福聚講

平成20年6月に発起した福聚講のご案内を掲載します。

四国遍路日記 山頭火 その4

2014-03-11 | 法話
十一月七日 秋晴、行程四里、羽根泊(小松屋)。

早起、津寺拝登、行乞三時間、十時ごろからそろそろ西へ歩く――(銭十六銭米八合)。
途中、西寺遥拝(すみません)(西寺とは26番金剛頂寺のこと)、不動岩の裏で、太平洋を眺めながら、すこし早いが、お弁当を食べる、容樹アコウの葉を数枚摘む。
松原がつづく、海も空も日本晴、秋――日本の秋、道そいの畑には豌豆がだいぶ伸びている、浜おもとがよく茂っている、南国らしい、今日は数人のおへんろさんと行き逢ったが、紅白粉をつけた尼さんは珍らしかった、何だか道化役者めいていた、このあたりには薄化粧した女はめったに見あたらないのに。
喜良川の松原で、行きずりの老遍路夫婦と暫らく話した、何となしに考えさせられる事実である、三里あまり歩いて来て、羽根、その街はずれの宿――屋号が書き出してない――家に泊った、木賃宿としては新らしい造作で、待遇も悪くない、部屋も井戸端も風呂も、そして便所も広々として明るくて、うれしかった、なかなかよい宿であった。
今日は三時前の早泊り、先夜昨夜に懲りたから。
清流まで出かけて、肌着や腰巻を洗濯する、顔も手も足も洗い清めた、いわば旅の禊である、こらえきれなくて一杯ひっかける、高いと思うたけれど、漬物を貰い新聞(幾日ぶりか!)を読ましてくれたから、やっぱり高くはなかった、明日は明日の風が吹こう、今日は今日の風に任せる、……好日好事だった、ありがたしありがたし。
夜はおそくまで執筆(一室一人一燈のよさだ)、昨夜をとりかえしたような気がした。
先日から地下足袋が破れて、そのために左の足を痛めて困っていたところ、運よくゴム長靴の一方が捨ててあるのを見つけた、それを裂いて足袋底に代用したので助かった、――求むるものは与えらるということ、必要は発明の母という語句を思いだしたことである。
寒い地方の人がまろい、いいかえると、温かい地方の人間は人柄がよくない、お修行しても寒いところの方がよく貰えると或る修行遍路さんが話した、一面の道理があるようだ。(わたしも修行遍路のかたから立派でない家のほうが喜捨をしてくれると聞いたことがあります。)
行乞していると、今更のように出征の標札――その種類はいろいろある、地方によって時節によって異るが――その標札が多いのに気がつく、三枚も並べてあるのにはおのずから頭がさがる。……

安宿では――木賃宿では――遍路宿では――


□一人一隅、そこに陣取って、それぞれの荷物を始末する。

□めいめいのおはちを枕許に(人々の御飯)。

□一室数人一鉢数人一燈数人。

□安宿で困るのは、便所のきたなさ、食器のきたなさ、夜具のきたなさ、虱ムシのきたなさ、等々であろう。

○安宿に泊る人はたいがい真裸(大部分はそうである)である、虱がとりつくのを避けるためである、夏はともかく冬はその道の修行が積んでいないとなかなかである(もっとも九州の或る地方のようにそういう慣習があるところの人々は別として)。

(夕食)        (朝食)


莢豆と芋との煮付    味噌汁二杯
南瓜の煮付       大根漬
大根浅漬


御飯もお茶もたっぷり  たっぷり



犬二題


□四国の犬で遍路に吠えたてるとは認識不足だ、犬の敵性。

□昨日は犬に咬みつかれて考えさせられ、今日は犬になつかれて困った、どちらも似たような茶色の小犬だったが。

□“しぐるるや犬と向き合つてゐる”


四国をまわっていて、気のつくのは空家が多いことである、ベタベタビラを張られた空家が見すぼらしく沿道に立ちならんでいる!(このころから空き家が多かったとは・・。やはり方丈記の「昔しありし家はまれなり、よにつかふるほどの人だれかひとり故郷に残らん・」という記述通りなのでしょう。)

阿波の着倒れ、土佐の食い倒れ、というそうな。
阿波では飲食店、土佐では酒を売る店が多すぎる!
土佐は南国暖国、秋のおわりに、豆苗が伸び、胡瓜がたくさんぶらさがっている、よい国だ。
今度、四国を巡遊して、道路がよくなっていることを感じたが、橋梁が至るところに新らしく美しいのを観た。
米が二度出来るのは安芸郡――この地方である、伊尾木は殊に温暖で収穫も多いらしい。



(十一月七日)


草の実こんなにどこの草の実
ここで泊らう草の実払ふ
牛は花野につながれておのれの円をゑがく


途上即事


ついてくる犬よおまへも宿なしか
石ころそのまま墓にしてある松のよろしさ
旅で果てることもほんに秋空
ほろほろほろびゆくわたくしの秋
一握の米をいただきいただいてまいにちの旅


“自適集”

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