平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

相棒10 「逃げ水」~「自分の正義より、あなた方の感情の方が大切です」

2011年10月27日 | 推理・サスペンスドラマ
 今回は事件の被害者、加害者家族の心象がていねいに描かれた。
 (以下、ネタバレです)

 刑事、民事でも救われない被害者家族の現実。
 被害者家族は、加害者に心から反省し謝罪してほしいだけなのに、世間の心ない人からは「そんなに金がほしいのか」と言われる。
 そんな世間に「刑事でも民事でも救われない被害者感情があることを伝えたくて」、被害者の父親・新開孝太郎(綿引勝彦)は、自分が出所した加害者・川北を殺したとウソを言う。

 一方、加害者の家族。
 これらもマスコミを始めとする世間の目にさらされ苦しんでいる。
 母親は苦しみから病死、父親は失踪して行方不明。
 姉の言葉も悲痛だ。
 真犯人でもある姉はこう語る。
 「弟のしたことで責められるより、自分のしたことで責められる方が楽」。

 悲痛な言葉と言えば、被害者家族・新開夫婦の言葉もつらい。
 「弁護士は賠償金の取り立てをしてくれるのか!」
 「司法には失望しました」
 「人の命を奪って(刑が)五年でいいわけがない」
 「反省の手紙が最高裁の判決が出た後は一通も来ない」
 「加害者の家族も自分の家族が起こした罪を背負うべきだ」

 これらのやりきれない思いが募って、被害者家族の新開夫婦はウソの主張をしたわけだが、この行為について弁護士の瀬田宗明(渡哲也)は法の正義に照らし合わせてこう語る。
 「あなたたちのしたことは間違っている。しかし私には自分の正義より、あなた方の感情の方が大切です」

 法は完全ではない。
 仮に判決で加害者が裁かれたとしても、新開夫婦が抱いたような怒りの感情は解消されない。
 江戸時代のような復讐、仇討ち、罪は家族にも及ぶといったシステムがあれば、解消の度合いは違ってくるのかもしれないが、現在は法のもとで刑罰が決められる。
 そして刑事や検事、弁護士や裁判官は不完全なものであったとしても、法を守り、それに基づいて執行していかなくてはならない。
 ここには弁護士・瀬田が語った「私には自分の正義より、あなた方の感情の方が大切です」というジレンマがある。

 ラストの右京(水谷豊)のせりふも深い。
 犯人が姉であることを父親に右京が伝えたことについて、神戸(及川光博)が「右京さんは残酷ではないか」と訊く。
 すると右京。
 「それに耐えられないようなら、人に罪を問うべきではない。僕はそう思っています」
 右京は事件のすべてに責任を持つ。
 逃げて失踪した父親も罪を背負うべきだと考えている。
 もし、父親が逃げずにいたら姉は弟殺しをしなくて済んだかもしれない。
 反省しない息子を殴って改心させられたかもしれない。
 だから右京は父親に対しても非情になる。

 もっとも右京は、父親が罪を背負うことが、いずれは彼の救いになるとも考えていたのかもしれませんね。
 現実から目を背け、逃げていたら何も始まらない。


コメント (7)
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