日々の恐怖 7月11日 家
Tさんの体験談です。
私が短大生だったときのことです。
当時よくYとNという友達とつるんでいたのですが、1年の後期頃から、Nのほうがたびたび学校を休むようになりました。
Nは私たちに、“体調が優れないから”と言っていたのですが、あまりにも頻繁に学校を休み、旅行や飲み会などもドタキャンされることが多くなってきたので、“体調が優れないっていうけど、本当にそれが理由なの?”と問いただしました。
出席してきたときにはいたって健康そうに見え、倒れたりすることもなく、とても体が弱いようには見えなかったからです。
そして、しぶしぶNはうつ病であり分裂ぎみでもあることを告白しました。
いつも明るく気さくな性格で結構美人なNだったので、Yも私もとても驚きました。
一度告白してしまってからは気が楽になったのか、睡眠薬の飲み過ぎ、二階から飛び降りた等で病院に入院してしまったときは、見舞いにきてほしいと言われたりするようになりました。
Nは、おそらく自分の病気の原因は両親にある、と言っていました。
Nの母親はけっこう重い分裂症で遺伝したのではということです。
それが原因なのか、Nの父親はNが学校を休み始めたころ愛人と行方不明になってしまい、精神的にNは耐えられなかったらしいです。
2年のある日、一週間くらい学校を休んでいたNから、家に来てほしい、と連絡がありました。
聞けば、母親が自殺未遂をおこし何日も入院している、気が滅入っているので遊びにこないか、と言う事でした。
事情が事情なので、Yと私はちょっと引きましたが断るわけにもいかず、次の日Nの家に行くことになりました。
初めてだったので駅からの行き方を聞いて、近所のコンビニで待ち合わせ三人でNの家に向かいました。
Nの家は一軒家で、建売ではない昔からの家が並んでいる一角にありました。
が、玄関の向きが並んでいるほかの家と違って、少し違和感があったように思いました。
具体的に説明はできないけれど、なんだか変わっていて、少し離れたところからも、おそらくNの家はあそこに違いないと私には変な確信がありました。
ドアを開けて入った瞬間の感想は、“うわ~、空気が重くてなんか気持ち悪い!!”でした。
家の中全体が薄暗くじめじめした感じがして、できれば早めに退散したいな~と本気で思いました。
おそらく掃除もあまりしていないだろうし、家庭の事情も聞いていたので、そんな風に思ってしまったのだろうとそのときは思いました。
ところが、居間に通されてお酒を飲みながら話をしているうちに、なんだかとても居心地が良くなってしまったのです。
Yとどちらともなく、“もう遅いし泊まっていくことにしようか”ということになりました。
次の日になりましたが、私たちはグズグズとNの家にいました。
昼ご飯を食べ、夕方になってもまだ帰る気にならず、私は思わず、“もう一泊しちゃおうか?”とYに切り出しましたが、Yは“私も泊まりたいけど、このあとどうしても休めないバイトがあるから帰らないといけない”とのことでした。
二人ともすごく名残惜しかったのですが、また近々来ることを約束してNの家を後にしました。
その帰り道、
私「 ねえ、Nの家なんか雰囲気悪かったよね?」
Y「 うん、暗かったし、なんか変な感じがした。」
私「 あのさ、とくに階段のところ気持ち悪くなかった?」
Y「 実は私も上がった瞬間思った。」
私「 いっせいので、何思ったか言ってみない?」
Y・私「 せ~の、女がいた・・・。」
その瞬間、本当にぞ~っとしました。
Nの家にいる間中、頭にフィルターがかかっていたようでした。
あれほど気持ちが悪く帰りたかったのに、家に入ってしまえば今度はいつまでもそこにいたいような気分になっていたことも怖くなりました。
Yも私も何かを見てしまったわけではありません。
ただそんな感じがしたというだけですが、NやNの家族が大変なことになっているのも、あの時感じた何かが原因のような気がしてなりません。
その後、Nは学校にまったくこなくなり、今では音信不通になってしまいました。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ