かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

「ジェネラル・ルージュの凱旋」感想

2009-01-10 22:32:11 | Weblog
 今日は大変寒い一日で、ずっと自宅にこもりきりの生活をしておりました。でもこの寒波、休みの間ずっと居座るらしく、せっかくの休みですけど、もう冬眠同然にうちにこもるよりなさそうです。

 さて、そんなときは大抵本を読むことになるのですが、今回、とにかく感動した一冊(上下巻だから2冊か)の感想をまとめておきましょう。
「ジェネラル・ルージュの凱旋」海堂尊 宝島社文庫 です。
処女作「チーム・バチスタの栄光」を読んだ時も、そのカチッとした語り口と際立つキャラ造型、膨大な医学専門知識に支えられた緻密な描写などに心酔いたしましたが、今度の話は、それにもまして科学者、技術者という人々の格好よい一面がコントラスト鮮やかに鋭く描きこまれ、陶酔してしまいました。
 
今回の主人公は、東城大学医学部付属病院オレンジ新棟1階にある救命救急センター部長を、40代の若さで勤める天才医師速水晃一。何より患者第一を掲げて横紙破りを通し、大学病院のルールや常識、上下関係など歯牙にもかけず、鉄の規律でセンターを切り盛りする絶対君主。通称「ジェネラル・ルージュ(血まみれ将軍)」。お話は、この救命救急のエースが出入りの医療業者と癒着しているという内部告発文が、シリーズ通しての主人公、神経内科学教室講師にして不定愁訴外来責任者、リスクマネジメント委員会委員長田上公平のメールボックスに入っていたことから始まります。本当だとしたら、病院を揺るがす一大スキャンダルになる告発をきっかけに、学内の膿んだ政治権力闘争やゆがんだ救命救急医療の現状が次々とあからさまになっていく、という展開をたどるのですが、謎めいた告発文、という小道具はあるもののミステリーというわけではなく、メディカル・エンターテイメントという名がぴったり当てはまる、娯楽大作でした。是非読んでみて欲しいと思いますので、ネタバレはなるべく避けますけど、「チームバチスタの栄光」でがちがちの保守主流派の頑固者が己の感情よりも筋を通すことを選択したり、いけ好かない姿で描かれていた弁護士先生が、その頑迷ぶりは実はちゃんと意味のある崇高な精神の発露ゆえのことだったりとか、読んでいるうちに実に心地よく意外な展開を味あうことができます。
 ラストのクライマックスで都合よく大事故発生、という辺りはヒトによっては鼻白むかもしれませんし、私もちょっと作為的過ぎるか、と感じないでもなかったのですが、そこで描かれた医療戦士達の活躍は、そんな些細な重箱の隅つつきなどあっさり放擲させるだけの迫力と美しさに輝いておりました。速水はもちろんなのですが、私が一番格好よいと思ったのは、小児科病棟看護師長の猫田麻里。「千里眼」、「眠り猫」といった通称を持つベテラン看護師ですが、プロとはかくあるべし、という見本のような姿はまさにほれぼれといたします。

 海堂尊の作品は、いずれもエンターテイメントの姿を借りながら、現在の医療の問題点を鋭く抉り出す社会性豊かなお話ばかりです。そもそも作者からして、問題提起のために小説を書いた、と公言されているそうですから、これはある意味当然なのですが、それでいて少しもお説教臭くなく、安易な解決策を提示するわけでもなく、娯楽として十分すぎるほどの内容を維持しつつ読者の問題意識を高めるという、理想の教科書みたいな、小説という枠組みを超えた情報媒体になっていると思います。このような情報発信力こそ、政治や官僚、マスコミに必須と思うのですが、なかなかそういうのを望むのは難しいようです。


コメント
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