小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

子どもの片頭痛にトリプタン製剤は使えるのか?

2018年05月03日 11時50分24秒 | 小児医療
 子どもの片頭痛は悩ましい病気です。
 なぜって、診断できても使用できる薬が限定されているからです。

 えっ、片頭痛の薬ってたくさん発売されてるはずでは?

 という感想を持つ方もたくさんいると思われます。
 しかし、片頭痛の治療薬として有名なトリプタン製剤は、大人には使えても子どもには使えません。
 その理由は、日本では「保険適応がない」からです。
 保険診療で認められているのは、かぜでよく処方されるアセトアミノフェンとイブプロフェンしかありません。
 それらを使っても効きが悪い、何とかして・・・という患者さんにどうしたらよいのでしょうか?
 私はそのような患者さんには漢方薬を勧めてきました。

 さて、最近発売された小児の頭痛関連本を購入して読んでみました。

□ 「小児・思春期の頭痛の診かた〜これならできる!頭痛専門小児科医のアプローチ〜」(藤田光江監修/荒木清・桑原健太郎著、南山堂、2018年)



 もちろん、一番の興味は「薬物治療」の項目。
 そこには「日本では認可されていないけど外国では認可されている、あるいは臨床治験データで安全性が確認されている薬剤は、アセトアミノフェン/イブプロフェンが無効の場合は使用可」と記載されています。
 これが現時点での小児頭痛専門家のスタンスのようですね。
 「日本では認可されていないけど外国では認可されている」というギャップを早くなくして欲しいものです。
 しかし日本の医療行政は慎重で石橋を叩いて渡る傾向があるため、ワクチンでも外国との“ワクチンギャップ”が埋められなくて問題視されてきた経緯もあります(HPVワクチンは逆に“お手つき”して社会問題化しましたが)。

 この本を読んだ結論です;
小児片頭痛患者に対してはアセトアミノフェンあるいはイブプロフェンを第一選択薬とし、無効の場合は「マクサルト®RPD錠を、体重40kg以上かつ12歳以上であれば1錠使用可能(25kg以上40kg未満では1/2錠)


<備忘録>

□ 片頭痛のメカニズム
 硬膜血管周囲の三叉神経の軸索に何らかの刺激が加わり、CGRP(calcitonin gene-related peptide)やサブスタンスP(SP)などの神経ペプチドが放出され、血管が拡張し、血漿タンパクの漏出および肥満細胞からのヒスタミンの遊離などにより神経原性炎症が生じることで発症する。三叉神経終末の刺激が順行性に伝えられると三叉神経核に至り、さらに視床を経由し大脳に至り、痛みとして自覚される。

□ 小児の片頭痛に対する第一選択薬はイブプロフェンとアセトアミノフェンである(慢性頭痛の診療ガイドライン2013)。
 
□ アセトアミノフェン
 10〜15mg/kg/回を4〜6時間空けて使用する。1回最大投与量は500mgで、1日1500mg以内にとどめる。
 2013年には静注製剤が承認された。
 1日1500mgを超える投与量を長期使用する場合は定期的に肝機能検査を行う。
 アセトアミノフェンの作用機序:代謝物であるAM404が中脳、延髄、脊髄後角のカプサイシン(TRPV1)受容体やカンナビノイド(CB1)受容体を活性化して鎮痛効果を発揮している。

□ NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
 NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)に阻害的に結合し、プロスタグランディンなどの合成を抑制し、疼痛閾値を上昇させることで鎮痛作用を発揮する。化学構造の違いにより多くの種類に分類される;
・サリチル酸系:アスピリン
・アントラニル酸系:メフェナム酸
・アリール酸系:ジクロフェナク、インドメタシン
・プロピオン酸系:イブプロフェン、ロキソプロフェン、ナプロキセン
 しかし、小児に対するNSAIDsの使用は限定的にすべきである。アスピリン、ジクロフェナク、メフェナム酸は、インフルエンザ流行期において急性脳症発症のリスクを高めると指摘されており、添付文書上においても15歳未満には原則使用不可と記載されている。

□ イブプロフェン
 イブプロフェンは小児に最も使用されている安全性の高いNSAIDsであり、アセトアミノフェン同様に国際的にも小児への使用が推奨されている薬剤である。
 5〜10mg/kg/回を6〜8時間空けて使用する。1日40mg/kg以内にとどめる。最も多い副作用は肝障害であり、長期に使用する場合には肝機能検査が必要である。

□ トリプタン製剤
 作用機序:頭蓋内血管平滑筋に存在する5HT-IB受容体を介し、血管収縮作用を示す。また三叉神経終末に存在する5HT-ID受容体を介して神経ペプチド放出を抑制する。これらの相乗効果により、神経原性炎症を抑制し、頭痛発作改善に効果を示す。
 トリプタンは小児の場合、成人ほどの効果を実感できないことをしばしば経験する。これは小児片頭痛の持続時間が成人より短いためなのか、受容体感受性が小児ゆえ未熟なのか、不明である。
 現時点では小児の片頭痛に対してトリプタンは第一選択薬とはならず、アセトアミノフェンやイブプロフェンが無効な、日常生活への支障度が高い頭痛に対し、小学校高学年以上の体格であれば使用を検討してもよい。
 米国FDAが認可した小児片頭痛に有効なトリプタンは以下の通り;
・アルモトリプタン
・リザトリプタンOD錠
・ゾルミトリプタン点鼻
・スマトリプタン・ナプロキセン複合錠
 上記のうち日本で使用可能なものはスマトリプタン点鼻イミグラン®点鼻液)とリザトリプタン内服マクサルト®RPD錠)であるが、トリプタン製剤は日本ではすべて小児適応がないという困った状況である。

□ トリプタン製剤の使用の実際
 錠剤は体重40kg以上かつ12歳以上であれば1錠を、25kg以上40kg未満であれば1/2錠を使用する。
 1日2回まで使用可能であり、投与間隔は2時間空ける(ナラトリプタンだけは4時間)。
 トリプタンは片頭痛が生じてから時間が経てば経つほど効果は得られにくくなる。とくに中枢感作により生ずるアロディニア(異痛症)を呈した場合には、ほぼすべての鎮痛剤やトリプタンが無効となるため、そこに至る前までに使用しなければならない。

 大学病院頭痛専門外来での調査では、約2割の片頭痛患児がいずれかのトリプタンを処方されており、いずれかのトリプタンが有効であった患児は90%であった。最初に使用したトリプタンが無効であっても、別のトリプタンが有効であった症例もある。

□ トリプタン製剤の副作用と禁忌;
(副作用)胸部圧迫感、悪心・嘔吐、傾眠
(禁忌)
・虚血性心疾患、脳血管障害
・片麻痺性偏頭痛、脳幹性前兆を伴う片頭痛、網膜片頭痛
・エルゴタミン製剤との併用
・リザトリプタンとプロプラノロール

□ スマトリプタン(イミグラン®)
 トリプタン唯一の点鼻液があるため利用価値が高い。小児に対しても複数のランダム化比較試験により有効性と安全性が証明されている。
 悪心・嘔吐の随伴症状が多い小児の場合は内服困難例も存在するため、点鼻液はよい適応になる。ただし咽頭、舌後方に感じる強い苦みは点鼻薬独特の副作用であり、事前に十分説明しておく。

□ リザトリプタン(マクサルト®)
 最高血漿中濃度到達時間が最も短く、また血中半減期も短いため、効果発現が早く、持続時間の短い小児の片頭痛に対して有利な製剤である。スマトリプタン同様に小児に対する複数のランダム化比較試験により有効性と安全性が証明されている。口腔内崩壊錠があるため、登下校時や学校での授業中に適切なタイミングで内服しやすいという利点がある。
★ 片頭痛予防薬として使用されるプロプラノロール(インデラル®)との併用は禁忌。

□ 薬剤使用過多による頭痛(国際頭痛分類第3版)
 3ヶ月以上にわたり使用頻度が増す場合は予防薬使用を検討する。
・アセトアミノフェン:15日/月以上
・NSAIDs:15日/月以上
・トリプタン製剤/複合鎮痛剤:10日/月以上

□ 予防薬
 片頭痛発作の頻度が多く、薬物頓用でも生活に支障が出る場合は予防治療を考慮する。
 成人では月に2回以上あるいは6日以上が目安であるが、小児はケースバイケースで判断する。
・シプロヘプタジン(ペリアクチン®):抗ヒスタミン薬で、かぜの際の鼻水止めとして日常的に処方されている。小児片頭痛の予防薬の泰一選択薬の一つ(慢性頭痛の診療ガイドライン2013)であるが、片頭痛に対する保険適用はない。眠気、食欲増進の副作用がある。
・アミトリプチリン(トリプタノール®):三環系抗うつ薬。小児片頭痛の予防薬の泰一選択薬の一つ(慢性頭痛の診療ガイドライン2013)であるが、片頭痛に対する保険適用はない。ボストン小児病院の検討によると、アミトリプチリンは最も多く使用されている予防薬である。副作用として眠気、口渇、便秘に注意が必要。
・その他:バルプロ酸(デパケン®ほか):抗てんかん薬、塩酸ロメリジン(ミグシス®):カルシウム拮抗薬、プロプラノロール(インデラル®)β-遮断薬、トピラマート(トピナ®):新規抗てんかん薬・・・
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