことから、日本人のインフルエンザに対する免疫が低下していた。また、今年4~5月になると昨年秋におけるインフルエンザワクチンの接種から半年が経過し、その効果が減弱していた。
・2023/24年シーズンはコロナ禍以前のようなインフルエンザの流行パターンに戻るであろうと推測される。
▢ インフル流行とコロナ5類化の関係に迫る
浜松市感染症対策調整監/浜松医療センター感染症管理特別顧問 矢野邦夫
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はじめに
日本ではコロナ禍の2シーズン(2020/21年および2021/22年シーズン)、インフルエンザの流行は見られなかった。海外との人の往来が途絶え、インフルエンザウイルスが国内に流入しなかったためかもしれない。また、COVID-19とインフルエンザの感染経路が類似することから、COVID-19に対する厳しい感染対策の実施がインフルエンザの流行を抑え込んだ可能性もある。それ故、COVID-19のパンデミックが収束するにつれて感染対策が緩和されれば、再びインフルエンザが流行するであろうことは容易に想像できた。
しかし、流行が予想できても、どのような流行パターンを示すかの予測は困難であった。ここでは、COVID-19が5類感染症に移行された点も含めて、インフルエンザの流行に影響した要因について論じたい。
◆ 2022/23年シーズンはこれまでにない流行パターン
COVID-19の流行以前、インフルエンザは1月下旬~2月上旬に流行のピークが見られ、その後は感染者数が減少するパターンを示していた。コロナ禍の2020/21年および2021/22年シーズンはインフルエンザの流行が見られなかったが、2022/23年シーズンでは全国的な流行が確認された。
しかし、流行の立ち上がりは緩やかであり、ピークでの1週間の定点当たりの報告数は15程度で、一部の地域を除き警報レベルの30を大きく下回った(インフルエンザでは、定点当たりの報告数が1以上で該当地域は流行域入り、10以上で注意報レベル、30以上で警報レベルとなる)。そして、ピーク後の減少スピードは鈍く、持続的な流行(定点当たりの報告数が1未満にならない)となった。これまで経験したことのない流行パターンであった。
◆ 流行パターンには3つの要因が影響
インフルエンザがこのような流行パターンを示した理由は明らかではないが、少なくとも下記の要因が関連したものと思われる。
①インフルエンザウイルスの国内への持ち込み:海外との人の往来が盛んになり、インフルエンザウイルスが国内に持ち込まれるようになった。これが流行のきっかけとなった。
②マスク着用の減少と人流の増加:今年1~2月の時点では、まだユニバーサル・マスキングなどのCOVID-19対策が広範に実施されていたため、流行は穏やかであり、ピークは低く抑えられた。しかし、3月にマスク着用が個人の判断となり、5月8日にはCOVID-19が5類感染症に移行されたことによって、マスクを着用しない人流が増加し、COVID-19だけでなくインフルエンザも感染者から周囲の人へと容易に伝播するようになった。
③インフルエンザに対する免疫の低下:2020/21年および2021/22年シーズンにインフルエンザの流行が見られなかったことから、日本人のインフルエンザに対する免疫が低下していた。また、今年4~5月になると昨年秋におけるインフルエンザワクチンの接種から半年が経過し、その効果が減弱していた。
◆ COVID-19の5類化によるインパクト
COVID-19が新型インフルエンザ等感染症(2類相当)に位置付けられていたころは、COVID-19に罹患すれば入院勧告・外出自粛要請・就業制限が行われた。そのため、多くの人はCOVID-19を恐れてマスク着用、手洗い、身体的距離の確保などを徹底し、混雑した環境への立ち入りを避ける努力をしていた。これらの対策による感染予防の効果は、COVID-19のみならずインフルエンザやその他の飛沫感染する感染症の流行も抑え込んでいた。
COVID-19が5類感染症に移行されたことにより、感染しても厳しい生活制限が強いられなくなり、その結果、感染対策は軽装化してきた。実際、運動会や遠足などの学校行事の実施は躊躇されていたが、5類感染症に移行してからは行われるケースが多くなっている。そのような状況がインフルエンザの流行を持続させる要因になったのかもしれない。
◆ 2023/24年シーズンはコロナ禍前の流行パターンに戻る
インフルエンザの「3年ぶりの流行」と「2022/23年シーズンでの特徴的な流行パターン(流行の立ち上がりが緩やかで、ピークが低く、流行時期の幅が広い)」の原因は、COVID-19が5類感染症に移行したことが全てではない。
コロナ禍の2シーズンでインフルエンザの流行が見られなかったのは、海外との人の往来が途絶えたため、ウイルスの流入がなかったことが大きな原因であろう。2022/23年シーズンに流行が見られたのは、海外との人の往来が再開されて、ウイルスが持ち込まれ、かつ人流が増加したことが大きく影響したと推察される。流行の立ち上がりが緩やかで、ピークが低く抑えられた点は、COVID-19が2類相当であることから行われた外出自粛要請や就業制限などの隔離対策、ユニバーサル・マスキングや身体的距離の確保といった感染対策の効果であった可能性がある。
現在、COVID-19が5類感染症に移行したことで、感染者の外出自粛要請や就業制限はなくなった。それまでは、感染した場合の出勤・登校停止に対する恐れから、あまり会食や旅行などが行われなかったが、これらの制限が撤廃されたことにより、行動の自由度は大きく回復した。結果として、インフルエンザ患者が多くの人に接触する機会も生まれることになり、インフルエンザの伝播を許した。また、日本人のインフルエンザに対する免疫が低下したことも相まって、幅広いピークのパターンを呈したのかもしれない。
それでは、COVID-19が5類感染症に移行したことによって、今後はどのような変化が見られるのであろうか。おそらく、人流を抑え込むような対策は行われないことから、従来の流行パターンに近付いてくるものと思われる。すなわち、2023/24年シーズンはコロナ禍以前のようなインフルエンザの流行パターンに戻るであろうと推測される。