かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

最近の文庫は見た目がスカスカに、と憂いていましたが、そうじゃない昔気質のモノもあって安心しました。

2010-02-27 22:55:39 | Weblog
 連載小説、続きをアップしました。とりあえず取っ掛かりはこれで終わり、次からはまだ登場していない主人公を巡って、新たな展開を始めます、と言いつつ、まだあれこれ雑多な考えが頭の中で舞っていて、一向に収束しないのですが。始めたばっかりでつまづきたくないのでなんとかしたいですが、来週までにそれを整理できるかどうかが勝負になりそうな按配です。

 さて、先日、仕事のストレスの反動なのかもしれませんが、大手の古書店に立ち寄って、文庫本を中心に10数冊買いこみました。更に、本屋さんでラノベやコミックスなどを数冊購入、そうした未読の本が20冊ばかり、机の隅に積み上がり、時間の合間に片端から読みふけっています。これでしばらくは読む本には困らない、私にとっては至福の環境が出来上がったわけですが、あんまりそちらにばかり耽っていると他のことができなくなる心配もナキニシモアラズ、です。
 そんな本にはいろんな会社の文庫があるわけですが、中でも創元推理文庫は小さめの活字と狭い行間、改行の少ない文章で、1ページに文字の束がぎゅっとつまっている感じの昔ながらの体裁で、見ているだけで気持ちがいいです。最近の文庫は読みやすさを意識しているのか、はたまた本を分厚くしたり分冊したりして売上を確保しようとしているのか、とにかくフォントが大きくなり、行間が広がり、改行が増えて、どうにも紙面がスカスカに見えて仕方が無いのです。ああいうのは、文字そのものは見やすいのかもしれませんが、ひと目で認識できる文字数が少なくなってしまい、けして読みやすいとは思えません。昔は項じゃなかったのに、とその構成を残念に思っていたのですが、創元推理文庫は昔のままで安心しました。出来れば他の文庫もせめてもう少し内容が詰まって見えるように、文字の大きさや行間の幅を考慮してもらいたいものです。
 
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01.地下迷宮謎の少女 その2

2010-02-27 20:56:34 | 麗夢小説『夢の匣』
 少女の真下まで歩み寄っていた円光も、離れて見守っていた榊と鬼童も、少女の言った言葉がすぐには理解出来なかった。もう一人? おじいちゃん? いや、自分達は3人連れで、おじーちゃんと言われるような年の者もいない。もっとも少女からしたら榊は既におじさんではなく、おじーちゃんかもしれないが……。鬼童が反撃とばかりに意地悪い笑みを浮かべながら、隣の榊に呼びかけようとしたその時。
 鬼童の手にした装置から、突然耳障りな警報音が鳴り響いた。何事?! と思う間もなく、一同の背中に、いきなり氷柱を突っ込まれたかのような冷気が襲いかかってきた。円光は驚きつつも錫杖まで走り寄り、改めて榊らの背後から発散される、猛烈な殺気に身構えた。やがて、闇の中からにじみ出るように、銀髪を戴いた痩せこけた老人が、人を見下す冷ややかな笑みに唇を歪めつつ、浮かび上がってきた。
「よく分かったな、小娘……」
 少女も、お返しとばかりに朗らかな顔でにっこり笑った。
「ごきげんよう。ルシフェルのおじいちゃん」
「死夢羅!」
「ど、どうしてここに!」
 榊と鬼童が思わず叫び声を上げた。死夢羅は、ちらりと鬼童の方に視線を向けると、誰に言うとも無くひとりごちた。
「うるさい。少し静かにしていろ」
 同時に、死夢羅が無造作にマントから右手を振りだした瞬間、ガシャン! と機械を岩に叩きつけたような耳障りな音がこだまして、うるさく警報音を鳴り響かせていた鬼童の装置が沈黙した。死夢羅の右手に握られた仕込み杖が瞬きする間もなくその先端を飛ばし、鬼童の装置を破壊したのである。
「あ、あああ、……」
 大切な測定装置を破壊され、悲鳴も出ない鬼童に一瞥をくれると、じゃらん、と鎖の音を残して、仕込杖が再び死夢羅のマントに引き込まれた。
「おのれっ!」
 円光が錫杖を振り上げ、鬼童と榊の元に駆け寄った。今、死夢羅に対抗できるのは円光しかいない。しかも、この闇の中では圧倒的に不利だ。思わず脂汗がにじむ円光に対し、死夢羅はもう興味はない、とばかりにあっさり無視すると、頭上の少女に呼びかけた。
「我が名を知る者ならあえて問う必要もあるまい。さあ、出してもらおうか」
「なーに? 出して欲しいものって?」
 空とぼける少女に、ルシフェルは更に一段と皮肉っぽい笑いで唇をひねり上げると、もう一度言った。
「そこの若造のごとく、餓鬼と戯れる趣味はない。さっさと出せ。貴様ら原日本人の秘宝を」
「原日本人?!」
「秘宝?」
 死夢羅にまでこき下ろされて茫然自失の鬼童も、その言葉には鋭く反応した。榊と円光も、死夢羅の言葉に耳を疑う。一方の少女は、死夢羅の恫喝にもさして脅威を憶えていないのか、至ってのんびりした口調で答えた。
「何? これが欲しいの?」
 左手で頬杖をついたまま、少女は右手の平を上に向けて、そこに鎮座する小さな箱を見せた。
「それだ! その玉櫛笥(たまくしげ)を渡せ!」
「なんだ? 玉櫛笥って?」
 死夢羅が勢い込んで右手を伸ばした。榊と円光も、少女の手にある10センチ四方ほどの小さな箱を見て首を傾げた。あれほど死夢羅が欲しがるもの、原日本人の秘宝とは、あの小さな箱のことなのか? 一方鬼童は、その言葉と箱を見上げ、驚きもあらわに思わずつぶやいた。
「た、玉櫛笥って、まさかあの!」
「そうよ、玉手箱って言えば、そっちのおじさん達も分かるかな?」
「玉手箱だって?!」
「そう。玉手箱。竜宮城のお土産よ」
 驚く榊と円光に構わず、死夢羅は苛立たしげに叫んだ。
「呼び名などどうでもよいわ! さあ、それを渡せ!」
 一旦マントに右手を引いた死夢羅が、抜き打ちにその手を突き出した。その瞬間、強靭な鎖で連結された仕込杖の先が、マントを割って少女に襲いかかった。
「させん!」
 円光が錫杖を振り上げ飛び上がった。さっきは距離があって鬼童のからくり破壊を止められなかったが、同じ失敗は二度としない。勢い良く頭上高く突き上げられた円光の錫杖が、すんでのところで仕込杖の鎖を絡めとった。はったと地上に降り立ち、巨大魚をヒットした釣竿のように、円光はその錫杖を渾身の力を込めて引き寄せた。
「これ以上の狼藉は、この円光が許さん!」
「おのれ! 邪魔するか!」
 死夢羅も見かけからは及びもつかない膂力を発揮して、円光満身の引きを受け止めた。榊もようやく事態の急展開に頭が追いついたのか、懐から拳銃を取り出し死夢羅を狙う。鬼童はなんとか一矢報いんと、ポケットに手を突っ込んであたりかまわず色々な装置を取り出した。何か死夢羅にダメージを与えられる装置はないか、と必死に探る。やにわに騒がしくなった洞内を見下ろしながら、少女は小さく欠伸をした。
「そろそろやめたら? おじさん達。皆もう、仲間なんだから」
「な、何を世迷い言を……っ!、あ、駄目だ開けるな小娘!」
「えへへ、残念でした! もー開けちゃったよ?」
 死夢羅が、恐らくは生涯初めてあげるであろう絶望的な悲鳴をこだまさせた。対する3人も、死夢羅が見せた思わぬ狼狽に、目を丸くして驚いた。その足元に、闇の中でもはっきり分かる、白い煙が漂ってきた。
「な、何だこの煙は!」
「ま、まさか玉手箱の煙と言ったら……」
 困惑し、新たな恐怖にぞっと背筋を震え上がらせた榊、鬼童に、死夢羅が歯ぎしりして言った。
「この慮外者めらが……、貴様らさえ邪魔しなければ……」
 円光も、その煙に充満する異常なまでの力に、新たな戦慄を隠せなかった。
「な、なんと、これほどの夢の力は初めて見る……」
「ふふふ、生まれ変わった新しい人生を生きてねっ」
 少女の最後の言葉が耳に届いた頃、榊、鬼童の意識がふっとろうそくの炎を吹き消すように消し飛んだ。
「む、無念……。麗夢……ど……の……」
 わずかに円光は永らえたが、それでも少女を改めて見やるのが限界だった。3人の男たちが次々と倒れ伏す中、死夢羅は最後まで少女を睨み据え、充満する白い煙に沈んでいった。
「おのれぇい、小娘と思い油断したわ。だが忘れるな小娘ぇっ! わしは夢を統べる夢魔の王、メフィスト=ルシフェルだ。その名にかけて、この借り、必ず返してもらうぞ……」
「楽しみにしてるわね。おじいちゃん」
 最後に死夢羅の意識が捉えたのは、まるで古えの巫女のように並んでウインクする、4人の少女達の姿だった。
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