秘密安心往生要集・・
(六、兜率天弥勒の浄土遠近の事)。
先ずその浄土の在所を示さば兜率陀、正音には都史陀天と云う。即ち欲界第四の天也。此の地より上三十二萬由旬にあり。此の天に二種あり。一には有漏業果の所成、是を総報天と名く。三災大劫の火災の時に破壊する欲界の天なり。此の處は願ふ處に非ず。猶ほ懈慢国(阿弥陀仏の極楽浄土に至るまでの中間にある国土。『菩薩処胎経』三によれば、懈慢界は閻浮提より西方一二億那由他にあるとされる。この世界は快楽に満ちており、一旦ここに生まれたものは、この国土に執着を起こして極楽浄土へ生まれることはできないと説かれている。懐感は『群疑論』四に雑修の者は懈慢国に生じ、専修の者は極楽国に生ずるとしている)の如し。二には無漏報の所成。是を別報天と名く。首楞嚴經に曰く
「下界の諸人天の境に接せざる乃至劫壊の三災も及ばざる、是の如くの一類を名て兜率陀天といふ」と。(大佛頂如來密因修證了義諸菩薩萬行首楞嚴經卷第八「一切時靜。有應觸來未能違戻。命終之後
上昇精微。不接下界諸人天境。乃至劫壞三災不及。如是一類名兜率陀天」)。是即ち弥勒菩薩の浄土なり。内院外院あり。内院に四十九重の摩尼殿あり。合して五十重なり。寿命は人間の壽を以て算ふれば五十七億六百万歳なり。(あるいは五十六億七千万歳と異論多し)。三品九類の行者弘誓願を発してこの内院に往生す。外院に生ずる者は九品の中の下品不精進の行者の生ずる所なり。生じて七日(人間の四百年を兜率天の一日一夜とするがゆえに七日は二千八百年)の後、弥勒菩薩光を放ち花を雨ふらして内院の小摩尼殿に引入し説法して精進力を発起せしめ、然して後に内院に入住せしむと。昔世親菩薩上生をねがって相約すらく、先に生ずる者は必ず来て告げよ、と。同学に師子覚と云ふ人あり。先壽を捨てれども生天の告げなし。次に世親菩薩内院に往生して蓮華開けると即ち弥勒菩薩を礼拝し旋繞して即ち降りて兄の無著菩薩に報ずるに、半年の間なり。無著菩薩、師子覚は如何と問玉へば、旋繞の時、遥かに見るに外院に住す、と。然れば世親、上生より以来二千年に垂とす。残り八百年を経ば師子覚も内院に入住せらるべし。豈十二大劫蓮胎に住するの類ならんや。是を以て思へば外院の往生辱るに足らず。頼もしいかな。
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