かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

07 決戦その2

2010-08-22 10:14:45 | 麗夢小説『夢の匣』
「で、君はパワードスーツでも着るのかな?」
「姉君じゃあるまいし、そんな無粋なものは使わないよ。生物こそ最強! が私のモットーであるし」
 星夜は白衣の内側から牛乳瓶を一本取り出した。一見、何の変哲もない200mlの乳白色の液体が詰まった、角を丸めた四角いガラス瓶。星夜は、蓋を構成する透明な紫のプラスチックフィルムと厚紙の円盤を丁寧に取り除くと、両足を肩幅に広げ、胸をはって中の液体をいきなりゴクゴクと飲み干した。もちろん左手は腰、である。そのままブリッジでもやりかねないほどにのけぞりながら牛乳?を一気呑みした星夜は、プハーッとおよそその小学生な姿には似つかわしくない擬音を発しつつ、勢い良く上体を戻して、右袖で口元を拭った。
さしもの鬼童もあっけに取られていたが、星夜が拭い切れなかった乳白色の液体をちらつかせながら自信満々の笑みをその唇に浮かべると、どうやらこれからが本番らしい、と小さくため息をついた。
「もういいかい?」
「ああ。お待たせした。これで準備OKだ」
「ちなみに、その牛乳はなんだったのか、僕には教えてもらえるのかな?」
「ふふふ、すぐに分かる。そら、キタキタキターっ!」
 突然。
 星夜の胸が、小学生にあるまじきサイズにボコン! と膨れ上がって白衣を押し上げた。なに? と鬼童、円光、榊が目を見張る間もなく、今度は背中がいきなり膨らんで、左右へとはちきれんばかりに膨張するのが見えた。更に続けて、下腹部の辺りから何かが急速に屹立して、白衣の裾が持ち上がった。
「おっと、実験着が破けては帰りに困る!」
 星夜は少し慌てて、今にもちぎれて飛びそうになっている白衣のボタンを外した。途端に今まで白衣に抑えこまれていたモノが、開放感たっぷりにはじけ出た。
「なんだあれは?」
 榊が思わずつぶやいた。
 斑鳩星夜の白衣の下から現れたモノ。
 それは、グニュグニュと蠢きながら伸び縮みする、タコの足のような触手に相違なかった。太さは榊の腕くらいはあるだろう。それが何本も、星夜の身体から生えていたのだ。
「さっきの牛乳は、こいつらを身体に生やすためのちょっとした薬さ。どう? いいだろこれ。なめらかで艶やかな肌。柔らかくも適度な弾力で締めつける力具合、なによりこの、機械などには絶対できない微妙で繊細な動き。これぞ、生物の美と不思議を完璧に表現した、究極の姿なのだよ!」
 うっとりと上気しながら演説する星夜に、鬼童は、気まずげに視線をそらせて言った。
「君は、いつも白衣の下はその格好なのか?」
 すると星夜は、特に気にかける様子もなく、鬼童に答えた。
「ああ、心配しなくても、下着くらいは着けている。女の子としてそれくらいの嗜みは心得ているつもりだ」
『もう、星夜ったら全然自覚ないんだから』
 呆れたように狼姿の紫がこぼす。
「まあいいじゃないの。こうして全身隈なく触手をまとっているんだから。彼らがいかに鼻の下を伸ばそうとも、何の問題もない」
『それがエロいっての!』
 にしし、と笑顔の星夜に、琴音もやれやれと珍しく眉を顰めてみせた。
「……もういいですか?……」
「ん。準備完了だ」
 星夜が左手は腰に当てたまま、触手がとぐろを巻く右手をまっすぐ琴音に突き出し、親指を立ててみせた。紫は苦笑しつつも、二人の仲間に言った。
『念のため確認するけど、ボクはあの髭面のじいさん、琴音はこっちつるっぱげ、星夜はあっちのイカ臭いおじさん。お互い手出し無用ってことで、いいね!』
「了解っ!」
「……」
 互いに頷き交わした3人の小学生(とは言っても外見上は既に小学生一人と化物2体だが)は、それぞれ、確認し合った互いの目標に目を合わせた。
「円光さん、鬼童君! 相手はとんでもない化物揃いだが、中身は小学生だ。くれぐれもそのことを忘れないようにな!」
「心得た」
「やるだけやってみますか。手加減なんてとても許されそうにないですけど」
 榊、円光、鬼童は、自分の相手を正面に据えて、ジリジリと左右に広がった。円光を中央に、榊が円光の右、鬼童が左に展開する。
 対する小学生トリオも、歩調を合わして扇状に向きを変えた。
 まずは紫が頭を低く下げ、唸り声をあげながら榊に言った。
『殺すな、って言われたけど、子供だなんて思っていたら勢いで死んじゃうかもよっ?!』
 言い終えると同時に、狼姿の紫が榊めがけて猛然と突っ込んた。
「行け!」
 一瞬遅れて、琴音の鋭い掛け声がヒキガエル達に飛んだ。ヒキガエル達が、重たげな身体をゆすりながら、手近なミニチュア円光にのしかかっていく。
「すぐに絞め落としてあげるよ!」
 星夜の触手が3本、腰のあたりからゆらゆらと鬼童に指向すると、ひゅん! と空気を切り裂きながらまっすぐ伸びた。
 
コメント
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