先週から始めました、新作の短編の続きです、って、まだ題名決まっていません(苦笑)。これが鬼童の書く論文なら、「超精神体の寄生による生体恒常性の崩壊が引き起こす低温障害の発生とその対処方法の検討」とでも名づけるところでしょうが、これでは小説の題名にはならないので、もっと気の利いたものを考えないとなりません。これには、もうしばらくかかりそうです。
さて、というわけで今回はおなじみのレギュラーメンバーが揃い、起承転結の「起」の部分が終了です。次回は物語が発展する「承」の始まり。「転」、「結」まで構想はできていますので、多分無事に書けることでしょう。ただ、すでに書いたものを分割して上げていくのと違って、アップするつど書き足していく、という今のスタイルは、新鮮ですけど想像以上に大変です。新聞の連載小説を書いたりするプロ作家さんはやっぱりすごいですね。私もせめて週一連載位はこなせるように成りたいです。
それでは、本文に参りましょう。
---------------------本文開始-----------------------
朝倉幸司は、都内某所の大学にほど近い学生向マンションで、1人暮らしをしている。榊は念のため、私服警官を貼り付けて警護させていたが、麗夢と榊が到着したとき、その警官が2人の男とマンションの影でもめていた。
「円光さん! 鬼童さん!」
麗夢の一声に、それまで険しい表情で警官達とやり合っていた2人の顔が、見る間に朗らかにほころんだ。
「おお、麗夢殿!」
「麗夢さん!」
二人は警官をそっちのけにして麗夢の方へ同時に一歩踏み出した。
「麗夢殿もこの妖しの気配を察せられたか」
「麗夢さんがくるからには、どうやらこれは『当たり』のようですね」
円光は錫杖を片手に墨染め衣に脚絆姿、対する鬼童は、瀟洒なスーツに、ショルダーバックを一つ肩から提げている。よく見るとそのバッグにはあちこちLEDライトが点滅し、ただのカバンではないことをさりげなく主張していた。どうやら円光は気配を感知し、鬼童は計測機器の反応を頼りに、この朝倉が住まうマンションまで出張ってきたらしかった。
「二人とも凄いわ。これじゃあ私の商売上がったりね」
「いえいえ、僕の方は偶然ですよ」
鬼童が、うれしげに語りかけた。
「ちょっとした都市伝説を追いかけているうちに、円光さんと一緒になりましてね」
「都市伝説?」
小首を傾げる麗夢の仕草に、思わず鬼童と円光の心拍が2割方高まった。
「え、ええ。昔の軍人の幽霊が出る、っていう話なんですがね。それも一人二人じゃなくて、数十人規模が隊列をなして行進してくる、っていう話なんですよ」
「拙僧は巽の方角からずっと妖気を辿って参った。どうやらこの辺りで一段と強くなっている様子。麗夢殿は何か感じないか?」
「昔の軍隊に、妖気・・・。そうね、確かに何かヘンだわ。アルファ、ベータ、判る?」
「フーッ」
「うー、ワン、ワンワン!」
アルファ、ベータも鼻を鳴らし、尻尾を振って、辺りに漂うただならぬ気配を麗夢に知らせる。
「取りあえず朝倉に話を聞きましょう。彼はずっと部屋に閉じこもっているとのことです」
榊は報告を受けた部下に待機を命じると、先頭を切って目の前のマンションに足を向けた。
「朝倉さん、朝倉幸司さん、警視庁の榊です。開けてもらえませんか?」
榊はインタホンを押して朝倉を呼び続けた。既に榊は、田中耕太の事件直後に一度朝倉を訪ね、その後もたびたび事情聴取している。
「朝倉さん! おかしいな、いないはずはないのだが・・・」
「手の放せないことでもしているのかしら?」
麗夢の疑問に、榊は首を横に振った。
「いえ、これまでもすぐに出てこないときがありましたが、返事だけは必ずありました。こんなことは初めてです」
榊は、念のためドアノブに手をかけたが、しっかり鍵がかかっているのが判っただけだった。
「何なら僕が開けましょうか?」
鬼童が微笑みながら本気とも冗談とも付かぬ口調で申し出た時。鬼童の左肩に下がるカバンから、小さな、だが甲高い警報音が鳴った。と同時にアルファ、ベータが緊張のうなり声を上げ、麗夢と円光もドア一枚挟んだ向こう側に立ち上がったただならぬ気配を感じ取った。
「榊警部! 何か中で大変なことが起こっているわ! すぐここを開けて!」
「お、大家に鍵を借りてきましょう!」
「それでは間に合わぬ! ここは拙僧が!」
円光はやにわに錫杖を振り上げると、その石突を一気呵成にドアノブへ叩き付けた。新鋭戦車の装甲すら撃ち破る円光の力の前に、耳障りな悲鳴を上げてドアノブがいとも簡単にはじけ飛び、勢い余って変形したドアのロックが解けた。反動で僅かに開いたドアを、麗夢が意を決して思い切り引き開けた。途端に、真夏の午後の外気よりもむっとした熱気が外に流れ出た。
「火事か?!」
アルファ、ベータが間髪を入れず部屋に飛び込み、けたたましく鳴き声を上げる。榊、麗夢、円光と鬼童がそれに続く。部屋は小さな玄関を一足飛びに越えると、すぐに唯一の居室に繋がっている、6畳ほどの部屋の奥にベットが一台据えられており、厚い寝具が盛り上がっているのが目に入った。が、火の手はどこにも見られない。その代わりに、窓際に設置された空調が唸りを上げて熱気を噴出していた。鬼童が目ざとくリモコンを見つけ、一瞬絶句して呟いた。
「暖房? この暑いのに」
鬼童が空調を停止している間に、榊、麗夢、円光は奥のベットに積み重なる寝具をひっぺがした。
「こ、これは!」
ベットの上には、この熱気の中で達磨のように厚着をした青年が一人、膝を抱き、背中を丸めて小さく横たわっていた。落ち窪んだ目、紫に変じた頬、露出した手足は真っ白なロウのような色で、まるで血の気が感じられない。だがまだ息はある。榊は目ざとくそれを認めると、二人に言った。
「凍傷になりかかっている。 一体どうしてこの暑さで?」
「榊殿、どうやらこの青年は、何か悪辣な夢に囚われているらしい」
「悪夢って夢魔か? そのせいでこの暑さで凍傷になりかけているのか。一体どんな悪夢なんだ?」
「それを確かめるわ。行くわよ、アルファ、ベータ!」
早速麗夢がベットの傍らにちょこん、と座り込み、アルファ、ベータがその膝に寄り添うように丸くなる。たちまち寝息を立てた麗夢に円光も気を練り直し、破邪滅妖の真言陀羅尼を口ずさむと、錫杖の先を青年に向けた。麗夢が夢の中から、円光が外から悪夢に対抗する必勝の布陣である。榊はその間に朝倉の手を摩擦しながら鬼童に言った。
「鬼童君、お湯を沸かして、風呂にも湯を入れてくれ!」
「判りました、警部!」
(一連の連続凍死事件が夢魔の仕業なのか・・・。でもどうして彼らが・・・)
円光の結界が功を奏したのか、榊が懸命に摩擦する手に、僅かながら赤みが戻ってきた。榊は別の手をまた摩擦しながら、麗夢とアルファ、ベータの無事を祈った。
さて、というわけで今回はおなじみのレギュラーメンバーが揃い、起承転結の「起」の部分が終了です。次回は物語が発展する「承」の始まり。「転」、「結」まで構想はできていますので、多分無事に書けることでしょう。ただ、すでに書いたものを分割して上げていくのと違って、アップするつど書き足していく、という今のスタイルは、新鮮ですけど想像以上に大変です。新聞の連載小説を書いたりするプロ作家さんはやっぱりすごいですね。私もせめて週一連載位はこなせるように成りたいです。
それでは、本文に参りましょう。
---------------------本文開始-----------------------
朝倉幸司は、都内某所の大学にほど近い学生向マンションで、1人暮らしをしている。榊は念のため、私服警官を貼り付けて警護させていたが、麗夢と榊が到着したとき、その警官が2人の男とマンションの影でもめていた。
「円光さん! 鬼童さん!」
麗夢の一声に、それまで険しい表情で警官達とやり合っていた2人の顔が、見る間に朗らかにほころんだ。
「おお、麗夢殿!」
「麗夢さん!」
二人は警官をそっちのけにして麗夢の方へ同時に一歩踏み出した。
「麗夢殿もこの妖しの気配を察せられたか」
「麗夢さんがくるからには、どうやらこれは『当たり』のようですね」
円光は錫杖を片手に墨染め衣に脚絆姿、対する鬼童は、瀟洒なスーツに、ショルダーバックを一つ肩から提げている。よく見るとそのバッグにはあちこちLEDライトが点滅し、ただのカバンではないことをさりげなく主張していた。どうやら円光は気配を感知し、鬼童は計測機器の反応を頼りに、この朝倉が住まうマンションまで出張ってきたらしかった。
「二人とも凄いわ。これじゃあ私の商売上がったりね」
「いえいえ、僕の方は偶然ですよ」
鬼童が、うれしげに語りかけた。
「ちょっとした都市伝説を追いかけているうちに、円光さんと一緒になりましてね」
「都市伝説?」
小首を傾げる麗夢の仕草に、思わず鬼童と円光の心拍が2割方高まった。
「え、ええ。昔の軍人の幽霊が出る、っていう話なんですがね。それも一人二人じゃなくて、数十人規模が隊列をなして行進してくる、っていう話なんですよ」
「拙僧は巽の方角からずっと妖気を辿って参った。どうやらこの辺りで一段と強くなっている様子。麗夢殿は何か感じないか?」
「昔の軍隊に、妖気・・・。そうね、確かに何かヘンだわ。アルファ、ベータ、判る?」
「フーッ」
「うー、ワン、ワンワン!」
アルファ、ベータも鼻を鳴らし、尻尾を振って、辺りに漂うただならぬ気配を麗夢に知らせる。
「取りあえず朝倉に話を聞きましょう。彼はずっと部屋に閉じこもっているとのことです」
榊は報告を受けた部下に待機を命じると、先頭を切って目の前のマンションに足を向けた。
「朝倉さん、朝倉幸司さん、警視庁の榊です。開けてもらえませんか?」
榊はインタホンを押して朝倉を呼び続けた。既に榊は、田中耕太の事件直後に一度朝倉を訪ね、その後もたびたび事情聴取している。
「朝倉さん! おかしいな、いないはずはないのだが・・・」
「手の放せないことでもしているのかしら?」
麗夢の疑問に、榊は首を横に振った。
「いえ、これまでもすぐに出てこないときがありましたが、返事だけは必ずありました。こんなことは初めてです」
榊は、念のためドアノブに手をかけたが、しっかり鍵がかかっているのが判っただけだった。
「何なら僕が開けましょうか?」
鬼童が微笑みながら本気とも冗談とも付かぬ口調で申し出た時。鬼童の左肩に下がるカバンから、小さな、だが甲高い警報音が鳴った。と同時にアルファ、ベータが緊張のうなり声を上げ、麗夢と円光もドア一枚挟んだ向こう側に立ち上がったただならぬ気配を感じ取った。
「榊警部! 何か中で大変なことが起こっているわ! すぐここを開けて!」
「お、大家に鍵を借りてきましょう!」
「それでは間に合わぬ! ここは拙僧が!」
円光はやにわに錫杖を振り上げると、その石突を一気呵成にドアノブへ叩き付けた。新鋭戦車の装甲すら撃ち破る円光の力の前に、耳障りな悲鳴を上げてドアノブがいとも簡単にはじけ飛び、勢い余って変形したドアのロックが解けた。反動で僅かに開いたドアを、麗夢が意を決して思い切り引き開けた。途端に、真夏の午後の外気よりもむっとした熱気が外に流れ出た。
「火事か?!」
アルファ、ベータが間髪を入れず部屋に飛び込み、けたたましく鳴き声を上げる。榊、麗夢、円光と鬼童がそれに続く。部屋は小さな玄関を一足飛びに越えると、すぐに唯一の居室に繋がっている、6畳ほどの部屋の奥にベットが一台据えられており、厚い寝具が盛り上がっているのが目に入った。が、火の手はどこにも見られない。その代わりに、窓際に設置された空調が唸りを上げて熱気を噴出していた。鬼童が目ざとくリモコンを見つけ、一瞬絶句して呟いた。
「暖房? この暑いのに」
鬼童が空調を停止している間に、榊、麗夢、円光は奥のベットに積み重なる寝具をひっぺがした。
「こ、これは!」
ベットの上には、この熱気の中で達磨のように厚着をした青年が一人、膝を抱き、背中を丸めて小さく横たわっていた。落ち窪んだ目、紫に変じた頬、露出した手足は真っ白なロウのような色で、まるで血の気が感じられない。だがまだ息はある。榊は目ざとくそれを認めると、二人に言った。
「凍傷になりかかっている。 一体どうしてこの暑さで?」
「榊殿、どうやらこの青年は、何か悪辣な夢に囚われているらしい」
「悪夢って夢魔か? そのせいでこの暑さで凍傷になりかけているのか。一体どんな悪夢なんだ?」
「それを確かめるわ。行くわよ、アルファ、ベータ!」
早速麗夢がベットの傍らにちょこん、と座り込み、アルファ、ベータがその膝に寄り添うように丸くなる。たちまち寝息を立てた麗夢に円光も気を練り直し、破邪滅妖の真言陀羅尼を口ずさむと、錫杖の先を青年に向けた。麗夢が夢の中から、円光が外から悪夢に対抗する必勝の布陣である。榊はその間に朝倉の手を摩擦しながら鬼童に言った。
「鬼童君、お湯を沸かして、風呂にも湯を入れてくれ!」
「判りました、警部!」
(一連の連続凍死事件が夢魔の仕業なのか・・・。でもどうして彼らが・・・)
円光の結界が功を奏したのか、榊が懸命に摩擦する手に、僅かながら赤みが戻ってきた。榊は別の手をまた摩擦しながら、麗夢とアルファ、ベータの無事を祈った。
今後の展開期待大!