平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

どうする家康 第46回「大坂の陣」~信長と秀吉と同じ地獄を背負ってあの世に行く

2023年12月04日 | 大河ドラマ・時代劇
 撃ち放たれる大筒。吹き飛ぶ大坂城の天守。
 虐殺の始まりだ。

 秀忠(森崎ウイン)は叫ぶ。
「父上、やめて下さい! 父上、やめろ! こんなものいくさではない!」
 これに応えて家康(松本潤)
「これがいくさじゃ。この世で最も愚かで醜い……人間の所業じゃ」

 家康の真意はこうだ。
 世の安寧のためには力が必要。
 しかし力を使えば多くの者が死ぬ。
 時には虐殺に手を染めなければならない。
 世間から巻き起こる怨嗟の声。
 自分の心も蝕まれる。
 だが、やらねばならない。

 家康は本多正信(松山ケンイチ)に覚悟を語る。
「信長と秀吉と同じ地獄を背負ってあの世に行く」
 正信はそれを受けて、
「それがしもお供しますかの。こっちはもともと汚れきっておりますゆえ」
 家康は苦笑して、
「嫌な、連れじゃの」

 このおこないで、おそらく千姫(原菜乃華)は家康を憎み、許さないだろう。
 これが家康が引き受けた地獄のひとつである。
 さらなる汚名も着るだろう。
 これも家康が引き受けた地獄のひとつである。

 本来、家康は「兎」で穏やかな生活を望んでいた。
 家族や家臣たちと楽しく暮らせれば、それで十分だった。
 だから今の自分がつらい……。
 ………………………………………………………………………………

 大坂の陣。
 これは織田と武田が激突した長篠・設楽原の戦いを思い出させる。
 撃ち放たれる鉄砲隊の虐殺で、家康は呆然とした。
 今回の秀忠のように「これはいくさではない」と思った。
 だが、あの時、信長(岡田准一)は地獄を背負っていた。
 信長は家康に理不尽で過酷な試練を課したが、
 それは家康に地獄を引き受ける耐性をつけたかったのかもしれない。

 一方、家康は息子・秀忠に地獄を引き受ける耐性をつけなくていいと考えたようだ。
 秀忠が「大坂の陣の総大将をしたい」と言っているのを聞いた家康は、
「知らんでよい。人殺しの術など覚えんでよい」と突っぱねた。
 家康は、やさしい秀忠に地獄を味合せたくなかったのだ。
 この親子関係は「鎌倉殿の13人」の北条義時と泰時の関係に似ている。
 …………………………………………………………………………
 
 今作の大阪の陣では千姫にスポットライトを当てた。
 千姫視点で語られる大阪の陣はこうだ。

 千姫は秀頼(作間龍斗)に問うた。
「あなた様は本当にいくさがしたいのですか?」
 秀頼は応えて、
「余は豊臣秀頼なのじゃ」
 秀頼は本音でいくさなどしたくなかったようだ。
 ただ母・茶々(北川景子)や家臣たちの期待が彼をいくさに向かわせていた。
 豊臣の子ゆえ、徳川から天下を取り戻すことが正しいことだと自分に言い聞かせていた。

 千姫視点は続く。
 家康憎しで盛り上がる大坂城で居場所がない千姫。
 いくさの鼓舞を求められて、
「豊臣のために励んでおくれ!」
 つらい言葉であっただろう。
 これも秀頼同様、立場が言わせた言葉だ。
 しかし、大筒の砲撃を受けて千姫の考え方は変わる……。
 …………………………………………………………………………

 そして大坂城の諸将たち。

 片桐且元(川島潤哉)は外交でいくさを回避しようとする立場だ。
 しかし暗殺計画が耳に入り、逃亡。
 これで外交による解決の道が閉ざされてしまった。

 織田常真・信雄(浜野謙太)はお調子者を演じていたが、実はしたたか。
 豊臣に媚びを売っていたが、裏では家康に心を寄せている様子。
 世の中、こういう人が生き残るのだ。
 才ある者は自滅する。
 自分の弱さを知っている者はあの手この手を使って生きのびようとする。

 真田信繁(日向亘)は「いくさを求める者」として描かれた。
 石田三成(中村七之助)が語ったように、人には戦乱を求める心があるのだ。
 それはいったん火がついたら止まらない。
 血気盛んな者たちがどんどんいくさを煽っていく。

 最後は徳川側で、渡辺守綱(木村昴)。
 守綱~、まだ生きていたのか!
 家康の頭を叩いたことを未だに根に持たれている。笑
 緊張感の中、こういう場をなごませる存在は大切だ。

 今回も盛りだくさんでしたね。
 秀頼、千姫を深掘りし、家康・秀忠の関係をさらに描いた。
 家康と正信、守綱の関係もいい。


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2 コメント

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家康の「悪役化」? (TEPO)
2023-12-04 17:14:59
>虐殺の始まりだ。
私も基本的には「史実ツッコみ」は好きではないのですが、「大筒」の弾丸は幕末の「アームストロング砲」のような近代的爆裂弾ではなく、「砲丸投げ」の「玉」のようなものでさほど大きな殺傷力は無かったようです。
それでも屋根天井を突き抜ける威力はあり、本丸に一定のダメージを与え侍女の中に死者が出たので、茶々が身の危険を覚え、和睦に傾いたとのこと。
史実的にはあくまでも心理的効果が大きかったのでしょう。
本作では「大筒」は「虐殺兵器」だった、という前提で見てゆくこととします。

>おそらく千姫は家康を憎み、許さないだろう。
千姫視点での展開は本作のトーンをこれまでから変えたように感じました。
これまでの家康視点では、茶々は理不尽に家康を憎み続ける「ラスボス」≒「悪役」でした。
千姫視点の今回では、視聴者に大坂側に肩入れさせ、むしろ家康が「悪役」的に見えるような描き方でした。
>大筒の砲撃を受けて千姫の考え方は変わる……。
最後、茶々が千姫を庇って負傷するシーンが描かれていましたが、これで千姫の心は決定的に「徳川の姫」から「大阪方」へと変わるのでしょう。

>この親子関係は「鎌倉殿の13人」の北条義時と泰時の関係に似ている。
家康の「悪役化」とも関連して私もそのように感じましたが、本作の作者、一年違いでそこまで影響を受けるものなのでしょうか。
個人的には、家康には「鎌倉殿」の義時のような救いのない最期にして欲しくないと思っています。
「進撃の巨人」でも見られるように、最近は「主人公を悪役」にする、というパターンが「流行り」のようにも見えます。
しかし、「最後の最後」の段階に来てそれは無いと思います。

ところで、アニメ「進撃の巨人」最終話について放送日(11月4日)以降投稿をお待ちしていたのですが、11月17日に投稿されていたようですね。
見落としていました。
私もアニメ「進撃の巨人」最終話については少し思うところがありましたのでコメントしたいと思います。
返信する
古沢良太と三谷幸喜 (コウジ)
2023-12-05 09:19:11
TEPOさん

いつもありがとうございます。

>「大筒」は「虐殺兵器」だった、という前提で見てゆくこととします。
おそらく作家の意図はここにあって、この方がテーマが明確に伝わると考え、敢えて「虐殺」という言葉を選びました。
当初、家康は大筒を抑止力のためと言っていましたが、結局使ってしまいました。
現在の軍事力増強や核抑止論の隠喩かもしれません。
あるいはシナリオ執筆時期とリンクするかはわかりませんが、ガザ・イスラエルの戦争が念頭にあったかもしれません。
少なくともロシアのウクライナ侵攻で、戦争とは何かを作家が考えたのは確かでしょう。

執筆の影響に関して言えば、本作の古沢良太さん、かなり三谷幸喜さんを意識している気がします。
三谷さんの描いた家康や秀吉や真田信繁を自分ならこう描くみたいな。
三谷幸喜さんの逆を行く傾向があるので、本作のラストは「鎌倉殿」とは逆のハッピーエンドになるかもしれません。
ベタですが、
・千姫は最終的に家康を許す。
・あの世では瀬名や於愛や家臣たちが待っている。
「進撃の巨人」で言えば、ハンジさんの死みたいな感じですね。

三谷さんも「鎌倉殿」のラストをどう描くか迷ったようですが、最終的には「あれだけ非道なことをした義時が許されてはいけない」と考え、あの形にしたようです。
さて本作はどうなるのでしょう?
古沢良太氏は大人のリアリズムを選ぶのか、ハッピーエンドのロマンを選ぶのか?
関ヶ原で家康が言った「死んでいった家臣たちがここにいる」という台詞を考えると、ハンジさんになりそうですね。
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