昔、「熱中症」についての患者さんへの配布用プリント作成を試みました。
何冊か本を読んだのですが、今一つピンときませんでした。
症状はとらえどころがなく、
「〇〇があるから熱中症」
「〇〇がないから熱中症ではない」
と説明できないのです。
「体の中で何が起きているのか?」
というところまで考えないと解決しないことに気づきました。
ある本(名前は忘れました)を読んでいた時、
「熱中症は皮膚に血流が集まる(皮膚血管拡張)ため、
他の臓器の血流が欠乏する状態(虚血)である」
「脳が虚血になれば、立ちくらみやめまい、
腸が虚血になれば、吐き気や腹痛、
筋が虚血になれば、筋肉痛やだるさ…
などが現れる」
な、なるほど!
熱中症の症状は「各臓器が虚血状態に陥る」ために出現、
つまり「なんでもあり!」ということです。
そして最重症型が「多臓器不全」であることもうなづけます。
これなら理解しやすいし、説明しやすい。
それから、熱中症を疑ったときのチェックポイントとして、
以下の2点が重要であることもわかりました。
1.吐き気の強さ
嘔吐が止まらなければ、脱水が進み、
熱中症も進行しやすくなります。
点滴が必要になることがあります。
2.意識状態
熱中症は汗による体熱下降ができなくなった状態、
とくに脳は熱に弱く、
熱がこもって脳にダメージが与えられると、
意識レベルが低下します。
ボーっとしがち、受け答えの反応が悪い、
などの症状が認められたら危険な状態です。
すぐ救急車要請を!
以上のことをまとめてプリントを作成したのが、
もう15年くらい前でしょうか。
現在は「子どもの熱中症と対策」としてアップしていつでも閲覧できるようにしました。
興味のある方はどうぞ。
さて、熱中症診療はその後進歩・進化しているのでしょうか。
最近の論文解説記事を読んでみました。
西伊豆健育会病院病院長 仲田和正 医師
(2018年08月06日:メディカルトリビューン)
そうなんだ~、と勉強になった点;
・ヒトが耐えうる最高体温は41.6℃。
・環境湿度75%以上になると汗の蒸発ができなくなる。
・体表全体から発汗できるのはヒトとウマくらい。
・心拍出量が増えないと熱射病の可能性が高まる。
・尿が茶色だったらミオグロビン尿(横紋筋誘拐)を疑え。
・熱中症患者の皮膚は紅潮(皮膚血管拡張)し、湿潤あるいは乾燥している。
・冷却はぬるま湯(40℃、lukewarm water)をスプレーでかけ扇風機、マッサージする、
冷水を皮膚に散布して扇風機を使うと皮膚血管収縮と震え(shivering)を起こすので、やってはならない、
現場にぬるま湯がない場合、25~30℃の水をスプレーでかけ扇風機、うちわで風を送る。
・深部体温<39.4℃を目指し、38~39℃になったらクーリングを中止する、
それ以上冷やすと医原性低体温を起こすため。
・冷やしすぎると震え(shivering)が出てくる可能性あり、
クーリングで震えがあると発熱するのでベンゾジアゼピンを注射する。
・熱射病にNSAIDなどの解熱薬使用のスタディは存在しない、
アセトアミノフェンやアスピリンは熱射病に使ってはならない。
・α-adrenergic agonists (ノルアドレナリンなど)は血管収縮して熱放散を妨げますので使用してはならない、
低血圧に対しては生食をボーラスで250~500mL投与して対処する。
以下はメモです;
【熱中症の分類】
・熱失神(heat syncope):血管拡張で脳血流減少して立ちくらみ、失神。体温正常
・熱痙攣(heat cramp):四肢、腹部の筋痙攣、こむら返り。水分補給のみして塩分を補給しないときに起こる。熱は38℃以下
・熱疲労(heat exhaustion):汗で塩分、水分大量に失い細胞外液減少。悪心、嘔吐、頭痛、めまい、低血圧。直腸温38~39℃。生食輸液。尿中ミオグロビンチェック
・熱射病・日射病(heat stroke):発熱40℃以上、中枢神経症状(せん妄、痙攣、昏睡)あり
・熱失神(heat syncope):血管拡張で脳血流減少して立ちくらみ、失神。体温正常
・熱痙攣(heat cramp):四肢、腹部の筋痙攣、こむら返り。水分補給のみして塩分を補給しないときに起こる。熱は38℃以下
・熱疲労(heat exhaustion):汗で塩分、水分大量に失い細胞外液減少。悪心、嘔吐、頭痛、めまい、低血圧。直腸温38~39℃。生食輸液。尿中ミオグロビンチェック
・熱射病・日射病(heat stroke):発熱40℃以上、中枢神経症状(せん妄、痙攣、昏睡)あり
① 古典的熱射病(Classical heat stroke):高温環境で起こるもの
② 運動性熱射病(Exertional heat stroke):運動によるもの
② 運動性熱射病(Exertional heat stroke):運動によるもの
1.熱失神は皮膚血管拡張による失神、熱痙攣は塩分なしの水分補給による筋痙攣
・夏のビニールハウス作業などで水分だけ取って塩分を取らない場合に起こります。筋肉がピクピクするとか足がつるなどの症状で来ます。直腸温は38℃以下です。涼しい外来で生食500~1,000mLほど点滴して帰しています。
・鉄工場で働かれている方は、夏は岩塩や梅干しを持参しているとのことでした。岩塩をかじりながら仕事をしているのです。
2.ヒトが耐えうる最高体温は41.6~42℃で45分~8時間。49~50℃5分で死亡
・42℃以上でミトコンドリア内での酸化的リン酸化(ATP産生)が困難になり酵素も活動を停止します。
・49~50℃で全細胞構造は破壊され5分で死亡します。それより低い温度での細胞死はアポトーシスによるのだそうです。
3.湿度75%以上で発汗蒸発不能。発汗で最大600Kcal/時放熱。抗コリン薬注意
・体温1℃程度の上昇を末梢や視床下部の熱センサーが感知し、視床下部前方の体温調整中枢(preoptic nucleus)から自律神経を介して、全身の発汗、皮膚血管拡張が起こり熱くなった血液を内臓から体表に送ります。交感神経による皮膚血管拡張により皮膚血流は8L/分まで増加し、また発汗を促します。
・発汗による蒸発熱で体表は冷やされますが、1.7mLの発汗で1kcalの熱が消費されます。しかし湿度75%以上になると蒸発ができなくなります。ですから「天気予報で湿度75%以上と言ったら要注意」です。乾燥していれば発汗により最大600kcal/時の熱を放散できるとのことです。
・高齢者では皮膚への血流低下、熱放散する表皮面積低下、皮膚血管拡張障害があり発汗による放熱が困難になります。
・熱射病のリスクが高いのは、特に70歳以上、心血管疾患、神経・精神疾患、肥満、無汗症状、アルコール摂取、コカイン使用、β遮断薬、利尿薬の内服です。また発汗を抑制する抗コリン薬(デトルシトール、トビエース、ベシケア、ウリトス、ステーブラ、ポラキス、ネオキシテープ、バップフォーなど)も要注意です。高齢者は過活動性膀胱でこれらの薬剤を内服していることが多いですから必ず薬剤を調べます。
・体表全体から発汗できるのはヒトとウマくらいだというのです。汗腺にはエクリン腺とアポクリン腺があります。ヒトの全身から出る汗はエクリン腺でサラッとして臭いもなく99%が水分、1%が塩分です。エクリン腺からの発汗でヒトは体温調節をします。一方アポクリン腺はヒトでいうと腋下にあるもので体温調節よりフェロモン的要素が強くその汗は脂肪、鉄分、アンモニアを含み臭いがあります。これが雑菌で分解されるとツーンとした腐臭になります。
・イヌにはアポクリン腺が全身にありますがなんとエクリン腺は肉球と鼻周囲にしかないというのです。ですからイヌは全身で汗をかいての体温調節ができず、舌を出してここから蒸発させて放熱を行います。これはライオンやチーターも同じことです。ということは、これらの動物は瞬間的な短距離走は100km/時でできてもマラソンは不可能なのです。ですからヒトが槍を持ってマラソンで追いかければ簡単に捕獲できるのだそうです。
4.心拍出量が増えないと熱射病起こす。β遮断薬、利尿薬など内服薬に注意
・熱ストレスにより心拍出量は20L/分まで増加し、内臓血流は筋肉や皮膚へシフトします。つまり心拍出量が増えないと熱射病の可能性が高まるのです。例えば塩分、水分の減少や心疾患、心機能を抑制するような薬剤を内服していると危険なわけです。つまりβ遮断薬、利尿薬などの内服です。
5.血流の皮膚・筋へのシフトで腸管虚血→腸管透過性が亢進→エンドトキシンが中へ入る
・血流が腸間膜から筋肉や皮膚へとシフトするため、腸管虚血が起こり反応性酸素や酸化窒素が増加して粘膜損傷を起こし、腸管透過性が亢進します。熱射病での炎症反応の原因は胃腸による可能性があるというのです。
・つまり、熱射病で体がおかしくなるのは血流の皮膚、筋へのシフトで腸管虚血が起こり腸管透過性が亢進してendotoxinが血中へ入るから、という意外な展開でした。
6.最大酸素摂取量(VO2max)の80%を超えると腸管透過性が亢進する
VO2max(1分間に体重1㎏当たり何mLの酸素を取り込めるか)は持久力の指標(高いほど優れている)として使われます。運動や環境の影響でVO2maxの80%を超えると腸管透過性が亢進し、腸管虚血が始まります。
7.熱ショック蛋白はシャペロン機能(蛋白折り畳み)で細胞を防御する
熱ストレスに対しほぼ全ての細胞は遺伝子翻訳を介して熱ショック蛋白(heat-shock protein)を産生することで、これにより熱に対する防御を行います。
・・・
熱防御能は熱ショック蛋白72のレベルと相関し、この産生を阻害するとわずかな熱ストレスにも耐えられないそうです。
・・・
熱射病患者では炎症性サイトカインであるTNFα、IL-1β、インターフェロン-γが上昇します。炎症性サイトカインで脳圧亢進、脳血流低下、神経損傷が起こります。またそれとは逆に抗炎症性サイトカインのIL-6、soluble TNF receptors p55、p75、IL-10も上昇します。つまり炎症性、抗炎症性両方のサイトカインが増加するのです。体温を下げてもこれらを抑制できません。
炎症、抗炎症両方のサイトカインが活性化してアンバランスになり炎症または免疫抑制が起こるのです。
・・・
熱ショック蛋白はシャペロン機能 (蛋白の折り畳み促進)と関連するそうです。蛋白の構造を折り畳んで熱に強くするのです。
8.熱射病のDICは敗血症と同じ線溶抑制型DIC。CBC、PT、APTTチェック
熱射病で内皮細胞障害、微小血管血栓が著明でDICが起こります。
・・・
深部体温を正常化すると線溶は阻止されますが凝固は阻止されず敗血症に似るのだそうです。DICは凝固亢進に加えて線溶抑制・亢進・均衡で3種類に分けます。熱射病のDICは敗血症で多い線溶抑制型だというのです。
9.熱射病診断は深部体温>40℃、中枢神経障害の2つ。無尿の死亡リスクHR 5.24
・・・
熱射病の診断は次の2つの存在が必須です。
① 深部体温>40℃
② 中枢神経障害(せん妄、痙攣、昏睡)
① 深部体温>40℃
② 中枢神経障害(せん妄、痙攣、昏睡)
・・・
熱射病の死亡率は大変高く21~63%です。
死亡リスクの高いのは特に次の項目です。
・無尿〔ハザード比(HR) 5.24、95%CI 2.29~12.03〕
・昏睡(HR 2.95、95%CI 1.26~6.92)
・心不全(HR 2.43、95%CI 1.14~5.17)
・無尿〔ハザード比(HR) 5.24、95%CI 2.29~12.03〕
・昏睡(HR 2.95、95%CI 1.26~6.92)
・心不全(HR 2.43、95%CI 1.14~5.17)
10.古典的熱射病は呼吸性アルカローシス、運動性熱射病は呼吸性アルカローシス+乳酸アシドーシス
全ての熱射病患者は頻脈、過呼吸があり、PCO2は20mmHg以下のことが多いそうです。肺水腫によるcrackleが聞こえることがあります。Classical heat stroke(古典的熱射病:環境によるもの)では呼吸性アルカローシスが多いのですが、運動によるexertional heat stroke(運動性熱射病)では呼吸性アルカローシスと乳酸アシドーシスの両方があるそうです。
洞性頻脈、脈圧増加の25%は低血圧です。・・・皮膚は紅潮(皮膚血管拡張)し、湿潤あるいは乾燥しています。皮膚の湿潤または乾燥は、基礎疾患や熱射病の発病速度、水分投与によります。
熱射病では急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、DIC、急性腎不全、肝障害、低血糖、横紋筋融解、痙攣が起こります。入院時、低P血症、低K血症が多く低血糖はまれです。血液濃縮により高Ca血症、高蛋白も起こります。運動によるheat strokeの冷却後、横紋筋融解、高P、低Ca、高Kがあります。
最重症は多臓器不全で脳症、横紋筋融解、心筋損傷、肝障害、腸管虚血または腸管梗塞、膵損傷、出血性障害、DIC、血小板低下などが起こります。
11.検査:胸Xp、ECG、CBC、電解質、BUN、Cr、CK、GOT、GPT、 PT、PTT、尿中ミオグロビン、検尿、頭CT
・胸部X線(肺水腫)
・ECG(不整脈、伝導障害、非特異的ST・T変化、熱による心筋虚血・梗塞)
・採血:CBC、電解質、BUN、クレアチニン(急性腎不全)、CPK (横紋筋融解)、肝トランスアミナーゼ(熱射病ではめったに正常値にならない)、ただし肝酵素異常は24~48時間たたないと出現しないこともあります。
・PT、APTT:肝障害、DIC
・血ガス:古典的熱射病では呼吸性アルカローシスが多い。
運動性熱射病では呼吸性アルカローシス+乳酸アシドーシス
・尿中ミオグロビン(横紋筋融解)、尿が茶色だったらミオグロビン尿疑え。
・尿検査、沈査で蛋白、円柱、尿比重増加
・頭部CT(意識変容)、必要なら髄液検査
・ECG(不整脈、伝導障害、非特異的ST・T変化、熱による心筋虚血・梗塞)
・採血:CBC、電解質、BUN、クレアチニン(急性腎不全)、CPK (横紋筋融解)、肝トランスアミナーゼ(熱射病ではめったに正常値にならない)、ただし肝酵素異常は24~48時間たたないと出現しないこともあります。
・PT、APTT:肝障害、DIC
・血ガス:古典的熱射病では呼吸性アルカローシスが多い。
運動性熱射病では呼吸性アルカローシス+乳酸アシドーシス
・尿中ミオグロビン(横紋筋融解)、尿が茶色だったらミオグロビン尿疑え。
・尿検査、沈査で蛋白、円柱、尿比重増加
・頭部CT(意識変容)、必要なら髄液検査
12.DICでは血小板、Plt、フィブリノゲン、PT、APTT、SF、TAT、PIC、AT、TMなど検査
DICを疑った場合は、Plt、FDP、フィブリノーゲン、PTを提出し、補助的に下記の測定というところでしょうか。
凝固活性化と線溶活性化の両者の存在を調べるのです。
・SF(可溶性フィブリン:凝固活性化の指標)
・TAT(凝固活性化の指標)
・PIC (線溶活性化の指標)
・トロンビン(Xa因子を阻害)
・トロンボモジュリン(血管内皮細胞障害の指標、トロンビン阻止)
・TAT(凝固活性化の指標)
・PIC (線溶活性化の指標)
・トロンビン(Xa因子を阻害)
・トロンボモジュリン(血管内皮細胞障害の指標、トロンビン阻止)
13.冷却しても意識悪ければ髄膜炎、脳出血、視床下部卒中考えCT、髄液検査
初期では熱射病とSIRS(全身性炎症反応症候群)の区別はできません。SIRSは下記4項目の内2つを満たします。
① BT<36℃または>38℃
② 脈>90/分
③ PaCO2 <32
④ WBC>1万2,000/mm3または<4,000または10%を超える幼若球出現
① BT<36℃または>38℃
② 脈>90/分
③ PaCO2 <32
④ WBC>1万2,000/mm3または<4,000または10%を超える幼若球出現
熱射病なのかSIRSなのか分からなければ、とりあえずクーリングを始めてから考えよとのことです。クーリングで急速に改善すれば熱射病です。
高齢者では熱射病の回復は遅くまたβ遮断薬、Ca拮抗薬使用していると周囲環境の熱、湿度への反応が悪くなります。冷却にもかかわらず意識が悪ければ、髄膜炎、脳出血、視床下部卒中も考え、頭部CT、髄液検査を行います。
14.40℃以上の発熱は熱射病、悪性症候群、悪性過高熱考えよ
40℃以上の高熱を起こすのは、熱射病、悪性症候群、悪性過高熱があります。
悪性症候群(neuroleptic malignant syndrome)は第一、第二世代の向精神薬で起こり、下記のような薬剤があります。
【悪性症候群を起こす薬剤】
・抗精神病薬(従来のもの)
クロルプロマジン、フルフェナジン、ハロペリドール、ロキサピン、メソリダジン、モリンドン、ペルフェナジン、ピモジド、チオチキセン、トリフロペラジン
・抗精神病薬(比較的新しいもの)
アリピプラゾール、クロザピン、オランザピン、パリペリドン、クエチアピン、リスペリドン、ジプラシドン
・制吐薬
ドンペリドン、ドロペリドール、メトクロプラミド、プロクロルペラジン、プロメタジン
・抗精神病薬(従来のもの)
クロルプロマジン、フルフェナジン、ハロペリドール、ロキサピン、メソリダジン、モリンドン、ペルフェナジン、ピモジド、チオチキセン、トリフロペラジン
・抗精神病薬(比較的新しいもの)
アリピプラゾール、クロザピン、オランザピン、パリペリドン、クエチアピン、リスペリドン、ジプラシドン
・制吐薬
ドンペリドン、ドロペリドール、メトクロプラミド、プロクロルペラジン、プロメタジン
【Levensonらの悪性症候群診断基準 】
以下の大症状の3項目を満たす、または大症状の2項目+小症状の 4項目を満たせば確定診断
大症状
1)発熱
2)筋強剛
3)血清CKの上昇
小症状
1)頻脈
2)血圧の異常
3)頻呼吸
4)意識変容
5)発汗過多
6)白血球増多
以下の大症状の3項目を満たす、または大症状の2項目+小症状の 4項目を満たせば確定診断
大症状
1)発熱
2)筋強剛
3)血清CKの上昇
小症状
1)頻脈
2)血圧の異常
3)頻呼吸
4)意識変容
5)発汗過多
6)白血球増多
15.冷却は40℃の湯を体表にスプレーし扇風機、首・脇・鼠径にシャーベット状氷を
熱射病の治療は冷却と臓器機能の維持に尽きます。意識障害があれば必要に応じて挿管、人工呼吸器開始です。中枢神経症状の回復があれば予後良好です。熱射病の20%で脳障害が残り死亡率は高いのです。
・・・
まず直腸または食道での深部体温モニターは必須です。
冷却はぬるま湯(40℃、lukewarm water)をスプレーでかけ扇風機、マッサージします。送風は45℃くらいの風が良いそうですが、そんなことは不可能でしょう。
冷水を皮膚に散布して扇風機を使うと皮膚血管収縮と震え(shivering)を起こしますので、やってはなりません。
現場では体温>40℃なら着衣を脱がせて涼しい場所(20~22℃)に移しクーリングを開始します。現場にぬるま湯なんてないでしょうから、25~30℃の水をスプレーでかけ扇風機、うちわで風を送ります。
また頸部、腋下、鼠径部にシャーベット状の氷(slush)を袋に入れて当て、大径動脈を冷やします。ただし意識がある患者だと嫌がります。
・・・深部体温<39.4℃、皮膚温30~33℃を目指します。
16.冷却は38~39℃で中止!ノルアド・NSAID使用不可!低血圧には生食を!
深部体温<39.4℃を目指し、38~39℃になったらクーリングを中止します。医原性低体温を起こすからです。
Body Cooling Unitという特殊なベッドがあるそうで、15℃の水をスプレーで散布し45℃温風を全身に送り皮膚温を32~33℃にするのだそうです。
熱射病にNSAIDなどの解熱薬使用のスタディはありません。アセトアミノフェンやアスピリンは熱射病に使ってはなりません。熱射病は視床下部病変ではないしこれら薬剤で肝障害、DICを起こしかねないのでやめておけとのことです。
Salicylateは酸化的リン酸化のuncouplingにより高熱を起こすことがあります。筋弛緩剤のダントロレンは無効です。
α-adrenergic agonists (ノルアドレナリンなど)は血管収縮して熱放散を妨げますので使用してはなりません。
低血圧に対しては生食をボーラスで250~500mL投与して対処します。
17.震えにはベンゾジアゼピン、悪性症候群でなければクロルプロマジン
震え、痙攣は熱射病ではよくあります。特に冷却時に起こります。クーリングで震え(shivering)があると発熱するのでベンゾジアゼピンを注射します。ミダゾラム(ドルミカム10mg/2mL)0.1~0.2mg/kgから最大4mg/kg静注は効くまでに1~5分で1~6時間有効です。
もし震えにベンゾジアゼピンが効かなくてかつ悪性症候群がなければクロルプロマジン (ウインタミン、コントミン、10、25、50mg/A)を使用します。ただしクロルプロマジンは抗コリン作用があり発汗阻害や低血圧を助長することがあります。
患者を氷水に漬ける(cold water immersion)のは効果的ですがモニターやルート確保が困難になるし高齢者では死亡率が上がります。
小RCTで、運動誘発性の熱射病で、頬、手掌、足底などスベスベした(glabrous)皮膚にアイスパックを当てるのも有効で、頸部、腋下、鼠径部に当てるより有効という報告があります。
胸腔、腹膜洗浄(peritoneal lavage)を冷水で冷やすのも有効ですが侵襲的だし妊婦や腹部手術患者では禁忌です。
22℃くらいの輸液、冷却酸素、冷却毛布も有効かもしれません。
冷水による胃洗浄は水中毒を起こすかもしれません。
アルコールスポンジ清拭はアルコールが皮膚から吸収されて中毒を起こしますのでやってはなりません。
18.横紋筋融解:CK>5,000は生食1~2L/時間、尿200~300mL/時間に。メイロン使用、尿Ph>6.5に
横紋筋融解ではミオグロビンが尿に出て赤ワイン色の尿になります。横紋筋融解では腎不全を起こしますので腎血流確保と利尿、尿アルカリ化を図りミオグロビンによる腎障害(heme-induced acute kidney injury)を防止します。
・・・